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2巻
2-3
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さてと……暗かった空に朝日が上り、明るくなってきた。
「皆の朝ごはんを作ろうかな」
今日はベーコンを厚く切って焼いて、あと目玉焼きを作ろう。
そうだ、パンの実も焼こう!
ふふふ。皆に内緒でこっそりベーコンを作ってみたんだ。
ビッグボアのお肉を燻製して作ってみたら、最高に美味しくできた。
皆、喜んでくれるといいなぁ。
フライパンに厚く切ったベーコンを並べて、焼いていく。
数分もすると、いい匂いが辺り一面に広がる。
「うふふ、美味しそー♪」
ご機嫌にベーコンを焼いていたら……
――えっ!? 急に地面に大きな影が……?
「雨雲?」
空を見上げたら、翡翠色の綺麗なドラゴンが僕の目の前に下りてきた。
「えっ」
『ほう? 珍しい猫がいるなぁ』
「あっ……あの……」
ドラゴンが、僕のことを興味津々といった感じで見てくる。
『ヒイロ! いい匂いがしたっち』
『あふ……おはよ』
モチ太とルリが目を覚まし、洞窟の近くにやってきた。
するとドラゴンがルリを見つめる。
『おっ、四番目。何してるんだ?』
『むぅ? あっ、二番目!』
えっ……このドラゴンってもしかしてルリの兄弟!?
ドラゴンは僕たちを一人ずつ見回したあと、人の姿に変身した。
腰まである、翡翠色の髪が風でふわりとなびく。
「わぁ……綺麗な髪」
思っていたことが思わず声に出ちゃった。
ドラゴンさんが僕を見てニヤリと笑う。
『ふふん、そうか? 俺の髪はな、特別な石鹸でシャカシャカンッと洗っているからな』
ドラゴンさんはそう言いながら、自分の髪に触れる。
髪の長さが腰まであって長いけれど、男の人かな?
なんだか擬音の表現が面白い人だなぁ。
『二番目、何しにきた?』
『んん? 何って……プルルンとして可愛い妹と、ピリッとして美人な母の顔を見にきたんだろ?』
ルリはドラゴンさんのことを二番目と言っている。
二番目というのは、僕が今着ている服の持ち主の呼び名だったような……
二人の様子を見ていたら、二番目さんがルリの頭をくしゃくしゃと撫でる。
ルリはどことなく嬉しそう。
ふふ。お兄さんのことが大好きなんだね。
『母はどこだ?』
『母違う、ハク』
『え? ハク』
『ん、そう。ヒイロがつけてくれた名前』
ルリがにししっと笑って僕を指さす。
そんなことを急に言われても、二番目さんには意味がわからないよね。
ちゃんと説明しないと。
「ええと……真名はあるけれど、呼んではいけないと聞いたので、僕が呼びやすい名前をつけさせてもらったんです」
『うん、そう。ルリ、ルリ、ルリ』
ルリが自分の顔を指さし、二番目さんに得意げに名前を告げる。
『ふうん? この猫が名前をつけたのか』
二番目さんにじっと見つめられて、なんだか緊張しちゃう。
『うん。猫違う、ヒイロ』
『ああ、ヒイロね。我ら竜族に臆することなく名前をつけるとは、なかなかやるねぇ』
「いやっ……そんな」
僕の頭をポンポンと撫でる二番目さん。いたずらっ子のような顔をしている。
こういうところはルリと似ているね。流石兄妹。
『せっかくだから俺も、ヒイロにカッコイイ名前をつけてもらおうかな? ぽみゅっとな』
「ええっ!? ぽみゅっと!?」
ぽみゅっとって……どんな風に名付けるの?
