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18、蜜の館
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アギレオの指で施されるのと違い、自らの指でそこを清めるのに、身体が熱くなるというほどのこともない。
そう思っていたものを。
この娼館に長く勤めているという、栗毛の娼婦に様子を尋ねられながら腹の中を洗い、湯から上がる頃には、面白がるようこちらの身体を拭いたがる彼女たちの手も退けそびれるほど、息すら浮いていた。
一体何人で共に寝ようというのか、天蓋から薄物のカーテンが下がる寝台は、やたらに大きい。
促され、招かれ押し込まれ、寝台の上にあがると当たり前のように彼女たちに囲まれて、いちいち身動きが取れない。
「さあエルフ様、お見せいたしますわ」
いくつもの大きな枕に押しつけるよう、半起きに横たえさせられたところへ、声と共に柔らかい寝台が沈み、最後に上がってきた彼女を見る。
一糸まとわぬ姿で左手の側へ膝立ちになっている彼女に、背けそうになる目を、据え直して見つめる。見よとまで言って何をするのかと、少なからぬ関心もあって。
「似たものをご覧になったことがおありかしら?」
二枚の板と、その間をつなぐ革張りでできたそれを示され、頷く。珍しいものではない、それがもっと大きければ、様々な仕事場で見かけるもの。
「…ふいごに似ているようだ」
二枚の板と革で内側の空間を閉じ、板を開いて風を入れ、閉じて風を送る道具だ。だが、その大きさは掌ほどで、風を送るには少し心許ないように見え。
「さすがよくご存知ですわ。けれど、これで送るのは風ではありませんの」
そう言って、ふいごの隣に並べられていた壷の蓋を取るだけで、中身が何なのか分かる。たった一日で嗅ぎ慣れた気がするほどの、甘い匂い。蜂蜜に違いない。
「風を吹きませんので、ふいごというより、そう…――働き蜂かしら」
楽しげに唇に弧を描きながら、片手でふいごを潰し、長いくちばしを壷の中に差し入れ、今度は両手でふいごを開く。
「ああ…」
ふいごを開けば、空だった中身に風が入るものだが、引き入れるための口の先は蜂蜜の中だ。唇で吸い上げるのによく似た音をさせながら、膨らむ革の中に空気ではなく蜂蜜が入っていくのが分かる。
「ただひたすら、女王に蜜を運ぶ――っ、」
膝立ちの膝を更に大きく開いて背の方へと手をやる、股の向こうに上向きのふいごの口があり。そうして、長いくちばしをこちらからは見えぬ肉の内へと押し込んで、開いた板を片手で絞り、彼女が声を詰まらせる。
「――ッ」
何が起こっているのかを理解するより一瞬早く、ゾクリと、あらぬ場所から背へと震えが走る。
「ふふ。こんなところに女王がいるものかしら」
肩にしなだれかかっていた別の娼婦が笑うのに、ふいごのくちばしを引き抜きながら、栗毛の娼婦が片眉を跳ね上げる。
「まあ。やきもちかしら? お客様の前で悪い子ね。なりたいのなら、あなたも女王にしてあげるわ」
パチンパチン、と掌で跳ねるように肌を打たれ、叱られた娼婦がきゃあきゃあと笑いながら、身を起こして四つん這いになって。斜めとはいえ、脚の間の秘め処が丸見えになるよう尻を向けられ、目を剥く。
チュッと口吸いのような音がして振り返れば、いわくの働き蜂が次の蜜を運ぶのを、目に糸でもつけられたよう、ただ見守る。
女陰ではなく尻の穴へと筒が押し込まれるのに、思わず飲む息で喉が鳴り、赤面どころかきっと耳まで赤くなっているに違いない。
