上 下
36 / 77
エスメラルダ帝国

宿屋

しおりを挟む
「……良いタイミングのご帰還で」
 
 呆れたように声をかけると。

「おいっ! あのドラゴンは何処に行ったんだ? ドラゴンに乗っていた男達も!」

 ギルマスが俺の嫌味を無視して、一方的に質問してくる。……ったく人の話くらいちゃんと聞けっつーの。

「はぁ……っ。ドラゴンは俺が倒したよ」

 そうぶっきらぼうに言うと、ギルマスはギギギっと動きの悪い人形のように、ゆっくりと首を回し俺をみる。

「はあああああああああ!?」

「うおっ!? 急にデカい声出すなよ! 心臓に悪いだろ? ったく」

「そう言う問題じゃなくてだな! あれはAランク魔獣なんだよ! Aランク冒険者やAランク魔法師が、十人集まっても勝てるかどうかってくらいヤバイ魔獣なんだよ! 一体でだぞ? それが二体も居たんだ!」

 ギルマスが暑苦しい顔を近づけてきて、声を荒げる。

 これ以上は頼むから近寄んないで。マジ勘弁。

「それをお前一人で片付けたとか!? すんなり受け入れられる訳ねーだろ!」

「……そんなキャンキャン大声で喚かなくても聞こえてるよ!」

「乱道様。このバカにでも分かるように魔石を見せたらどうですか?」

 ギルマスと俺の間に我路が割って入ってきた。

「魔石?」

 我路の言葉に、ギルマスの眉がピクリと上がる。我路は俺を見て優しく微笑む。

 なるほどな、魔石を見せたら討伐したのも一目瞭然だな。

「ほらっ! これで納得したか?」

 俺は大きな魔石を二つギルマスに見せた。

「…………!! これはっ……ゴクッ」

 ワイバーンの魔石を見てギルマスが生唾を飲み込む。

「こんなに大きな魔石……長年ギルマスをやっているが初めて見た。ワイバーンの魔石の中でも極上最高レベル……ゴクッ」
 
 ギルマスが目を見開き、瞬きするのも忘れ驚いている。

「ってことで理解してもらえた?」
「…………ぐぬぬ。せざるをえない」
『乱道様良かったですね』

 会話を静かに聞いていた我路が、そう言ってニコリっと微笑む。

 時間がかかったが、やっと理解して貰えた。

 これで、冒険者証(身分証)を作って貰える。

「じゃあ俺の事は、魔力なしではないって事も、理解してもらえたな? 身分証を作ってくれよ?」

「……もちろん分かっている。だが今日は、いきなり現れた魔獣の処理もあるし、明日ちゃんと発行しよう」

 ギルマスがそう言うと、他の奴らのところへと歩いて行く。
 
 はぁ……長い1日だったぜ。俺は大きなため息を吐いた後、両手を伸ばした。


★★★




 城下町イスカンダルにある、冒険者ギルドにみんなで戻ってくると、サラサが俺に向かって慌てて走ってきた。

「乱道様! お疲れ様です。魔獣討伐は大丈夫でしたか?」

 サラサが心配げに聞いてくる。

 まぁもちろん何もなかったので、大丈夫だとサラサを安心させる。
 俺のどんでもないヤラかしの事は触れずに、どうだったかサラサに話す。

「なぁサラサ? この街にある宿屋で、調理器具が部屋にある所か、調理場所を貸してくれる宿屋を知らねーか?」

 我路が料理を作ってくれると言っていたからな。ドラゴンの味も気になるし……

「……それなら。【六花亭】がオススメですね。調理場がついている部屋もあります。このギルドを出て右に真っ過ぐに歩いて行くとあります」

「そうか。ありがとな、早速行って見るよ」

 報告も終わり、ギルドを出てサラサが教えてくれた六花亭を目指して歩いていく。

「……これはなんて豪華な」

 六花亭は俺の想像を遥かに超え、豪華な宿屋だった。

 イメージは高級な旅館って感じだな。
 だがその見た目に反して、宿泊代金は意外と安くて驚いた。
 サラサに良い宿屋を紹介してくれてありがとうって後で礼をいわなきゃだな。

「ふぅ~疲れたな」

『乱道様は少し寛いで居てくださいね。チャチャっと料理をお作りしますので』

 我路が部屋に備え付けられた調理場に立ち微笑む。

 その姿は何ともカッコイイ。
 何をやっても絵になるとか、イケおじめ! ずるい。

 などど一人考えていたら……急に体に衝撃が!

「あが!? かっ体が!?」

 俺はあまりの痛さと怠さに、床に倒れ込んだ。

『らんどーちゃま!? どうしたでち!?」
「らんちゃ!?」




 
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

オタク教師だったのが原因で学校を追放されましたが異世界ダンジョンで三十六計を使って成り上がります

兵藤晴佳
ファンタジー
 30代の国語教師・仮屋真琴は中国兵法に詳しいTRPGオタクである。  産休臨時任用で講師を勤める高校の授業で、仮屋はそれを隠すどころか、思いっきり晒していた。  報いはてきめんに表れ、「兵法三十六計」を使った授業を生徒に嫌われた彼は契約更新を断られてしまう。  むくれる彼は田舎へ帰る次の朝、寝ぼけ眼で引っ越し屋を迎えに出た道で、行き交うダンプカーの前に歩み出てしまう。  遠のく意識のなか、仮屋の目の前に現れたのはTRPGのステータスとパラメータだった。    気が付くと、掟破りの四畳半ダンジョンの中、ゴブリンに囚われた姫君が助けを求めてくる。  姫君の名は、リントス王国の王女ディリア。  亡き先王から王位継承者として指名されたが、その条件となる伴侶のあてがないために、宰相リカルドの妨害によって城内での支持者を得られないでいた。  国内を荒らすモンスターの巣食うダンジョンを自ら制圧することで女王の器を証明しようとしていたディリアは、王家に伝わる呪文で仮屋を召喚したのだった。  その健気さに打たれた仮屋は、異世界召喚者カリヤとして、ダンジョン制圧を引き受ける。  仮屋は剣を振るう力のないオタクなりに、深いダンジョンと無数のモンスター、そして王国の内乱へと、ディープな雑学で挑んでゆく。  授業でウケなかった「兵法三十六計」は、ダンジョンのモンスターを倒すときだけでなく、ディリアの政敵への牽制にも効果を発揮するのだった。  やがて、カリヤのもとには2回攻撃の騎士団長、宮廷を追放された魔法使いと僧侶、暗殺者、街の悪党に盗賊、そしてエルフ娘にドワーフ、フェアリーにレプラホーンと、多くの仲間が集う。  いつしかディリアの信頼はカリヤへの恋に変わるが、仮屋誠は自分の齢と職業倫理で自分にブレーキをかける。  だが、その一方でエルフ娘は自分の巨乳を意識しているのかいないのか、何かというとカリヤに迫ってくる。  さらに宰相リカルドに仕える万能の側近カストは忌々しくなるほどの美少年なのに、不思議な色香で夢の中にまで現れるのだった。  剣と魔法の世界に少年の身体で転移した中年教師。  兵法三十六計でダンジョンを制圧し、王国を救えるのだろうか?    王女の恋に巨乳エルフの誘惑、美少年への劣情というハーレム展開に始末がつけられるのだろうか? (『小説家になろう』様、『カクヨム』様との重複掲載です)

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

処理中です...