朱のゆりかご―一匹狼の護衛屋と治癒体質の青年―

久画嵜ミロ

文字サイズ
小 中 大 特大
39 / 40
第二章

38.綻び(2)※

 フィノは唖然とした。ハザルの舌が、表面をべろりと舐め上げたのだ。
 
「ハザルさんっ、そんなとこ、だめっ!」
 
 狼狽えるフィノに構わず、ハザルは皺の一本一本をなぞるように丁寧に舐っていく。
 
「だめ……だめ……!」
 
 次第にそこがひくん、と綻び始める。開きかけた孔へ、尖らせた舌がじわりと押し当てられ——つぷ、と小さな音と共に、先端が中へ埋め込まれた。
 
「ひッ……!」
 
 今まで感じたことのない異物感に、フィノは大きく目を見開いた。ぬるくてねっとりとしたものが、内壁をほぐすように蠢く。強張った身体は、ちゅぽちゅぽと淫猥な音を鳴らす抜き挿しに、すぐさま解けていった。
 
「ひァっ……だめ……ぇッ……!」
 
 順応していく身体が恥ずかしくて堪らないのに、後孔はもっと深くと求めるように、きゅうきゅうとハザルの舌を締め付けてしまう。やがてちゅぽん、と湿った音を立てて舌が抜かれた。急な喪失感に、孔が物欲しげにひくつく。こちらを覗くハザルの表情は、甘い毒に侵されたように蕩けきっていた。
 
「フィノの味がする」
 
 唇を濡らしながら、ハザルが告げる。普段なら顔を真っ赤にして拒絶するはずの言葉だった。それすら今は、全身を昂ぶらせる材料にしかならない。もっと深い刺激が欲しい。そう訴えるように、フィノの屹立はますます硬さを増し、先端からはとろとろと蜜が滴り落ちた。
 
「フィノ」
 
 低い呼びかけに顔を上げると、ハザルは上衣を脱ぎ捨てていた。鍛え上げられた筋肉の隆起が露わになり、続けて下衣も一気に引き下ろされる。フィノは息を呑んだ。現れた怒張は、自分のそれよりも大きく、太い。これがロウシェでの夜、自分の中に埋まったのだと思うと、思わず腰が揺れた。
 
「いいか」
 
 こくりと頷くと、ハザルの手が双丘を割り開き、先端が宛がわれた。焦らすように数度擦られ、入り口がひくひくと収縮する。
 
「力、抜けよ」
 
 掠れた声が耳朶を打つ。次の瞬間、ハザルがゆっくりと押し入ってきた。

「んぅ……っ」
 
 みちみちと音が聞こえてきそうな圧迫感。太いものが襞を分け入って進む。二度目の交わりでも、この質量にはまだ慣れない。痛みと悦びの入り混じる感覚に、瞳から涙が溢れた。
 
「……痛くないか?」
 
 ハザルの親指が優しく目許を拭う。痛くないと言えば嘘になる。それでもフィノは弱々しく頷いた。
 
「っん、平気、です」
 
 潤んだ視界で見上げれば、ハザルもまた、眉根に深い皺を刻み、苦しげに息を吐いていた。——あの夜と同じ表情だ。
 
「ハザルさんは……? 苦しそう」
 
 フィノが両手で頬を包むように触れると、その表情が幾分か和らいだ。大きな背を屈め、こちらへ覆い被さってくる。その動きで屹立はさらに深く沈み込み、フィノは息を詰めた。
 
「んッ」
 
「苦しくない」
 
 熱の籠もった囁きが耳の奥を震わせる。
 
「気持ちいいんだ」
 
 その言葉に、胸が甘く締め付けられた。ハザルが、自分の身体で悦びを感じてくれている。それが堪らなく嬉しくて、フィノは広い褐色の背中へ腕を回した。
 
「ゆっくり、動くぞ」
 
 断りと共に、緩やかな抽送が始まった。ぐぽ、ぐぽ、と空気を押し出すような浅い動き。中が収縮するたび、ハザルが奥歯を噛むように息を詰める。
 
「ん……ッぐ」
 
 ——気持ちいい。でも足りない。フィノは知っている。勢いよく奥を穿たれたときに襲う、もっと深い快感を。あれが欲しい。フィノは声を震わせて懇願した。
 
「もっと、ください」
 
「……ああ」
 
 ハザルが応じると、抽送が次第に速度を増し、内壁を擦り上げる感触が強く、深くなっていった。
 
「んっ、あッ……!」
 
 ぬち、ぬちと湿った音が部屋に響き始める。腰が揺れ動くたび、身体の奥底で熱が広がっていった。そして、ハザルの腰が一度大きく引かれた、次の瞬間。
 
「あァっ!」
 最も敏感な一点を容赦なく擦り上げながら、最奥を穿たれる。全身に電流が駆け回り、フィノの腰が大きく跳ねた。
 
(これっ、これぇ!)
 
