上 下
275 / 314
本編 浮島編

王様に会いますか?

しおりを挟む

「俺たちは幻覚を見ているのか……」
「ワッキヤク隊長……私も同じように思います」

 レミアールの兵士達は、自分達に何が起こったのか理解出来ず、皆声を押し殺し、街並みや人々が再生されて行くのを、ただ呆然と見ていた。 

 さっきまでの景色は、自分達が造った魔導兵士達に、散々攻撃され破壊された街並み、あちこちから火の手が上がり燃え盛っていた景色。
 それが何故か、突然雨がふりだし火が消し去ったと思っていたら、次の瞬間。天が神々しく煌めき、キラキラ輝く光の粉が天から降ってきたのだ。

「この光の粉はなんだと言うんだ。天からの啓示だと言うのか?」

 ワッキヤクは空中庭園から天を掲げ、自分達に降り注ぐ神々しい光の粉をどうしていいか分からず、ただ呆然と浴びていた。

「ワッキヤク隊長! 怪我が治っています。こいつの脚は千切れて無くなっていたというのにっ……ううっ」

 部下が泣きながらワッキヤクに怪我を見せる。

「えっ……治って? 俺の手は?」

 ワッキヤクは血まみれの右手を拭き取ると、そこに傷は無くなっていた。

「傷が無い! 爆発した時かなり深手を負ったはずなのに……一体どうなってるんだ?」

「ワッキヤク隊長……神が我らを助けてくれたのでしょうか?」

 部下のひとりが、泣きながらワッキヤクに神の仕業だと告げる。

「神が!? 俺たちをか?」

 ワッキヤクは混乱していた。なぜ神が自分達を助けるのかと、だって自分達はもっと酷い事をし、国を侵略していた。
 奪った国の人族達を奴隷して販売したり、自国の労働力として道具の様にこき使ってきた。
 そう、自分達のして来た行いは、決して褒められた行為でない事を、ワッキヤクは分かっているからだ。

「神は俺たちを生かして、何をさせたいのだ……」

 ワッキヤクは、部下達が神様のおかげだと泣いて喜んでいる中、ひとり黙っていた。

 そんな時だった。空から神々しい人物が舞い降りてきたのは。
 威厳に満ちたその姿は、まるで神が降臨して来たかと思わせる風貌だった。

「「「「あっ」」」」

 声も出ずに神と見紛う人物を、皆が注目して息を飲んで見つめている。

 「ここにおる中で、一番偉い奴は誰じゃ?」

「えっ?」

 神かと思われる謎の人物の発言に兵士達は戸惑う。何故いま偉い人物が知りたいのかと。

「誰じゃと聞いておろう? さっさと言わんか!」

 どうやら神らしき人物は、かなり短気なようで早く言えと急にキレる。

「「「あっあわ」」」

 これには兵士達が慌てて、一斉にワッキヤクを指さした。

「ほう……お主が一番偉いのか」
 
 一番偉いのがワッキヤクだと分かると、謎の人物はふわりと飛んで、ワッキヤクの前に舞い降りた。

「あっあわっ……」

 じっと見つめられているだけなのに、嫌な汗と震えが止まらないワッキヤク。その理由は本人には全くもって分からない。
 だが自身の前に立つ、腹まである長い髭をはやした老人が、桁違いの実力者だと言う事を、感じ取り怯えているのだろう。

「おいっこの国の王の所に連れて行くのじゃ」

「へっ? おっ俺っいやっ私がですが?」

「そうじゃ! 他に誰がおる? お主がこの中で一番偉いんじゃろう? 早う連れていくんじゃ」

「おっ王に何の用事が?」
「お主に言う必要はないんじゃっ! 早うせんと、またさっきの様に国をぐちゃぐちゃにされたいのか? せっかくワシが元に戻してやったと言うのに」

「ヒイッ!」
(嘘だろっ?! さっきの大惨事はこの人の仕業だったのか! そしてそれをまた元に戻した? 何がしたいのかは分からないけどやばい人物なのは分かった。絶対におこらせちゃいけねぇ)

「ああっ案内させて下さい。私に任せて下さい!」

 ワッキヤクはこうして、この魔道国家レミアールにとって、一番王と合わせてはいけない人物を引き合せてしまうのだった。
しおりを挟む
感想 1,508

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ召喚士〜俺はポンコツらしいので白虎と幼狐、イケおじ達と共にスローライフがしたいです〜

大福金
ファンタジー
タトゥーアーティストの仕事をしている乱道(らんどう)二十五歳はある日、仕事終わりに突如異世界に召喚されてしまう。 乱道が召喚されし国【エスメラルダ帝国】は聖印に支配された国だった。 「はぁ? 俺が救世主? この模様が聖印だって? イヤイヤイヤイヤ!? これ全てタトゥーですけど!?」 「「「「「えーーーーっ!?」」」」」 タトゥー(偽物)だと分かると、手のひらを返した様に乱道を「役立たず」「ポンコツ」と馬鹿にする帝国の者達。 乱道と一緒に召喚された男は、三体もの召喚獣を召喚した。 皆がその男に夢中で、乱道のことなど偽物だとほったらかし、終いには帝国で最下級とされる下民の紋を入れられる。 最悪の状況の中、乱道を救ったのは右ふくらはぎに描かれた白虎の琥珀。 その容姿はまるで可愛いぬいぐるみ。 『らんどーちゃま、ワレに任せるでち』 二足歩行でテチテチ肉球を鳴らせて歩き、キュルンと瞳を輝かせあざとく乱道を見つめる琥珀。 その姿を見た乱道は…… 「オレの琥珀はこんな姿じゃねえ!」 っと絶叫するのだった。 そんな乱道が可愛いもふもふの琥珀や可愛い幼狐と共に伝説の大召喚師と言われるまでのお話。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

もふもふ転生!~猫獣人に転生したら、最強種のお友達に愛でられすぎて困ってます~

大福金
ファンタジー
旧題:【もふもふ転生】病弱で何も出来なかった僕。森で猫カフェをオープンすると大好評♪最強種のお客様ばかり遊びに来ます  生まれた時から奇病を患い、病院から一歩も出たことなかった主人公(大和ひいろ)夢は外を走り回る事だったが、叶う事なく十二歳で他界したのだが……。  気がつくと見たこともない場所に立っていた。  そこには創造神様と女神様がいて、前世でいっぱい頑張ったご褒美に、好きなスキルや見た目にしてくれると言ってくれる。 「ご褒美を決めろって……急に言われてもっ」  ヒイロは慌てて猫獣人の姿、鑑定やアイテムボックス等のチート能力をお願いし、転生を果たすが。  どうやら上手く説明出来て無かったらしく。何もない謎の森に、見た目普通の猫の姿で生まれ変わっていた。 「これって二足歩行する普通の猫!?」  その謎の森でドラゴンの親子に出会い、料理を作ってあげる事になったり。  さらには猫獣人の村で、忌み子と虐げられていた猫獣人の子供を助けたり。  家を作ったら、いい匂いにつられて最強種ばかりが度々遊びにきたり。  だがそれだけではなかった。ヒイロには隠された力が……!?    このお話は、ヒイロが毎日を楽しく生きている内に、良きせぬハプニングに巻き込まれたりするお話。 ※ハプニングのせいで、なかなかカフェはオープンしません。 ※二章カフェ編がやっとスタートしました。 ※毎日更新がんばります!

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。