『だって俺ら竜族には名前なんてないからさ? 真名は声に出して呼んじゃダメだしな? お前たちは竜族が使うテレパシーは使えないだろ? 二番目じゃ味気ないしさ』
ハクが前に言っていたなぁ。
竜族は声を出さなくとも会話ができるって。
わざわざ僕たちの共通言語で、話してくれていると。
「ほっ……本当に僕が名前をつけていいの?」
『おうっ!』
ぽみゅっとはちょっとわからないから……
ええと……ルリもハクも宝石から取った名前だから、二番目さんも……
二番目さんを見つめると、翡翠色の瞳と目が合う。
宝石……翡翠みたいな瞳。
「決めた! 二番目さんは宝石の翡翠のような瞳をしているので、スイはどうですか?」
『スイか。いいじゃねーか! バチコーンっと気に入ったぜ! 俺の名前は今日からスイだ。へへっ、なんだかルリが得意げになっていた気持ちがわかるぜ。ヒイロに名前をつけられるのは、なぜかわかんねーが、嬉しいな』
二番目さん……もとい、スイが僕のことを抱き上げ、自分と同じ視線まで持ち上げた。
『ありがとうな、ヒイロ!』
「えへへ、気に入ってくれて嬉しい」
面と向かって言われたらなんだか照れちゃう。
そういえば、僕、何かをしてた途中だったような……
そうだった! 僕、朝食を作ってたんだ。
せっかくだからスイにも食べてもらいたいな。
ベーコンは自信作だからね!
「よかったら、僕が作った朝食、一緒に食べない?」
『おお? いい匂いしてたからな、気になってたんだよ』
料理はすぐに完成するから……って!?
「えええ!?」
フライパンの上にあった料理のほとんどをモチ太が平らげ、テーブルの上で大の字になって転がっていた。
「モチ太ー!? 食べちゃったの?」
『肉がうんまかったっち、わりぇはもっと肉が食べたいっち』
モチ太がやけに静かだったのは、食べてたからか。
ベーコンを食べ尽くしても、まだよこせと言ってくるなんて。
……ったく。
でもベーコンはまだまだあるし、卵はコッコたちからもらってこよう。
「よーしっ、作るぞー!」
気合を入れて料理を再開していると、朝の畑仕事を終えたルビィもやってきた。
「さぁ、召し上がれ」
僕は焼き上がったベーコンと目玉焼きをお皿に載せて、テーブルの上に並べていく。
『ほう……? これは焼いた卵か? その横に添えてある白い塊はなんだ?』
スイがお皿に載った料理を、興味津々に見ている。
白い塊は僕が卵とオリーブオイルと果物の果汁と塩で作った新作の調味料。
お酢がなかったから、洞窟の近くに実っていた果物の果汁を代用した。
材料を全てお皿に入れて、ルリの魔法で撹拌してもらえば、マヨネーズの完成!
スイが早速気付いてくれて、なんだか嬉しい。
「ふふふ、これはねマヨネーズと言って、どんな料理でも美味しくしちゃう万能調味料なんだ」
『ゴクッ、どんな料理でも美味しくっちか!? さっきはその白い塊なかったっち! マヨネっちか? 王であるわりぇにも、早くよこすっち! よこすっちぃ!』
モチ太が僕の頭に飛び乗ってきた。
『フハハッ、食いしん坊の王様だな』
スイがモチ太を見て爆笑している。
モチ太ってば、『どんな料理でも美味しく』という言葉に反応して、ブンブン尻尾を振っている。
……流石は食いしん坊のフェンリルの王様だ。
『なななっ、誰が食いしん坊っち! この高貴なるわりぇに向かって!』
モチ太がスイの肩に飛び乗り、頭をテチテチと叩いている。
普通なら頭が吹っ飛ぶはずだけど、スイには全く効いていない。
流石はルリのお兄さん。
「モチ太? 自分のお皿をよく見て? 皆と同じでしょ? マヨネーズちゃんとあるよね?」
『ぬ?』
僕がそう言うと、急いで姿勢を正すモチ太。
『ほんとっち! わりぇにもあったっち』
モチ太の尻尾が嬉しそうにフル回転。そして、慌ててお皿に顔をつっこむ。
『ううううっ……うんまいっち! このマヨネをつけると百倍うんまいっちぃぃぃ! マヨネをもっとよこすっち』
モチ太? 口のまわりがマヨネーズまみれだけど……王の威厳はどこにあるのかな?
