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第1章 龍王様の番
龍王様!?
しおりを挟む扉が閉められ、部屋に私と龍王様の二人だけになった。
鼓動が激しく胸を叩き、口から心臓が飛び出してきそうな程。
大きく生きを吸いながら気持ちを落ち着かせ、私は教えられた作法の通り、頭をさげ龍王様の言葉を待つ。
「顔を上げて、こちらに参れ」
「はっ……はい」
私は下げていた頭をあげ、言われた通りに龍王様のところへと歩いて行こうとした時。見たことのある顔が目に入る。
———!?
龍王様が立っているはずの場所に、なぜか飛様が立っていた。
「え? なんで……飛様が?」
私が驚き固まっていると、飛様の方から私に近寄ってきた。
「くくく。なんじゃその面白い顔は……」
目を見開きポカンと口を開けている私の顔を見て、飛様がいたずらっ子にように笑う。
「だだっだって! 龍王様がいると聞いてお部屋に入ったのに、いたのは飛様で私には何が何だかっ」
私は少しパニックになりながら必死に話す。
「落ち着け、ここに龍王がいると聞いたのであろう?」
「はい。でも飛様がいました」
「……と言うことは?」
飛様が私に優しく語りかけながら、じっと見つめてきた。
……と言うことは? って言われても。
私は首を傾げて考える、そんな姿を楽しそうに見る飛様。そんな顔で見ていないで答えを教えて欲しい。
だってここには龍王様がいるはずなのに……飛様がいた。
そう、龍王様が……ん?
———あれ?
もしかして……フェッ、飛様が……⁉︎
「フェフェフェッ、飛様がりゅう……おう様?」
「あははっ、そうじゃ。我が龍王だ」
「ふぇええええええええええ!?」
嘘でしょう? 飛様が龍王様だったなんて!
私はずっと龍王様と会っていたってことなの!?
驚きのあまり私はその場にペタンとへたり込んでしまう。
「騙すつもりはなかったっのだ。言うタイミングを逃してしもうてのう。怒ったか?」
飛様……飛龍様が眉尻を下げ、困った顔で私を見る。私が騙されて怒っていると心配しているのだろうか? そんなわけない。
びっくりはしたけれど。
「怒ってなどないですよ。少しビックリしただけで……」
「そうか……なら良かった」
飛様が座り込んだまま呆然としている、私の頭にポンと手を乗せ「我について来い」と言って、私の前に手を差し出した。
緊張しながらその手を握り返すと、私をゆっくりと立たせてくれた。
距離が近いので鼓動が激しく鳴り響き、その音が飛龍様に聞こえるんじゃないかと思い、顔がどんどんと赤くなる。
その後。立ち上がった私の肩に優しく手を添えると、広い部屋の奥へと私の歩幅に合わせゆっくりと歩いていく。
どこに向かっているんだろう?
そして人が入れるくらいある大きな箱の前に立った。
「この箱を開けてみよ」
「箱を……?」
箱に何が入っているの?
私は恐る恐る箱の蓋を開けると中には入っていたのは…….!
「わぁぁぁぁ! すっごい貴重な珍しい薬草ばかりこんなに沢山!」
「褒美と言っても、其方の好きなものは草しか分からなかったから、珍しい草を樹のやつに聞いて集めてきたんだよ」
「ここっ、これを私に!?」
「そうじゃ。そのために集めたのだから」
少し得意げに薬草を見る飛龍様。その表情はまるで、褒めてほしい子供のよう。
「ふふふ。ありがとうございます。どれも手に入れるのが困難な薬草ばかりで……嬉しくって胸がいっぱいです」
飛龍様が……私のために、薬草をこんなに沢山採ってきてくれた。そう考えるだけで、心が幸せな気持ちで満たされていく。
「では番の審査をしようかのう。内容は知っておるな」
飛龍様が片目をパチリと閉じ悪戯に笑う。
前に飛龍様が私に教えてくれたのでもちろん知っています。
「はい」
「では近うよれ」
「え?」
言われるがままに一歩前に出て飛様に近づく。
するといきなり抱きしめられ、飛龍様の美しい顔が近づいてきた。
「ええええっ!?」
「話すと口付けできんであろう?」
「ナナナナっ」
口付け!? それも聞いたけれど、龍の姿で審査するって……本当に口付けするの?
混乱しパニックになっている私を見て。
「あはははっ。冗談じゃ」
飛龍様が声を高らかに上げて笑うと、やっと私を離してくれた。
冗談か……良かった。
驚きすぎて、心臓が飛びだすかと思った。
あんな綺麗な顔が近くに……「ひゃわ」思い出し赤面し変な声が漏れる。
「くくく。落ち着いたかの? では龍の姿になるので見ておれ」
そんな私の様子を楽しそうに見ていた飛龍様が、真っ黒の大きな龍の姿へと変身した。
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