ああん、と甘えたような声を上げながら肘を折って肩を下げ、突き上げる尻へと、ふいごが握られて。あっは、と、笑ったような押し出されたような彼女の声に、首筋が総毛立つようで。
「さあ――、もちろん、お客様には新しい働き蜂をご用意してありますわ。ご安心くださいな」
紅を引いた唇が笑い、水を向けられて肩が跳ねる。
「ま、待て、そんな、遠慮する、そんな人前で、しかも女性の前でなど、」
「娼婦はただの女ではありませんわ」
「お客様が思うより、珍しいことでもないですよ」
柔らかな肉と細い腕で身を押さえられ、うろたえる。押し退けようと力を籠めれば「いたあい」の声が上がり、芝居だと分かっていてもそちらを避けてしまう。
「恥ずかしいなら目隠しなさるといいわ」
声が早いか、一体どういう訓練をしているのだか、柔らかい布で目を覆われ、思わず声が出る。
「待て、待て見えぬと余計に恐ろしい…!」
頭の後ろで目隠しの布を縛られ、腕や腹に柔い身体が乗り上げる。膝を立てさせ開かせる指が細く、急に、アギレオと同じその仕草が、アギレオの指でないと実感され、心臓が跳ねる。
みっともなく彼の名を呼びそうになった口を、閉じたまさにその時。
「あッ」
「恐ろしくなどありませんでしょう。……ふふ、娼婦でも、ここをこんな風にしてしまう娘は多くありませんのに」
押し込まれた、と思った細いものが、ぐにゃりと動いて、ふいごのくちばしでないのが分かる。
「待ってくれ…」
目眩すらするようで。
弱り果てた声に、シィと歯の間を滑るような吐息が囁いて返してくる。
「なにもひどいことはしませんわ。たっぷりと蜜を孕んだら、どんなに気持ちいいか知っていただきたいだけ…」
「は、……あ、ああ、」
指が抜かれ、見えなくとも形と固さで分かる。見覚えより長く感じるくちばしが、入口の狭さを通り抜けてじっくりと押し込まれていく。
敏感な尻の穴に伝わる力で、ふいごを絞られるのが知れる。
「ぁ、ぅ、ぅう…」
水や湯を招き入れるのとも、中で射精されるのとも違う、少し息苦しく冷たい感触。ぶるりと震える身の奥で、じわりと広がっていくように感ぜられるのは、己の体温で溶けて流れているのか。
「は、ぁ、ぁぁ…」
蜜を溜める部分など、拳ほどもないように見えたのに、たっぷりと腹の中に注がれるそれは、次第に膨れるように内側を満たし。ふいごを抜き出されても、じっとしておられぬようで身を捩り、けれど動けばみっともなく漏らす羽目になりそうで、身悶える。
「うふ、…かわいい」
「キレイな肌だわ、にくたらしい」
「はッ、あっ」
身動ぐまいとしているのに、肌の上を幾本もの腕と手に撫で回され、胸の脇を抓られて背が跳ねる。
「…あら、でもよく見るとたくさん傷がおありだわ。戦士でいらっしゃるのね」
「戦士どころか騎士さ」
「騎士ですって…!?」
「ほんとう!? エルフで騎士なの!?」
「アギレオ…!」
視界を覆われたままながら、快楽という薄暗い悪夢に光でも差したよう、耳慣れた明るい声が飛び込んでくる。
「あら、“お頭”様がいらしたわ。お役御免かしら」
シュル、と結び目を解かれ、瞼と肌の上を滑って外される音で、目隠しが絹だったのだと脈略なく気づいた。
「アギレオ…」
「よう、ずいぶん楽しそうじゃねえか」
明けられた視界を開くように女性達が左右に退いて、まるで掻き分けでもしたかに現れる褐色の男。覆い被さりにくるその顔へと手を伸ばし。
「遅い!」
「いッてえッ!」
パン!と、音がするほど思い切り頬を張り飛ばしてやれば、きゃあ!と、彼女達からも驚きの声が上がり、けれどすぐにクスクス笑いに変わるところが強い。