『これはそんなにドキュンと美味いのか!?』
『ゴクッ』
「僕も早く食べたいなぁ」
そんな大興奮のモチ太を見て、スイとルリとルビィの目が輝く。
三人もマヨネーズをつけて目玉焼きを食べると、見つめ合い、うんうんと頷いている。
どうやら三人もお気に召したみたい。マヨネーズ、皆に大好評でよかった。
卵が手に入ったから、作ってみたかったんだ。
マヨネーズは前世でお母さんが僕のために手作りしてくれていた。
これはお母さんが教えてくれたレシピ。
こんなにいっぱい目玉焼きにつけて食べるのは初めて。
どれ、楽しみだなぁ。
ドキドキしながら、大きな一口を頬張る。
「んんんんんんんんっ! 美味しい!」
口の中が美味しさでとろけちゃうかと思った。
濃厚なマヨネーズに、目玉焼きの淡白な白身としっかり味の黄身がベストマッチ。
いっぱい食べるって幸せ。美味しさが口の中いっぱいに溢れてる。
さてと、ここでお父さんがいつもしてた味変をしようかな?
「じゃじゃ~ん! ここに醤油を少し垂らしたら、また違った味になって美味しいんだよ」
僕は皆の前で、マヨネーズの上に醤油をかけた。
『何やってるっち!?』
モチ太が驚いて僕を見ている。
「ふふふ……こうするとまた新たな味に変化するの。あむっ」
ふわぁぁぁっ、美味しい~!
少しだけさっぱりした味になった。これだと何個も食べられちゃう!
醤油をかけたら、ベーコンとも相性がいいなぁ。
お母さんはソース派だったんだよね。ソースもいつか作ってみたいな。
『ほう……味変とはなかなかやるな。この味付けもシュッとしてて、最高に美味いぜ』
『うん、うん』
「僕、この組み合わせのほうが好きかも!」
スイとルリとルビィが感心しながら、醤油味も食べている。
『わりぇは……もう……食えないっち。はぁ……うんまかったっち』
スイとルリとルビィが美味しそうに食べている中、モチ太は仰向けになり、幸せそうにお腹をポニポニと叩いている。マイペースな王様だね。
スイはベーコンとマヨネーズ。ルリは目玉焼きとマヨネーズ。
モチ太はベーコンと目玉焼きとマヨネーズ。ルビィはベーコンと醤油。
皆、一番好きな組み合わせができたみたい。
食後の休憩をしながら、ルビィのお茶を飲んでいたら、急にスイが真面目な顔をして僕を見つめる。
どうしたのかな?
『ヒイロ、お前こんなに料理の才能があるんだからさ、茶屋でもしたらどうだ? 人気店になると思うぜ?』
「え? 茶屋!?」
茶屋って……カフェとか喫茶店のことだよね?
『俺は今さ、亜人の国で暮らしてるんだが、そこで店を開いたら大人気店になると思うぜ?』
「亜人の国?」
『ああ、倭の国とも言われているな。亜人……そう色んな種族が、差別なく暮らしている国さ』
色んな人種が……すごく興味がある!
「亜人の国って、この場所から近いの?」
『近い? う~ん……そうだなぁ。俺がバビュンッと飛ばして、大体二週間で着く感じかな』
「二週間!?」
『おう』
亜人の国でカフェをしてみたいけれど、流石にそんなに遠いと、この場所にすぐに帰ってこれなくなっちゃう。
「お店にはすっごく興味あるし、亜人の国にも行ってみたいけれど、僕はこの場所を離れたくないんだ」
『ふむ? ヒイロはここを住処にして、ずっと暮らしたいと?』
「うん。そうなんだ。ハクやルリやルビィと一緒にいたい」
『……ふ~む。おっ、ならさ? 移動茶屋にしたらいいんじゃねーか?』
「移動茶屋!?」
スイが予想外の提案をしてくる。
なんなの!? 移動茶屋って。なんだかワクワクするよ?
