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4巻

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 1 竹ノコが欲しい


 俺は魔物使いテイマーのティーゴ。「Sランク以上の魔物しか使役テイム出来ない」という謎のスキルを持っていて、沢山の仲間と一緒に旅をしている。
 フェンリルの銀太にグリフォンのスバル、ケルベロスから分離した一号、二号、三号に、幼龍ティア、猫のパール……その他にもいっぱい!
 さすがに全員を連れては歩けないから、一部の仲間には異空間で暮らしてもらっている。この異空間がまた凄くて、自然は豊かだし、家もあるし、畑まであるんだ。野宿せずに済むのはラッキーだよな~。
 そんな俺達は、ティアの故郷でもあるエルフの里へと向かった。卵の頃に親と離ればなれになってしまったティアを、無事に親龍へと対面させることが出来、一安心。あとはこの里でのんびり滞在するだけ……と思ったら、エルフの女の子、マインが行方不明になったと大騒ぎに!
 銀太やスバルの協力のおかげで無事にマインを見つけることは出来たんだけど……何と、彼女はミスリルドラゴンと一緒だったんだ。
 ミスリルドラゴンの名前は「キラ」といって、仲間に置いて行かれたらしい。マインは友達であるキラのために、一緒にドラゴン渓谷けいこくという場所まで行こうとしていた。
 いくら何でも小さな女の子にそんな長旅はさせられない。俺と銀太達は相談して、代わりにキラをその渓谷まで送っていくことにしたのだった。

 ★ ★ ★

 キラを渓谷まで連れて行くことは決めたけど、今すぐって訳にはいかない。俺達はこの後どうするかをみんなで話し合った。
 とりあえず「エルフの里に再び転移しようか」と話をしていたら、急にスバルが竹を持って帰りたいと言い出して……。話は少し遡るけど、マインを探している途中に竹林があって、俺達は一度そこで竹ノコを手に入れた。でも、スバルはそれだけだと不満足らしい。


 そんな訳で、俺達は竹林がしげっていた場所まで、プラプラと歩いて向かっている。
 スバルが言うには、『あるじの大好物! 竹ノコを異空間で育てたい』んだと。この「主」というのは俺ではなく、大賢者だいけんじゃカスパール様のこと。三百年も前の偉人いじんなんだけど、その当時、スバルや一号達と共に暮らしていたんだ。
 スバルは本当に大好きなんだな、カスパール様のこと……あっ、今はパールか。
 カスパール様は人族だから当然もう亡くなっているんだけど、魔王として生まれ変わってこの時代に生きているんだ。で、色々あって、今は猫のパールとして俺達の仲間となっている。
 竹を持って帰ったら、パールの奴、喜ぶんだろうな。
 喜ぶパールの顔を想像したら……俺の顔も緩んでしまう。

『ティーゴの旦那だんな? 何ニヤニヤしてんだよ?』
「うっ……うるさいな!」

 ニヤニヤしているところをスバルに見つかり、早速いじられた。くそう……お前だって同じ気持ちの癖に。
 俺はごほんと咳払せきばらいをして、マインに気になっていたことを尋ねる。

「ところでさ。キラって名前はマインが名付けたのか?」
「えへへ……そうだよ。ミスリルドラゴンって長いし。キラちゃんはいつもキラキラ輝いて綺麗きれいだから『キラちゃん』なんだよ!」
「そうか……いい名前だな」

 俺とマインがキラの名前のことを話していると、少し恥ずかしそうにキラも話してくれた。

『オデには、カッコ良過ぎ……でも……マインが付けてくれた……この名前、お気に入りだ』
「そんなことない。似合ってるよ? キラ」
『……オデ、嬉しい……お前はいい奴……』