「何をしていた、馬鹿者…!」
動揺を挟んで潰したがるよう、今頬を打ち抜いた頭を両腕で抱き寄せ、髪に埋めるよう大きく息をついて。
「あン? ずっといたじゃねえか、ずっと見てたぜ」
「見ていたなら早く止めろ、この馬鹿者!」
「止めろってえ? けどお前、こりゃあ、」
首元に抱き締める頭が動いたと思った途端、まだ違和感の強いそこに、思考よりも早くアギレオのだと分かる指が差し込まれ。
「あっ! 待て、駄目だ、……今は、だめ、ぁッ」
掻き回され、粘った水音が響き、堪えていたものが零れて垂れる。
「っ、だめだ、嫌、漏れ…っ」
「駄目じゃねえだろ、そのための準備だろうよ」
ほら離せ、と腕を叩かれ、緩める腕から上がるアギレオの顔を見上げ。じゅんび、と、言葉の音だけ繰り返す、脳に力の入らない感覚。
「ほら、これだろ…」
手を引かれて握らされる、ひちゃ、と粘った水音を立て、ぬめりを纏う熱さも、指を這わせて確かめなくとも、アギレオのペニスだと分かる。
まさか、と目を瞠ってその顔を見上げ。
「駄目だ、だめ、だめ、今は、だめ、アギレオ、嫌だ、」
搦め手のように柔い肌の弱さを巧みに使うことなどない、片手で両手首をまとめあげられ、脚の間に太い胴を受け入れさせられる、膝を開かせることも、この男には造作もない。
「だめ、だめ、いやだ、アギレオ、嫌、」
濡れた先端が触れ、またひちゃりと音がする。
「あっ! ああああッ!」
衝撃に、ひとりでに背が跳ね顎が仰け反る。
拒むように力を入れたつもりすらあったのに、恐ろしいほどの滑らかさで、いきなり深くまで開かれ、突き刺されて息が止まる。
「ハ…ッ! ぁ、ぁぁ、入っ、すご、すごく入って、ッッ」
「ッ、――こりゃすげえな。止めなきゃ一気に奥まで突くとこだ」
案外量の問題なのか?一番いい滑りになるよう薄めてますの。と、交わされている声の意味はもう、理解ができない。
目を開いているのに瞼の裏がチカチカと光り、容赦なくそのまま動かれて、息も絶え絶えにアギレオの背に縋る。
「あっ、あ、あっ、いや、いや、こすれ、こすれる、アギレオ、嫌だ、いや、やめ、」
違和感の欠片も気配すらもなく、無闇な滑らかさで中を擦られて、勃起したペニスの形や熱をひどく明確に感じる。亀頭の張り出しが腹の内を掻き、丸みが押し開いて、休む間も与えぬよう幹の太さが悦を塗りつけていく。
「ぁ…ぁ、ぅぅ、ぁう…、」
そうして抜き差しを繰り返され、むずつくような感覚を持て余し、視線を下げているアギレオの瞳を探す。呼ぶ声を思い出せず背に爪を立てれば、ようやく目が合い、眉を下げる。
「…なに、…どうした」
咄嗟に、口にするのがためらわれ、膝を掴んでいるアギレオの手を取り、股座に導く。張り詰めるように勃起していて、尻の中を快くされるたび、そこに詰まっていくようで苦しい。
「…ン。…自分でしてみろよ。好きなタイミングでイきゃいい」
手を離され、離れた手をすぐにまた握られるのに、掌に預けられる蜜がぬめる。
「あ、は、あぁ…」
移された蜜を溜めた掌でペニスを握れば、思いも寄らない快感に、背が震える。息に混じって零れる声もこらえられぬまま、我を忘れたように自分のペニスを扱き。尻の中を掻き回すアギレオの動きが、己の手に合わせ、腹の奥から性悦を押し上げて。
「あ、ああどうしよう、気持ちいい、気持ちいい、アギレオ、アギ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、イク、あ、イク、イク…ッ」