『ハハハッ、気になるみたいだな? 俺にいい考えがあるんだよ! あとの話はハクが戻ってきてからだな』
スイはそう言って、ドラゴンの姿に戻ると、泉の中にバシャンッと、気持ちよさそうに入っていった。
そのあとをルリが追いかけ、一緒に水浴びをしている。
僕は移動茶屋という言葉が気になって、なんだか落ち着かなくて一人ソワソワしてしまう。
「ふふふ」
二人とも楽しそうだなぁ。
泉で楽しそうに泳いでいるスイとルリを見て、顔が綻ぶ。楽しい気持ちが伝染しちゃった。
僕も一緒に水浴びしたいけれど、泳げないんだよなぁ。
泉は思ったよりも深いから、僕が入ったらすぐに沈んじゃう。
これは泳ぎの訓練もしないと。
……そもそも猫って泳げるのかな?
犬かきはあるけど、猫かきは聞いたことないもんね。
二人は楽しく遊んでいるし、僕はハクが帰ってくるまでの間、何をしようかな?
やりたいことはいっぱいあるんだけれど。
ログハウスの家具や小物を作りたい。
でもやっぱり、スイの話していた移動茶屋のことが気になって、なんだかソワソワして、家でじっとしてられない。
新たな食材を探しに、森に行こうかな。
ハクが夜に帰ってきた時に、おいしい料理を食べてもらいたいし。
そうと決まれば即行動!
僕は意気揚々と森に入っていった。
「う~ん」
意気込んで探しに来たけれど、なかなかいい食材ないなぁ。
新たな調味料でもいいんだけどな。
数時間歩いたけど、何も見つからない。
「ふぅ~」
とりあえず休憩。僕は大きな木にもたれかかって、座った。
「さてと、おやつの時間」
アイテムボックスからお茶とポテチを取り出す。
ポテチを口に入れた瞬間、パリッといい音が響く。
「おいし~」
ポテチは音と香りと食感と、色々な要素が相まって、美味しさが掛け算されている。
前世では油分が多すぎるからと、ポテチは食べられなかった。
食べられるようになって本当によかった。
揚げただけのジャガイモだと思ってたけど、こんなに幸せな気持ちになる食べ物だったなんて。
ポテチを食べながら、幸せを噛み締めていると……
「……ん?」
あれ? あそこの茂みが動いている! 何!?
『きゅま~』
「え?」
茂みから出てきたのは、僕と同じくらいの身長の熊(?)だった。
熊の子供かな?
『キュキュまぁ~』
熊の子供は、僕が右手に握りしめているポテチをキラキラした目でじっと見ている。
もしかして、このポテチが欲しいのかな?
熊の子供は可愛いけれど、前世で読んだ本には、子熊の近くには必ず親熊がいるから要注意と書いていた。
どうしよう……親の熊が出てきたら怖いけれど、このキラキラした目を無視できる気がしない。
「あのう……ポテチ食べる?」
僕は持っていたポテチを子熊に差し出した。
すると子熊の目がさらに輝く。
『きゅっきゅマァ』
僕の手からポテチを直接食べる子熊。
「可愛い……」
『きゅまきゅま~!』
子熊が美味しそうにポテチを食べている。可愛いよう。
僕は子熊の頭を撫でる。
想像していたのと違って、子熊の毛は硬かった。
フワモフではないけれど、可愛いことには違いない。
気が付くと、僕はアイテムボックスに保管していたポテチを全て子熊にあげていた。
『きゅまま~♪』
ポテチをいっぱい食べて満足したのか、子熊は丸いしっぽをフリフリさせながら、去って行った。
親熊が来たらどうしようかなと思ったけれど、大丈夫だったみたい。
「子熊可愛かったな」
さて、食材探しを再開するか!
再びあてもなくウロウロしていると、知っている香りが漂ってきた。
「これって、絶対あの香り!」
慌てて香りがするほうに走っていくと、そこには……
「調味料キノコ!」
カレー味の調味料キノコが生えていた。
すごい! これでカレー味の料理ができちゃう!
カレー味の何を作ろうかな?
