もふもふ転生!~猫獣人に転生したら、最強種のお友達に愛でられすぎて困ってます~

大福金

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2巻

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  第一章 コカトリスってどんな魔物?


 僕――大和やまとひいろは生まれつき体が弱くて、ある日病死してしまった。
 前世では病気になりながらも、弱音を吐かず頑張ったご褒美ほうびとして、異世界に転生させてもらうことに。
 でも、目が覚めたらなんと――猫だった!?
 最初は戸惑ったけど、このもふもふな触り心地も悪くないかも……
 僕は異世界でヒイロとして、新たなニャン生を謳歌おうかすることを決意。
 森の中の食材で美味おいしいご飯を作ったり、料理を振る舞ってめちゃつよな聖獣せいじゅうとお友達になったりしながら、楽しい毎日を過ごしていた。
 でもある日、お友達になった猫獣人ねこじゅうじんの男の子・ルビィがさらわれてしまい、獣人国じゅうじんこくに乗り込むことになったんだ。
 聖獣たちのおかげで、悪いことを企む教皇を倒して、無事にルビィを救出することができた。
 ルビィと一緒に森に帰ってきた僕たちは、ログハウスを建てて、皆で食卓を囲んで、幸せな気持ちで、眠りについたのだった。


        ★ ★ ★


「雨か……」

 翌日。目が覚めた僕は、家作りの続きをしようと、張り切って洞窟どうくつの外に出た。
 すると、バケツをひっくり返したような雨が降っていた。

「今日はベッドを作りたかったんだけどな」

 ログハウスができたから、次は色々な家具を作りたかった。
 それが楽しみで早く目が覚めちゃったんだけれど……雨が降ってちゃ仕方ない。

「……どうしよっかな」

 灰色の空を眺めながらふと考える。
 皆はまだ寝てるし……そうだ朝ごはんでも作ろうかな。
 アイテムボックスには食材がたんまりある。何、作ろう?
 そうだ、前世でお母さんたちが食べていた、日本の朝食を作ってみたいんだよね。
 お母さんがよく言ってたことを思い出す。
『白米に焼き魚とお味噌汁みそしる、それに甘ーい卵焼きがあれば十分』って。
 それを美味しそうに食べるお母さんとお父さんを見ているのが幸せだった。
 僕は病気だったから、少ししか食べたことはないけれど、お母さんは料理上手だったと思うんだ。
 病気のせいで食事制限がある僕のために、色んな料理を作ってくれた。

「……お母さん」

 お母さんのことを思い出したら、会いたくなっちゃった。
 転生したばかりの時はすごくさみしかったけれど、今は大丈夫。
 竜族の親子のハクとルリ、それにルビィっていう優しい家族ができたから。あっ、フェンリルの王のモチ太もね。
 それに、お母さんとお父さんは、僕の心の中にずっといる。
 でも、日本の朝食はまた今度かな。だって、卵と味噌がないからなぁ。
 もしかしたら卵は手に入るかもしれないから、あとでハクに聞いてみよう。
 味噌は難しそうだけれど、卵はあるといいなぁ。

「ふふふ」

 食べ物のことを考えると、ついついニヤけてしまう。
 色んなものをたくさん味わえるって本当に幸せなんだね。
 前世では、あまり食べられなかったから、どんな味か想像することしかできなかった。
 僕はそれでも最高に楽しかったんだけどね。
 さて、今日は焼き魚とあとは何を作ろうかな?
 そうだなぁ……お味噌汁は無理だけれど、魚のお吸い物なら今ある材料でできそうだな。
 お吸い物、美味しいんだよね。
 魚介のお出汁だしが最高で、それだけで美味しいんだけど、調味料で味を整えたら完璧!
 以前森の中で見つけたしおのような、調味料になりそうなものないかな?