 俺の言葉に、キラが嬉しそうに翼を広げる。

「お前じゃないよ。俺はティーゴだ!」
『ティーゴ……』
「このフェンリルが銀太。そしてグリフォンのスバル。俺の肩に乗っているこのピンクの龍がティアだ」

 キラに大好きな仲間達を紹介した。すると、スバル達も挨拶をしてくれる。

『おう! スバルだ、よろしくな? キラ』
『銀太だ。よろしくなのだ』
『ティアよ。ヨロシクなの!』

 三匹に元気良く話しかけられ、キラは戸惑う。

『あ……あ……オデ……名前呼んで、いいのか?』
「何言ってんだよ! ドラゴン渓谷に一緒に行くんだろ? 俺達はもうだ!」
『おう! そうだぜ?』

 俺とスバルがそう言うと、キラがビックリした顔で俺達を見る。

『オデに……友達……? こんなに……いっぱい……オデ、オデ、幸せ……だ』
「良かったねー、キラちゃん!」

 そんなキラの姿を見て、自分のことのように嬉しそうに微笑むマイン。
 キラはというと、瞳をウルウルさせて黙ったまま、それ以上は何も話さなかった。


 それから歩くこと数十分……やっと竹林に着いた。俺の目の前では、多くの長い竹が風に揺れている。竹林に着いたはいいが……これをどう運ぶんだ?
 竹って確か、根が地中深くまで伸びてるんだよな?
 掘って持って帰るにしても……時間がかかりそうだし。
 俺が一人ブツブツと呟きながら考えていると。
 スバルと銀太が目配せし合ったと思ったら……直径五十メートルほどの竹林が地中深くの土ごと持ち上がり、空中をふよふよと浮かび始めた。

「はっ⁉ なっ⁉」

 竹林があったはずの部分には、大きな空洞が出来ている。
 何が起こったんだ?

『うむ。完了したのだ』

 銀太がそう言うと、ふよふよ浮かんでいた竹林は突然消えた。

『よし! 完成だな。ティーゴの旦那、異空間の扉を出してくれ!』

 スバルがそう言うが、俺は何が何だか分からない。

「えっ……⁉ ちょっと待ってくれ! 何が起こったんだ? 理解が追いつかない」
『何がって……俺が風魔法で竹林をくり抜いて、その後に銀太がアイテムボックスに入れたんだよ!』

 スバルが『こんなことも分からないのか? 何を言ってるんだ』って目で俺を見ているが……。
 いやいや、理解に苦しむ規格外なことが起こってるからな?

「くっ、くっ……くり抜くってレベルじゃないだろ? 巨大な大穴が開いてるぞ? この穴はどうするんだよ!」
『それなら後で二号に土魔法で埋めてもらうから大丈夫さ!』
「そっそうか……ならいいか」

 ったく。聖獣達は相変わらず無茶苦茶だな。
 俺はスバルに言われるがまま、異空間の扉を出して中に入る。そこにはいつも通り、大自然が広がっている。少し離れたところに、聖獣達に作ってもらった家と畑が見えた。

「きゅっ急に扉が出て来た! 何で?」
『何だ?……オデ、初めて、見た……』

 急に現れた異空間の扉に、マインとキラがソワソワと不思議ふしぎそうにしている。説明もややこしいので……とりあえず中に入ってもらった。

「何ここー! 凄い! 扉の向こう側が違う世界と繋がってる!」
『本当だ……こんな……場所が……』

 マインとキラはビックリしながらも、瞳をキラキラ輝かせ、異空間の中をウロウロと楽しそうに見て回っている。
 スバルと銀太は畑の近くまで歩いて行き、立ち止まった。

『さてと……ここら辺にしようか?』
『そうだの! スバル、穴を開けてくれ。そこに竹林を入れるのだ!』
『ガッテンだ!』

 大きな土のかたまりが宙に現れたと思ったら……異空間にドオオオンッ!と爆音が響く。

「なっ……⁉」
『何だ?』

 大きな音にビックリして、パールと二号が家から出て来た! 二号は黒犬ではなく人間のお姉さんに変身した姿だ。
 スバルが開けた大穴へ、竹林が静かに沈んでいく。

「こっ……これは竹林じゃないか! 竹の周りにはワシの大好物の竹ノコが生えとるんじゃ!」

 轟音と共に現れた竹林に、大興奮のパール。

『ヘヘッ……主の大好物だからな! 竹林を見つけて持って来たんだよ。これでいつでも竹ノコが食べれるだろ? 主、嬉しいか?』

 スバルはニコニコ嬉しそうにパールに報告する。

「スバル……ワシの好物を覚えてくれとったのか」
『当たり前だよ! 大好きな主の好物だぜ? 忘れる訳ねーだろ?』
「スバル……ありがとう。ワシ、嬉しい。くうう……スバルが可愛過ぎて胸が苦しい」

 パールが感嘆の声を上げながら胸を押さえる。後半、声が小さくなって何を言ってるのか聞こえなかったが……。嬉しいんだよな?

