上 下
24 / 30
第1章 龍王様の番

秘密が……

しおりを挟む
 作っても作っても、薬がすぐになくなってしまう。
 こんなにも感染した人が多いなんて……。

「ふぅっ……」

 額に流れる汗を拭いながら、慎重に調合していく。
 どれくらい時間が経っただろうか?

「翠蘭、少し休憩しては?」
「紫苑様!」

 気がつくと、暖かいお茶が入った茶器を手に持った紫苑様が、後ろに立っていた。

「ですが、薬を作らないと」
「翠蘭は働き者ですね。でももう安心して下さい、とりあえずはひと段落しましたよ。まわりを見て下さい」
「……え?」

 無我夢中で周りが見えていなかった。
 よく見ると、みんな安堵の表情をしにこやかに笑っていた。

「よかった……」
「これも翠蘭が、初期症状を見抜いてくれたおかげで、病気の拡大感染を抑止出来ました。それに早期感染者は、スプーン一杯の薬を飲むだけで治癒出来たので薬がいち早く皆に行き渡りました」
「そうだったんですね」

 初期症状だと、薬の量はそんな少なくて大丈夫なんだ。そんな事まで考えながら薬を配ってくれていたなんて、紫苑さんすごい。

「これ以上負担をかけて翠蘭が倒れてしまったら大変ですしね。本当に良かったですよ」

 そう言って紫苑様は、私にハンカチを渡してくれた。
 汗をかいていたから助かるけれど……綺麗な刺繍がほどこされた高そうなハンカチ……汗を拭くのも気が引ける。
 緊張しながら汗を拭いていると。

「これは龍王様も大好きなお茶なんですよ。さっ、あちらで飲みましょう」

 紫苑様に案内され、椅子に腰掛けた。
 椅子に座り一息つくと……どっと疲れが。

 そんな私の前で茶器にお茶を注ぐ紫苑様。
 所作が美しいです。

「どうぞ」
「わぁ……綺麗!」

 出されたお茶の中に、大きな花が咲いていた。
 一口飲むとお花の香りが鼻からぬけ、なんともいえない清涼感に包まれた。

「……おいしっ」
「お気に召されたようで良かったです」

 紫苑様とお茶を飲んでいると、何やら人が私たちの周りに集まってきた。

「赤の女神様! 病気を治していただきありがとうございました」
「腐死病にかかると、苦しんで死を待つだけど聞いていたので……ふぅぅ。本当にありがとうございます」
「伝説の赤の女神様は本当にいたのですね」
「赤の女神様に助けて頂いたこの命、一生忠誠を誓います」

 みんなが口々に私に向かって赤の女神様と涙ながらに話す。しかも伝説? どういう事? 

 よく分からないけれど、私は赤の女神様ではない。薬師だ。
 そう説明しようとしたら、奥の方が騒つく。

 なんだろう? 何が起こっているんだろう?

 立ち上がって見ようとしたら、そんな事をするまでもなく、騒つきの元凶が私の前に現れた。
 なぜなら私の周りに集まっている人たちが、綺麗に真ん中を開けて二手に分かれたのだ。
 その開けた真ん中に立っていたのは……。

「飛龍様!」

「ここにおったのか翠蘭」

 そう言ってニコリと微笑むと私たちの所まで歩いて来た。

「あああっ飛龍様、良かった」

 紫苑様はすぐさま立ち上がり、飛龍様に向かって深々とお辞儀をする。
 飛龍様は私の隣の椅子に腰掛けた。

「もう歩いて大丈夫なのですか?」
「翠蘭の薬が効いたからのう……我ら龍人を救ってくれてありがとう」

 飛龍様はそう言って私の頭を優しく撫でる。
 そんな事をされると、ドキドキして胸が苦しい。
 私が黙っていると、飛龍様は話を続ける。

「して翠蘭よ? 皆がお主の事を赤の女神と呼んでおるのう?」

 赤の女神様! そうだった、その誤解を解かなくては。

「我にも教えて欲しいのう? 翠蘭よ、真紅に輝くこの美しい髪はなぜだ?」

 飛龍様はそう言って私の髪の毛に触れる。

 真紅に煌めく? 私の髪の毛は……赤茶色に偽装しているはず……!?
 だけど飛龍様が触れている髪の毛は真っ赤に輝いて……!!!!

「ええええっ!?」

 私の髪の毛や肌……偽装する前に戻っている!
 どうして!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています

中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛
私は転生者です。現在5才。あの日父様に連れられて、王宮をおとずれた私は、竜王様の【番】に認定されました。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

白猫は異世界に獣人転生して、番に愛される

メリー
恋愛
何か大きい物体に轢かれたと思った。 『わん、わん、』と言う大きい音にびっくりして道路に思わず飛び込んでしまって…。 それなのにここはどこ? それに、なんで私は人の手をしているの? ガサガサ 音が聞こえてその方向を見るととても綺麗な男の人が立っていた。 【ようやく見つけた。俺の番…】

竜の血をひく婚約者に溺愛されています。

夢見 歩
恋愛
領地に引き篭るように 慎ましく生活をしていたわたしに いきなり婚約者が出来た。 その相手は竜の血を濃く引いている 自国の第二王子だった。 挨拶程度しか交わしていなかったのに 何故か第二王子に溺愛されていて…?

竜人族の婿様は、今日も私を抱いてくれない

西尾六朗
恋愛
褐色の肌に白い角、銀の尻尾を持つ美貌の竜人マクマトは一族の若様だ。彼と結婚した公女フレイアは、新婚だというのに一緒にベッドにすら入ってくれないことに不安を抱いていた。「やっぱり他種族間の結婚は難しいのかしら…」今日も一人悶々とするが、落ち込んでばかりもいられない。ちゃんと夫婦なりたいと訴えると、原因は…「角」? 竜人と人間の文化の違いを楽しむ異種婚姻譚。 (※少量ですが夜の営みの話題を含んでいるます。過激な描写はありません) 【※他小説サイトでも同タイトルで公開中です】

処理中です...