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本編 燦聖教編

四天王メフィストの旅 ③

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「兄ちゃんスゲーッよ!本当に船作るなんて」
「そーだよっ!それもこんなに大きな船っ」

獣人の兄弟は船の甲板でぴょんぴょん飛び跳ね興奮が収まらない。

「そんなに大きいか?」

メフィストは不思議そうに子供達を見て、騒ぐ程大きいか?っと小首を傾げる。

「だって!僕達とお兄ちゃんしか乗らないんだよね?」

「そのつもりだが?」

何を今更?他に誰を乗せると言うのだ?

「それじゃぁ大き過ぎだよっ!この船何百人も乗れそうだもん」

「えっ……何百?そっそうなのか?」

この船はそんなに大勢が乗船出来る様に作られているのか……知らなかった。

「ふふっ……何も知らずに作るとかお兄ちゃん本当に人族?」

不意に人族なの?っと問われ、固まるメフィストは思わずゴクリッと生唾を飲み込んだ。

「なっ何を……?」

まさか……早くも私が魔族だとバレたんじゃ……何故だ?

「天使様とか……神様かな?なーんてねっ」

はっなっ私が天使!?面白い事を言う子供だな。

「はははっ私が天使な訳なかろう」


★    ★     ★


「どれくらいで着くか分かるか?」

「船の速度にもよるけど、この船は速いし、三週間位でつくんじゃねーかな?」

「そんなにかかるのか?!異国とは遠いのだな」

「また変な事言ってるよっ遠いから異国だろ?」

「メフィスト兄ちゃんは面白いな」

獣人の子供達はかなり人懐っこかった。私にもすぐ慣れメフィスト兄ちゃんと纏わり付き離れない。
が嫌ではない自分がいる……不思議だ。
子達は狼獣人らしい。二人ともまだ幼く、あどけなさが残る。
漁に出ていた時に嵐で流され、この国の船に助けられたのだとか。

それから自国に帰るための船代を今まで稼いでいたんだと、何と二年もかかったらしい。
金を稼ぐと言うのは大変なんだな。

この子供達、兄がリュカ弟がルイと言うらしい。
部屋を用意してやったのに毎回私の布団に潜り込んで寝ている。
狭いから自分達のベッドで寝ろと言うのに……。

「メフィスト兄ちゃん……怖い夢みた」

弟のルイが枕を抱いて私の布団に潜り込んでくる。
いつもの事だ。

私に抱き付き気持ち良さそうに眠るリュカとルイを見ると、何故か胸がキュウッと締め付けられ時々苦しくなる。
気付くと口元が緩み頭を優しく撫でている自分がいる。
この感情が何なのかは分からないが……悪くない。

「メフィスト兄ちゃん!知ってる海の景色だっ」

「本当だ!この色に匂いっ……はぁ懐かしい」

リュカとルイが知ってる海だと喜びはしゃいでいる。
何が違うのかサッパリ分からない、私からすると同じ海にしか見えない。

「この場所からだと、あと二日でジャバネイル王国に着くよ」

リュカが満面の笑みでそう言った。
何故だろう……少しツキンと胸がいたい。

「メフィスト兄ちゃんとの旅もあと二日かぁ……なんか寂しいな」

ルイが寂しいと、眉尻を下げて言い私を見た。
そうか……分かってしまった。
この胸の痛みの原因は寂しいか……何と言う事だ!
四天王メフィストともあろう者が!獣人の兄弟などに……っ。

「はははっ寂しいかっ」

メフィストは泣きながら笑っていた。

「メフィスト兄ちゃんっ泣かないでっ僕達だって寂しいんだ」

リュカとルイはメフィストの足にしがみ付いた。


★   ★    ★


「今日のご飯は僕達に任せて!」

「おっきいの捕ってくるから!」

ザブンッとリュカとルイが海に飛び込んだ。船を少し止め、今晩の魚を捕りに行った二人。
まだ食材はアイテムボックスに豊富にあるんだが、私に美味しいご飯をご馳走したいんだとか。

今日が三人で食べる最後のご飯だ。明日には異国に着く。
俺と子供達の不思議な旅も明日で終わりだ。
明日の事を考えるとまたツキンと胸が苦しくなる。
その苦しみが、私はまだ獣人の子達と一緒に居たいのだと教えてくれる。そんな事教えてくれぬとも良かったんだが。

「美味っこの魚!上手に捌くなぁ」

「へへっ任せてよ!魚の解体は得意なんだ」

「メフィスト兄ちゃんが持ってたショーユにつけたらまた最高に美味しいね」

「私は生の魚を初めて食べたが、甘くて美味しい!」

「だろう?この辺りで捕れる魚は甘くて美味いんだ」

リュカが人差し指で鼻の下を擦った。得意げな時に良くする仕草だ。

「ふふ……ありがとう。リュカ、ルイ。最高のご馳走だ」

この日は最初から一緒に布団にくるまって寝た。
いつもよりギュウギュウに引っ付く二人、苦しい筈なのに私はこのままずっと時が止まれば良いのにと思っていた。



★    ★    ★


異国の港町ローデンブルグに着いた。
船を泊めて街に降りると何か様子がおかしい……?!

「何だ……?」

街が死んでいる様だ……この街の事は船上で散々リュカ達から聞いた。
沢山の獣人と人族が共存している街だと……獣人どころか人族だっていない!

「メフィスト兄ちゃん何か変だ」
「私もそう思う」
「僕達の家に行かなきゃ」

リュカとルイが必死に家まで走る……だが家は無かった。街の殆どの建物が壊れていた。

この街に何が起こっているのだ?!

「父ちゃんっ母ちゃーんっううっ何処にっ」
「とうちゃっあああっ!」
瓦礫にしがみ付き泣き叫ぶリュカとルイ、その姿を見てるだけで胸が張り裂けそうだ。

ふと気づくと、黒いマントを羽織った者達数人がこちらに向かって歩いて来ている。

何か知ってるのか!

「ああ良かった、そこの者達よ教えてくれないか?」

黒マントの人族は私が話しかけると同時に、リュカとルイを抱えて連れ去ろうとした。

「おい待て!その子達を何処に連れて行く」

「はははっお前には関係ない事だ」

「関係ある!その子達を離せ!さもないとっ」

ーー人族に手を出すのはダメじゃ、物を奪うのも、傷つけるのもダメじゃ。


「ーーくっ良いから離せ」

「はっ五月蝿い、お前はココで死ね」

黒マントの男が魔法を放つがメフィストには全く効果がない。

「なっ!?何だこいつ……本当に人族か?」
「早く子供を返せっ!」
「ヒィッ!」

黒マントの男達はメフィストの覇気に震え上がる。

「ええいっ何をビビッておる!皆で魔法を撃つのだ」

奥で、リュカとルイを抱えた男が命令する。

黒マントの男達が魔法を連発して放つ。

だが何をやってもメフィストには効果がない。
当たり前だ、高ランク魔法それもSランク以上じゃないと四天王メフィストには効かないのだ。

「ぐっ……何で効かないっ化け物めっ!んっそうだ」

リュカとルイを抱えた男がメフィストに近寄る。

「さぁその子達を私に返せっ」

「獣人の子を返して欲しかったら言う事をきくんだな」

「聞いたら返すんだな?」

「ああっ(お前が生きていたらの話だがな)」

「分かった」

私は男達の言う通りに後をついて行った。

異臭が漂う研究所の様な場所、リュカとルイを盾に私を改造しようと鎖に繋いだ。
正直鎖など、私には意味もない直ぐに外せる。
リュカとルイを連れ逃げようと考えたが二人の首に隷属の首輪がつけられていた。あの首輪は私には外せない、首輪で言う事を聞かせられた二人は泣きながらもこの場所から離れようとしない。
目を見ると、体は動かないが心までは操られてないのが分かる。

私は何も抵抗もせず、人族にされるがまま身体中を切り刻まれた。

魔王様こいつらを殺してはダメですか?
私は良い人族しか知らなかった。
だから魔王様の言った人族を大切にしろ、傷付けてはダメが理解出来た。
ーーだがこんな屑の様な人族もいた。こいつらは毎日研究だと魔獣や獣人を殺して行く、泣き叫ぶ悲痛な声が毎日毎日聞こえてくる。
こんな奴らも大事にするんですか?

私は頭に魔石を埋め込まれた、一つでは何も起こらなかった。
魔石はどんどん増やされ三つ目を埋め込まれた時に痛みがはしり、体を自分の思い通りに動かせなくなった。ああ……私は何かの兵器にされたのだと理解した。

リュカとルイはそんな私の側を片時も離れない。
顔も溶け異形化した私は気持ち悪いだろうに。
ずっと痛みが走る……魔王様私はどうなるのでしょうか?
せめて、リュカとルイだけは助けてあげたいんです。


 お願いします。



 魔王様助けて……。
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