止まらなくなった声を不意に裏切るよう、射精のために籠もる力で浅く唸りながら、熱を噴きこぼした。
そう思っていたものを。
この娼館に長く勤めているという、栗毛の娼婦に様子を尋ねられながら腹の中を洗い、湯から上がる頃には、面白がるようこちらの身体を拭いたがる彼女たちの手も退けそびれるほど、息すら浮いていた。
一体何人で共に寝ようというのか、天蓋から薄物のカーテンが下がる寝台は、やたらに大きい。
促され、招かれ押し込まれ、寝台の上にあがると当たり前のように彼女たちに囲まれて、いちいち身動きが取れない。
「さあエルフ様、お見せいたしますわ」
いくつもの大きな枕に押しつけるよう、半起きに横たえさせられたところへ、声と共に柔らかい寝台が沈み、最後に上がってきた彼女を見る。
一糸まとわぬ姿で左手の側へ膝立ちになっている彼女に、背けそうになる目を、据え直して見つめる。見よとまで言って何をするのかと、少なからぬ関心もあって。
「似たものをご覧になったことがおありかしら?」
二枚の板と、その間をつなぐ革張りでできたそれを示され、頷く。珍しいものではない、それがもっと大きければ、様々な仕事場で見かけるもの。
「…ふいごに似ているようだ」
二枚の板と革で内側の空間を閉じ、板を開いて風を入れ、閉じて風を送る道具だ。だが、その大きさは掌ほどで、風を送るには少し心許ないように見え。
「さすがよくご存知ですわ。けれど、これで送るのは風ではありませんの」
そう言って、ふいごの隣に並べられていた壷の蓋を取るだけで、中身が何なのか分かる。たった一日で嗅ぎ慣れた気がするほどの、甘い匂い。蜂蜜に違いない。
「風を吹きませんので、ふいごというより、そう…――働き蜂かしら」
楽しげに唇に弧を描きながら、片手でふいごを潰し、長いくちばしを壷の中に差し入れ、今度は両手でふいごを開く。
「ああ…」
ふいごを開けば、空だった中身に風が入るものだが、引き入れるための口の先は蜂蜜の中だ。唇で吸い上げるのによく似た音をさせながら、膨らむ革の中に空気ではなく蜂蜜が入っていくのが分かる。
「ただひたすら、女王に蜜を運ぶ――っ、」
膝立ちの膝を更に大きく開いて背の方へと手をやる、股の向こうに上向きのふいごの口があり。そうして、長いくちばしをこちらからは見えぬ肉の内へと押し込んで、開いた板を片手で絞り、彼女が声を詰まらせる。
「――ッ」
何が起こっているのかを理解するより一瞬早く、ゾクリと、あらぬ場所から背へと震えが走る。
「ふふ。こんなところに女王がいるものかしら」
肩にしなだれかかっていた別の娼婦が笑うのに、ふいごのくちばしを引き抜きながら、栗毛の娼婦が片眉を跳ね上げる。
「まあ。やきもちかしら? お客様の前で悪い子ね。なりたいのなら、あなたも女王にしてあげるわ」
パチンパチン、と掌で跳ねるように肌を打たれ、叱られた娼婦がきゃあきゃあと笑いながら、身を起こして四つん這いになって。斜めとはいえ、脚の間の秘め処が丸見えになるよう尻を向けられ、目を剥く。
チュッと口吸いのような音がして振り返れば、いわくの働き蜂が次の蜜を運ぶのを、目に糸でもつけられたよう、ただ見守る。
女陰ではなく尻の穴へと筒が押し込まれるのに、思わず飲む息で喉が鳴り、赤面どころかきっと耳まで赤くなっているに違いない。
ああん、と甘えたような声を上げながら肘を折って肩を下げ、突き上げる尻へと、ふいごが握られて。あっは、と、笑ったような押し出されたような彼女の声に、首筋が総毛立つようで。
