4 / 77
エスメラルダ帝国
ウソだろ!?
しおりを挟む歓喜に満ちた大歓声の中。
俺の目の前には体長十メートルはあるんじゃなかってくらいの、大きな亀が威風堂々と姿を現した。
「嘘だろ……!? なんであいつは召喚できるんだよ?」
あいつも俺と同じで、デタラメを言ったんじゃなかったのか?
カメを見た爺さん達は、抱き合って喜んでいる。
召喚した本人が一番びっくりしているのか、クソでかいカメを呆然と見つめていた。
「おいお前! なんで詠唱の言葉が分かるんだよ!」
俺は思わず男の所に走り寄り「なんでだよ」と問いかけた。
「わっ……私にもよく分からないのですが、腹に描かれているカメを召喚したいと思ったら、目の前に詠唱の文字が浮かび上がってきたのです。それをそのまま読んだら……召喚できました」
「なっ!? マジで?」
「はい」
嘘だろ? 目の前に文字が浮かび上がる? 俺の時はそんな事なかったぞ?
やはり俺のは偽物だからか? ただのタトゥーじゃ召喚できないってか。
くそっ、異世界チートはなかったんかぁ!
「うおっ? 痛っ!?」
爺さんたちが押し寄せ、俺にぶつかってきた。
男の横で茫然自失となっていた俺を、爺さん達がまるで要らないものを捨てるように、邪魔だと押し退ける。
「さぁ大召喚士様! 次は足に描かれている狼を召喚してください」
「亀の召喚獣は過去にもいましたが、こんなに大きいのは初めて見ました」
男の所に続々と人が集まり、俺はドンドン端に追いやられて行く。
なんだってんだよ。俺の扱い雑すぎ。
「はぁ……」
異世界に来てこの扱い、この先嫌な予感しかしないんだが。
用無しの俺は、この後ちゃんと日本に帰してくれるんだよな?
俺は端っこに座り込むと、ひと時の間爺さん達と男のやりとりを、ただ黙って見ていた。
★★★
「クシュン!」
ううっ、さみぃ~。
あれ? 俺はいつの間にか寝ちゃってたのか?
ただっ広いホールの端っこで、どうやら俺は上半身裸で眠っていたらしい。
……そりゃ寒いはずだ。
辺りを見渡すと、あんなにたくさん居た爺さん達の集団が誰一人いない。
俺一人が、広いホールに取り残されたらしい。
「はぁ!? なんで誰もいないんだよ!?」
誰もいないホールに、俺の声だけが虚しく響く。
ちょっと待ってくれ! みんな何処に行ったんだよ?
いつの間にいなくなったんだ!? 何処かに移動するなら俺も連れて行ってくれよ!
「……困ったな。こんな全く知らない場所、それも異世界で無闇矢鱈と動き回るもんじゃねーよな」
ん?
どうしたら良いもんかと困っていたら、掃除道具を持った三人の男が扉を開け入ってきた。
———よっしゃ!
アイツらに聞いたら何か知ってるかも!
「よしっ」
気合を入れて立ち上がると。
男達がいる場所へと、一目散に走って行った。
「おおーい! ちょっと教えてくれねー……ませんか?」
「「「えっ!?」」」
走りながら声をかけると、一斉に男たちが俺を見て固まった。
なんだ? 様子が変だぞ。
「聖印が……」
「上半身だけで四つも! こんな凄いの見た事ねー!」
「大召喚士様!」
男たちは床に頭を擦りつけるようにして、俺に向かって平伏した。
なんでだよ!
もしかして……このタトゥーを見て、大召喚士様とやらと勘違いされたのか? さっきの爺さんたちと同じパターンじゃねーか。
「ちょっと待ってくれ! そんなことしなくって良いから! 顔を上げて普通にしてくれ!」
なんったって、俺はさっきポンコツの烙印を押されたばっかだし。
「ですが我らは、なんの力もない最下級の下民です。大召喚士様の前で、普通になんて出来ません」
男たちは震えながらにできないと言う。
なんだよ最下級の下民って? 酷すぎるだろ? この国にはそんな階級制度があるのか?
「……最下級の下民って、酷い言葉だな。俺は大召喚士様とやらじゃねぇから、普通にしてくれ」
「大召喚士様じゃない? そんな馬鹿な」
男たちは俺の言う事を全く信じちゃくれねぇ。それほどにこの世界では、このタトゥーの威力が凄いんだな。
「まぁ信じてくれなくても、そうなんだよ! そんでな? ちょっとこの国の事を、教えてくれねーか? 俺は異世界人なんだ。さっきこの国に転移して来たばっかでよ。よく分かんねーんだわ」
そう言うと、一人の男が顔を上げた。
「異世界人様でしたか! そのお話は長老様たちが話していたのを偶然聞きました。沢山の魔導師を使って異世界人を呼び寄せると」
「そうなのか。それだよ、それで俺はこの世界に転移して来たんだよ」
「やはりそうでしたか。その体に描かれた沢山の紋も異世界人様なら納得です」
男が一人勝手に納得して、うんうんと頷いている。
ちょっと違うぞ? 俺のは聖印じゃなくてただのタトゥーだからな。そんな憧れの目で見ないでくれ。俺は何も召喚できないんだから。
自分で言って虚しくなっちまう。
「で……その爺さっ、長老とやらはさ、何処に行ったんだ? さっきまで俺と一緒に、この部屋にいたんだよ」
「ああ、それなら今は異世界人様と宴の最中だと思います。宴の会場はこの塔の隣になります」
そう言って男は、俺を窓に連れて行くとそこから見える塔を指差した。
「まさか異世界人様がもう一人いたなんて、我らが会場まで案内いたします」
「そうか……それは助かるよ。ありがとうな」
俺は男達に連れられこのだだっ広いホールを後にした。
107
お気に入りに追加
1,365
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる