【龍王様の箱庭】━━千人いるハレムの中で……私が龍王さまの運命のつがい!?

大福金

文字の大きさ
上 下
23 / 30
第1章 龍王様の番

赤の女神様

しおりを挟む
「紫苑様、固まっている場合じゃないですよ!」
「えっ……いや、その……君は翠蘭……ですよね?」
「なにを言っているんですか? ボケている場合じゃないんですよ! 飛龍様の腐死病が治ったのです!」
「え? なにが?」
「だから! 腐死病が治ったんです。この薬で!」

 ポカンと口をあけ、折角の美丈夫が台無しの顔になっている紫苑様に向かって、完成した薬が入った瓶を見せる。

「……黄金色した薬?」

 紫苑様が私から瓶を受け取り、不思議そうに瓶を眺めている。透明の瓶に薬を入れたので、黄金色に輝いているのがよく分かる。

 樹の木さんの葉の効力なのか、薬はずっと眩しい程に煌めいている。

「……これを翠蘭が作ったのですか?」

 紫苑さんに薬の事を聞かれ、私の目が輝く。

「そうなのです! 私の住んでいた村の近くに、水龍が住んでいる泉がありまして、そこでこの腐死病と同じような症状に水龍がなったのです。それを私のお祖母様が、完治させる事はできないけれど進行を遅らせる薬で助けていた事を思い出し、それに樹の木さんから頂いた貴重な葉を調合する事で……」
「翠蘭、ちょっと! ちょっと待って下さい!」

 紫苑様が私の話を止めた。

 しまったつい薬の話になってしまい、永遠と話してしまう所だった。
 すみません。

「ええと……情報が多すぎて理解に苦しむのですが、飛龍様は完治されたのですね?」
「はいそうです」

 私がそういうと、紫苑様は扉を開け部屋に入って行こうとしたので、それを制止する。
 今はきっと飛龍様は眠っているでしょうから。騒がしくして起こしてはいけない。


 翠蘭はそう気遣っているが、当の飛龍はそれどころではない。もちろん翠蘭はそんな事知らないわけで。


「今はゆっくり寝かせてあげて下さい」
「……確かにそうですね。後で確認させて頂きます」

 紫苑様はへなへなと倒れるようにその場に座り込むと、口に手を当てホッとため息をはいた。その時、紫苑様の手が目に入る。

「紫苑様、手を見せて下さい」
「え?」

 私は紫苑様の返事を待たずに、無理やり左手を手に取り凝視する。
 すると小指の爪先が微かに黒ずんでいた。

 そうかこれが初期症状なのね。
 ……きっとあの時に感染したんだわ。あの時とは、飛龍様が私の目の前で倒れた時、紫苑様も私と一緒に部屋に入ったから。

「あ……あのう翠蘭? 手を……」

 名前を呼ばれ手から視線を紫苑様に向けると、眉尻を下げ困った顔で私を見る。
 どうしたのだろう? ん?

 ——あっ、手を握ったままだった。

「すっ、すみません」

 こういう行為は淑女としてあるまじき行動だと、勉強したわ。

 私は慌てて手を離し、重大な事を告げる。

「紫苑様、あなたも腐死病に感染しています」
「え……感染!?」

 私の言葉に紫苑様の顔が強張る。

「その左手の薬指の爪先が黒くなっているでしょう? それが腐死病の初期症状なのだと私は思うのです」

 私がそういうと、マジマジと爪先を見つめる紫苑様。

「全く症状などないので、感染した事にも気づかなかった。そうか爪先を見れば一目瞭然なのですね」
「そうなのです。早くこの薬を飲んで下さい。それで確実な答えが分かるかと」

 これで紫苑様の爪が治れば、私の考えが正解になる。

 私は紫苑様に薬を渡す。
 紫苑様が薬を飲み干すと、黒かった爪先が綺麗な桃色へと変化した。

「やっぱり! 私の考えは合っていたのね! 腐死病の初期症状は爪でわかる」

 子供のように、ぴょんぴょんと飛び跳ね喜ぶ私の横で、紫苑様は体を震わせ瞳に涙を溜めていた。

「翠蘭、貴方は素晴らしい……本当にありがとうございます」

 そう言って深々と私に向かってお辞儀した。なんだか照れ臭いです。
 それに私は、素晴らしい薬が調合出来た事で、ただでさえ幸せいっぱいな訳で。

 おっと喜びを噛み締めている場合じゃない。

「紫苑様、この薬を他の感染者の人に飲ませてあげないと!」
「そうですね。指令を出し、王城の広間に感染者を集めましょう」

 紫苑様が口笛をピィ~っと吹くと、青色の鳥が数匹どこからともなく集まってきた。

「お前たちの仲間を使い、腐死病となった龍人に王城の広間に集まれと伝え広めて下さい。爪先が黒いもの者たちもですよ。わかりましたか?」
「「「「「ピュィ~」」」」」

 青い鳥たちは紫苑様が話し終えると、高らかに鳴き散り散りに飛んでいった。

「これですぐに広間に感染者が集まると思います、私たちも広間に向かいましょう」
「はい」

 私たちが広間に着くと、すでに数人の人たちが集まってきていた。
 重症化した人は家族が抱いて連れて来ていた。

 そんな人たちに私は必死に薬を渡し飲んでもらう。
 するとあっという間に症状が回復し、完治していく。
 私は連れて来た家族の人にも「もし爪に症状が出たら感染しているので薬を飲んで下さいね」と言って薬を渡した。

 思っていたよりも発症した人が多かったので、薬を渡す係を紫苑様や完治した龍人族の人に任せ、私は籠に入れて持って来ていた薬草を、その場で調合し薬を作った。
 いつもなら、水を人前で出したりしないのだけど、隠れて出している余裕などない、私は必死に調合した。

 この時……その場にいた龍人族の人たちが私を見て、赤の女神様などと口々に言っていたなんて勿論知らない訳で……。


★★★

予約更新をミスっていました💦すみません。
こんな時間に更新です。
いつも本作を読んで頂きありがとうございます

しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

運命の番様。嫉妬と独占欲で醜い私ですが、それでも愛してくれますか?

照山 もみじ
恋愛
私には、妖精族の彼氏で、運命の番がいる。 彼は私に愛を囁いてくれる。それがとってもうれしい。 でも……妖精族って、他の種族より綺麗なものを好むのよね。 運命の番様。嫉妬して独占欲が芽生えた醜い私でも、嫌わずにいてくれますか? そんな、初めて嫉妬や独占欲を覚えた人族の少女と、番大好きな妖精族の男――と、少女の友人の話。 ※番の概念とかにオリジナル要素をぶっ込んでねるねるねるねしています。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...