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14、蜂の村
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「こいつは驚いたな。噂以上だ」
村の端にある宿に馬を預け、それぞれ部屋に荷物を置いてからぞろぞろと歩く。宿の主人に大体の村の地理を聞き、まずは大通りへと出た途端、溢れるような賑わいに目を瞠る。
「まさしく、リーの言っていた通りだな。確かに、これは街と呼べる規模かもしれない」
見える限り、大通りだけであるようだが、石畳が敷かれ、馬車すら通る広さがある。そこへ所狭しと並ぶ露店市と、そこを行き交う人々。交わされる売買の声、足を止めて雑談に興じる者。笑い声に怒鳴り声、人間達の生活のめまぐるしさを凝縮したような騒々しさに、思わず瞬きを繰り返してしまう。
「皆はこれから、……」
振り返れば、既にアギレオしかいない。ン?とばかりに眉を上げるアギレオに、思わず開いた口から言葉が出そびれ、見つめ合ってしまう。
「皆は、これからどこへ行くのかと、尋ねようと…」
唸るように言い直すのに、肩を竦められてしまう。
「とっくにそれぞれ遊びに行っちまったぜ。のんきなエルフめ」
笑われて、思いがけない彼らの素早さに頭を振る。
「どこへ行くか、もう決めていたのだろうか。皆、事情通だな」
俺らも行こうぜ、と促され、肩を並べてアギレオと歩き出した。
「どうだろうな。どこに何があんのか見に行ったんじゃねえか、まずは」
俺ならそうする、と通りと市に目を配りながらアギレオが言うのに、なるほど、と頷き。賑やかすぎて少し話しづらく、肩がぶつかるほどの距離まで、アギレオの方に身を寄せて歩き。
「私達はまずどこへ? お前は行きたいところがあるか?」
「そうだなあ。まずは何か腹に入れるか。何が美味えんだろうな、それから、酒が出るとこと…」
ふむと頷きを重ねながら行程を聞き、いや、とアギレオを振り返り首を横に振る。
「寛いで過ごそうというなら、先に必要なことを済ませよう。良い武具を扱う店があればいいんだが」
尋ねてみよう、と近くの露店へ足を向けるのに、違和感を感じて振り返る。急に方向を変えたせいで離れたか、大股で距離を詰めてくるアギレオが片眉を跳ね上げるのに、なんだ?と首を傾げ。
「真面目が服着て歩いてるようなやつだ」
思いがけない評価に、今度はこちらが眉を上げて。それから、笑ってしまう。
「どうだろうな。違いなく、その方が心置きなくお前と寛げると思ったからだ」
なるほどねえ、と、感心しているのか呆れているのか、その両方とも取れる声を背にしながら、果物を売る露店の店主へと声を掛ける。
尋ねごとをしようと口を開くより早く、アギレオが果物を買い求め、なんだと思うところに顎をしゃくられ、合点する。物売りから物を買ってから尋ねる、というやり取りが、必要なのかコツの類なのかはともかく、尋ねられる側の気分は違うものかもしれない。世慣れていると感心しながら、改めて尋ね。
物珍しそうに己とアギレオを見比べる露店主からいくつかの心当たりを聞き、礼を告げてまた通りへと戻る。
「武具を扱う店が複数あるというのもすごいな」
「だなあ。ここらはクリッペンヴァルトとベスシャッテテスタルが近えもんで、戦争はエルフの仕事って考えになりがちだからな。珍しいと、…」
不意に途切れた言葉に、うん?とアギレオを振り返り。
「国で一番、武具やら防具が揃うってんなら、王都じゃねえのか?」
ああ、と、もっともな指摘に頷きながら、あれだろうか、と通りの先の店にあたりをつける。
「良い物が多いのは間違いないが、慣れない者にも扱いやすいとは限らないな。それに、人数分のエルフの武器を買い入れられるか?」
「……いやあ…」
破産しちまうなあ、と、半笑いにニヤニヤするアギレオに肩を竦める。
