星に牙、魔に祈り

種田遠雷

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37、熱い内に

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 馬達の世話をし、昼の顔ぶれに弓や剣、槍の稽古をつけ、一人になって弓を射ても、食事をしていても、どこかそわそわと落ち着かぬ一日を過ごし。
 陽が落ちて家に戻ってみれば、寝台に伸びるアギレオの顔色が冴えない。
「…具合が悪くなったか? どこか痛むところは?」
 顔を覆っている片手ごと、手の甲から滑らせて、頬や額、髪を撫で、異変はないかと顔をのぞき込む。
「……風呂行ってきたんだが……痛すぎて血の気が失せたんだよ……」
 大丈夫だ、と、うっそり言いながら手を退ける顔を見れば、そのげんなりした顔に呆れるやら、ともあれ安堵するやらで。
「身体なら拭いてやるのに。どこも悪くしていないといいが…。ともかく、今日はもう休むといい」
 やれやれと引こうとする手首を掴まれ、片眉を跳ね上げる顔に、こちらでも眉を上げる。
「バッカお前…、何のためにンな思いして風呂浴びてきたと思ってんだよ」
「……お前な」
 腹の底から呆れ返り、けれど、次第におかしくなってきてしまって、拳を口に当てて笑いをこらえながら、ふと。ああ、だが喜んでいるな、と、己の胸の内に気づいて。
 これほど普段からおどけたり軽口を叩いたりする男だが、アギレオは、いつもどこか泰然としている。自らの死の際を前にしても、残していく砦のありようについて言い残すほどに。
 そのアギレオが、昨夜の睦言を受けて、怪我で痛む身体を引きずってまで風呂に入ってきたというのだから、くすぐったいような、愉快な気持ちになって。
 寝台に手をつくようにして身を屈め、長息なぞこぼしている額に唇を押し当ててやる。
 頬と鼻筋にもくちづけながら、片手で探って掛布を払いのけ。
「そんな様で身体までしっかりと洗えたのだか」
 先とは違う風に顔をのぞき込みながら、腿から腹へと、当てる掌で衣服をよらせて捲るよう、撫で上げてやる。
「きちんときれいになっているか、隅々まで確かめてみなくてはな?」
 おっ、おっ?などと間の抜けた声をしているのを耳に入れながら、アギレオの肩先の辺りに浅く腰をかけ直し、身を逆さに辿るよう背を屈める。
 脇の外から集めるように、薄くなった胸を掌で揉み寄せ。鎖骨の固さをたどる唇を、なぞり下ろし、乳輪の傍を浅く吸い上げて。
 逆の手で探り、刺激を与えるたびヒクリヒクリと震えている腹筋を指の腹で淡く掻いて下り。下穿きの縁を指先で見つければ、もぐり込ませて、その下の肌を薄くくすぐる。
 舌先を尖らせほんの微かに乳首の先を濡らしてやれば、下着の内にもぐり込んだ指の先、何者かが頭をもたげて布を持ち上げ、這わせる手が広々とする。
「…まだ触れてもいないのに。せっかちなやつだ」
 うん?と、鼻先でからかう息をこぼしながら、大きく刷く舌で胸から腹へと舐め上げ、音が立つほどへその縁を吸い上げてやって。
 身の下、向こうになった辺りから、よじれた長い息を吐いているのが聞こえて、くすぐられたように笑う息をこぼし。
「いい子だ、そうして大人しく横たわっていればいい」
 今にも浮かせそうに急いた気配の腰から、下穿きを下げてペニスを外に出させてやる。
「今夜は、何もかも私がしてやろう」
 まだ固くなりきっていない、けれど若芽と呼ぶには大きな肉柱を握り、掌によじるだけでまだ扱かず。根から先へと筒の手で一撫でしてやって。
 うっと詰まったような息と共に褐色の腰が跳ね上がる。
 笑いを忍ばせながら手も顔も離して身を起こし、自分も着ているものを上から下へと脱ぎ捨てる。
 裸になって、中途半端に下げ残していた掛布もアギレオのわずかな着衣も奪って、その腰を跨ぎ越して尻を下ろした。
 本人の言う通り、ずいぶん肉を取り戻した褐色の裸体は、けれど、風呂まで行って戻ったのだからもっと動けるだろうに、素知らぬふりのように投げ出され。
 面白がっているのだろう、病人の真似事めいて枕に頭を置いたまま、見上げる顔はおなじみの片笑いだ。
 アギレオの方が先に勃起させていることに、小さな満足感を覚える。
 手を使わず腰を寄せて、まだ固くない己のペニスをアギレオの熱い勃起へと押しつけ。両手を伸ばして両側の乳首をつまんでやれば、ヒエ、などとおどけた声を上げているが、捏ねる内に小さな乳首は芯を持ち、きっとその顔に見えるよりは感じるところがあるはず。
 身を倒して顔を寄せる。
 間近になる混色の瞳がたわんで笑っており、胸の内が濡れるような喜びがある。
「アギレオ、」
 首を伸ばして唇を傍寄せ、温度を感じるほど近くで、けれどふっと息ひとつ吹きかけ、触れることなく顔を離す。