「よしっ、森へ探索に行ってみよう」

 そう思い立ち、しばらく森の中をウロウロと探検していると、クルミのような見た目をした、拳大こぶしだいの実を発見。
鑑定かんてい》してみたら……醤油しょうゆだって!
 これって僕が《鑑定》するから、名前が醤油の実だったりするのかな?
 神様が気を利かせて、似た味のものは前世の名前で表示するようにしてくれたのかも。
 わかりやすくて助かる。
 醤油の実を割ると、中には黒いみつが……これが醤油?
 早速、洞窟に戻って料理を作る。
 まずはルリを起こして、火をおこしてもらう。
 そしたら、大きなおなべに泉の水と魚を入れて、火にかける。
 魚の出汁がいい感じに出てきたら、醬油と塩を入れて完成! とっても簡単!
 どれどれ? 美味しくできてるかな?
 お吸い物を味見してみると――

「美味しっ!」

 魚のお出汁が、最高にいい味を出してくれている。
 なんだか胸がホッコリと温かくなって、幸せな気持ちに包まれる。
 これと焼き魚に、白米があれば最高なんだろうな。
 そうだ、モチ太は肉が大好物だから肉も焼いて……
 あとはご飯の代わりにパンの実も用意しよう。これでバッチリ。

『なんだっち!? いい匂いがするっち』

 わらでできたふかふかのお布団で寝ていたモチ太が、飛び起きて、尻尾をフル回転させながら走ってきた。肉の匂いにつられてやってきたなぁ?
 洞窟内にある大きな葉っぱの上に料理を並べていると、ハクと二度寝していたルリも起きてきた。

『いい匂いがするさね』
『……ふぁ』

 あとは、洞窟の隣の家で寝ているルビィを起こして、皆で朝食を食べるぞ。
 この家は、猫獣人の村から持ってきたもので、ルビィが亡くなったおじいさんと住んでいた思い出の家なんだ。


『やっぱり肉はうんまいっち。特にヒイロが作った肉が最高っち』

 朝食を食べ終えたモチ太が仰向けに寝そべって、お腹をポンポンッと叩いている。
 その姿はまるで、お腹が出たおじさんのよう。

『ん。このスプ最高! 好き』
『そうさね。体がポカポカして力がみなぎるねぇ』
「僕もこのスープ好き」
「ふふっ。それはよかった」

 ルリとハクとルビィは、お吸い物を気に入ってくれたみたい。
 自分の作ったものでこんなに喜んでもらえるなんて。
 皆を見ているだけで幸せな気持ちになって、ニンマリと笑っちゃう。

「あ……」

 光が洞窟に入ってくる。

「雨がやんだ!」

 僕はそう言いながら外に出た。泉の上に大きな虹の橋がかかっている。

「……綺麗きれい
『大雨のあとは毎回虹がかかるのさ』
『ん』

 虹をうっとりと見つめていたら、ハクとルリも洞窟の外に出てきた。

「人が倒れてるよ!」

 少し遅れて出てきたルビィが、泉近くの木のかげで倒れている人を発見する。

「え!? ほっ、本当だ」

 木に隠れていて見えなかった。僕は急いで倒れている人のところに走っていく。
 倒れていたのは、浅黒い肌をした金髪の男性だった。

『ほう? ダークエルフがこんな場所に来るとは珍しいさね』

 ハクが倒れている人を見てそう言った。

「ダークエルフ……」

 僕は思わずそうつぶやく。前世で、エルフという種族が出てくる小説を読んだことがある。
 本当に耳が長いんだね。

「ん?」

 よく見ると体中に殴られてついたようなあざみたいな黒い斑点はんてんがある。
 ……これは何かな?

『ほう……死班病しはんびょうさね』

 痣をじっと見ていたら、ハクが後ろから教えてくれる。

「え? しはんびょう?」
『そうさね。黒い斑点が見えるだろう?』
「うん」
『この斑点が体中に広がったら死ぬのさ。この子はもういつ死んでもおかしくないさね。治療法は今のところ発見されていない難病さね』

 ハクが説明してくれたのは、つまり目の前にいる人を救えないってことだった。
 そんな……死を待つだけって……
 どうにかできないんだろうか?

『ヒイロ? そんな顔をして……』

 ハクがそう言って、僕の頭を優しくでてくれる。
 僕は自分が泣きそうな顔をしていたことに気が付いた。
 ルリも僕の頭を『よしよし』と言いながら撫でる。

『そうだ。上手くいくかはわからないけど、一つだけこの子を救えるかもしれない方法がある。やってみる価値はあるさね』
「え? 本当?」

 するとハクが突然、僕の作ったお吸い物が入っている鍋を持ってきた。
 それをどうするつもり?