「さあ――、もちろん、お客様には新しい働き蜂をご用意してありますわ。ご安心くださいな」
紅を引いた唇が笑い、水を向けられて肩が跳ねる。
「ま、待て、そんな、遠慮する、そんな人前で、しかも女性の前でなど、」
「娼婦はただの女ではありませんわ」
「お客様が思うより、珍しいことでもないですよ」
柔らかな肉と細い腕で身を押さえられ、うろたえる。押し退けようと力を籠めれば「いたあい」の声が上がり、芝居だと分かっていてもそちらを避けてしまう。
「恥ずかしいなら目隠しなさるといいわ」
声が早いか、一体どういう訓練をしているのだか、柔らかい布で目を覆われ、思わず声が出る。
「待て、待て見えぬと余計に恐ろしい…!」
頭の後ろで目隠しの布を縛られ、腕や腹に柔い身体が乗り上げる。膝を立てさせ開かせる指が細く、急に、アギレオと同じその仕草が、アギレオの指でないと実感され、心臓が跳ねる。
みっともなく彼の名を呼びそうになった口を、閉じたまさにその時。
「あッ」
「恐ろしくなどありませんでしょう。……ふふ、娼婦でも、ここをこんな風にしてしまう娘は多くありませんのに」
押し込まれた、と思った細いものが、ぐにゃりと動いて、ふいごのくちばしでないのが分かる。
「待ってくれ…」
目眩すらするようで。
弱り果てた声に、シィと歯の間を滑るような吐息が囁いて返してくる。
「なにもひどいことはしませんわ。たっぷりと蜜を孕んだら、どんなに気持ちいいか知っていただきたいだけ…」
「は、……あ、ああ、」
指が抜かれ、見えなくとも形と固さで分かる。見覚えより長く感じるくちばしが、入口の狭さを通り抜けてじっくりと押し込まれていく。
敏感な尻の穴に伝わる力で、ふいごを絞られるのが知れる。
「ぁ、ぅ、ぅう…」
水や湯を招き入れるのとも、中で射精されるのとも違う、少し息苦しく冷たい感触。ぶるりと震える身の奥で、じわりと広がっていくように感ぜられるのは、己の体温で溶けて流れているのか。
「は、ぁ、ぁぁ…」
蜜を溜める部分など、拳ほどもないように見えたのに、たっぷりと腹の中に注がれるそれは、次第に膨れるように内側を満たし。ふいごを抜き出されても、じっとしておられぬようで身を捩り、けれど動けばみっともなく漏らす羽目になりそうで、身悶える。
「うふ、…かわいい」
「キレイな肌だわ、にくたらしい」
「はッ、あっ」
身動ぐまいとしているのに、肌の上を幾本もの腕と手に撫で回され、胸の脇を抓られて背が跳ねる。
「…あら、でもよく見るとたくさん傷がおありだわ。戦士でいらっしゃるのね」
「戦士どころか騎士さ」
「騎士ですって…!?」
「ほんとう!? エルフで騎士なの!?」
「アギレオ…!」
視界を覆われたままながら、快楽という薄暗い悪夢に光でも差したよう、耳慣れた明るい声が飛び込んでくる。
「あら、“お頭”様がいらしたわ。お役御免かしら」
シュル、と結び目を解かれ、瞼と肌の上を滑って外される音で、目隠しが絹だったのだと脈略なく気づいた。
「アギレオ…」
「よう、ずいぶん楽しそうじゃねえか」
明けられた視界を開くように女性達が左右に退いて、まるで掻き分けでもしたかに現れる褐色の男。覆い被さりにくるその顔へと手を伸ばし。
「遅い!」
「いッてえッ!」
パン!と、音がするほど思い切り頬を張り飛ばしてやれば、きゃあ!と、彼女達からも驚きの声が上がり、けれどすぐにクスクス笑いに変わるところが強い。
「何をしていた、馬鹿者…!」
動揺を挟んで潰したがるよう、今頬を打ち抜いた頭を両腕で抱き寄せ、髪に埋めるよう大きく息をついて。
「あン? ずっといたじゃねえか、ずっと見てたぜ」
