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本編 燦聖教編

大賢者カスパールと弟子のグリモワール ③

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「カスパール様! 今日はスープを作って来たんだ。食べて」

ニコニコとリィモがカスパールの家のドアの前に立ちカスパールを呼ぶ。

「リィモよ……また来たのか? それは自分達の飯じゃないのか?」

カスパールは少し困った顔でリィモを見る。

「違うよ! これはカスパール様の分さっ。教会のシスター・リンにスープを分けて良いか聞いて、お願いして頼んだんだから!」

リィモは鼻息を荒くして答える。

リィモとカリンを連れて帰ったカスパールは、二人のことを王都にある教会に託したのだった。
教会を仕切っているシスター・リンは快く二人を引き取ってくれ、仲良く王都の教会で暮らす事になった。
だが二人は、何故か毎日のようにカスパールの家に理由をつけては遊びに来る。
カスパールもそれが嫌ではないので、キツく断れないでいた。

「ねぇ。カスパール様お願いだよ!僕を弟子にして。僕はカスパール様みたいなカッコイイ大賢者になりたいんだよ」

「むっだっ大賢者じゃと?まだワシは大賢者ではないんじゃがの?」

カスパールは髭を触りながら嬉しそう答える。

「僕からしたら、世界一の大賢者様だ! 僕はカスパール様のように強くなりたいんだ。そして妹のカリンを守りたい」

リィモの真剣な眼差しにカスパールは言葉に詰まる。

気持ちは嬉しいんじゃがワシは弟子をとった事などない。
ましてやワシ自身にも師と仰ぐ人などおらん。
ワシは全て独学じゃからのう。
そんなワシが人に教える事など出来るのか不安じゃ。

すまんのう。今のワシでは引き受ける事は出来んのじゃ。

リィモはそれでも毎日ワシの家に通い続け弟子にしてくれと願い続けた。
一年たつ頃にはワシの心も絆され、リィモが家に来るのを楽しみにするようになっていた。

ある日、いつも来るはずの時間にリイモが来ない。少し気になりリィモ達が住む教会に見に行く事にした。
決して、家に来てくれなくて寂しいとかではないのじゃ。
いつも来るのに来ないから、気になっただけじゃ。

教会につくと、シスター・リンが聖堂で倒れていた。

「シスター・リン! どうしたのじゃ! 何が?」

「ああ……カ………」

シスター・リンが目を覚ますが、もう虫の息だった。

ワシは急いで自分が使える最大の回復魔法を使った。

《リザレクト》

シスター・リンの体が回復していく。

「あわ?私?」

シスター・リンは自分に何が起こったのか理解できずに、キョロキョロと回復していく自身の体を見つめる。

「シスター・リンよ。何があったのじゃ?教えてくれ」

「ああ! カスパール様! それが、朝方に盗賊らしき男達が現れてここに居た子供達を全て攫っていったのです!」

なっ!攫われたじゃと?一体何処に?

「見た事のない服装をしていましたので、もしかすると他国の間者かも知れません」

他国?この教会には二十人は子供がいたはずじゃ。
その子供達を全て馬車に乗せて他国に移動しているなら、目立つはずじゃ探索魔法で調べれば一発でわかる。
大勢の子供が集まり移動している馬車など滅多に無いからのう。

どれ?探索魔法を発動するか………??む。西の方角にすごいスピードで移動している集団がおるのう。十中八九あれじゃの。

「シスターよ安心せい。ワシが皆を無事に連れて帰る」

「カスパール様………」

ワシはシスターを安心させると、移動している馬車の所に転移した。

馬車が走っている遥か上に浮かび、中の気配を探る。

「ふむ。当たりじゃの。リィモとカリンの気配がする。馬車の中の見張りは五人。走っている馬車は全部で四台か」

余裕じゃの!

まずは馬をゆっくり走らせ動きを止める。馬車が止まったら、間者たちを捕まえるとするか。

足早に走っていた馬車が歩き出し最後に止まったので男達が慌てて馬車の外に出てきた。

その者達を一斉に雷魔法で気絶させ、縛っていく。

「ふふっワシにかかれば一瞬じゃ」

するとリィモが馬車から顔を出し、ワシに気付いて慌てて走り降りてきた。

「カスパール様!あっありがとう……僕このままもうカスパール様に会えなくなるって……思って….うう」

泣きじゃくるリィモの頭を落ち着くまで撫でてやる。

こんなにも泣かせて此奴ら許せんのじゃ!

捕まえた間者達に話を聞くと、どうやら魔力探知で魔力数値の高い子供を見つけては誘拐していたと、あの教会内にとても高い数値を持った子供がいる事がわかったので、騒がれても面倒なので纏めて子供達を誘拐したと。

———魔力数値が高い子供……奴らの言っておる子供とは……リィモの事じゃろう。
魔力数値が高いのは出会った時からわかっておった。
じゃからこそリィモに教えるのを戸惑った。
高い数値の魔力は使い方を間違えれば、善にもなるし悪にもなる。
そんな事を考え躊躇していた事を悔やんだ。
ワシがリィモに魔法を教えておれば、こんな怖い思いをせんで良かったかもしれんのじゃから。
………はぁ。


少し沈黙したあとカスパールはリィモに問いかけた。



「リィモよ。ワシの弟子になるか?」

「え………?カスパール様いいの?」

「ワシの教えは優しくないぞ?それでもついてくるか?そして約束を守れるか?」

「約束?」

「そうじゃ!魔法は人のために使う事!自分の私欲に使ってはならん。守れるか?」

「もちろんだよ!ありがとうカスパール様!」

リィモがカスパールに飛びついた。

カスパールもそんなリィモの姿を見つめ、優しく頭を撫でるのだった。

こうしてカスパールに、初めての弟子が誕生した。








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