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本編 燦聖教編

リィモの思い

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和やかな雰囲気の中、パールがグリモワールをじっと見る。

「えっ……あっ。あの……?」

パールに見つめられ、グリモワールは少し困惑している様だ。

「パール……どうしたんだ? そんな真剣な目で見て? グリモワールが困ってるぞ?」

俺は思わず助け船を出す。

「む? いや……燦聖教のことを考えておった。さすがにリィモが考えそうにないからのう……」

燦聖教と言われグリモワールはハッとした顔をして下を向いた。

「……お兄ちゃん。言いたくないなら私が変わりに説明しようか?」

見かねたカリンが自分が話すと言い出した。カリンはずっと一緒だったからな。全て知っているよな。
たが……カリンにそう言われて何かを決心したのか、グリモワールが口を開いた。

「いやっ……自分で話す」

グリモワールはそう言って、パールと俺を見た後、ゆっくりと息を吐いた。

「…………なぜ僕がこうなったのか、今から全て話します。上手く伝えられるかわかりませんが、聞いて下さい」

「もちろんだ」
「うむ」

この少年グリモワールがどうしてこんな事になったのか色々と気になる事がいっぱいだ。今からその謎が分かるんだな。


ーー
ーー僕が祠で何かの封印を解き、黒い塊に取り憑かれたとカリンが話したと思います。
その時、何か分からない『黒い塊』は俺の体の中、特に頭に入り込んで来ました。
奴は僕の負の感情を煽り増幅させるように頭の中で囁きます。
それを聞き続けると、大丈夫だと思うようになり、普通なら躊躇する様な事まで手を出す様になりました。

僕の場合は、カリンが無惨に殺されたと思った恨み、見殺しにした奴らが許せないと思った感情、それらが頭の中全てを締め、他に何も考えられなくなりました。

そんな僕がまず初めにした事は、カリンを見殺しにした村の消滅でした。
今振り返れば何でそんな事をしたんだとしか思いませんが……。
その時は消滅それが悪いと全く思いませんでした。
頭の中で黒い塊が『良いぞ、良いぞ良くやった』と僕を褒めるから。

復讐が終わると、次なる僕の欲望はカリンを蘇らせる事だった。

どうやってカリンを蘇らせようか? その願いをどうやって叶えようかと、そんな事ばかり考えていると、また黒い奴が話しかけてくるんだ。
『長生きしないと、蘇らせる魔法は修得出来ない。まずは自分の命を増やそう』と……。

「なっ!? お前は頭の中でずっと黒い奴に話しかけられてたのか?」

俺が余りにも驚き、話の途中で質問すると、頷き「はい」と答えると、グリモワールは再び続きを話しだした。


ーー
ーーそして奴は言うんだ。『禁忌魔法ディメンターは俺と一緒なら使える』と。
『さぁお前の命を増やす為に、魂を奪いに行こうぜっ』て……。

僕は……そう言われて天にも昇る気持ちだった。永遠の命が手に入るんだと! ずっと僕が生きられるなら、カリンの事だってきっと……蘇らせる事が出来る様になると! ディメンターそれは他人の命を奪い、自分の命を増やす禁忌魔法なのに! 僕は……僕は使う事に何の罪悪感も……なかったんだ!
悪いとも……ぐぅっ

「お兄ちゃん! 無理しないでっ」

グリモワールが、気持ち悪そうに胸をギュッと触り俯いたので、カリンが慌てて近寄り背中を撫でる。

「カリン……ありがとう。もう大丈夫だから」

グリモワールは呼吸を整え、無理して話しを続けようとする。

「無理しなくて良いからな? 俺達は後でゆっくり聞くから」

「ありがとうございます、でも今話さないと」

グリモワールは何か必死だ。自分のした事、それも悪い事ばかりを思い出しながら話すのは苦痛だろうに……。

「とりあえずコレを飲んでくれ」

俺はブルーティーを進める。グリモワールはそれを受け取ると一気に飲み干し、再び話を続けた。


ーーそれからの僕は狂った様にディメンターを使い命を増やした。
そして、禁忌魔法を探すべく魔導書探しをした。
でもどの魔導書も国が厳重に保管していて、見る事は出来なかった。
保管している王城に攻め込む事も考えたけど、そこには大賢者が守っていたからね。
僕では無理だった。だから大賢者が死ぬのを静かに待った。
待っている間に、世界中にある禁忌の魔導書を全て集め、封印してくれた時に歓喜したよ! 嬉しくて泣いた。
今の僕なら何で? としか考えられない感情だ。

そして、死んだ大賢者から記憶を読み取り魔法を覚えると、再び全ての魔道書を集めた。封印もといてね。

「ちょっと待ってくれ……今の話しだと、燦聖教の事が全く出て来ないけど……?」

俺は再び話の腰を折った。
だって一番気になるだろ? それが。

そんな俺を見て、グリモワールは眉尻を下げ少し困った顔してクスリと笑う。

「燦聖教は偶然だったんだ」
「えっ……? 偶然?」

俺が不思議に思いグリモワールを見る。


ーー
ーーでも今考えると……黒い奴にしてやられた、必然の出来事だったのかもしれないね。
僕は大司教マーク。今は司教マーク・ピンサー、この男を魔獣から助けたのが始まりだった。
偶然、僕の行く先に襲われていた馬車があったんだ。
これも黒い奴が仕込んだのかも知れないけどね……。

マーク司教は僕に惚れ込み、大司教の座を譲った。そして燦聖教はどんどん大きな組織へとなっていった。今の様にね。

僕はカリンを蘇らせる事以外はどうでも良かったから……燦聖教の事は黒い奴が仕切っていたのかもね……燦聖教の事は記憶がうろ覚えなんだ。

「じゃあ! マーク司教が悪い奴なのか?」

「いや……分からない。もともと燦聖教は、このジャバネイル王国をよくする為に作られた組織だったから……マーク司教も黒い奴の被害者なのかもね……」

「そうか……」

「でも村は……グテ村は! 僕が滅ぼしたいって思ったんだ! 自分で……ふううっ……村を焼き尽くした時僕は……発狂する様に歓喜したんだ。今も鮮明に覚えている……」

苦しそうに話すグリモワールを見かねたパールが、肩に手をそっと置いた。

「リィモよ……カリンが言っておったであろう? 過去より未来じゃと」

「でも……でも……僕は」

「……なら……グテ村があった場所に行ってみるか?」

「……えっ?……グテ村に?」

グリモワールは驚き、目を見開く。そして……。

「そうじゃ。過去と向き合ってみるか?」


「…………はい! 行きたいです」

少しの沈黙の後、パールの目を見て答えた。

俺達はこの後、グテ村に行く事が決まった。



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