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本編 燦聖教編
天使ティーゴ再び
しおりを挟む「おおっ! なにやら賑わっておるのう」
パールが王城に溢れかえる人々を見て驚いている。
こんなに沢山の人達が集まるなんて。
ジャバネイル王国の王城に再び転移すると、中は騎士達でごった返していた。
前に来た時は、黒いローブを羽織った燦聖教の奴らが沢山いたのに、今は全くいない。
騎士と侍女が広い廊下を忙しそうに、走り回っている。
その様子を少し唖然と見ていたら、一人の騎士に目をつけられる。
「おいっ! お前はこんな所で何をしているんだ?」
「えっ? 俺? いやっ……俺は怪しい者では……」
すると騎士は俺の横に立っている獣人姿の銀太に目を向ける。
「横にいるのは獣人か? まさか……奴隷じゃないだろうな?」
「奴隷? ちちっ違うよ。こいつは俺の友達だ」
騎士は友達だと言うと、銀太の事を上から下とジロジロと見ている。
「友達……? まぁ隷属の首輪をしていないようだし……」
「なっ? 分かってくれた?」
「ふむ。で……お前達は何でこの場所にいるんだ?」
「へっ? あっ……それは」
困ったぞ、こんな事になるなんて想定外だったな。王様に会いに来たなんて言ったら……ヤバイ雰囲気だぞ。
「はぁ……五月蝿い奴じゃのう! 王に会いに来たんじゃよ。何処におるんじゃ? 早く案内せいっ」
パールがフンスッと鼻息荒く騎士に悪態をつく。
いやいやパールさん? お前っその猫の姿で喋ったら、ダメだろ?!
「ねねっ猫が喋ったぁー! お前は幻術使いか? まさか……燦聖教の残党じゃっ!?」
騎士が大声で叫ぶもんだから、騒ぎを聞きつけドンドン騎士が集まって来た。
これ……絶対ヤバイ。
ほんの一瞬で、俺の周りを騎士達が取り囲む。
ああ……面倒くさい事になってきたぞ。
そんな時だった。
「何を騒いでるんだ! 王の御前であるぞ、控えろ」
大声で背後から声をかけられる。
騎士達に囲まれその姿は見えないが、今……王の御前って言わなかったか?
「あっ……騎士団長! 怪しい奴が居まして……」
騎士達は川が割れるようにサッと左右に別れた。
その瞬間、俺の前に声の主が姿を表す。
ガタイのいい豪奢な鎧を来た男が立っていた。
その横には王様が、プルプルと体を小刻みに震わせ、俺をじっと見つめている。
王様? 何をプルプルして俺を見つめてるんだ? 頼むから! お願いだから! 王らしからぬ行動だけは止めてくれよ? 分かってるよな?
だがそんな願いは叶わず。
瞬く間に王様が、ダッシュで俺の前まで走って来たと思ったら、そのまま平伏した。何処から現れたのかその横には王妃様までも一緒に平伏していた。
「ああっ! 天使様来てくれたんですね。私はっ私はまた貴方様にお会い出来て嬉しゅうございます」
「ありがとうございます。おかげで王城を燦聖教から取り戻す事が出来ました」
「あっああ……それは良かったんだが……そのっ」
ほらみろ! 王様がいきなり平伏したから騎士達が固まってるじゃないか。
俺が困っている様子を、何を勘違いしたのか王様は「お前ら! 天使様の前で頭が高い! 何をしておるんだ!」っと叱咤した。
騎士達全員が慌てて平伏すと、王様は満足気に俺を見る。まるでその目は褒めてくれと言わんばかりに……。
いやいや違うよ? そーじゃないよね王様? 間違ってるからね? 褒める所全くないですよ?