「安く大量に作るという発想は、人間達には敵わないからな。最良のもので揃えたいにしても、もう少し皆の腕が整ってからの方がいいだろう」
「まあ、エルフの武器買うのに砦の財産ブチ込んだったら、女連中からしこたま絞られそうだな…」
それはたまらないな、と笑いながら、曇っているながら大きく硝子の嵌められた窓越しに確かめ、武具店に足を踏み入れた。
「おっ? こりゃこりゃ、いらっしゃい、どうも、エルフの旦那」
「ああ。通りでここが良い店だと勧められたのだ。少し見せてもらえるだろうか」
「へいへい、エルフの旦那のお目にかないますかどうか…」
エルフの旦那、と声では己を指し示しながら、店主の目がアギレオを見ているのに、頷いてみせ。
「これは魔物ではないのだ。害はないから安心してくれ」
さようで。へっへ、と愛想笑いする店主に、突然、ガアッ!とアギレオが咆える真似をして跳び上がらせているのに、こら、と叱っておく。
弓や刀剣、盾など、こちらの要望にあれかこれかと店主が品物を並べ、説明してくれるのに、己と相談するアギレオの知識が深いと気づいたか、店主の顔が次第に引き締まってくる。
数の相談をし、おおよその価格の話もして、正直に別の店にも巡ると話してから、一度店を後にした。
値段はもっと話し合いましょうや!エルフの旦那!と、閉じる扉を追うよう掛けられる声に、また来ると応じて次の店へと歩き出す。
打って変わって愛想の悪い店主が営む二軒目は、武具を揃えて売る店、というよりも、鍛冶屋が自分の作った物をそのまま売っているという風情だ。
アギレオの角や牙よりも、その両腰に下がった曲刀や、己の背負った弓を気に掛ける店主が、こちらの要望に口数少なく思案しながら頷きを重ねる。
職人と相談させてくれ、と、奥へ引っ込んでしまった店主を見送り、どこか荒っぽくもきちんと物が並べられた店内を見渡す。
「ああー、そうか。盾だな」
別の場所を見ていたアギレオがふいに声を上げるのに、なかなか立派な弓だと手に取っていたものを戻す。
「なんだ? 盾が要るのか?」
俺じゃねえよ、と振り返るアギレオが片眉を跳ね上げるのに、そうだろうなと、アギレオが見ていたらしい盾が壁に掛けられているのを眺め。
「お前だよ」
「うん?」
「お前の剣、ありゃ、左手は盾持つ剣術じゃねえか?」
ああ…、と、アギレオが何に合点したのかに納得すると同時に、よく判るものだと感心する。アギレオの指摘通りだが、実際は演習くらいでしか盾を持つことがない。
「どうしても戦で弓と剣を使い分けるのだが、盾だけはどうやっても、素早く弓に持ち替えられなくてな」
「ああー…、なるほどそういうことか」
盾を持つより、すぐに弓に替えられる方がいいんだ、と頷くのに、沈黙が返る。うん?と、もう一度振り返れば、顎に手をやり思いがけず真剣に思案している様子に、瞬く。
「お前の剣は左手が遊んでんだよな。盾が要らねえってんなら、いっそ左手も剣持ちゃいいんじゃねえか?」
「遊んでいると言われるほどではないと思うが…」
剣の扱いは片手が基本だが、立ち回りで左手を使うこともあり、空いている手が遊んでいると決まったものでもない。だが、それよりも、手が空いているならもう一本剣を持て、という発想に、呆れるような感服するような。
「お前ほど剣術が得手ではないからな…。不得手なものを両手に持つというのも、心許ないだろう」
いやいやいや…と肩を竦めて頭を振るアギレオに、顎を捻り。
「弓ってな、右手と左手で別の仕事すんだろ。向いてると思うぜ」
「そんな短絡的な話だろうか」
ずいぶんな無茶のように聞こえるが、発想はアギレオらしくて笑ってしまう。
「同じことさ。剣ってな、手前ェの腕の延長になるかどうかで、出来不出来が決まんだ。弓だってそうだろ」
「なるほど。ずいぶん乱暴な理屈だが、言いたいことは分かるな」
