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エスメラルダ帝国

次の行先からの人助け

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 さてと……ここまで遠くに来たらもう大丈夫か? 
 俺は走って来た背後を振り返る。

「うん。後をついて来てる奴らもいねーな」

『そうでちね。ワレのサーチで確認しても大丈夫でち』
 
 琥珀が光らせなくても良いのに、眼をピッカーと光らせサーチ魔法で確認してくれた。

「そうか。ありがとうな琥珀」

『ふふふ。まぁワレからしたら余裕でちがね?』

 背中をこれでもかと思いっきり逸らし、琥珀が少しドヤる。
 ……まぁいつものことだが。

「うゆ!」
『キャンキャ!』
『わっちょっ!』

 稲荷と銀狼が琥珀に飛びつく。
『こんな時は逃げるでち!』
 それを琥珀が交わし逃げると、三匹の追いかけっこが始まった。

「わりぇ! まちぇ!ちぇ!」
『キャッフ』
『ふふふっ。ワレに追いつくことは不可能でち!』

 ……楽しそうで何より。

 とりあえず、ここで一旦休憩するか。
 次の行き先も決めないとだし。ええと、こんな時は地図の出番だな。
 地図をピラリと広げると、我路が横から覗き込んで来た。

『次の目的地ですか?』
「そうなんだ。闇雲に歩いても意味ないからな。地図を拝借してて良かったぜ」
『で? 乱道様は何処の国へ行こうとお考えで?』

 どこの国か……そうなんだよな。少し悩む所だ。

 地図を見る限りではエスメラルダ帝国から近い国は二つ。

 獣人が支配している国【ヴィルヘルミナ帝国】それともう一つは【魔導国家エヴィル】距離的には……どっちもそんな変わらないか。

 う~む……ちょっと迷うぞ。

 ヴィルヘルミナ帝国は獣人が王様ってくらいだから、色んな種族の獣人がいるんだろうな。魔導国家ってのも気になるし……困った。

『何を悩まれているのですか?』
「ん~? ヴィルヘルミナ帝国と魔導国家エヴィルのどっちに行こうか決めかねててさ?」
『なるほど……ふむ』

 我路は顎に手を当てて、少しの間考え込んでいる。
 何か俺に提案してくれようと悩んでいるのか?

『ええと私が思うに、ヴィルヘルミナ帝国に行けば稲荷様の種族である【幻獣族】について何か分かるかも知れないと思いまして。獣人が支配している国ですので、人族の国にはない文献などもあるかも知れないかなと』

「稲荷の……?」

 ……なるほどな、我路の言っている事も一理あるな。人族にはない文献がありそうだよな。
 魔導国家も気になるが、稲荷の謎の方がもっと知りたい。
 それにだ。どうやったら九尾の狐になるのかも、未だ分かんねーし。
 今の所は幼子のままだが……急にあの姿に変化されても困る。

「よし! 我路の言うようにヴィルヘルミナ帝国に行くか!」
『ふふふ。賛同頂き至福の極みでございます』

 我路は胸に手を当て軽く会釈した。

「おっおう」

 ……って事で、ヴィルヘルミナ帝国に行くには……っと。
 大きな森を二つ抜けて、かなり遠回りになるが街道もちゃんとあるみたいだな。
 その後、山越えしたら……国境の街リモットに到着と。そこを抜けたらヴィルヘルミナ帝国か。

 って事は、国境の街を通らないと、ヴィルヘルミナ帝国に行けないって事だよな? 

 ……これって大丈夫か? 無事に国境の街を通過出来るんだろうか。

 

