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本編 燦聖教編

王都アルール

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王都の中に入ると凄い賑わいだった。今までの街は燦聖教により、死んだような街だったのに王都では路面店も軒並みに建ち並び客が行き交っていた。
意外にも燦聖教がそんなに目立っていなかった。

街道の道幅も広く、横幅二メートルは有にある馬車が、六台並んでも余裕で交差出来る。

こんな広い道の御者をコンちゃんは大丈夫なのかと窓から覗いてみると、勝手知ったる道といった様子でスイスイ運転している。

何でそんなに運転が上手いんだ?と不思議そうに見ているとパールが答えを教えてくれた。

「コンちゃんは御者をコピーしておるだけあって運転が上手いのう」

そうか!そうだった。スキル、ハイメタモルフォーゼはコピーした人の能力までコピー出来るんだった。だから運転が上手いんだな!

そう言えば……コンちゃん十分しか変身出来ないって言ってなかったか?
俺がふと考えた次の瞬間、コンちゃんはキュウコンの姿に戻った。

その途端に馬車の制御が出来なくなったコンちゃん。馬達はどの方角に行けば良いのか分からなくなり、街道の真ん中で止まってしまった。

「うわっ!こんな所で止まったらまずいだろ!」

俺は慌てて馬車から降りると馬を引き端に避けた。

「はぁーっビックリした」

『すまんのじゃ……』

コンちゃんは耳をぺたんと下げ、大きな尻尾をぎゅっと抱きしめて申し訳なさそうに俺を見つめる。

「大丈夫だよ!コンちゃんのおかげでここまで来れたんだし。気にするな」

俺はコンちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でた。

『主殿の手は気持ち良いのじゃ……』

パールも馬車から降りて来た。

「ティーゴよ、どのみちこの先からは馬車が通れん道になる様じゃぞ?」

そう言ってパールが差した指の先を見ると沢山の馬車が両端に止められていた。

街の中央へは歩いてじゃない行けないようだ。

「街が広いから王都の地図でもあれば良いんじゃがのう」

地図か……確かにあれば便利だよな、なんて考えふと横を見ると、店の入り口に地図っぽいのを置いてあるのが見える!あれは雑貨屋か?

「パール!あの店に置いてるのって地図じゃ?」
「ぬう?本当じゃのう。入ってみるか」

勢いよくドアをガチャリと開けると、リンリン♪と知らせる音がなった。
奥から店主らしき男がカウンターに慌てて立ち俺達を見てワナワナと震えだした。

「ああっ!あのっ……何も違法な物なんて販売しておりません。お許し下さい!今月の上納金ならちゃんとお支払いしています!」

店主の男は震えながらも必死に早口で止まる事なく勢いよく話す。

「えっ……」

何が起こってるのか理解出来ず、俺はパールと目を見合わせた。

「なんじゃ?」

パールも意味が分からず首を傾げる。そんなパールを頷き見つめているとある事に気付いた。

あっ!そうかっこの服の所為だ!

俺はパールに小さな声で耳打ちした。
「パール!服の所為だ」

「そうか!忘れておった!」

店主はそんな俺達を、顔面蒼白にしじっと様子を伺っている。

「今日はそんな用事ではないんだ!この王都の地図が欲しくて」

「ち?地図ですか。それならこの本になっているガイド付きの本と普通の地図があります」

店主の顔は何で地図なんか?っと声に出ている様な表情をし見せてくれた。
カウンターには王都アルールの全てと書かれた本と王都アルールを探索しようと書いてある大きな地図が並ぶ。

「むう……王都アルールガイド付き。普通の地図も良いけど、ガイド付きも良いなぁどっちも買うか……」

俺が悩んでいるとパールが金貨を一枚カウンターに置いた!

「どっちも買ったのじゃ!」

店主は驚き目を丸くすると……慌てて金貨をパールに返そうとした。

「こっこんなに頂けませんっ!ましてや燦聖教の司祭様からお金をとるなど!出来ません」

「いいんじゃ!釣りはいらん。ではこれを貰って行くのじゃ」

パールは金貨を受け取らず、地図とガイド付きの本をカウンターから取ると、踵を翻し足早に店を出た。

「あっ待ってくれよっ!」


★   ★   ★



俺達はこの街の本を読むために、カフェに入った。オープンテラスがあり、なんとも小洒落たお店。

こんな洒落た店は気恥ずかしいのでもっと普通の店が良かったんだけど、パールが急かし一番近くにあったこの店に入る事に。

もちろん目立つので燦聖教のローブは脱ぎ、馬車はみんなが止めていた所に止めて来た。

「ティーゴよ!この街には中央に闘技場があるみたいじゃ!」

「闘技場?何をするんだ?」

「まぁ……人を戦わせ一番を競い合わせたり、魔獣や魔物を戦わせると言うのもあるな」

「そんな場所が……」

「想像つかないじゃろ?後で行ってみるのじゃ」

パールの話だとそれでお金を稼ぐ者が多数いるので俺が想像してるような悪いイメージではないらしい。でも何だか嫌だな。

ガイドによると、この街の中央は馬車が通れない場所になっていて、一番奥にある神殿に行くには貴族であろうと歩いて行かないといけないらしい。
神殿のさらに奥に王城や王宮がある。ガイドには詳しい場所は書いてなかった。

そこまで厳重に隠すなんて、王城や王宮に何かあるって言ってるようなもんだけどな。

「さてと、闘技場が気になるんじゃろ?行ってみるか」


「あれっパール、頼んだジュース全然飲んでないじゃねーか」

「じゃってティーゴの作るジュースの方が上手いんじゃもん。さぁ行くぞ!」

パールは立ち上がるとスタスタと店を出て行く。

じゃもんって!可愛くないぞ?
俺は勿体無いからパールの残したジュースを飲み干すと、慌てて後をついて行った。

代金は先払いで、ちゃんと支払い済みだからな!
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