「あっ! あれを作ってみようかな」
ふふふ。帰ってくるハクも喜んでくれるといいなぁ。
僕は皆が喜んでくれる顔を想像しながら、カレー味の調味料キノコを採取し、帰路についた。
「皆の朝ごはんを作ろうかな」
今日はベーコンを厚く切って焼いて、あと目玉焼きを作ろう。
そうだ、パンの実も焼こう!
ふふふ。皆に内緒でこっそりベーコンを作ってみたんだ。
ビッグボアのお肉を燻製して作ってみたら、最高に美味しくできた。
皆、喜んでくれるといいなぁ。
フライパンに厚く切ったベーコンを並べて、焼いていく。
数分もすると、いい匂いが辺り一面に広がる。
「うふふ、美味しそー♪」
ご機嫌にベーコンを焼いていたら……
――えっ!? 急に地面に大きな影が……?
「雨雲?」
空を見上げたら、翡翠色の綺麗なドラゴンが僕の目の前に下りてきた。
「えっ」
『ほう? 珍しい猫がいるなぁ』
「あっ……あの……」
ドラゴンが、僕のことを興味津々といった感じで見てくる。
『ヒイロ! いい匂いがしたっち』
『あふ……おはよ』
モチ太とルリが目を覚まし、洞窟の近くにやってきた。
するとドラゴンがルリを見つめる。
『おっ、四番目。何してるんだ?』
『むぅ? あっ、二番目!』
えっ……このドラゴンってもしかしてルリの兄弟!?
ドラゴンは僕たちを一人ずつ見回したあと、人の姿に変身した。
腰まである、翡翠色の髪が風でふわりとなびく。
「わぁ……綺麗な髪」
思っていたことが思わず声に出ちゃった。
ドラゴンさんが僕を見てニヤリと笑う。
『ふふん、そうか? 俺の髪はな、特別な石鹸でシャカシャカンッと洗っているからな』
ドラゴンさんはそう言いながら、自分の髪に触れる。
髪の長さが腰まであって長いけれど、男の人かな?
なんだか擬音の表現が面白い人だなぁ。
『二番目、何しにきた?』
『んん? 何って……プルルンとして可愛い妹と、ピリッとして美人な母の顔を見にきたんだろ?』
ルリはドラゴンさんのことを二番目と言っている。
二番目というのは、僕が今着ている服の持ち主の呼び名だったような……
二人の様子を見ていたら、二番目さんがルリの頭をくしゃくしゃと撫でる。
ルリはどことなく嬉しそう。
ふふ。お兄さんのことが大好きなんだね。
『母はどこだ?』
『母違う、ハク』
『え? ハク』
『ん、そう。ヒイロがつけてくれた名前』
ルリがにししっと笑って僕を指さす。
そんなことを急に言われても、二番目さんには意味がわからないよね。
ちゃんと説明しないと。
「ええと……真名はあるけれど、呼んではいけないと聞いたので、僕が呼びやすい名前をつけさせてもらったんです」
『うん、そう。ルリ、ルリ、ルリ』
ルリが自分の顔を指さし、二番目さんに得意げに名前を告げる。
『ふうん? この猫が名前をつけたのか』
二番目さんにじっと見つめられて、なんだか緊張しちゃう。
『うん。猫違う、ヒイロ』
『ああ、ヒイロね。我ら竜族に臆することなく名前をつけるとは、なかなかやるねぇ』
「いやっ……そんな」
僕の頭をポンポンと撫でる二番目さん。いたずらっ子のような顔をしている。
こういうところはルリと似ているね。流石兄妹。
『せっかくだから俺も、ヒイロにカッコイイ名前をつけてもらおうかな? ぽみゅっとな』
「ええっ!? ぽみゅっと!?」
ぽみゅっとって……どんな風に名付けるの?