 求めていたのはこの感覚だ。脳髄まで蕩ける快楽に、視界がちかちかと明滅する。
 
「ハザル、さぁ……ッ」
 
 背中に回した指先が褐色の肌を掻き抱く。けれど、期待した次の一突きは訪れなかった。代わりに、熱っぽい声が降ってくる。
 
「なあフィノ、……ハザル、って呼んでくれ」
 
「っえ、……あ」
 
『その、『さん』っていうの……やめないか』
 
 ひとつになる前の言葉が蘇る。咄嗟にフィノはふい、と顔を背けた。
 
「そんな、恥ずかしい……」
 
「フィノ」
 
 名を呼ばれ、視線をハザルへ戻す。欲に潤んだ瞳が、逃げ場を塞ぐように絡みついてきた。体内で脈打つ熱に、思考が溶けていく。フィノはおずおずと唇を開いた。
 
「っは、ハザル……」
 
 その瞬間、ずん、と最奥を突き上げられた。
「ひあァ!?」
 
「そうだ」
 
 満足げに言いながら、ハザルはゆっくりと腰を引き戻す。
 
「やっ、ハザル、さ……」
 
 癖になった呼び方が、無意識に口をついて出る。また動きがぴたりと止まった。
 
「ん?」
 
「そうじゃないだろ」と諭すような目が、こちらを見つめている。意地悪をされているような心地に、フィノの瞳がじわりと潤みを増した。
 
「……っ、ハザル」
 
 名を呼ぶと、応えるように腰が打ち付けられる。
 
「あぁッ!」
 
 わざとやっている。それでも、呼べば快楽という褒美が与えられると理解してしまえば、自然と唇がその名前を紡いでいた。
 
「ハザル……ッ、ハザル!」
 
「そうだ、もっと呼んでくれ」
 
 気づけばフィノはうわごとのようにその名を繰り返し、激しい抽送に翻弄されていた。身体が揺さぶられるたび、腹の上で揺れる屹立は限界寸前まで膨らみ、ぱたぱたと先走りを垂らしている。
 
(くる……また〝あれ〟が、きちゃう)
 
「ハザル、出ちゃう、気持ちいいのに、出ちゃうの」
 
 言葉と共に涙が溢れた。今まで、投薬の熱に浮かされて、苦しくて、早く楽になりたくて吐き出していたもの。それが快楽の果てに溢れることを、ハザルに教えられた。まだ慣れない感覚に、恐怖すら覚えてしまう。ハザルは一瞬驚いたように両眉を上げ、すぐにフィノの頬へ手を添えた。大きくて温かな掌が、泣きじゃくる子どもを宥めるように撫でる。
 
「大丈夫だ、フィノ。気持ちいいから出るんだ」
 
 そう言って、涙を掬い取るように頬へ唇を寄せた。
 
「いくぞ」
 
「……うん」
 
 低く優しい声音に、フィノは委ねるように頷く。それを合図に、律動が再開された。今まで以上の速度と深さで、何度も腰を打ち付けられる。肌のぶつかる乾いた音と、結合部から溢れる粘着質な水音が、部屋中に響き渡った。
 
「あッ、ああッ! ハザル……ッ!」
 
 内壁を擦り上げるものが脈打っている。その熱が、ハザルの限界を告げていた。
 
「フィノ……っ! イくッ」
 
「ッあ!? ぁあッ!」
 
 最奥を強く叩きつけられた瞬間、熱い飛沫が注ぎ込まれた。同時にフィノも限界を迎え、弓なりに背を反らせて白濁を迸らせる。
 
「ん、っぐ……ッ!」
 
「あぁッ……んぅ……ッ!」
 
 それから暫く、二人は繋がったまま互いの息遣いを聞いていた。やがてハザルがだらりとフィノへ覆い被さってくる。広い胸板に頬を寄せると、耳元で心音がばくばくと鳴っていた。体内に埋まる熱も、未だに脈を打ち続けている。どれがフィノのもので、どれがハザルのものなのか。境目が分からないほど、鼓動が溶けて混ざり合っていた。汗で額に張り付いた前髪を、大きな手が優しく梳いていく。
 