「そりゃそうだ、持つモンが違っても荒事やんのは同じだ。頭で考えるより、やってみんのが早道さ。弓ってな、弓と矢とが手前ェの腕になんだろう」
アレが出来て剣を両手に持てねえってこたねえだろ、と、弓を射る仕草を真似ているのを、思わず頬を緩めて見守り。
「弓と矢と、的までが己の腕だな」
短い沈黙の後、ブホッと噴き出すアギレオに、瞬く。
「的ってお前、めちゃくちゃ遠いな!?」
「それは、…そうだが。的を射なくてはならないからな」
「いや、そりゃお前、…そりゃそうか。そうだけどよ、」
どうのこうのと武具と戦術の談義になり始めるのを、店主がまた奥から出てくるのに、話を打ち切り商談へと切り替える。
三件目の店まで回って、それぞれの店でそれぞれ別の物を揃えようと相談し、数を急がせるよう依頼してから、武具の調達を一区切りにした。
「近頃ここじゃ何が流行だ?」
自分を怖がるのが面白いのか、勘定台に両腕を畳み、その向こうへわざと顔を近づけながら、最初の武具屋の店主にアギレオが尋ねているのを見守る。
そうですねえ、と一歩下がりながら顎を摩って首を捻るのに、アギレオのニヤニヤ笑いが深くなり。人の悪いやつだ、と呆れながら二人のやりとりに耳を傾け。
「今はやっぱり、角のパン屋が始めたバターサンドでしょうなあ。立つ市の多い日なら行列ができるほどで。今日は天気もいいですし、店の外の席にでも陣取りゃ、商売なんてしてんのが馬鹿らしくなんでしょうね」
どこの角だ?と、尋ねるアギレオに、打って変わって今度は身を乗り出し、そこの通りをそう行って、と店主が説明するのに、思わずつられて店の外へと視線をやる。
「行ってみようぜ。“仕事”はもう終いでいいかよ、大将」
話し終えたらしいアギレオにポンと肩の裏を叩かれ、通りの賑わいに取られていた目を上げる。
「ああ。他にも歩いてはみたいが、折角だ、そこを訪れてみよう」
邪魔したな、と振り向きもせず手をひらつかせているアギレオの声に息を抜いている店主を振り返り、よろしく頼むと声を掛ければ、ニコニコと愛想の良い笑みが返されるのに浅く額を下げて返した。
村の端にある宿に馬を預け、それぞれ部屋に荷物を置いてからぞろぞろと歩く。宿の主人に大体の村の地理を聞き、まずは大通りへと出た途端、溢れるような賑わいに目を瞠る。
「まさしく、リーの言っていた通りだな。確かに、これは街と呼べる規模かもしれない」
見える限り、大通りだけであるようだが、石畳が敷かれ、馬車すら通る広さがある。そこへ所狭しと並ぶ露店市と、そこを行き交う人々。交わされる売買の声、足を止めて雑談に興じる者。笑い声に怒鳴り声、人間達の生活のめまぐるしさを凝縮したような騒々しさに、思わず瞬きを繰り返してしまう。
「皆はこれから、……」
振り返れば、既にアギレオしかいない。ン?とばかりに眉を上げるアギレオに、思わず開いた口から言葉が出そびれ、見つめ合ってしまう。
「皆は、これからどこへ行くのかと、尋ねようと…」
唸るように言い直すのに、肩を竦められてしまう。
「とっくにそれぞれ遊びに行っちまったぜ。のんきなエルフめ」
笑われて、思いがけない彼らの素早さに頭を振る。
「どこへ行くか、もう決めていたのだろうか。皆、事情通だな」
俺らも行こうぜ、と促され、肩を並べてアギレオと歩き出した。
「どうだろうな。どこに何があんのか見に行ったんじゃねえか、まずは」
俺ならそうする、と通りと市に目を配りながらアギレオが言うのに、なるほど、と頷き。賑やかすぎて少し話しづらく、肩がぶつかるほどの距離まで、アギレオの方に身を寄せて歩き。
「私達はまずどこへ? お前は行きたいところがあるか?」
「そうだなあ。まずは何か腹に入れるか。何が美味えんだろうな、それから、酒が出るとこと…」
ふむと頷きを重ねながら行程を聞き、いや、とアギレオを振り返り首を横に振る。
「寛いで過ごそうというなら、先に必要なことを済ませよう。良い武具を扱う店があればいいんだが」