『何ジャイこれは……⁉』
『急に竹林が現れたコブ……?』

 突然大きな竹林が現れたので、ジャイコブウルフのハクとロウもなんだなんだと見に来て、目を丸くしてビックリしている。
 パールは竹林に足を踏み入れて観察している。

「竹の手入れをしないとのう……竹ノコはすぐ成長して竹になってしまうんじゃ……そうしたら食べられないんじゃ! 掘るタイミングを逃したら最悪じゃからの!」

 なるほど……竹ノコは掘るタイミングがあるんだな。知らなかった……。

『パパン!』

 なるほどなと納得していると、異空間の扉の方から声がした。
 慌てて振り返ると、キングパンダが入って来ていた。このキングパンダは、マインを探す途中で竹林に立ち寄った時に出会った奴だ。竹ノコを譲ってくれて、そのお礼にパイを渡したんだった。
 俺は竹林にビックリした勢いで、つい扉を開けっ放しにしていたようだ。

「しまった、扉を閉めるの忘れてた」
『パパンパン! パン』
『主~? 竹ノコの手入れは任せてくれって! 竹ノコを掘るからパイが欲しいってキングパンダが言うておる』

 銀太が通訳してくれたのだが……。
 ええーー⁉ パイと交換だって? また食いしん坊がやって来たぞ。
 でも……まぁ……はうっ!
 ――そんな目で見ないでくれ!
 キングパンダが尻尾しっぽをプリプリ振りつつ、可愛く首をかしげて両手を合わせてお願いしてくる……何その可愛いポーズ。くうう……可愛過ぎる。
 う~ん。食いしん坊が一匹増えたところで変わらないしな!

「分かったよ。竹ノコの世話はお前に頼むよ、キングパンダ!」
『パパン♪』

 キングパンダは尻尾をプリプリ振って嬉しそうだ。
 するとスバルが隣にやってきて、俺をつついた。

『ティーゴの旦那? コイツにはキューみたいに名前付けてやらねーのか?』

 キューというのは、この前仲間にしたガンガーリスのこと。スバルの言う通り、一緒に過ごすなら名前があった方がいいよな。

「名前か……」

 何がいいかなぁ……竹が好き……竹林……ちくりん……りんりん。

「決めた! キングパンダの名前はリンリンだ!」
『パパン♪ パパン♪』
『気に入ったって!』

 リンリンの声を聞いて、スバルが嬉しそうに言う。

「良かった……ヨロシクな? リンリン!」
『パパン♪』

 リンリンはそう言って、尻尾をプリプリしながら竹林へ走って行った。
 こうして新たにリンリンが仲間に加わった。

「さて、竹も手に入れたし、エルフの里に転移するか!」
『そうだの!』

 俺と銀太、そしてマインでエルフの里に転移することにした。残りの仲間達とキラは異空間に残ることに。
 転移は魔法が使える銀太にお任せだ。すると――

「わわっ⁉ ティーゴ君。急に現れたからビックリしたよ!」
『おぬしの近くをイメージして転移したからの!』

 銀太が得意げに話す。
 どうやらファラサールさんの目の前に転移したみたいだ。ファラサールさんは俺達と付き合いが深いエルフで、この里での案内役だ。
 突然現れた俺達にビックリしている。そりゃそうだよな。

「ファラサールさん。迷子のマインちゃんです」
「おおっマイン! 無事で良かったよ。どうしてエルフの里を一人で出たりしたんだい?」
「それは……その……」

 マインはまゆを八の字にして困っている。
 キラのこととか、話して良いか悩んでるんだろうな……お節介せっかいかもしれないが、これは俺が手助けしてあげるか。

「マイン! 俺がファラサールさんに話しておくから。お母さんの所に行って、元気な顔を見せてやれよ!」
「えっ……うっ、うん! ありがとう!」

 俺の言葉に安堵あんどしたのか、マインは笑顔で両親のもとへと走って行った。
 ファラサールさんは、しょうがないなぁと笑っている。
 さてと、ファラサールさんに何から説明しようか? キラのことやドラゴン渓谷に一緒に行くことになったことなど、いっぱいあるぞ。
 とりあえず順を追って話すと、ファラサールさんは驚きまくった。

「ええ⁉ ミスリルドラゴンとマインは友達? そしてドラゴン渓谷に一緒に行こうとしてたなんて……子供はとんでもないこと考えるね!」
「俺も話を聞いた時は、どうしようかと思いましたけど……」
「でも……ティーゴ君は優しいね。ドラゴン渓谷って、このエルフの里をかなり北に行かないと辿り着かないよ? 他国との国境付近だし……そんな遠くまで送って行くなんて!」

 ――今……何て言った? 国境付近だと?