「大丈夫か」
 
「……うん」
 
 フィノが力なくふにゃりと笑うと、ハザルも安堵したように表情を緩め、その額に口づけた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

十三度目の正直 死に戻りの冷徹公爵は悪役王子を死んでも離さない 表紙

十三度目の正直 死に戻りの冷徹公爵は悪役王子を死んでも離さない

旧題:ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが? 改題し、アンダルシュノベルズ8月刊として発売されました。加筆&書き下ろししています(店舗特典の後日談SSもございます)ので、ぜひお手に取っていただけたら嬉しいです。 第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡ 第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。
BL 連載中 長編 R18
文字数 175,114
幸せな復讐 表紙

幸せな復讐

お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
BL 完結 短編 R18
文字数 11,165
ルピナスの花束 表紙

ルピナスの花束

王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
BL 完結 長編 R18
文字数 36,225
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕 表紙

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。
BL 完結 短編 R18
文字数 22,907
王国の愛し子 表紙

王国の愛し子

──この世界で愛と幸運は同じ価値を持つのか──  王子の婚約者として育てられた公爵家の三男ユーリは、自分が百年に一度生まれる奇跡の存在だと知った瞬間全てに希望を失った。   王子に愛されて望まれたのだと思っていたのは違った。王国に幸運をもたらす生き神としての役目だけだった。 ──それなら自分の人生を生きる──  姿を変えて家を飛び出した。師匠に出会い旅をして、体を鍛えて強くなった。そして旅を続けた先で出会った者は・・・ ユーリ・アルシオーネ・ヴァルディス 16歳 ヴァルディス公爵家の末っ子三男。 幼い頃から家族の愛情を受けすくすく育ったが、兄弟の中で自分だけ容姿が違う事を気に病んでいる。 じつはユーリは公爵家にまれに生まれる「愛し子」と呼ばれる存在で、他者の魔力を増幅させる能力を持っている。 次期国王イアンの婚約者。 イアン・ルーク・ランツァ 24歳 ランツァ王国の王子。王家で屈指の魔力量を誇り、長いプラチナブロンドを靡かせ戦場を駆け巡る姿は『戦神』と呼ばれている。ヴァルディス家の末っ子ユーリを大切にしている。
BL 完結 長編 R18
文字数 201,400
それを愛とは呼ばなかった 表紙

それを愛とは呼ばなかった

彼は言った。「これは愛じゃない」 皇太子が内侍に執着した。奪った。閉じ込めた。 それでも欲しいものは、手に入らなかった。 それが愛だと、最後まで認めなかった男の物語。 ※画像は全てAIに生成してもらいました。
BL 完結 長編 R18
文字数 97,574
傷跡傭兵の強制結婚-実子かどうかはどうでもいいので義理の息子を溺愛します- 表紙

傷跡傭兵の強制結婚-実子かどうかはどうでもいいので義理の息子を溺愛します-

前の世界で凄惨な死を迎えた傭兵であった自分、シラー・イーグルズアイは神の使徒として異世界に転移してしまう。 現地の法令の元、有力貴族であるロアイト公爵との結婚を強引にも取り付けられ急な結婚生活が始まるが、傷んだ食事を出されたり冷遇されたりと歓迎されていない様子。でも誰も殺そうとしてこないし良いか。 義理の息子が成人するまではしっかり面倒をみてその後に家を出ようと画策するが、ロアイト公爵の様子がどうにもおかしくなってきて……?
BL 連載中 長編 R18
文字数 101,572
推しの護衛の推しが僕 表紙

推しの護衛の推しが僕

今日も元気だ推しが尊い。貧乏男爵家の次男 エルフィンは平凡な王立学園の2年生。だからこそ自分に無いキラキラした人たちを≪キラキラ族≫と呼び日々愛でている。仲間と集まって推し活動をしているとなんとキラキラ族が口説いてくる。なんでどうしてって言いながら流されハッピーエンド。ぐいぐい来る護衛×チョロ受  表紙は春瀬湖子様が描いてくださいました。キラキラ族がキラキラしてるでしょう! ≪男しかいない世界≫≪卵産む設定ありますが産みました≫ 
BL 完結 長編 R18
文字数 40,337