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第1章 龍王様の番
真の姿
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龍王様の謁見があるとの噂話から、あっという間に一週間が経った。
噂話は真となり、後二週間したら龍王様がこの二百五棟を訪れる事が、正式に決まった。
それを聞き。
私たちが住むお屋敷は、日増しに騒がしくなって行く。
龍王様の目に少しでも止まって欲しいと、みんな着飾る事に必死なのだ。
と言っても私たち平民は、龍宮殿に入る時に用意してくれた衣装以外持ってないので、これと言ってする事は何もない。
あるとしたら、化粧や髪結で綺麗に見せることくらいだろうか?
「翠蘭はさぁ? 綺麗な顔をしてると思うのに、何で化粧も何もしないの?」
私の横であーでもないこーでもないと、目立つ化粧を模索している明々が首を傾げる。
「う~ん……。化粧をした所で、選ばれる訳がないと思ってるからかな?」
「そんなことないよ! 選ばれるかもしれないじゃん! 私が龍王様なら間違いなく翠蘭を選ぶもん」
「それはありがと。でも私は良いよ」
「浅黒い焼けた肌だって、この白粉を塗ったら綺麗に見えるよ? 塗ってあげようか?」
明々が白粉を片手に近寄ってきた。
「わっ? 大丈夫だよ。私は良いから明々のお化粧をしよ? 私こう見えてもお化粧上手いんだよ?」
「ええ? 翠蘭が化粧上手いって? 普段全く化粧してないのに? そんなの信じられないよ」
「本当だって! ほらっ、してあげるから」
私は明々から白粉を奪い取り化粧をしようとするも。
「良いよ~っだ。またねぇ」
全く信用がないのか、逃げられてしまった。
「本当に化粧上手なんだけどな」
部屋のソファーに座り、ふと過去を思い出す。
この記憶を過去と言って良いものか?
詳しくは分からないが、私には生まれる前の記憶がある。
前世の記憶と言うやつらしい。
名前も覚えてないし、顔すら思い出せない。
でも明確に覚えているのは科学と言う機械が発達していて、平民差別のない平和な国だったと言う事。
そこで私は歴女というオタクだった。
オタクの正確な意味も正直怪しいが、歴史をこよなく愛する変わった女だった様に思う。
仕事は他人の顔に化粧をするお仕事をしていた。だからこそ、もっと良い化粧の仕方があるのにと思ってしまうのだ。
だってだって!
この世界の化粧は、前世の時代の一昔前の遅れた化粧だから。
これでもかと白粉を塗りたくり、真っ赤な紅を引く。凹凸もないのっぺらとした化粧。どうしても前世の記憶が引きずって、この化粧をする気が起きない。
そんな化粧をするのなら、すっぴんの方が何倍もいい。
「さてと湯浴みをするか」
着ていた衣類を脱ぎ捨て、部屋の奥に隠してある浴槽に、特製の薬湯をためていく。
「もう良いかな?」
薬湯がたまった湯船にドボンと入る。
「ふわぁぁぁ気持ち良い」
この薬湯で体や髪を洗い流す。
「ふぁ~さっぱりした」
ずっと厚塗りの化粧をしていたから、毛穴が息をしているようだ。
「本当はこんな化粧したくないんだけどな」
月明かりに照らされ、陶器のように白い肌が露わになる。
同時に燃える炎のような真紅の赤髪も。
本当の私は浅黒い肌でもないし、赤褐色の髪色でもない。
お父さんの髪色は金色、お母さんの髪色は茶色、なのに私の髪色は燃える赤。
この髪色と肌の色はどうやら、素晴らしい導術使いだったご先祖様の髪色と同じなのだとか。だから私が生まれた時、『この子は凄い導術使いになる』と思っていたとおばあちゃんが前に話してくれた。
だけど『その姿は田舎のこの村じゃ目立つから』と、父や母それにおばあちゃんにまで言われ、ずっと姿を偽り目立たなく生きてきた。
結局、龍宮殿に入ることになってしまったけれど。
さっきの薬湯を作るのだって、導術を練りお湯を出した。
龍王国ではその特殊な技術を、龍術というらしいけど。
私ができる導術も、村に住む者ならみんなできる事。
風を操る事が出来たり、火を付けたりと村での生活に役に立てていた。