『だって俺ら竜族には名前なんてないからさ? 真名は声に出して呼んじゃダメだしな? お前たちは竜族が使うテレパシーは使えないだろ? 二番目じゃ味気ないしさ』
ハクが前に言っていたなぁ。
竜族は声を出さなくとも会話ができるって。
わざわざ僕たちの共通言語で、話してくれていると。
「ほっ……本当に僕が名前をつけていいの?」
『おうっ!』
ぽみゅっとはちょっとわからないから……
ええと……ルリもハクも宝石から取った名前だから、二番目さんも……
二番目さんを見つめると、翡翠色の瞳と目が合う。
宝石……翡翠みたいな瞳。
「決めた! 二番目さんは宝石の翡翠のような瞳をしているので、スイはどうですか?」
『スイか。いいじゃねーか! バチコーンっと気に入ったぜ! 俺の名前は今日からスイだ。へへっ、なんだかルリが得意げになっていた気持ちがわかるぜ。ヒイロに名前をつけられるのは、なぜかわかんねーが、嬉しいな』
二番目さん……もとい、スイが僕のことを抱き上げ、自分と同じ視線まで持ち上げた。
『ありがとうな、ヒイロ!』
「えへへ、気に入ってくれて嬉しい」
面と向かって言われたらなんだか照れちゃう。
そういえば、僕、何かをしてた途中だったような……
そうだった! 僕、朝食を作ってたんだ。
せっかくだからスイにも食べてもらいたいな。
ベーコンは自信作だからね!
「よかったら、僕が作った朝食、一緒に食べない?」
『おお? いい匂いしてたからな、気になってたんだよ』
料理はすぐに完成するから……って!?
「えええ!?」
フライパンの上にあった料理のほとんどをモチ太が平らげ、テーブルの上で大の字になって転がっていた。
「モチ太ー!? 食べちゃったの?」
『肉がうんまかったっち、わりぇはもっと肉が食べたいっち』
モチ太がやけに静かだったのは、食べてたからか。
ベーコンを食べ尽くしても、まだよこせと言ってくるなんて。
……ったく。
でもベーコンはまだまだあるし、卵はコッコたちからもらってこよう。
「よーしっ、作るぞー!」
気合を入れて料理を再開していると、朝の畑仕事を終えたルビィもやってきた。
「さぁ、召し上がれ」
僕は焼き上がったベーコンと目玉焼きをお皿に載せて、テーブルの上に並べていく。
『ほう……? これは焼いた卵か? その横に添えてある白い塊はなんだ?』
スイがお皿に載った料理を、興味津々に見ている。
白い塊は僕が卵とオリーブオイルと果物の果汁と塩で作った新作の調味料。
お酢がなかったから、洞窟の近くに実っていた果物の果汁を代用した。
材料を全てお皿に入れて、ルリの魔法で撹拌してもらえば、マヨネーズの完成!
スイが早速気付いてくれて、なんだか嬉しい。
「ふふふ、これはねマヨネーズと言って、どんな料理でも美味しくしちゃう万能調味料なんだ」
『ゴクッ、どんな料理でも美味しくっちか!? さっきはその白い塊なかったっち! マヨネっちか? 王であるわりぇにも、早くよこすっち! よこすっちぃ!』
モチ太が僕の頭に飛び乗ってきた。
『フハハッ、食いしん坊の王様だな』
スイがモチ太を見て爆笑している。
モチ太ってば、『どんな料理でも美味しく』という言葉に反応して、ブンブン尻尾を振っている。
……流石は食いしん坊のフェンリルの王様だ。
『なななっ、誰が食いしん坊っち! この高貴なるわりぇに向かって!』
モチ太がスイの肩に飛び乗り、頭をテチテチと叩いている。
普通なら頭が吹っ飛ぶはずだけど、スイには全く効いていない。
流石はルリのお兄さん。
「モチ太? 自分のお皿をよく見て? 皆と同じでしょ? マヨネーズちゃんとあるよね?」
『ぬ?』
僕がそう言うと、急いで姿勢を正すモチ太。
『ほんとっち! わりぇにもあったっち』
モチ太の尻尾が嬉しそうにフル回転。そして、慌ててお皿に顔をつっこむ。
『ううううっ……うんまいっち! このマヨネをつけると百倍うんまいっちぃぃぃ! マヨネをもっとよこすっち』
モチ太? 口のまわりがマヨネーズまみれだけど……王の威厳はどこにあるのかな?