「アギレオ…」
「…ぅぃッ」
 熱い血を集めて勃起してくるペニスをアギレオのそれに擦り付けながら、抗議するようカチカチと歯を鳴らしてみせる顔に、笑う。
 アギレオの左手が上がってきて、抱えるように髪を抱かれ。招き寄せられるが、また唇を避けて、今度は顎に噛みついてやる。
 食い込ませぬ強さで歯先を使って肌をこすり、えら骨の辺りに掛けた指で仰向かせて、喉から顎先まで舐め上げ。
 いつの間にか手がずれ、肩を掴んでいる己の代わりのよう、アギレオの手の方が己の胸を揉んで乳首を転がしている。
「…ハル、」
「――っ」
 名を呼ぶ声には吐息が混じっていて、薄く身体に震えが通り、固くなっていくペニスがいっそう首を上げた。
 熱を帯びていく身体はまるで重くなったようで、両手をアギレオの顔の横につき、その顔を見つめながら、腰を使って勃起同士を擦り付け合う。
 己の陰になる顔が、目を細めて唇を舐めるのを見れば、こちらの唇も開いてしまう。
 焦らしてやろうと思っているのに。
 腕を緩めて身を屈め、唇を寄せて。けれどもう少し、こらえて息だけ混じらせる。
「……くちづけたい…」
 揺れて少し強く吹きかけられる吐息が、笑っているのが分かる。
「同感だよ」
 自分も笑ったような気がするけれど。
 噛みつくように唇を奪い、その柔い感触と他人の匂いを舐めて削ぎ取り、自分の匂いを押しつけるように唇を擦りつけ、柔さをすする。
 伸び上がってくる舌に口内を許し、どちらがどちらの口か区別がつかないような唇の内で、激しく舌を絡め合い、絞るように啜って、時折甘く噛みつき。
 歯の間に舌をやって、牙を失い限りなく柔い歯茎の感触を確かめ、少しうっとりとなる。遊ぶなとでもいうのか、痛みがあるのか、伸びてくる舌に押し退けられ、また舌同士を絡ませ。
 濡れた柔らかい舌で口の中を混ぜ捏ねる刺激に頭がぼうっとして、半分くらいは、今自分が何をしているのか分からなくなる。多分、みっともなく腰を振っているのは、ペニスの快感で推し量られるけれど。
「は…」
 息を継ぐために口を離して、すぐにまた求めたくなるのを、腕を突っ張り身を離し、肩で息をしながらこらえて。
「……ぅっ」
 煽るようにペニスを擦られるのに、眉を寄せ、少し肩を縮めて耐える。
 駄目だと言う代わりのように頭を振りながら、手足で這うようにして寝台の足下へと下がる。手で押しのけるようにしてアギレオの脚を開かせ、そこに身を沈める。
 熱くなった勃起の先端が濡れているのが、心地良い。
「……なんだ、上に乗ってお前もケツ向けろよ」
 してやるぜ、と、艶っぽくなった声が誘惑するのに、もう一度首を横に振った。
 算段がある、と口には出さず。
 根元から起こすよう、低いところで指の輪をかけ、少し陰毛を退けて。
 血を集めたせいだろう、いつもより赤みを帯びた肌より濃い褐色の、反った喉の辺りにくちづけ。深く首をひねって、毛の生え際を舌先で探り、大きく突き出す舌の先を尖らせて、じっくりと舐め上げてやる。
 逞しく太い血管を浮かせている幹に舌を這わせ、縫い目のような裏筋まで辿り、チラチラと弄ぶようにして、張り出した亀頭のえらのところを舐めて巡らせ。
 その、秘められているべきものの体臭が、口の中に広がれば馴染みがあることに、胸の内に膨らむような高揚がある。光るほど濡れた先端を口に咥え込み、口蓋の裏にこすりつけながら押し込んで、舌を這わせながらふと、アギレオのものではない別の匂いが、己自身の先走りだと気づいて、ぞくりと鳥肌が立ち。
 頭の上の方から降る、身を委ねて乱れる吐息を聞き、口を窄めて出入りさせる亀頭を締め上げいじめてやりながら、幹を扱いて責め立てるのに、ひどく興奮を覚える。
 浅ましいように深く咥え、嚥下の動きを真似て、何度も喉の奥へと男の亀頭を突っ込み。
 えづくような息苦しさに鼻息で喘ぎながら、口の中に広がる青臭さを舐め回し、削ぎ取っては飲み込む。
 不意に覚える頭の違和感に、髪を掴まれていると気づいて目を開き、射精しやすいよう口で締め上げ、口の中を自分で突きたがるのに任せて。
「――…」
 小さな呻き声が聞こえて、深く押し込まれる喉の奥で、鼻から抜けそうにあふれる生臭さに少し眉を寄せ。知らぬ内に肩と胸で息をしながら、注ぎ込まれるそれを、啜って、飲み込んだ。
 シーツに着く手を押し返すようにしながら気怠く身を起こし、手の甲で自分の口と、その手で絞るようにアギレオのペニスを拭ってやって。
「ン…? おい、」
 寝台から降りる背に、どこ行くんだと掛けられる声に、肩越し振り返って。
「すぐに戻る」
 企みを思い浮かべる顔が、勝手に笑ってしまう。
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