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第十二話 夢から覚める日
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「こ、ここは……」
「お兄さん」
「!?」
彼女の声はベッドの外から聞こえてきた。
俺は驚いて声のする方向に振り向いたら、もう一人のアヤナが立っていた。
「今度はお兄さんがここに来ちゃったんだね。ビックリしちゃったけど、とても嬉しいよ」
「これは、一体……」
「……私はね?ずっと寝ているもう一人の私を見ながらここにいたんだ。昼も、夜も」
「ずっと、か……」
「でね? ある日変な光が現れて、その中にお兄さんがいたの」
「うん」
「こんなの初めてで怖かったけど、思い切って話しかける事にしたんだ。この人は私に気づいてくれると思ったから……」
「……」
「お久しぶり、お兄さんっ」
彼女は前と同じ笑顔を見せた。
「久しぶりって3日も経ってないぞ?」
「私が会いたかったから久しぶりなの! ……お兄さんもそうじゃなかったの?」
彼女は含みのある表情で見つめてくる。
「ああ。そうだな。久しぶりだ。」
「うん!」
「あ、あとこの前は本当に……」
「あのね?」
俺は謝ろうとしたが、それを止めるように彼女は言葉を被せてきた。
「私ね、もうすぐ夢から覚めるの」
「夢?どういう事?」
「私もわからない。でも感じるの。私の中で何かが動き始めてる」
いきなり変な事を言われて少し戸惑ってしまう。
でも、一番大事な事はその後どうなるかだ。
「うん。それで夢から覚めたらどうなるの?」
「それもわからないんだ。でも、少なくともこうやってお兄さんとは会えなくなると思う。だから今日ここに来てくれて本当に良かった」
「そっか…… 俺もさ、明日から一般病棟に移るから、今日がラストチャンスだったんだよ」
「そうなんだ…… ごめんね?あれから会わなくて。あの日から色々怖くなっちゃって…」
「いや、俺の方こそ……」
ベッドの彼女と目の前の彼女を見せられたら、俺は何も言う事が出来ない。
あの話がどれだけ彼女の心を傷つけたか想像もつかない。
「だーかーらー。謝る必要は無いんだって! 私はお兄さんに救われたんだからさ」
笑顔のまま彼女は喋り続ける。
「きっと私が夢から覚める事が出来るのはお兄さんのおかげ」
そう言ってもらえて、とても嬉しい。
「お兄さんと会うまでは誰にも気づいてもらえず泣いてばかりだった」
「でもね、お兄さんと出会えたから私は元気と笑顔を取り戻す事が出来たし、それがキッカケで目を覚ますんだから」
「だからね……」
彼女は俺の目をじっと見つめた後、ペコリと頭を下げた。
「本当にありがとうございました!」
この溢れる笑顔を見るとわかる。
彼女はこの夢から覚めるのを長い間待ち望んでいたんだ。
そしてようやくその日がやってきた。
俺は自分の事のようにとても嬉しかった。
「そっか。良かった……」
「だからね?ご褒美あげる」
「?」
「はいっ!」
彼女は右手を差し出した。
「右手?」
「うん。右手出して?」
「左手の方が……」
「だめっ!」
「仕方ないな」
俺はぎこちなく麻痺している右手を出した。
彼女はその右手を繋いできたが、その手はとても温かった。
「!?」
俺の右手は重度の感覚麻痺がある。
なのにこんなにハッキリと体温や感触を感じられるなんて……!