『これはそんなにドキュンと美味いのか!?』
『ゴクッ』
「僕も早く食べたいなぁ」
そんな大興奮のモチ太を見て、スイとルリとルビィの目が輝く。
三人もマヨネーズをつけて目玉焼きを食べると、見つめ合い、うんうんと頷いている。
どうやら三人もお気に召したみたい。マヨネーズ、皆に大好評でよかった。
卵が手に入ったから、作ってみたかったんだ。
マヨネーズは前世でお母さんが僕のために手作りしてくれていた。
これはお母さんが教えてくれたレシピ。
こんなにいっぱい目玉焼きにつけて食べるのは初めて。
どれ、楽しみだなぁ。
ドキドキしながら、大きな一口を頬張る。
「んんんんんんんんっ! 美味しい!」
口の中が美味しさでとろけちゃうかと思った。
濃厚なマヨネーズに、目玉焼きの淡白な白身としっかり味の黄身がベストマッチ。
いっぱい食べるって幸せ。美味しさが口の中いっぱいに溢れてる。
さてと、ここでお父さんがいつもしてた味変をしようかな?
「じゃじゃ~ん! ここに醤油を少し垂らしたら、また違った味になって美味しいんだよ」
僕は皆の前で、マヨネーズの上に醤油をかけた。
『何やってるっち!?』
モチ太が驚いて僕を見ている。
「ふふふ……こうするとまた新たな味に変化するの。あむっ」
ふわぁぁぁっ、美味しい~!
少しだけさっぱりした味になった。これだと何個も食べられちゃう!
醤油をかけたら、ベーコンとも相性がいいなぁ。
お母さんはソース派だったんだよね。ソースもいつか作ってみたいな。
『ほう……味変とはなかなかやるな。この味付けもシュッとしてて、最高に美味いぜ』
『うん、うん』
「僕、この組み合わせのほうが好きかも!」
スイとルリとルビィが感心しながら、醤油味も食べている。
『わりぇは……もう……食えないっち。はぁ……うんまかったっち』
スイとルリとルビィが美味しそうに食べている中、モチ太は仰向けになり、幸せそうにお腹をポニポニと叩いている。マイペースな王様だね。
スイはベーコンとマヨネーズ。ルリは目玉焼きとマヨネーズ。
モチ太はベーコンと目玉焼きとマヨネーズ。ルビィはベーコンと醤油。
皆、一番好きな組み合わせができたみたい。
食後の休憩をしながら、ルビィのお茶を飲んでいたら、急にスイが真面目な顔をして僕を見つめる。
どうしたのかな?
『ヒイロ、お前こんなに料理の才能があるんだからさ、茶屋でもしたらどうだ? 人気店になると思うぜ?』
「え? 茶屋!?」
茶屋って……カフェとか喫茶店のことだよね?
『俺は今さ、亜人の国で暮らしてるんだが、そこで店を開いたら大人気店になると思うぜ?』
「亜人の国?」
『ああ、倭の国とも言われているな。亜人……そう色んな種族が、差別なく暮らしている国さ』
色んな人種が……すごく興味がある!
「亜人の国って、この場所から近いの?」
『近い? う~ん……そうだなぁ。俺がバビュンッと飛ばして、大体二週間で着く感じかな』
「二週間!?」
『おう』
亜人の国でカフェをしてみたいけれど、流石にそんなに遠いと、この場所にすぐに帰ってこれなくなっちゃう。
「お店にはすっごく興味あるし、亜人の国にも行ってみたいけれど、僕はこの場所を離れたくないんだ」
『ふむ? ヒイロはここを住処にして、ずっと暮らしたいと?』
「うん。そうなんだ。ハクやルリやルビィと一緒にいたい」
『……ふ~む。おっ、ならさ? 移動茶屋にしたらいいんじゃねーか?』
「移動茶屋!?」
スイが予想外の提案をしてくる。
なんなの!? 移動茶屋って。なんだかワクワクするよ?