尋ねてみよう、と近くの露店へ足を向けるのに、違和感を感じて振り返る。急に方向を変えたせいで離れたか、大股で距離を詰めてくるアギレオが片眉を跳ね上げるのに、なんだ?と首を傾げ。
「真面目が服着て歩いてるようなやつだ」
思いがけない評価に、今度はこちらが眉を上げて。それから、笑ってしまう。
「どうだろうな。違いなく、その方が心置きなくお前と寛げると思ったからだ」
なるほどねえ、と、感心しているのか呆れているのか、その両方とも取れる声を背にしながら、果物を売る露店の店主へと声を掛ける。
尋ねごとをしようと口を開くより早く、アギレオが果物を買い求め、なんだと思うところに顎をしゃくられ、合点する。物売りから物を買ってから尋ねる、というやり取りが、必要なのかコツの類なのかはともかく、尋ねられる側の気分は違うものかもしれない。世慣れていると感心しながら、改めて尋ね。
物珍しそうに己とアギレオを見比べる露店主からいくつかの心当たりを聞き、礼を告げてまた通りへと戻る。
「武具を扱う店が複数あるというのもすごいな」
「だなあ。ここらはクリッペンヴァルトとベスシャッテテスタルが近えもんで、戦争はエルフの仕事って考えになりがちだからな。珍しいと、…」
不意に途切れた言葉に、うん?とアギレオを振り返り。
「国で一番、武具やら防具が揃うってんなら、王都じゃねえのか?」
ああ、と、もっともな指摘に頷きながら、あれだろうか、と通りの先の店にあたりをつける。
「良い物が多いのは間違いないが、慣れない者にも扱いやすいとは限らないな。それに、人数分のエルフの武器を買い入れられるか?」
「……いやあ…」
破産しちまうなあ、と、半笑いにニヤニヤするアギレオに肩を竦める。
「安く大量に作るという発想は、人間達には敵わないからな。最良のもので揃えたいにしても、もう少し皆の腕が整ってからの方がいいだろう」
「まあ、エルフの武器買うのに砦の財産ブチ込んだったら、女連中からしこたま絞られそうだな…」
それはたまらないな、と笑いながら、曇っているながら大きく硝子の嵌められた窓越しに確かめ、武具店に足を踏み入れた。
「おっ? こりゃこりゃ、いらっしゃい、どうも、エルフの旦那」
「ああ。通りでここが良い店だと勧められたのだ。少し見せてもらえるだろうか」
「へいへい、エルフの旦那のお目にかないますかどうか…」
エルフの旦那、と声では己を指し示しながら、店主の目がアギレオを見ているのに、頷いてみせ。
「これは魔物ではないのだ。害はないから安心してくれ」
さようで。へっへ、と愛想笑いする店主に、突然、ガアッ!とアギレオが咆える真似をして跳び上がらせているのに、こら、と叱っておく。
弓や刀剣、盾など、こちらの要望にあれかこれかと店主が品物を並べ、説明してくれるのに、己と相談するアギレオの知識が深いと気づいたか、店主の顔が次第に引き締まってくる。
数の相談をし、おおよその価格の話もして、正直に別の店にも巡ると話してから、一度店を後にした。
値段はもっと話し合いましょうや!エルフの旦那!と、閉じる扉を追うよう掛けられる声に、また来ると応じて次の店へと歩き出す。
打って変わって愛想の悪い店主が営む二軒目は、武具を揃えて売る店、というよりも、鍛冶屋が自分の作った物をそのまま売っているという風情だ。
アギレオの角や牙よりも、その両腰に下がった曲刀や、己の背負った弓を気に掛ける店主が、こちらの要望に口数少なく思案しながら頷きを重ねる。
職人と相談させてくれ、と、奥へ引っ込んでしまった店主を見送り、どこか荒っぽくもきちんと物が並べられた店内を見渡す。
「ああー、そうか。盾だな」
別の場所を見ていたアギレオがふいに声を上げるのに、なかなか立派な弓だと手に取っていたものを戻す。
「なんだ? 盾が要るのか?」
俺じゃねえよ、と振り返るアギレオが片眉を跳ね上げるのに、そうだろうなと、アギレオが見ていたらしい盾が壁に掛けられているのを眺め。
