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本編 燦聖教編
ここはやっぱり神頼み
しおりを挟む賑やかだった肉祭りも静穏となり、少し落ち着いて来た。
「ええと……キューはと?」
踊ったり、寝たり、食べたりと、広場で好きな事をしてる連中の中からガンガーリスのキューを探す。
「あっ! いた」
くくっ相変わらず世話好きだな。
キューは大きな尻尾をぷりぷりさせ、自慢のレインボーマスカッシュを忙しそうにしながら皆に配っていた。
酒なんか自分で取りに行かせたら良いのに……それが楽しいんだもんな。キューは。
「キュー。俺にも数本レインボーマスカッシュを分けてくれないか?」
『ティーゴしゃま♪ 了解でキュ。直ぐに取って来まっキュ』
そう言ってピュウーッと走り去ってしまった。
俺も一緒に取りに行くのに。
数分もすると、同じ種族のキュウタと一緒に仲良く尻尾をぷりぷり揺らしながら戻ってきた。
その手には箱を持って……
「キューこんなにいっぱい。ありがとうな。キュウタもありがとう」
御礼にと、俺は二匹にリコリパイを渡す。
『『キュッ♪』』
二匹は嬉しそうに自慢のポケットにパイをしまった。
『うふふ……嬉しいでキュ。大切に食べまキュ』
『ティーゴ様。ありがとう』
大きな尻尾をギュッと抱きしめ、俺に一礼すると、また忙しそうに何処かへと走って行った。
そんな事しなくても、欲しい時にいつでもあげるのに。
でもその気持ちが嬉しくて、口元が緩みにやけてしまう。
「なんじゃティーゴ? そんなに大量の酒を持ちニヤけおって……今日はつぶれるまで呑む気か?」
「パール……」
お前の方が既に酔ってるだろうが? 猫なのに不思議な歩き方してるぞ?
「これはな? 創造神様達に奉納しようと思ってな」
「むう……? 何でまた急に?」
「忘れたのかよ? ソフィアの事を神様に聞いて見ようって言ってたのパールだろ?」
「ぬっ? ああっ! そうそう。忘れる訳ないじゃろう? ワシを誰じゃと思うとる」
変な足取りで踏ん反り返るパール。両手を上げて……何だそのポーズは。
そんな怪しい動きからは、なんの威厳も感じないぞ?
なんて事はもちろん言わず
「はいはい……大賢者様ですよね。ああ今は魔王様でしたかね」
「なんか棘があるのう……」
「まっ良いから! 祭壇の所に行こう」
★ ★ ★
酒は……よしっ。この箱全部奉納しよう。十二本もあるからみんなで分けるだろ。
祭壇にレインボーマスカッシュ、それにさっき焼いた魚介類と肉もオマケで付けた。
さぁ。祈るよ……ええと…
ーーはぁーい!
「あわっ!?」
ーーもうっ! 中々呼んでくれないんだから! 私じれじれしちゃった。
慈愛の女神ヘスティア様の姿が、ホログラム映像のような少し透けた姿で、祭壇の前にいきなり現れた。
俺……まだええと……しか言ってないよな? まさかこの駄女神は、ずっと待ち構えてたのか?
ーーもうっ! ティーゴ君たら酷いっ。駄女神って何? 待ち構えてる訳ないでしょ? 女神のお仕事は忙しいんだから! わ・か・る?
ヘスティア様が口を膨らませて怒っている。
そうだった、頭の中で考えてる事も分かるんだよな。
ーーあらっ? やだっ! あの美味しいお神酒が……こんなにいっぱいあるじゃない。
奉納品に気付いたヘスティア様は涎を垂らし、レインボーマスカッシュの箱にしがみついている……女神の威厳は何処にいったんですか?
ーーヘスティア! 何騒いでるんだ? お前また仕事サボって。ってあー! 何だこの神酒に美味そうな料理は?!
ーーちょっとアグライア。タイミング良く現れるわね? あなたこそこの場所の前を良くウロチョロして。この神酒を狙ってたんでしょ?
ーーなっ……ちちっ違うわよ! 私はコンちゃんの事が気になって、たまにこの地の水鏡を覗きに来てただけよ。まぁ? そのお神酒をもらって上げるけど。
ーーやっぱり! アグライアってばお神酒が欲しいんじゃない! あげないんだから。
ーーなっ! それはヘスティアだけに奉納されたんじゃないだろ?
コンちゃんの元飼い主で、コンちゃんを封印した元凶。光の女神アグライア様まで登場した。
二人はレインボーマスカッシュを取り合いしている。
おいおい……そんな事よりもだ? 俺の質問にちゃんと答えてくれるんだろうな?
ーーえっ質問? 何かしら?
ーー答えたら甘味も追加で奉納してくれる? ねっティーゴ君お願い。
はぁ……この女神達は食にしか興味がないんだろうか?
「この世界とは別の世界。異世界から少女が飛ばされて来たんだ。ちゃんと元の世界に帰れるよな? その事が気になって」
そう質問すると女神達は目を見合わせ
ーーええと……別世界の事は分からないわよねぇ。
ーーだよね。だって私達はこの世界の女神だから
「ちょっ? ええ……分からないって」
俺は何の為に奉納して……はぁ。
こんな時いつもだと、せっかちなパールが、何かにつけて文句を言うのにな。今日はやけに大人しいな。
ふとパールを見ると、大の字でイビキをかきながら気持ち良さそうに寝ていた。
「……むにゃ……うむ。カラアゲじゃ」
おいっ! この酔っ払いめ。何がカラアゲだ。
俺がパールの口にカラアゲを突っ込んでやろうか? などと邪な事を考えていたら、新たなる声が脳内に響く。
ーーヘスティア! それにアグライア。お主らはまたここで仕事をサボっておったのか!
ーーえっ? そっ創造神様!!
ーーええと……私はサボってたわけじゃなくてぇ……ティーゴ君の相談を真剣に聞いてたのですが……私には手に負えない案件でして……後は頼みます!
ヘスティア様は風の様に颯爽と走り去った。その手にはしっかりとレインボーマスカッシュを二本持って。
おいおい……逃げるわりにはちゃっかりしてるな。
ーーあっそっそうだったぁ……私も神託がっと! 失礼します!
アグライア様も、両手にちゃんとレインボーマスカッシュを二本持ち、目にもとまらぬ速さでいなくなった。
俺と創造神様を残して。
どーしてくれるんだ。この残された俺達の微妙な空気。
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