上 下
132 / 164
やり直しの人生 ソフィア十三歳魔法学園編

第百八十話 お久しぶりのアイリーンです

しおりを挟む
「アイリーン! こっちの整理は終わったの?」
「はい。終わりました!」
「じゃあ洗濯物を干したら、昼休憩に行っていいよ」
「ありがとうございます。シスター・ベラ」
「ふふっ……あんたも変わったねぇ。初めこの教会に来た時は、どうなるのかと心配していたけれど」
「その事はもう言わないでください。あの時の私は、何も分かってなかったのですよ。反省しています。じゃ洗濯物干してきますね」

 アイリーンはシスター・ベラに軽く会釈をすると、足速に部屋を出ていった。

 そう。このしおらしい女性が、かつてソフィアを陥れようとした貴族ヒロイン。【アイリーン・ヒロウナ】である。
 彼女が当初、この修道院に入って来た時は、言うことを聞かずわがままばかりを言っていた。
 だがここは帝国で一番厳しい教会。
 嫌だと言って何もしなければ、食事やお風呂など身の回りの物を与えて貰えない。働かざる者食うべからずの精神。場所は離れ孤島にある極寒の教会。外は常に雪で覆われていて、一歩外に踏み出せばものの十分で凍ってしまうだろう。
 ———そう。
 一度この教会の中に入ってしまうと、逃げる事など出来ないのだ。
 だから嫌だとしても、ここのルールに従うしかない。

「はぁ……ほんっと、ここに来た時は地獄だと毎日恨み言や文句ばかり言っていたなぁ」

 パンっと衣類を広げてアイリーンは器用に干していく。
 少し過去の自分を思い出しながら。

「アイリーン。こんにちは、今日は洗濯日和ね」

 沢山干された洗濯物の隙間から、ひょこっと顔が出てきた。

「わっ! ララ。こんにちは、もう洗濯物は終わったの?」
「ふふっそうよ。この後昼休憩だから、今から昼食を取ろうと思って」
「あら! じゃあご一緒しない? 私もこれが終わったら休憩なの」
「オッケー。じゃあ先に行って食堂の良い場所取ってるね」

 ララは軽くスキップしながら食堂に向かった。

「ふふ……いつもララはご機嫌なんだから」

 ララがいなければ、今の私はいなかっただろう。

 ワガママと文句しか言わない私に、最後まで根気強く話しかけてくれたのは……彼女だけだった。
 初めは元侯爵令嬢の肩書きもあり、皆が興味津々とばかりに話しかけてきていたんだけど……私の態度の悪さに皆すぐに離れて行った。
 それも拍車をかけ余計に修道院ここが嫌になった。
 もう死んでも良いと思っていたのに、それすら出来なかった意気地なしの私。

 窓もない牢屋みたいな部屋で過ごす毎日。
 そんな私の部屋にララだけが、最後まで遊びにきてくれ話しかけてくれた。毎日何気ない話をするだけなんだけど。
 でもそれが私の心を癒し、人生観を変えた。
 ここに来て私は色なことを学んだ。
 前世も含め、この修道院に来るまでの私は自己中で、周りを見ることの出来ない人間だったと、今は思える。
 過去の私は、周りにいる人は自分のために動く、都合のいい道具か何かと勘違いしていた。
 今はちゃんと、みんなそれぞれ個性の持った人間だと考えられる。
 だからと言って、今まで自分がしてきた事が許される事ではない。
 分かっただけ良かったのだと。できる限りここで頑張ろうと思える。

 今思えば、ソフィアとララは少し似ているのかも知れない。 
 ソフィアも何だかんだと文句を言いながらも、私のわがままに毎回付き合ってくれていた。
 私の態度が違えば、もしかしたら今のララのように仲良くなれたのかも知れない。

 ソフィアといえば。

 そういえば……そろそろダンジョン研修があるんじゃ。
 基本はヒロインとアイザック様が魔獣を討伐しそれで仲良くなって終わるイベントなんだけど……あれ実は隠しルートって言われている悪魔デスルートがあるんだよね。

 もしデスルートに入っちゃうと、かなりの人が死ぬ。

 まぁ……ソフィアの存在自体が例外だし……そんな裏ルート発生しないと思うんだけれど。
 もし……条件を満たしてしまうと…… いやっ。大丈夫よね。

 アイリーンはブルルっと顔を横に振った。

「さてと……終わったしララの所に行こうっと」

 ……そういえば国王様にデスルートの発生条件って言ったっけ? 

 そもそもデスルートの話ってしたかなぁ?

 ええと確か、発生条件は攻略対象の四人が揃う事と、王族が二人揃う事なんだけれど……。
 もし、学年の違うファーブル様とアレス様が来ちゃったとしても、アイザック様のお兄様であるジャスパー様が来るはずないし……大丈夫でしょ。
 前世でもデスルートにワザと入ろうと頑張る人も多数いたけど、誰も入れなくてネットで話題になったほどだもん。うんうん。

 考え事してたら、遅くなっちゃった。早く行かないとララが待ってる。
 
「今日のランチは何かなぁ?」


 この時アイリーンが、不穏な予言をしていたなんて、誰も知らないのであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。