「えっ? ちょっ……そんなに遠いんですか?」
「……まさか場所を知らないで行こうと?」
「いやっ……ははっ……」

 俺は頭をポリポリかきながら苦笑いするしかなかった。
 キラ達がのんびり歩いてたからさ。てっきり近いと勘違いしちゃってたよ!

「はぁ……さすがティーゴ君というか、何とも無茶な」

 ファラサールさんは、ちょっと呆れながらドラゴン渓谷への行き方を教えてくれた。

「ファラサールさん、ありがとう!」
「すぐにドラゴン渓谷に旅立つのかい?」
「長旅になるなら、必要なものをルクセンベルク街で買ってから出発しようと思ってるので、ファラサールさんも買い物がてら送って行きますよ?」
「わぁっありがとう! 助かるよ。転移の魔道具は高価だからね。あまりポンポン使ってたら王様に怒られちゃうしね? ふふっ」

 ファラサールさんは、本来はルクセンベルク街の冒険者ギルドマスターで、それから国王様のおじいさんにもあたる(娘さんが前国王様の奥さんなんだ)。
 忙しい人なんだけど、エルフの里に入るには色々手順が必要だから、わざわざ仕事をお休みして俺達を案内してくれたんだ。
 じゃあ、聖龍様とエルフの長老おさに挨拶してから、ルクセンベルク街に転移するか!

「あのさ……会ってすぐに里を出ることになるけど……長老に挨拶しときたいんだけど」
「そうだったね。挨拶に行こうとしたら、迷子騒動でバタバタしちゃったもんね! 行こうか、長老の所に」

 ええと……エルフ族の中で一番偉い人なんだよな? そう考えたら緊張してきた。
 ツリーハウス群の中でも一番高い所に立っているのが、長老の家らしく……ん? 行くにしても、木には階段もハシゴもないぞ? 大きな木の天辺てっぺんに家がポツンと建ってるだけだが……。

「ファラサールさん……これ、どうやって家に行くんだ?」
「フフッ……妖精の粉コレを使って飛んで行くんですよ!」
「妖精の粉! なるほど」

 マインを探しに行く前、ファラサールさんが見せてくれた、空を飛べるようになる粉だ。ファラサールさんが俺達に妖精の粉を振りかける……。
 途端にフワッと体が浮くが……。

『ププッ……主は空を飛ぶのが下手じゃのう……ププッ』

 くそう……銀太にまで笑われた!
 何でみんな、あんなにカッコ良くスイスイと飛べるんだ?
 俺はまっすぐに飛ぶことが出来ず、カクカクしながら上がっている。はぁぁ……俺もカッコ良く飛びたい。

「あそこの広いバルコニーに下りましょう」

 ファラサールさんが指差した先へ、みんな飛んで行く。
 シュタッ!
 シュタッ!
 ドシンッ‼

「いてって……」

 やっぱり俺だけ着地に失敗し、途中で落っこちた。前と一緒!
 みんながその姿を見て、腹を抱えて笑っている。

「ふふっ。さぁ、中に入りましょう!」
「うん……」

 ファラサールさんがドアをノックし、開ける。

「長老居るかい? 入るよー!」
「おおっ! 久しぶりじゃのうファラサール。里に帰っておったのか!」

 エルフの長老は髪こそ白髪だけど、とても八百歳を超えているようには見えない。人族だと六十歳くらいの見た目だ……エルフって見た目は中々歳取らないんだな。

「長老久しぶりだね! 今日は紹介したい人を連れて来たんだ」

 ファラサールさんに促され、俺は緊張しながら名乗る。

「初めまして。ティーゴです。隣は使つかじゅうの銀太です」
「ティーゴ君はね? 聖龍様の卵を魔族から守り、さらには邪龍化を防ぎ、可愛い【慈愛じあいの龍】を誕生させた人なんだよ!」