驚いている俺を彼女は楽しそうに見つめている。
「あのね?」
彼女は手を繋ぎながら話し始めた。
「お兄さんは”あの時死んでいれば良かった”と思っているけれど、それは違うと思う。だってあなたという人はまだここにいるんだもん」
「……」
「脳卒中になった人の中には性格が変わったり、感情がコントロール出来なかったりして全くの別人になる人もいるって聞いたよ?」
「……うん。そうだな」
「でも、お兄さんはお兄さんのままここにいる」
「……」
「だからこそやり直せる。そのまま次のステージに行けるんだよ?」
「……」
「それにね?私を救ってくれた人には、後ろではなく前を向いて歩いてて欲しいんだ」
「アヤナ……」
「だからさ、頑張れっ!カズさんっ!」
彼女はそのまま笑いながらゆっくりと消えていった。
「アヤナっ!」
俺は目を覚まして思わず大声を出してしまう。
右手を見ると、その右手はベッドの手すりを握っていた。
「そっか…… 俺はまだいけるんだな。わかったよ。ありがとう。アヤナ」
――俺は真っ暗な病室の中、泣きそうになりながら、少女にお礼の言葉を呟いた。
「お兄さん」
「!?」
彼女の声はベッドの外から聞こえてきた。
俺は驚いて声のする方向に振り向いたら、もう一人のアヤナが立っていた。
「今度はお兄さんがここに来ちゃったんだね。ビックリしちゃったけど、とても嬉しいよ」
「これは、一体……」
「……私はね?ずっと寝ているもう一人の私を見ながらここにいたんだ。昼も、夜も」
「ずっと、か……」
「でね? ある日変な光が現れて、その中にお兄さんがいたの」
「うん」
「こんなの初めてで怖かったけど、思い切って話しかける事にしたんだ。この人は私に気づいてくれると思ったから……」
「……」
「お久しぶり、お兄さんっ」
彼女は前と同じ笑顔を見せた。
「久しぶりって3日も経ってないぞ?」
「私が会いたかったから久しぶりなの! ……お兄さんもそうじゃなかったの?」
彼女は含みのある表情で見つめてくる。
「ああ。そうだな。久しぶりだ。」
「うん!」
「あ、あとこの前は本当に……」
「あのね?」
俺は謝ろうとしたが、それを止めるように彼女は言葉を被せてきた。
「私ね、もうすぐ夢から覚めるの」
「夢?どういう事?」
「私もわからない。でも感じるの。私の中で何かが動き始めてる」
いきなり変な事を言われて少し戸惑ってしまう。
でも、一番大事な事はその後どうなるかだ。
「うん。それで夢から覚めたらどうなるの?」
「それもわからないんだ。でも、少なくともこうやってお兄さんとは会えなくなると思う。だから今日ここに来てくれて本当に良かった」
「そっか…… 俺もさ、明日から一般病棟に移るから、今日がラストチャンスだったんだよ」
「そうなんだ…… ごめんね?あれから会わなくて。あの日から色々怖くなっちゃって…」
「いや、俺の方こそ……」
ベッドの彼女と目の前の彼女を見せられたら、俺は何も言う事が出来ない。
あの話がどれだけ彼女の心を傷つけたか想像もつかない。
「だーかーらー。謝る必要は無いんだって! 私はお兄さんに救われたんだからさ」
笑顔のまま彼女は喋り続ける。
「きっと私が夢から覚める事が出来るのはお兄さんのおかげ」
そう言ってもらえて、とても嬉しい。
「お兄さんと会うまでは誰にも気づいてもらえず泣いてばかりだった」
「でもね、お兄さんと出会えたから私は元気と笑顔を取り戻す事が出来たし、それがキッカケで目を覚ますんだから」
「だからね……」
彼女は俺の目をじっと見つめた後、ペコリと頭を下げた。
「本当にありがとうございました!」
この溢れる笑顔を見るとわかる。
彼女はこの夢から覚めるのを長い間待ち望んでいたんだ。
そしてようやくその日がやってきた。
俺は自分の事のようにとても嬉しかった。
「そっか。良かった……」
「だからね?ご褒美あげる」
「?」
「はいっ!」
彼女は右手を差し出した。
「右手?」
「うん。右手出して?」
「左手の方が……」
「だめっ!」
「仕方ないな」
俺はぎこちなく麻痺している右手を出した。
彼女はその右手を繋いできたが、その手はとても温かった。
「!?」
俺の右手は重度の感覚麻痺がある。
なのにこんなにハッキリと体温や感触を感じられるなんて……!
驚いている俺を彼女は楽しそうに見つめている。
「あのね?」
彼女は手を繋ぎながら話し始めた。
「お兄さんは”あの時死んでいれば良かった”と思っているけれど、それは違うと思う。だってあなたという人はまだここにいるんだもん」
「……」
「脳卒中になった人の中には性格が変わったり、感情がコントロール出来なかったりして全くの別人になる人もいるって聞いたよ?」
「……うん。そうだな」
「でも、お兄さんはお兄さんのままここにいる」
「……」
「だからこそやり直せる。そのまま次のステージに行けるんだよ?」
「……」
「それにね?私を救ってくれた人には、後ろではなく前を向いて歩いてて欲しいんだ」
「アヤナ……」
「だからさ、頑張れっ!カズさんっ!」
彼女はそのまま笑いながらゆっくりと消えていった。
「アヤナっ!」
俺は目を覚まして思わず大声を出してしまう。
右手を見ると、その右手はベッドの手すりを握っていた。
「そっか…… 俺はまだいけるんだな。わかったよ。ありがとう。アヤナ」
――俺は真っ暗な病室の中、泣きそうになりながら、少女にお礼の言葉を呟いた。
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