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エスメラルダ帝国

反動

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「なっ何だってんだ……はっはぁ」

 やべえ……起き上がりたいのに、それすらできねぇ。
 体が鉛に入れ替わったんじゃねーかってくらいに重たい。

 何だって急にこんな事になるんだよ。

『らんどーちゃま! 大丈夫でちか?!』
「らんちゃ! らんちゃ!」

「あぐっ!」

 琥珀と稲荷が心配し、倒れた俺の背中に乗ってきた。
 いつもならこれくらい何ともないんだが、今はクッソ大きな石が、背中にふたつ乗っているみたいだ。

 琥珀の柔らかい肉球までもが、ポニポニする度に痛く感じる。

『これは……私を使った反動ですね』

 そんな俺の姿を我路が見て、顎に手を当てクスリッと微笑む。

 おいおい何だって!? 

「……はんっ……動って!?」

 くそっ、声を出すのもきつい。

『緊急事態でしたので、説明を省かせて頂きましたが。私の力は、乱道様の生気や体力のエネルギーを使って、発動する事が出来るのです」
「はっ? 俺の生気や体力? ……だと?」
『はい。ですから乱道様のレベルや筋力値が低い場合は、今のように後で力の反動が起きます』

 そう我路は淡々と話す。

 確かに言うように、緊急事態だったのは分かる。

 …………だがな我路よ? 

 解体の時には、もう落ち着いてたんじゃねーのか?

 あれがトドメになって、俺は床と抱き合ってるんじゃねーのか?

 なぁ我路さんよぉ? お前もしやわざとこの状況になるようにしたんじゃ?

「お前なぁ……そんなっ……重要な話。一番……っ初めに言ってくれよ……」

『申し訳ありません。我が崇拝する主、乱道様なら反動など起きないと思っていましたので』

 我路はそう言って、申し訳なさそうに眉尻を下げ、腰をおり深々と頭を下げる。

「ぐっ……」

 そう言われたら何も言えねぇ。

『明日からは、私を使いこなせるようになるための、修行が必要ですね』
「えっ……修行?」
『ええ。乱道様にはもっと強くなっていただかないと』

 我路は口角を少し上げてふんわりと笑う。
 そして家事をすると言って調理台に戻っていった。

 やっぱりその顔は身をもって分からせたかったんだろ!?
 今の俺は体力も筋力もねーって!

 分かったよ!やってやんよ!

 ……だけど、なぜだろう。明日から始まる修行の事を考えると、少しゾクッとするのは。

 ……うん。きっと気のせいだ。


★★★



『おはようございます乱道様』

 ———もう朝なのか? 

「……ん? ああ。我路おはよう」

 朝っぱらから、イケオジは眩しいな。

『お体の調子はどうですか?』

 我路が少し心配そうに俺を見る。

「……体?」

 ———そうだ。

 昨日は全く動けなくって……ああああっ! 思い出したくない事を思い出しちまった!

 俺、我路にお姫様抱っこされて、このベットまで運ばれたんだった!

 もうこのまま床で寝るって言ったのに!『主を床で寝さすのなんて以ての外』とか言ってさ。

 くそう。イケオジに抱っこされるとか! 一生の不覚。

 その後……俺はそのまま倒れて寝ちゃってたのか?

 そういや肉祭りはどうなったんだ?

 そんな事を考えていると、腹の音が盛大に腹が減ったとアピールしてくる。
 
『お腹空いていますよね。昨日は疲れはてて何も食べず、倒れるように眠りにつかれましたから』

 何も食べないで……よほど体力を奪われたんだな。

 我路の力は最強だが、気軽には使えないなと身をもって体感した。

『では私は朝食を用意しますね』と我路は奥にある調理台に歩いていった。

 我路のやつは、なんて出来る男なんだ。
 男じゃなかったら嫁にもらってる。

『うう~ん。むにゃ……もう食べれないでちよう』
「……うゆ」

 俺の横で盛大なイビキをかきながら寝ている、虎の王である白虎の琥珀は、まだ気持ちよさそうに夢の中。
 その横で稲荷も気持ち良さそうに寝ている。

 クククっ何とも間抜けな白虎様だ。

「むにゅむゆっ……」

 どうやら稲荷も夢の中で、何か食べているみたいだな。自分の尻尾を舐めている。

 俺は二匹を起こさないようにそっと静かにベットから降りた。

 さて今日こそ身分証を作って貰うぞ!

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