 ファラサールさんは張り切って俺の紹介をしてくれるが、ちょっと恥ずかしい。
 すると長老が目をカッと見開いた。

「ななっ! 貴方様が……フェンリルとグリフォンを従え、魔族から我等の卵を救ってくれたという……救世主様きゅうせいしゅさま!」
「きゅっ、救世主様って、んな大袈裟おおげさな!」
「救世主様に助けていただいたヒューイから、話は全て聞いております! 本当にありがとうございます!」

 長老は俺に向かって深々とお辞儀をした。ヒューイさんというのは、俺に龍の卵を預けたエルフの人のことだ。
 ファラサールさんが呆れた様子で長老に言う。

「ジッちゃんもういいよ! ティーゴ君が困ってるだろ?」
「ダメじゃ! 救世主様のおかげで我等は救われたんじゃから!」

 ん? 今ファラサールさん、何て言った?

「……ジッちゃん?」
「あっ……言い忘れてた! 長老は僕のおじいさんなんだ」
「そっ、そうなの⁉」

 ファラサールさんって、大物ばかりが身内に居ないか?
 偉いとは思っていたけど、想像以上に凄い人なんじゃ……。

 ★ ★ ★

 それから俺は、すぐに里を出てキラを渓谷まで送り届けるという話をした。

「何と、せっかくエルフの里に来てくれたのに……もう出発されるのか! 残念じゃのう……」

 長老がさびしそうに俺を見る。

「このフェンリルの転移魔法で、いつでもエルフの里に来れるから! だからまた遊びに来ますよ。そんな顔しないでください」
「なっ! エルフの里に? 転移で来られるなんて……さすがフェンリル様!」
『まぁ……? これくらい余裕なのだ!』

 褒められて嬉しいのか、銀太の尻尾がブンブン回っている。普通はエルフの里へは転移出来ないようになっているんだけど……銀太にそんな常識は通用しないんだ。

「では、聖龍様に挨拶して来ます」

 俺達は長老の家を出て、聖龍様が居る湖に向かう。
 長老の家から下に飛ぶ時も着地に失敗した……くそう。コッソリ練習しよう。
 ああ、そうだ。聖龍様に会うんだから、ティアも連れて行こう。俺は異空間に一度戻り、ティアを呼んできた。
 そして俺とティアは、湖のところへ。
 何度訪れても思う。聖龍様が居る湖は特別空気が綺麗だ。
 湖の真ん中にある木に辿り着くと、前回と同じく聖龍様が姿を現す。俺が別れの挨拶に来たと言うと、聖龍様が答えた。
 ――ほう? もうエルフの里を出るのか!

「はい。ドラゴン渓谷に行く用事が出来たので」

 聖龍様は引き留めるようなことは言わず、ティアへと目を向ける。
 ――可愛い我が子よ? 其方そなたは楽しいか?

『ティアは最高に幸せなの! いつも楽しいの!』

 ――ふふそうか……安心した。良い主に出会え良かったのう。

『そうなの。ティーゴは素敵なの!』

 ――ティーゴよ、慈愛の龍をよろしく頼むぞ?

「もちろん! じゃ俺達はドラゴン渓谷に出発します!」

 ――無事を祈っておる。
 ――ちょっちょっと! ちょっと待ってよ⁉ 私よっ慈愛の女神ヘスティアよ!

「えっ? ヘスティア様?」

 聖龍様の声や話し方が急に別人に変わる。聖龍様は時々、神様に体を貸すことがあるんだ。今回はヘスティア様が降りてきたらしい。
 ――そうよー! ティーゴ君に伝えたいことがあって、出て来ちゃった。今異空間で色々な作物を育ててるじゃない?

「えっ? 何で知って……」

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 楽しみにしてる……ってことは、やっぱり毎日覗いてるんだな。
 女神の仕事は大丈夫なのか? サボり過ぎて創造神そうぞうしん様に怒られても知らないからな。
 でも、いいこと教えてもらったな。
 ヘスティア様のくれた加護のおかげで、俺の手には慈愛の力が宿っている。分かりやすい効果を挙げると、俺の作る料理は人を幸せにするんだけど、それが作物にもいい影響をもたらすみたいだ。


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