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本編 燦聖教編

本来の姿

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勇者の男が気味の悪い薄ら笑いを浮かべ俺をジッっと見てくる。

「ふふっそんな風に堂々と立っていられるのも今の内さ?この僕の召喚獣を見てもそうやって立っていられるかな?」

「……分かったから、早く召喚獣とやらを出してくれ」

勇者のバカにした様な口ぶりが嫌になり、俺は少し鬱陶しげに返事を返した。
それが気に入らなかったのか、勇者ヒイロは顔を真っ赤にして怒り出した。

「何だその態度!僕が優しく教えてやってるのにっ!もう許さないぞ!コイツらを見て震え上がるがいいさっ!謝ったって許してやらないからな!」

勇者ヒイロがぶつぶつと何やら唱え出した。
やっと魔獣の登場か?

《魔獣召喚》

勇者ヒイロが大声で叫ぶと目の前に三体の魔獣や魔物が現れた。オークキングにロックバードにミノタウルス。

……おいおい。肉祭りじゃねーか。

俺は思わず銀太とスバルがいる二階席を見る。

「どーだっ!怖くて声も出ないか?そりゃそうだろうな!こんな高ランク魔獣達が現れたんだ!どーだ?土下座して謝るならその狐、痛め付けるのをやめてもいいぞ?」

勇者ヒイロは声を高らかに上げて笑った。

それを黙って聞いていたコンちゃんが口を開いた。

『言いたい事はそれだけか?』

「へっ?狐が喋った……」

突然話し出したコンちゃんに、勇者ヒイロは戸惑いを隠せない。
それくらいで驚いてたんじゃ、この後知らないよ?

次の瞬間、コンちゃんは九尾の狐の姿になった。

五メートルはある体躯に、輝く美しい毛並み。九尾ある大きな尻尾がゆらゆらと揺れている。

「コンちゃん……その姿はっ」

『妾本来の姿じゃ……』

そう言って目の前にいる魔獣達を前脚でプチッと踏み潰した。

勇者ヒイロは突然の出来事に、何が起きたのか理解が追いつかず呆然と固まっている。

まぁそりゃそうだろうな。いきなりこんなバカでかい九尾の狐が目の前に現れたんだ。

「ヒイロ逃げろ!」

「えっ?」

応援席にいるタケシに後ろから声をかけられて、ハッと我に返る。

「あっ…あわっ…」

勇者ヒイロはようやく事態に気付いたのか、自分の前に立っていたはずの魔獣達がペシャンコに潰れ息絶えている姿を確認する。
その血は流れ自分の足元にまで、血溜まりが出来ている。それを見た勇者ヒイロは……

「ヒィャァァァァァ!!いやだっこっ…殺さないでっ」

大声で叫ぶとそのままぺたんと腰を抜かした。
おいおい……大丈夫か?

これで闘いも終わりだなと、勇者ヒイロの所に歩いて行こうとしたら。

『五月蝿いのじゃ!』

コンちゃんが勇者ヒイロを前脚で叩いた。
勇者ヒイロはその衝撃で弾け飛び壁にぶつかった。

『ふふふっこれで終わると思うな!お前ら全て滅ぼしてやるのじゃー!』

ちょーっ!!コンちゃん何恐ろしい事言い出してるんですか!

俺は慌て止めようとするも、コンちゃんは勇者達の応援席に雷魔法を放った。

応援席だったであろう場所は消し炭となり、何も残っていない。勇者の仲間達の姿もない。

それを見た観客達は驚き一斉に逃げ惑う。もう闘技場は大パニックだ。

「コンちゃん!ちょっと落ちついてくれ!」

そう声をかけるや否やコンちゃんは可愛い狐の姿に戻った。

『タイムリミットじゃ……ぬう時間が足りぬ』

俺は慌てコンちゃんを抱き上げた。また別の何かに変身すると困るからな。

それを見た銀太とスバルが二階席から飛び降り、楽しそうに俺の所に走ってきた。

『コンちゃんカッコ良いじゃねーか!あれが本来の姿か!』

『うむ!尻尾が綺麗であった!』

『カッコ良い?綺麗?妾が?』

スバルと銀太に交互に褒められてコンちゃんは凄く嬉しいのか、尻尾がぴこぴこと可愛いく動いている。

スバルと銀太のおかげでコンちゃんは怒りが収まったみたいだ。
良かった、落ち着いてくれた。それは良かったんだが……はぁ。

俺は溜息を吐くと、会場を見回した。

横で倒れ失神している審判の男。

壁に当たって生きているのか分からない勇者ヒイロ。
その仲間達の応援席は真っ黒に焼け焦げ仲間達の姿も分からない。


………どーすんだこれ!!


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