異世界もふもふ召喚士〜俺はポンコツらしいので白虎と幼狐、イケおじ達と共にスローライフがしたいです〜

大福金

文字の大きさ
上 下
1 / 77
エスメラルダ帝国

異世界!?

しおりを挟む



 ぼーっとしてる間に車が走り始めて、ぼーっとしながら僕と繋がれた竜司さんの手を見て、ぼーっとしつつ竜司さんの横顔を眺めてた。
 ……つまり、相当ぼーっとしてたってこと。

「のぞみ、ついたぞ」
「あ、うん」

 どこかのパーキング。
 ぼーっとしてる僕に苦笑して、竜司さんがさっさと車を降りてしまった。
 僕があたふたとシートベルトを外していると、助手席側のドアが外から開けられた。

「竜司さん」
「あんまりぼーっとしてるとこのまま押し倒すぞ」

 ちゅ

 笑みを含んだ言葉を発しながら、竜司さんが僕の額にキスをした。
 したいなら、いいのに。
 僕が、車の中はいや、って言ったから?

「飯、食いに行こう」
「……うん」

 手を引っ張られて車から降りた。引っ張られた勢いのまんま、竜司さんの胸に抱き込まれる。

「どこ?」
「どこだと思う?」
「……えと」

 車の中でもずっと竜司さんを見てたから、いまいちどこらへんに来たのかわからなかったのだけど。

「……あれ?」

 手を引かれてあるき出して、なんか見覚えのある場所だな……って思って。
 『open』の小さなボードだけがかけられた飾り気のないドアの前に立って、ようやく、気づいた。

「竜司さん」
「飯、うまいだろ」

 あ、うん。知ってる。美味しいよね。
 竜司さんがドアを開けると、いつもどおりの鈴の音が響く。

「いらっしゃ――って、竜司か。のぞみちゃんも?」
「あ、あの、こんばんは、です…」

 こんな時間(二十時近く)にマスターのところに来たことなかったから、なんかドキドキする。
 店内には三組くらいのお客さんがいる。
 カウンターの中には、マスターの他にもう一人知らない男性もいる。

「あー、なに。こんな時間に二人して。ほら、のぞみちゃん、いつものとこ座んな」
「あ、うん」

 カウンターのすみっこ。
 腰をぽんぽんと叩かれて、竜司さんからも促される。
 僕がいつもの椅子に腰掛けると、竜司さんは隣の椅子に腰を下ろした。

大志ひろゆき、腹減ったから飯」
「いやいや、だから、ここは飯屋じゃねぇんだよ」
「のぞみも腹空いただろ?」
「うん……」

 パンケーキ分はゲーセンで消費したから、それなりに空いてる。

「ったく……我儘なやつだな」

 と、文句言いつつ、マスターはどこか嬉しそう。

「のぞみちゃん、オムライスでいい?」
「うん」
「じゃあちょっと待ってな」

 マスターは僕の頭を何度か撫でてから、カウンターの奥に入った。

「どうぞ」

 その間に、もう一人の男の人が、僕と竜司さんにおしぼりを用意してくれる。

「……マスターのところに来るならそう言ってくれればいいのに」
「外を見てたら気づくだろ?……まあ、のぞみは俺ばっかり見てるから、気づけなくても仕方ないけどな」

 でも一言くれればいいのに。

「のぞみちゃん、竜司に酷いことされなかったか?」

 奥からひょこっと顔を出したマスターが、すごく真剣な顔で聞いてきた。
 僕はちらっと竜司さんを見てから、ニヤリと笑う。

「いっぱいされた」
「のぞみっ」
「竜司、お前なぁ……」
「でもね」

 カウンターの下で、竜司さんの手を握る。

「すごく楽しかった!」
「そうか。そりゃよかった」

 マスターはそう言って笑うと、また奥に戻って行った。

「……死んだかと思った」

 繋いだ僕の手をぎゅむぎゅむ握りながら、竜司さんは天井を仰ぎ見た。
 ……何故そこまでダメージを受けているんだろう。
 カウンターの中に残ってる男の人は、僕たちのやり取りを見て笑いながらグラスを二つ、僕たちの前に出してきた。
 ロック氷が入った茶色の液体。
 ……もう騙されないぞ。

「……やっぱり麦茶」
「『のぞみさん』にお酒は出すなとオーナーから言われてますから」

 と、笑顔のままさらりと言われた。
 ……初対面の男の人……アルバイトの人?にまで、マスターそんなこと言ってたなんて。
 僕、このお店でお酒を飲む日は来ないんだな……。

「のぞみは酒が飲みたいのか」
「まあ……それなりに」
「飲み会とかないのか?」
「僕、サークルとかそういうのに入ってないから、機会がないっていうか……」

 両親が離婚のときに僕にまとまったお金を渡してくれたから、贅沢をしなければ学生の間はそれなりに生活できる。
 けど、あのお金にはできるだけ手を付けたくないから、アルバイトは必須。

「どんなの飲んでみたい?」

 繋いでいた手が離れて、僕の髪をいじり始めた竜司さん。

「んと…、甘いやつ?」
「ん。用意してやるから俺の家で飲めばいい」
「いいの?」
「いいだろ?他の誰に迷惑かけるわけじゃないし。酔ったらそのまま寝ればいい」

 おお。なるほど。大人な竜司さんなら無茶な飲ませ方はしないだろうし、竜司さんの家なら酔っ払って動けなくなってもそのまま寝ちゃえばいいし、気分が悪くなっても介抱してくれそう。
 ……あ、だったら、甘いの、とかじゃなくて、もっと大人っぽいものを希望したら良かったんだろうか。ウイスキーとかワインとか?あー……お酒の知識がなさすぎてよくわかんないや。
 とりあえず、ウイスキーならあれだよ。
 片手でグラスをゆったりもって、軽く回して氷がカランって音を立てて、香りを楽しんでから口をつけたり、指で摘むようにグラスを持ってタバコ片手にぐいっと呷ったり。
 手元の麦茶グラスで、そんなドラマとかで見た気がする仕草を、うろおぼえながら再現してたんだけど。

「ぶっ」

 隣から吹き出す音がしてやめた。

「……の、ぞみっ、っげほ…っ、おま……っ、っ、くそ…っ、…っ、はー………っ、っとに」

 ……むせて顔を真赤にした竜司さんがいた。

「はー………くるし……っ、のぞみ、お前なぁ、俺を笑い死にさせるつもりなのか」
「……」

 ……『大人の仕草』を再現してただけなのに。解せぬ。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...