伊藤とサトウ

海野 次朗

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第三章・横浜発

第13話 将軍上洛

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 さっきからそれも気になっていた。あの子、とは空想上の友だちというやつだろうか。

「その『あの子』ってお前の友だちか? それとも動物でも飼ってるのか? いないとは思うけど彼女とかか?」

 最後のはさすがに失礼か。でもこいつ絶対にもてない。気にする様子もなく、少しだけ眉毛を寄せて自称作成者が呟いた。

「友だち……動物……彼女……」

 どれもしっくりこないといった表情だ。だろうな。

「いいよ、無理に答えなくて」

「――こども、かな」

「こども?」

 若そうに見えたので意外だったが、それなら別の意味でも気の毒だ。父親がこんな風ではその子も苦労するだろう。遊び相手くらいならなってやってもいい。

「その子は何て名前なんだ」

「ナイト、鏡の悪魔なんだ」

 おっと、そっち系の妄想に苦しめられているのか。こういう時は下手に否定するのも、興味本位で根掘り葉掘り聞くのも間違いだろう。話題を変えよう。

「俺は何でここにいるんだろう? お前、何か見てたか」

 俺より長く入院しているなら、搬送されきた時の様子も知っているかもしれない。

「事故に合う前の日に蜘蛛を助けただろう。あれが最後の課題だったんだよ」

「全っ然覚えてない」

 感情の見えなかった作成者の目が、わずかに悲し気に揺れた。

「悪い、本当に記憶にないんだ。それに課題ってなんのことだ」

「シロキは何も教えてくれなかったの? あの子はそういうところが抜けているからな。ともていい子なんだけれど」

 また登場人物が増えてしまった。

「シロキ? それもまさかお前の子どもか?」

 作成者の口元がこれもほんの微かに笑う。

「わたしにはたくさん子どもがいるんだけど、彼が最初の子なんだよ。特別な子だ」

 ――はあ、なるほど。わかってきたぞ。こいつ妙な宗教にはまっているのではないか。

「そうか、でもそのシロキくんのことも覚えていないんだよ」

「あの子をくん呼びするのはお前が初めてだ。さすがだね。略して呼ぶのもわたしとナイトくらいだというのに」

 早く医者か専門家が来てくれないだろか。素人の手に負える類のやつじゃない。この部屋、窓も扉もないようだが……。

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