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第1章 龍王様の番
更なる誤解
しおりを挟む「貴方は変わった人ですね」
「我が? なぜそう思うのだ?」
「だって……普通なら、龍王様の事を悪く言った私の事を、責めると思うのに」
私がそう言うと、顎に指をあて「ふむ?」っと少しの間考えこんだ後。
「龍王であろうと、ダメなものはダメであろう? 我がそう思ったのだ。それで良い」
そう言って私に向かって優しく笑った。
その顔があまりにも綺麗で直視できずに下を向いてしまう。
「どうしたのだ? 翠蘭」
急に名前を呼ばれ、びっくりして思わず顔を上げる。
何で私の名前をこの人が知ってるの!?
「ふぇ!? どっ……どうして私の名前を!?」
「んん? 其方の友がそう言っておった」
「あっ……明々が……」
そうかなるほど、私の事を説明する時に、名前を言ったのね。
私の名前を知っているのなら……私だってこの横にいる美しい龍人の名前を聞いても良いよね?
「それなら……私も貴方のお名前をお聞きしても?」
「我の名か?」
「はい」
「我の名はフェッ……んんっ。飛だ」
少し焦りながら名前を教えてくれた。なんだろう? 恥ずかしいのかな?
「飛様ですね。名前を教えていただきありがとうございます」
私は飛様に向かって頭を下げた。
「固い挨拶などもうよい。普通にしてくれ」
「はい」
普通にしてくれと言われても、まだ慣れてないから緊張はしちゃのだけど。
この際だし、龍人族について分からない事を、教えてもらおう。
興味ある話を聞いていたら、緊張も和らぎそうな気がするし。
「あのう……飛様、少し教えてもらいたいのですが」
「なんだ? 我にわかる事ならなんでも教えようぞ」
「……番についてなんですが」
「番?」
「はい。龍王様の番を見つけるために私たちは集められましたが、どうやって見つけるのかと思いまして……」
「ふむ? 番はのう? 全てが甘いんだよ」
「あっ……甘いですか?」
番が甘い? どう言う事なのだろう?
余計に訳が分からなくなってきた。
意味がわからないと困惑していると、そんな私を見てクスリと笑う。
「我も番に出会った事がないからのう。よく分からないが、番と口づけをするとのう? 蕩けるように甘い蜜のよう味なのだと」
飛様がそう言いながら自分の唇を触る。
「なるほど……口づけをすると甘い……!? ヒョッ、くくくっ、くちづけ!?」
びっくりして、声が裏返る。
ちょっと待って!? ってことはだよ? 私は龍王様と口づけをしないといけないの!?
まだ誰ともしたことないのに。そんなの想像するだけで恥ずかしいよう……。
———ん!? そうなると。
龍王様は残った八十五人と、口づけをするってことなの!?
「くくく……その百面相をずっと見ているのも面白いが、翠蘭よ? 龍王が残った全ての者と口づけをすると思うておろう?」
百面相って! こんな話されて驚かない人がいたら教えて欲しい。
顔だってずっと熱い。
「はい。だってそうしないと、番だと分からないんでしょう?」
「ははは、我だって……龍王だとて、好いておらぬ女子と口づけなどできぬよ」
「へっ!? ではどうやって知るのですか?」
思わず興奮して飛様の方に近づき、その事に気付き慌てて後ずさる。
何をやってるの私。
飛様はそんな私の姿を笑いながらも、私が落ち着くのを待ってから、話を続けてくれた。
「それはのう? 我ら龍人にはの、龍の姿に変身した時、【龍心】が首の下あたりに現れるのだが、その龍心は本人と番以外には見えないんだよ。その龍心が見えた者が番じゃ」
「龍心……」
「龍心の色はそれぞれ違う、紫だったり、青だったりとな」
そう言われ、ふと飛様が龍だった時に赤い宝石にような物が煌めいたのを思い出した……。
「それは宝石のように輝いてるのですか?」
「そうだ。番には眩しいほどに煌めいて見えるらしいのう」
それって、ももももっ、もしかしてさっき見えたのが龍心だとしたら! 私
が飛様の番!?
「ふぇぇぇぇっ!?」
思わず奇声を発し、徐に立ち上がると。
私はその場に居られず……。
「すすっ、すみません! 私ちょっと急用を思い出しまして!」
「えっ? まだ話はっ……」
「ではっ」
飛様が何か言いかけていたけれど、今の私にそんな余裕などあるはずもなく。
足早にその場を去るのだった。
「ふむ……これの事を聞きそびれたのう、樹よ」
足早にその場を去って行く翠蘭を見ながら、飛は胸元から真紅色した髪の毛を取り出した。
そんな飛を見て樹の木は、笑うように葉を揺らすのだった。
★★★
本作を読んで頂きありがとうございます。嬉しいコメントやエールでの応援、本当に本当に感謝です。嬉しくって執筆の励みになっています。
今後も楽しんで頂けるよう頑張りますので、引き続き読んで頂けると有り難いですm(_ _)m
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