私の場合は水を操る導術に優れていて、私は無限に水を作り出せるのだ。だからこんな贅沢な使い方をしている。
優れた水の導術使いで、おけ一杯にする程度の水しか出せない。
なので……これも秘密にしなさいと、おばあちゃんから注意された。
今思えば、私の住んでいた村は特殊だったのかも知れない。
なぜなら龍宮殿に来て、導術を使える人にあった事がないからだ。
私は村を出た事がなかったから、それが凄いなんて思ってもなかった。
だから仲良しの明々でさえ導術のことは知らない。
いづれこのことを説明する日が来るのかも知れないけれど。
「……わぁ」
窓からさす神々しい月明かりが私を照らす。
「今日は……月が明るい」
……ふと『また月明かりが眩しい日に会おうぞ』そう言われた名前も知らない龍人の事を思い出し、頬が熱くなる。
薬草も補充したいし……別に……会いたいわけじゃないんだよ。
うん。そう。薬草が欲しいし……樹の木さんにも会いたいし……それに、約束してるわけじゃないし……。
独り言をブツブツいいながら自分で自分を納得させる。
「よし。樹の木さんに会いに行こう」
せっかくおとした化粧をもう一回するのが嫌だったけれど、こればっかりは仕方ない。この姿を見せる訳にはいけないのだから。
私は再び、薬草を煎じて髪と体の色を変えるのだった。
そして早る気持ちを抑え、あの場所に走って行った。
『ほう……また会えたの』
「あ……っ」
樹の木の下で……私を見つけた龍人は、この前と同じように私に向かって美しく笑った。
★★★★★
読んで頂きありがとうございます。
この作品は私にとっては初めての作風にチャレンジしており、読者様がちゃんと楽しんで頂けてるのかと、不安で更新するたびに毎回ドキドキしております。
お話を読んで少しでも面白い続きが読みたいと思って頂けたなら、コメントなどで教えて頂けると、今後の指針となり凄く凄く執筆の励みになります。よろしくお願い致します。
噂話は真となり、後二週間したら龍王様がこの二百五棟を訪れる事が、正式に決まった。
それを聞き。
私たちが住むお屋敷は、日増しに騒がしくなって行く。
龍王様の目に少しでも止まって欲しいと、みんな着飾る事に必死なのだ。
と言っても私たち平民は、龍宮殿に入る時に用意してくれた衣装以外持ってないので、これと言ってする事は何もない。
あるとしたら、化粧や髪結で綺麗に見せることくらいだろうか?
「翠蘭はさぁ? 綺麗な顔をしてると思うのに、何で化粧も何もしないの?」
私の横であーでもないこーでもないと、目立つ化粧を模索している明々が首を傾げる。
「う~ん……。化粧をした所で、選ばれる訳がないと思ってるからかな?」
「そんなことないよ! 選ばれるかもしれないじゃん! 私が龍王様なら間違いなく翠蘭を選ぶもん」
「それはありがと。でも私は良いよ」
「浅黒い焼けた肌だって、この白粉を塗ったら綺麗に見えるよ? 塗ってあげようか?」
明々が白粉を片手に近寄ってきた。
「わっ? 大丈夫だよ。私は良いから明々のお化粧をしよ? 私こう見えてもお化粧上手いんだよ?」
「ええ? 翠蘭が化粧上手いって? 普段全く化粧してないのに? そんなの信じられないよ」
「本当だって! ほらっ、してあげるから」
私は明々から白粉を奪い取り化粧をしようとするも。
「良いよ~っだ。またねぇ」
全く信用がないのか、逃げられてしまった。
「本当に化粧上手なんだけどな」
部屋のソファーに座り、ふと過去を思い出す。
この記憶を過去と言って良いものか?
詳しくは分からないが、私には生まれる前の記憶がある。
前世の記憶と言うやつらしい。
名前も覚えてないし、顔すら思い出せない。
でも明確に覚えているのは科学と言う機械が発達していて、平民差別のない平和な国だったと言う事。
そこで私は歴女というオタクだった。
オタクの正確な意味も正直怪しいが、歴史をこよなく愛する変わった女だった様に思う。
仕事は他人の顔に化粧をするお仕事をしていた。だからこそ、もっと良い化粧の仕方があるのにと思ってしまうのだ。
だってだって!