『これをこのダークエルフに飲ませてみるのさ』
「僕が作ったお吸い物を?」
『前にも言ったけど、ヒイロの作った食べものは、超特級のポーションよりも、高い回復効果があるさね』

 ハクがそう言って、スプーンを僕に差し出す。
 獣人国では、僕の作ったスープで、王様をむしばんでいた毒を解毒することができたけど、今回も上手くいくとは限らない。
 でも、このままなら死を待つだけというのなら……
 僕は横たわっているダークエルフさんの体をそっと起こし、口にスプーンを含ませた。
 初めは口をらす程度だったのが、次第にダークエルフさんの口が開き、ついにゴクンッと喉を鳴らして、スープを飲み込んでくれた。
 段々と黒い斑点が薄くなっているのがわかる。

「薄くなってる!」

 僕は思わず大きな声を上げた。


 さらにお吸い物を飲ませてあげると、ダークエルフさんの斑点は全て消え、苦しそうだった表情も安らかになり、スヤスヤと気持ちよさそうな寝息を立て始めた。

「やったぁ! 消えた」
『ほう……本当に消えたさね』
『ヒイロ、すご』

 ハクが言っていた通りに、僕が作ったお吸い物で治ってしまった。
 ルリも驚いている。

精霊せいれいいずみの水とヒイロの力で、すごい効果が生まれるってのがこれでわかったさね』
『ん。そう。ヒイロのごはん食べると、力がすごい』

 ハクとルリがめてくれる。
 すごい……僕が作ったものがそんな力を与えることができるなんて、この最高の能力も神様がくれたのかな? 
 よくわからないけれど、神様ありがとうございます。


 さてと、ダークエルフさんも元気になってくれたことだし。外に寝かせるわけにもいかないので、ハクが抱きかかえて、洞窟にあるわらのベッドに寝かせてくれた。
 起きたら、どうしてあんなところで倒れてたのか質問しないと。

「さてと」

 外は気持ちのいい快晴。
 これは家具を作って、ログハウス作りの続きをするしかないよね。
 そうだ、新たな食材を探すのもいいな。そしてその食材で、ランチするってのも最高。
 よし! やっぱりログハウス作りの前に食材探しだ。

『ヒイロ? どこ行く』

 僕が外に行こうとしたら、ルリがついてきた。
 ハクはモチ太と一緒に二度寝。ルビィは畑仕事をしに行った。
 ルリはどうやら暇らしい。

「新しい食材を探そうと思って」
『ほう……ゴクッ。それは美味しい』

 ルリがつばを飲み込みながら、目を輝かせている。
 モチ太といい、僕の家族は食いしん坊さんばかりだね。
 今日はいつもと反対側を探索しようかな?


 何かないかな? 
 顔を上下左右に動かし、周囲を探索しながら、森をウロウロ歩いていると――

『コケェ~コッコ』

 え? 聞いたことがある鳥の鳴き声が聞こえる。
 声のするほうに歩いて行くと、ニワトリが巨大化したような見た目の魔獣まじゅうが四匹、草を食べていた。

『コカトリス』
「え? コカトリス?」

 ルリがその魔獣を指さして言う。
 コカトリスって、確かニワトリと蛇が混ざった幻獣って、前世の本に書いてあったような……
《鑑定》してみるか。


 【コカトリス】
   種族:鳥類種ちょうるいしゅ  
   年齢:3  性別:女
   ランク:A  強さ:102
   スキル:石化せきか
   ※自分よりランクが低い者に対してのみ、スキルが有効。
   ※めすの卵は絶品。


 ちょっと待って!? メスの卵は絶品って書いてある。気になるよう!
 卵料理は美味しいのがいっぱいなんだから。
 厚焼き卵に、目玉焼きに、オムライスや茶碗蒸ちゃわんむしも! ああっ、卵欲しい。
 どうにかこのコカトリスを飼えないかな?
 そうしたら、毎日新鮮な卵が手に入る♪ そんなの最高じゃないか!