『ハハハッ、気になるみたいだな? 俺にいい考えがあるんだよ! あとの話はハクが戻ってきてからだな』
スイはそう言って、ドラゴンの姿に戻ると、泉の中にバシャンッと、気持ちよさそうに入っていった。
そのあとをルリが追いかけ、一緒に水浴びをしている。
僕は移動茶屋という言葉が気になって、なんだか落ち着かなくて一人ソワソワしてしまう。
「ふふふ」
二人とも楽しそうだなぁ。
泉で楽しそうに泳いでいるスイとルリを見て、顔が綻ぶ。楽しい気持ちが伝染しちゃった。
僕も一緒に水浴びしたいけれど、泳げないんだよなぁ。
泉は思ったよりも深いから、僕が入ったらすぐに沈んじゃう。
これは泳ぎの訓練もしないと。
……そもそも猫って泳げるのかな?
犬かきはあるけど、猫かきは聞いたことないもんね。
二人は楽しく遊んでいるし、僕はハクが帰ってくるまでの間、何をしようかな?
やりたいことはいっぱいあるんだけれど。
ログハウスの家具や小物を作りたい。
でもやっぱり、スイの話していた移動茶屋のことが気になって、なんだかソワソワして、家でじっとしてられない。
新たな食材を探しに、森に行こうかな。
ハクが夜に帰ってきた時に、おいしい料理を食べてもらいたいし。
そうと決まれば即行動!
僕は意気揚々と森に入っていった。
「う~ん」
意気込んで探しに来たけれど、なかなかいい食材ないなぁ。
新たな調味料でもいいんだけどな。
数時間歩いたけど、何も見つからない。
「ふぅ~」
とりあえず休憩。僕は大きな木にもたれかかって、座った。
「さてと、おやつの時間」
アイテムボックスからお茶とポテチを取り出す。
ポテチを口に入れた瞬間、パリッといい音が響く。
「おいし~」
ポテチは音と香りと食感と、色々な要素が相まって、美味しさが掛け算されている。
前世では油分が多すぎるからと、ポテチは食べられなかった。
食べられるようになって本当によかった。
揚げただけのジャガイモだと思ってたけど、こんなに幸せな気持ちになる食べ物だったなんて。
ポテチを食べながら、幸せを噛み締めていると……
「……ん?」
あれ? あそこの茂みが動いている! 何!?
『きゅま~』
「え?」
茂みから出てきたのは、僕と同じくらいの身長の熊(?)だった。
熊の子供かな?
『キュキュまぁ~』
熊の子供は、僕が右手に握りしめているポテチをキラキラした目でじっと見ている。
もしかして、このポテチが欲しいのかな?
熊の子供は可愛いけれど、前世で読んだ本には、子熊の近くには必ず親熊がいるから要注意と書いていた。
どうしよう……親の熊が出てきたら怖いけれど、このキラキラした目を無視できる気がしない。
「あのう……ポテチ食べる?」
僕は持っていたポテチを子熊に差し出した。
すると子熊の目がさらに輝く。
『きゅっきゅマァ』
僕の手からポテチを直接食べる子熊。
「可愛い……」
『きゅまきゅま~!』
子熊が美味しそうにポテチを食べている。可愛いよう。
僕は子熊の頭を撫でる。
想像していたのと違って、子熊の毛は硬かった。
フワモフではないけれど、可愛いことには違いない。
気が付くと、僕はアイテムボックスに保管していたポテチを全て子熊にあげていた。
『きゅまま~♪』
ポテチをいっぱい食べて満足したのか、子熊は丸いしっぽをフリフリさせながら、去って行った。
親熊が来たらどうしようかなと思ったけれど、大丈夫だったみたい。
「子熊可愛かったな」
さて、食材探しを再開するか!
再びあてもなくウロウロしていると、知っている香りが漂ってきた。
「これって、絶対あの香り!」
慌てて香りがするほうに走っていくと、そこには……
「調味料キノコ!」
カレー味の調味料キノコが生えていた。
すごい! これでカレー味の料理ができちゃう!
カレー味の何を作ろうかな?
「あっ! あれを作ってみようかな」
ふふふ。帰ってくるハクも喜んでくれるといいなぁ。
僕は皆が喜んでくれる顔を想像しながら、カレー味の調味料キノコを採取し、帰路についた。
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