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ルチア十六歳、魔法学園編

森の調査

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『ふうむ、此れは確かに妙だの』

 森の入り口に皆で転移して来た時に、シェラ様が不思議そうに話す。

 森の調査には私、シェラ様、白ちゃん黒ちゃん、獣王様、ミミィさんのメンバーで来ている。

ーールチィ!ー来たのー?
ーーこの森ダメ!
ーー絶対ダメー危険ー
ーー心配ーやめよー

 わっ!!
 妖精さん達がいっせいに集まって来て口々に話す。皆、危険って言ってる。

「ルチィ様。妖精達が森に入るなって言ってますね!」
「うん。凄く心配してるね。」

 ミミィさんと私は、妖精さん達から森に入るのを必死に止められている。

『この森は不自然だの。人為的に作られておる』
ーーそうだな! この森から何のエネルギーも聖力も感じない。
ーー森が死んでいる。この森はエレヴァンの奴等が作ったんだろうね。

『何とも気持ちの悪い。こんな所にルチィを連れては行けぬ。帰ろうかの』

 シェラ様は私を連れ移動しようとする。

「ちょっ! 待ってくれお願いだ!」

 帰ろうとするシェラ様を、必死に獣王様が止めている。

 余りにも獣王様が可哀想なので、私も本心は行きたくはないけど……。

「シェラ様! 私の事はシェラ様や白ちゃん黒ちゃんが守ってくれるんでしょう? だから大丈夫!ねっ。行こうよ」

『うぬう……』

 わっ!?

 シェラ様が私を抱き上げる。

『ならば、我がルチィを抱いて入ろう』

 抱っこは恥ずかしいけど、森が怖かったから、内心は凄く安心する。


 森の中は鬱蒼として気持ち悪い。
 木々からは生気も感じない。
 普通の森の中なら、妖精さん達が飛び回りキラキラしているのに。
 本当にこの森は異常だ。

『ふうむ?』

 何かの気配を察して、シェラ様が私を隠す様に抱く。

「魔獣だ! 気をつけろ!」

 現れた魔獣は大きな熊の魔獣。
 頭にツノが三つも生えてる。顔の半分は鉄のツギハギ。

ーーなんて事を。あの魔獣から妖精の気配を感じる。
ーーああ、許せないな。

「魔獣に妖精の気配? そんな……」

ーールチィも良く見てみろ! 妖精の気配を感じ取れる筈だ。

 白ちゃんが悲しそうに私に魔獣を見ろと言う。

 怖いけと……私は目を逸らさずに魔獣を見る。
 顔の部分から妖精さんの気配を感じる。

ーー苦し……ー嫌。

 これは、妖精さんの声?


「妖精さんの声がする」

ーーああ、ずっと苦しんでる。楽にさせてやりたい。
ーーあの魔獣の頭に妖精を埋め込んでるんだ。魔獣は妖精の力を吸ってあんな異形な姿になってるな。

「妖精さんを助ける事は出来ないの?」
ーーそうだなまずあの魔獣をどうにかしないと。
ーーシェラよ! あの魔獣の顔を傷付けないよう。倒してくれ。

『ほう……顔だけな。簡単だ』

 パチンッ
 シェラ様が指を鳴らしたと思ったら、魔獣の首から下が消えていた。
 いったい何をやったの!? 凄すぎる。

 私達は残された顔に近付く。

ーー痛いー苦しー

 妖精さんの声が、苦しんでる。早く助けてあげたい。

ーーこの鉄の魔道具に妖精を……くそっ許せない。
ーールチィ一緒に手を合わせて。妖精の事を考えて。
 私は白ちゃんの前足を握ると、一緒に魔道具を触る

バリン!

 次の瞬間魔道具が割れ、今にも消えそうな小さな光りが、フヨフヨ現れた。

ーーあれっ? 痛くない?ー

 妖精さん!
 ふよふよと、私の手のひらに小さな光がのる。

ーーあっ!ールチィーこの森ダメー

 自分が消えてしまいそうなのに、私の心配をしてくれる。

ーー元気ないーどした?ー

 自分の方が苦しい筈なのに。

 私は優しい妖精さんに心配をかけない様に、思いっきり笑う。

ーーふふー笑うールチィ好きー

 そう言ってニコリと笑うと、消えてしまった。

「妖精さん! 妖精さん!! ヤダッ嫌だぁ。白ちゃん! 黒ちゃん! 妖精さん助けてよぉ。お願い…………お願いだから!!」

 さっきまで妖精さんが乗っていた、手のひらをギュッと握りしめ泣き崩れる。

 白ちゃんと黒ちゃんは何も言わずに、静かに私の横に座った。
 シェラ様はずっと心配そうに頭を撫でてくれている。

 私は……妖精さんが消えてしまった現実を、受け止められずにいた。
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