「ええと……ここでは流石に人目が多すぎるので、話し易い場所に移動しませんか?」
さすがにこんな状況耐えきれない。
「あっ! 私とした事がっ……そうですよね。ご案内します」
王様はすっと立ち上がると「後をついて来て下さい」と前を颯爽と歩く。その間も騎士達は全員平伏したままだった。
なんだか物凄く……申し訳ない。
★ ★ ★
「この部屋は……」
「気付きましたか? そうです。ここは大司教グリモワールの部屋だった場所です。今は私達の私室になりました」
「変わったなぁ……」
案内された部屋をグルリと見回すと、家具などは同じだけど、なんだろう全く雰囲気が違う。リィモが使っていた時は薄暗く陰気な感じがしたのだが、今は明るく暖かい。
まるで別の部屋に生まれ変わったようだ。
この部屋を見てリィモも驚いているだろう。
そう……この王城にはパールにスバル、獣人姿の銀太。そしてリィモが一緒に来たのだ。
さすがにグリモワールの姿で王城に現れたら、大騒ぎになるので、今はフードを深く被り顔が分からない様にしている。
リィモがどうしても一緒に来たいと、懇願するので連れてきたんだけど……王様達の反応が少し心配だ。正直どちらにも傷ついて欲しくない。
リィモはキョロキョロと不思議そうに部屋を見ていたのだが、何かを思い立ったのか、いきなり王様の前に立つと、フードを取り自身の姿を見せた。
「なっ!? お前はグリモワールっ何で? どういう事なんだ?」
王様は慌て、その横に立つ騎士がグリモワールに対して剣を構える。
「申し訳ありませんでした」
リィモは王様達に向かって平伏した。頭を床に擦り付けて。
「リィモ……」
その姿に王様と王妃様は、意味がわからないと困惑し驚きを隠せないでいる。
そりゃそうだよな。再びグリモワールが目の前に現れて、また何かされるのかと思いきや……平伏し謝るんだもんな。
意味分かんないよな。
「あっあの……天使様これは一体? 何故グリモワールが?」
王様はこの状況をどうしたら良いのか分からず、俺に助けを求める。
だがリィモは頭を下げたまま話を続ける。
「僕は貴方達王族にとんでもない事をしました。ジャバネイル王国国民にも! 僕の事を許せない気持ちは重々承知してます。憎いなら殴るなり蹴るなりして頂いて構いません。その覚悟で来ました」
「えっ……そなたは本当にグリモワールなのか? 全く別人の様に思えるが……」
「はい。王様達に酷い事をした僕も……今の僕も同じです」
「じゃが……」
王様がさらに困惑している。そりゃそうだ。リィモ! それじゃあ説明が足りな過ぎる。
俺は慌てて補足する様に話す。
「ええと。ここにいるグリモワールは長き間、邪神に心を乗っ取られていました。その所為であのよう大変な事をしでかしました。でも俺がその原因となる邪神を、グリモワールの体から排除した。なので、ここにいるグリモワールが本来の姿なんだ」
「なっなんと……」
その話を聞くと王様は黙り込んでしまった。
少しの間、広い部屋に静かな沈黙が続く。
それが我慢出来ない男が一人いた。そうパールだ。
「ええい王よ? 何を黙っておる。許せないならリィモを罵倒するなり、痛めつけるなりすれば良かろう? さぁ許すのか? 許さないのか? どっちじゃ! 早うせい」
パールよ……もう少し待ってあげても良いんじゃないか?
「確かに……そうですね。私は何をウダウダと……我が国を苦しめた邪神は天使様が消してくれた。なら我らの憎むべき敵は、いなくなりました。この国を恐怖に陥れた悪はもう居ない。グリモワールよ、顔を上げよ。私は其方の事を憎んでない。憎むべき敵は天使様が消してくれたのだから」
王様はそう言ってリィモに手を差し出した。
「ぼっ僕は……」
リィモは恐る恐る王様の手を握る。王様はリィモの手を自身に向かって強く引きよせると、そのまま抱きしめた。
「えっ……」
「グリモワールよ、其方も苦しめられたのじゃな。じゃがもう大丈夫じゃ。我らは邪神に苦しめられた同志。何の文句があろう? やっと苦しみから解放されたのだ。これからは共に今を楽しく生きようぞ」
「あっ……ありがとうございます」
リィモは震える声でお礼を言うと、静かに啜り泣いた。
良かったなリィモ。王様にどんなに罵られても理解し我慢するつもりだったんだろう。
さすが一国の王様だな。
「それにしても丁度良いタイミングでした。今日は追悼祭を夜に開催するんです。是非、天使様の皆様も参加して下さい」
「追悼祭?」
「はい。今までに沢山の命が無惨にも奪われてしまいました。その尊い命を、国民がお疲れ様と見送るのです」
そんな祭りがあるのか。素敵だな。
「是非参加させて下さい」
「では私は追悼祭の準備がありますので、申し訳ありませんが失礼致します。追悼祭が始まるまで、この部屋を自由に使って下さいね」
そう言って王様は忙しそうに部屋を出て行った。
追悼祭か……楽しみだな。
★ ★ ★
長く続いた燦聖教編も次話で完結です。(*´꒳`*)ふう。
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