『ヒイロ、顔変』

 またニヤニヤしてたみたいで、ルリに笑われてしまった。
 決めた! 僕、コカトリスを連れて帰る。
 今、茂みにこっそり隠れて、コカトリスの様子をうかがっているんだけれど――
 どうやって連れて帰ればいいのかな。できれば嫌がられずに連れて帰りたい。

「う~ん……どうしよう?」
『む? コカトリスの雌は強いおすが好き』
「そうなの?」
『ん。真ん中に一匹、派手なトサカのやつがいる』

 ルリがそう言って、七色のトサカを持つ、一匹だけ大きなコカトリスを指さす。

『アイツより強い姿をヒイロが見せれば、ついてくる』

 そうなの? 

「でも僕、コカトリスじゃないけど……それは大丈夫なの?」
『にしし』

 僕がそう言うと、ルリが悪だくみをしているような顔で笑った。
 この顔って……いたずらする時の顔だよね?


『よし! これで完璧かんぺき

 ルリは僕の背中をドンッと叩き、行ってこいと合図する。
 ふぇぇぇ……僕、だまされてない?

「ねぇ、ルリ? 本当にこんな格好で大丈夫なの?」
『ん!』

 ルリが大きくうなずく。
 僕は今、拾ってきた雌のコカトリスの羽を頭にたくさんつけている。
 なんだろう……秘境に住んでいる部族が頭につけている飾りみたいな感じ。
 一言で言うと、めっちゃ派手。
 ルリいわく、この頭のトサカが強さの象徴で、派手で大きいほどいいんだとか。
 でもさ? それ以外の見た目はまんま僕だよ?
 猫が秘境に住んでる部族の仮装をしただけ……ん?
 想像したら、今の僕の格好ってものすごく変なんじゃ……
 なんだか不安になってきた。本当に大丈夫?
 ルリをジト目で見ると、満面の笑みが返ってくる。

「わかったよ! ルリのこと、信じるからね?」
『ん、ヒイロならいける!』

 僕はわけのわからない格好で、コカトリスの群れに入っていく。

『コケ~ッコッコォ!!』

 すると僕に気付いたコカトリスの雄が、耳をつんざくような鳴き声を発する。
 それを聞いた雌たちが、いっせいに木の陰に隠れた。
 一瞬でこの場は、コカトリスの雄と僕の一対一の決闘に。
 ええと、このあと大きな声で鳴くんだよね。

「コケコッコォ!!!!!!!」

 雄の鳴き声よりも大きい声で鳴き真似すると、コカトリスは少しだけ後ろに下がって、ひるんだ。
 よし、ここまではルリの作戦通りなんだけど。
 僕、このあとはどうやって戦うの?
 ニワトリとの……じゃないや、コカトリスとの戦い方なんてわからない。
 どうしたらいいのかわからず固まっていると、コカトリスが攻撃してきた。
 羽を広げて僕に向かって飛んでくる。
 ちょっと待って!? いきなり攻撃とかっ……!
 ん? あれ?
 羽を広げているせいで、コカトリスのお腹がガラ空きだけど。
 これなぐっていいのかな?
 殴ってくださいと言わんばかりのお腹に、僕は猫パンチを繰り出す。

「えい!」
『コッコケェ~!?』
「え?」

 コカトリスははる彼方かなたへ飛んで行った。
 ちょっと待って!? 僕の猫パンチの威力強すぎない?
 飛んで行った雄のコカトリスを呆然と見ていたら――

『『『コッケェ~!!!!!』』』

 三匹のコカトリスが僕にってきた。
 これって僕が強いって認められたのかな?
 三匹の頭を撫でながら「僕と一緒に来てくれる?」と質問してみる。

『『『コケッ!』』』

 言ってることがわかるのか、頭を上下に振る三匹。
 よしっ、コカトリスの卵ゲットだ!
 飼育するのなら、この美味しそうに食べていた草も持って帰ったほうがいいよね。
 僕はコカトリスが好きな草をアイテムボックスに収納した。
 そして草を集めている時に、卵を十個も回収した。
 どうやらこの場所は、コカトリスの住処すみかだったようだ。
 見た目がニワトリの十倍くらいなだけあって、卵も十倍の大きさだった。
 こんな大きな卵で何を作ろうかな?
 ふふふ。今からお昼ご飯が楽しみで仕方ないや。

『ヒイロ、これで何作る?』

 ルリがヨダレを垂らしながら卵を見つめている。

「ふふ。それは帰ってからのお楽しみ。さっ、泉に帰ろ」
『ん』

 僕とルリは新たな仲間を引き連れ、足早に泉へ戻った。


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