この世界の化粧は、前世の時代の一昔前の遅れた化粧だから。
これでもかと白粉を塗りたくり、真っ赤な紅を引く。凹凸もないのっぺらとした化粧。どうしても前世の記憶が引きずって、この化粧をする気が起きない。
そんな化粧をするのなら、すっぴんの方が何倍もいい。
「さてと湯浴みをするか」
着ていた衣類を脱ぎ捨て、部屋の奥に隠してある浴槽に、特製の薬湯をためていく。
「もう良いかな?」
薬湯がたまった湯船にドボンと入る。
「ふわぁぁぁ気持ち良い」
この薬湯で体や髪を洗い流す。
「ふぁ~さっぱりした」
ずっと厚塗りの化粧をしていたから、毛穴が息をしているようだ。
「本当はこんな化粧したくないんだけどな」
月明かりに照らされ、陶器のように白い肌が露わになる。
同時に燃える炎のような真紅の赤髪も。
本当の私は浅黒い肌でもないし、赤褐色の髪色でもない。
お父さんの髪色は金色、お母さんの髪色は茶色、なのに私の髪色は燃える赤。
この髪色と肌の色はどうやら、素晴らしい導術使いだったご先祖様の髪色と同じなのだとか。だから私が生まれた時、『この子は凄い導術使いになる』と思っていたとおばあちゃんが前に話してくれた。
だけど『その姿は田舎のこの村じゃ目立つから』と、父や母それにおばあちゃんにまで言われ、ずっと姿を偽り目立たなく生きてきた。
結局、龍宮殿に入ることになってしまったけれど。
さっきの薬湯を作るのだって、導術を練りお湯を出した。
龍王国ではその特殊な技術を、龍術というらしいけど。
私ができる導術も、村に住む者ならみんなできる事。
風を操る事が出来たり、火を付けたりと村での生活に役に立てていた。
私の場合は水を操る導術に優れていて、私は無限に水を作り出せるのだ。だからこんな贅沢な使い方をしている。
優れた水の導術使いで、おけ一杯にする程度の水しか出せない。
なので……これも秘密にしなさいと、おばあちゃんから注意された。
今思えば、私の住んでいた村は特殊だったのかも知れない。
なぜなら龍宮殿に来て、導術を使える人にあった事がないからだ。
私は村を出た事がなかったから、それが凄いなんて思ってもなかった。
だから仲良しの明々でさえ導術のことは知らない。
いづれこのことを説明する日が来るのかも知れないけれど。
「……わぁ」
窓からさす神々しい月明かりが私を照らす。
「今日は……月が明るい」
……ふと『また月明かりが眩しい日に会おうぞ』そう言われた名前も知らない龍人の事を思い出し、頬が熱くなる。
薬草も補充したいし……別に……会いたいわけじゃないんだよ。
うん。そう。薬草が欲しいし……樹の木さんにも会いたいし……それに、約束してるわけじゃないし……。
独り言をブツブツいいながら自分で自分を納得させる。
「よし。樹の木さんに会いに行こう」
せっかくおとした化粧をもう一回するのが嫌だったけれど、こればっかりは仕方ない。この姿を見せる訳にはいけないのだから。
私は再び、薬草を煎じて髪と体の色を変えるのだった。
そして早る気持ちを抑え、あの場所に走って行った。
『ほう……また会えたの』
「あ……っ」
樹の木の下で……私を見つけた龍人は、この前と同じように私に向かって美しく笑った。
★★★★★
読んで頂きありがとうございます。
この作品は私にとっては初めての作風にチャレンジしており、読者様がちゃんと楽しんで頂けてるのかと、不安で更新するたびに毎回ドキドキしております。
お話を読んで少しでも面白い続きが読みたいと思って頂けたなら、コメントなどで教えて頂けると、今後の指針となり凄く凄く執筆の励みになります。よろしくお願い致します。
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