「お前だよ」
「うん?」
「お前の剣、ありゃ、左手は盾持つ剣術じゃねえか?」
ああ…、と、アギレオが何に合点したのかに納得すると同時に、よく判るものだと感心する。アギレオの指摘通りだが、実際は演習くらいでしか盾を持つことがない。
「どうしても戦で弓と剣を使い分けるのだが、盾だけはどうやっても、素早く弓に持ち替えられなくてな」
「ああー…、なるほどそういうことか」
盾を持つより、すぐに弓に替えられる方がいいんだ、と頷くのに、沈黙が返る。うん?と、もう一度振り返れば、顎に手をやり思いがけず真剣に思案している様子に、瞬く。
「お前の剣は左手が遊んでんだよな。盾が要らねえってんなら、いっそ左手も剣持ちゃいいんじゃねえか?」
「遊んでいると言われるほどではないと思うが…」
剣の扱いは片手が基本だが、立ち回りで左手を使うこともあり、空いている手が遊んでいると決まったものでもない。だが、それよりも、手が空いているならもう一本剣を持て、という発想に、呆れるような感服するような。
「お前ほど剣術が得手ではないからな…。不得手なものを両手に持つというのも、心許ないだろう」
いやいやいや…と肩を竦めて頭を振るアギレオに、顎を捻り。
「弓ってな、右手と左手で別の仕事すんだろ。向いてると思うぜ」
「そんな短絡的な話だろうか」
ずいぶんな無茶のように聞こえるが、発想はアギレオらしくて笑ってしまう。
「同じことさ。剣ってな、手前ェの腕の延長になるかどうかで、出来不出来が決まんだ。弓だってそうだろ」
「なるほど。ずいぶん乱暴な理屈だが、言いたいことは分かるな」
「そりゃそうだ、持つモンが違っても荒事やんのは同じだ。頭で考えるより、やってみんのが早道さ。弓ってな、弓と矢とが手前ェの腕になんだろう」
アレが出来て剣を両手に持てねえってこたねえだろ、と、弓を射る仕草を真似ているのを、思わず頬を緩めて見守り。
「弓と矢と、的までが己の腕だな」
短い沈黙の後、ブホッと噴き出すアギレオに、瞬く。
「的ってお前、めちゃくちゃ遠いな!?」
「それは、…そうだが。的を射なくてはならないからな」
「いや、そりゃお前、…そりゃそうか。そうだけどよ、」
どうのこうのと武具と戦術の談義になり始めるのを、店主がまた奥から出てくるのに、話を打ち切り商談へと切り替える。
三件目の店まで回って、それぞれの店でそれぞれ別の物を揃えようと相談し、数を急がせるよう依頼してから、武具の調達を一区切りにした。
「近頃ここじゃ何が流行だ?」
自分を怖がるのが面白いのか、勘定台に両腕を畳み、その向こうへわざと顔を近づけながら、最初の武具屋の店主にアギレオが尋ねているのを見守る。
そうですねえ、と一歩下がりながら顎を摩って首を捻るのに、アギレオのニヤニヤ笑いが深くなり。人の悪いやつだ、と呆れながら二人のやりとりに耳を傾け。
「今はやっぱり、角のパン屋が始めたバターサンドでしょうなあ。立つ市の多い日なら行列ができるほどで。今日は天気もいいですし、店の外の席にでも陣取りゃ、商売なんてしてんのが馬鹿らしくなんでしょうね」
どこの角だ?と、尋ねるアギレオに、打って変わって今度は身を乗り出し、そこの通りをそう行って、と店主が説明するのに、思わずつられて店の外へと視線をやる。
「行ってみようぜ。“仕事”はもう終いでいいかよ、大将」
話し終えたらしいアギレオにポンと肩の裏を叩かれ、通りの賑わいに取られていた目を上げる。
「ああ。他にも歩いてはみたいが、折角だ、そこを訪れてみよう」
邪魔したな、と振り向きもせず手をひらつかせているアギレオの声に息を抜いている店主を振り返り、よろしく頼むと声を掛ければ、ニコニコと愛想の良い笑みが返されるのに浅く額を下げて返した。
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