 ……なんか不安になってきた。


★★★


 色々と先の事を考えると少し不安になるのだが、まぁ……考えても仕方ない。
 今は前に向かって進むのみ。

 俺は地図を片手にヴィルヘルミナ帝国に向かって歩き出した。

『はははっ! この琥珀様を捕まえる事は誰もできないでちー!」
「わりぇ! わりぇ!」
『キャウ! キャウ!』

 琥珀がマントを首に巻き、稲荷達から逃げ回っている。

 怪盗琥珀ごっこと言う遊びらしい。
 何だその遊びは。

 俺が琥珀達を横目に歩いていると。

『……乱道様。この先で悲鳴が聞こえます』
「なっ? 本当か我路!」
『間違い無いですね。この街道を北西の方角に、五キロ程進んだ辺りでしょうか?』

 我路が北西に向かって真っ直ぐ指をさす。

『どうしますか? このまま進むと出くわす事になりますが。森に入り回避しますか? それとも助けに行きますか?』

 我路が、無視するか助けるかどうする? と聞いてきた。

 俺は別にお人好しでも何でもねーが……流石に聞いちまうと、無視するのは夢見が悪りい。

「……助けるよ!」
『了解です。では急ぎましょう』

 我路が先導してくれる後を俺はついて行く。

「らんちゃ!」

 それにいち早く気付いた稲荷が、俺の背中に飛び乗ってきた。すばしっこい幼狐だ。

『む? らんどーちゃま!? 急にどうしたでち?』
『キャウウン』

 その後をわちゃわちゃと戯れながら、琥珀と銀狼が付いてくる。
 危機感の無い奴らだぜ……全く。




 現場に到着すると……その惨状の酷さに息を呑む。

「……これは、酷いな」

 我路の言っていた通り、五キロ走った先で馬車が横転しその馬車を守るように人と魔物が争っている。
 …………馬車の中に人が倒れている? それを守っているのか?
 中にいるのは……女か? 獣人の?

 そんな中、最後まで戦っていた人が倒れた。もうマトモに立っている人は居ない。
 みな虫の息だ。
 魔物たちが馬車へと近付いていく。

『さぁ乱道様。私を使う練習ですよ?』

 我路が日本刀の姿に変身した。
 この力……加減を間違えると、後でとんでもない事になるからな。

 前みたいに倒れないようにしないと。

「行くぞ!」

 俺は我路を握りしめ、馬車に向かって走っていく。
 近付くと魔物の姿形が良く見えてきた。
 あれは緑色の魔物……確かオークと言ったか? それが五……六匹。

 それに大きなツノの生えた魔物が一匹か。あいつがボスっぽいな。

「……よしっ」

 俺は我路を抜刀した。
 たちまち反り返った細身の刀身が冷たく光り、獲物を捕らえて離さない。
 いつでも狩れると輝きを増していく。


 前は我路に振り回されているだけだったが、今回は自分で動いてみる。
 それが分かっているのか、我路も前回の時のように勝手に動いてはくれない。

 剣先をオークに向けると、瞬時に懐に入り込み腹を一太刀で掻き切った。

「なっ……だんだこの感触は。空気を斬ったみたいだ!」

 思わず声を出し驚いていると。

『ふふっ何を今更? 私の力をみくびって貰っては困りますね』

 我路がさっさと片付けろとでも言ってるかの様に、剣先から闘気が溢れ出る。
 この前の時のように、闘気を纏い刀身が何倍もの長さへと変化する。

「……力が」

 我路の力が体中を巡っているのがわかる。
 指先から掌に力を集中させ、俺は右脚に力を入れ強く踏み込んだ。

 次の瞬間。

 長くなった刀身を、横から真一文字に薙ぎ払った。

「へっ!?」

 カチリっと音を立て、我路の刀身が鞘に戻ると同時に。

 全ての魔物の体が真っ二つに綺麗に切られ、上半身がズズズっと地面へと崩れ落ちた。

 あれ? ボスっぽい奴も一緒に倒しちまったのか?

『ふふ見事な刀捌きでしたよ?』

 人型に戻った我路が誉めてくれるが、これは後の反動がやばい様な気がする。

「…………あのぅ」

 馬車に隠れて見ていた獣人が、恐る恐る近づいてきた。

「あなた方がボク達を……!?」

 大きな長い耳が二つ……コイツはウサギ獣人か?
 
「……ボクはキャロと言います。助けて頂き有難う御座います」

 キャロと名乗ったうさぎ獣人が大きな耳を揺らせながら、頭を深々と下げる。

「ああ……気にするな。俺は乱道だぁ!?」

 握手しようと手を伸ばしたまま、俺は膝から崩れ落ちた。

 これは……またか。前より早くなってねーか?

 やっぱりな……力を使い過ぎたと思ったんだよな。

 

 ———などと考えながら俺は意識を手放した。


 
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