「見ていたなら早く止めろ、この馬鹿者!」
「止めろってえ? けどお前、こりゃあ、」
首元に抱き締める頭が動いたと思った途端、まだ違和感の強いそこに、思考よりも早くアギレオのだと分かる指が差し込まれ。
「あっ! 待て、駄目だ、……今は、だめ、ぁッ」
掻き回され、粘った水音が響き、堪えていたものが零れて垂れる。
「っ、だめだ、嫌、漏れ…っ」
「駄目じゃねえだろ、そのための準備だろうよ」
ほら離せ、と腕を叩かれ、緩める腕から上がるアギレオの顔を見上げ。じゅんび、と、言葉の音だけ繰り返す、脳に力の入らない感覚。
「ほら、これだろ…」
手を引かれて握らされる、ひちゃ、と粘った水音を立て、ぬめりを纏う熱さも、指を這わせて確かめなくとも、アギレオのペニスだと分かる。
まさか、と目を瞠ってその顔を見上げ。
「駄目だ、だめ、だめ、今は、だめ、アギレオ、嫌だ、」
搦め手のように柔い肌の弱さを巧みに使うことなどない、片手で両手首をまとめあげられ、脚の間に太い胴を受け入れさせられる、膝を開かせることも、この男には造作もない。
「だめ、だめ、いやだ、アギレオ、嫌、」
濡れた先端が触れ、またひちゃりと音がする。
「あっ! ああああッ!」
衝撃に、ひとりでに背が跳ね顎が仰け反る。
拒むように力を入れたつもりすらあったのに、恐ろしいほどの滑らかさで、いきなり深くまで開かれ、突き刺されて息が止まる。
「ハ…ッ! ぁ、ぁぁ、入っ、すご、すごく入って、ッッ」
「ッ、――こりゃすげえな。止めなきゃ一気に奥まで突くとこだ」
案外量の問題なのか?一番いい滑りになるよう薄めてますの。と、交わされている声の意味はもう、理解ができない。
目を開いているのに瞼の裏がチカチカと光り、容赦なくそのまま動かれて、息も絶え絶えにアギレオの背に縋る。
「あっ、あ、あっ、いや、いや、こすれ、こすれる、アギレオ、嫌だ、いや、やめ、」
違和感の欠片も気配すらもなく、無闇な滑らかさで中を擦られて、勃起したペニスの形や熱をひどく明確に感じる。亀頭の張り出しが腹の内を掻き、丸みが押し開いて、休む間も与えぬよう幹の太さが悦を塗りつけていく。
「ぁ…ぁ、ぅぅ、ぁう…、」
そうして抜き差しを繰り返され、むずつくような感覚を持て余し、視線を下げているアギレオの瞳を探す。呼ぶ声を思い出せず背に爪を立てれば、ようやく目が合い、眉を下げる。
「…なに、…どうした」
咄嗟に、口にするのがためらわれ、膝を掴んでいるアギレオの手を取り、股座に導く。張り詰めるように勃起していて、尻の中を快くされるたび、そこに詰まっていくようで苦しい。
「…ン。…自分でしてみろよ。好きなタイミングでイきゃいい」
手を離され、離れた手をすぐにまた握られるのに、掌に預けられる蜜がぬめる。
「あ、は、あぁ…」
移された蜜を溜めた掌でペニスを握れば、思いも寄らない快感に、背が震える。息に混じって零れる声もこらえられぬまま、我を忘れたように自分のペニスを扱き。尻の中を掻き回すアギレオの動きが、己の手に合わせ、腹の奥から性悦を押し上げて。
「あ、ああどうしよう、気持ちいい、気持ちいい、アギレオ、アギ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、イク、あ、イク、イク…ッ」
止まらなくなった声を不意に裏切るよう、射精のために籠もる力で浅く唸りながら、熱を噴きこぼした。
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