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第10話 さて、モンスターハンターしてくるね!

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 それから二週間程度経過してロボバト2回戦当日となる。

 修理や整備でどうしても試合の間隔が空いてしまうのは、安全性を第一とするロボバトとして仕方のない事であろう。

 ロボットアニメ同好会が会場に入ると、男性達がねいねの周りに集まってきた。やはり1回戦の反響は絶大らしい。
 少し戸惑いながらもファン対応する知奈。元々こういうのに少し憧れてたから悪い気はしないらしい。

 (ううん、とっても嬉しい!)

 しかし今、知奈にとって大切なのはロボで戦う事。そしてほづみ君に勇士を見てもらう事。早々に打ち切って足早にピットに入っていく。

「さて、ここからが本題です。ご存じの通り今日の相手はここからでも見えるあのデカブツです」

 山本の言葉に反応するようにメンバー達は、離れにある赤い機械に目を向ける。
 満を持して初参戦した重機関係の老舗メーカー”ヤーマン株式会社”は【クレプス】というロボットを持ち込んできた。ドイツ語で蟹の事らしいが、実際は言うなれば魔改造した重機集合体。

 つまり化け物である。

 全高6.3mとルール上限ギリギリのサイズと重量。主力である超大型ショベルニブラーの右腕と、左腕の近接用の中型ショベルハンド。更に、懐に入られた時の対策として前面に排除用のブルドーザーまで付けている。当然ディーゼルエンジン。足は安心のキャタピラーだ。

「まったくクソ重機が! そこまでして勝ちたいか!」

 忌々しいと渡辺会長は毒つく。ロボとは言えないあの異形は、まさにアニメ同好会が倒すべき敵そのものなのだ。
 しかし、勝つ為だけに作られたあの異形は脅威以外の何物でもない。今回のロボバトで唯一”あいつ”に勝てるかもしれないと言われている機体だ。

 正直、追放天使とは相性が悪い。重機型ロボと戦うのは想定内だとしても限度というものがある。奴は規格外過ぎる。

 機動性は追放天使が遥かに上なのでどうにか回り込むのが第一。そしてワイヤーをいかに巻き付けるかが重要だ。動きを止めて行動不能にするしか勝つ方法は無い。

 しかし、あの大きさ、重さ相手だといかに超高剛性ワイヤーでも、ひと巻きでは持たないかもしれない。

「やはりあの長い腕をワイヤーで封じるしかないのでしょうか?」
「おそらくそうでしょうが、その場合はワイヤーを切りはなすタイミングに気を付けてください。失敗したらあの長い腕に振り回されて遠くまで吹っ飛びます」

 リーチが長い分、あの腕で”フック”を打たれるのは想像しただけでも恐ろしい。

『うーん……』

 前回とは違って重々しい雰囲気がチームを包む。
 みぅは泣きそうな顔で知奈を見ている。

「ねいねちゃん……」
「って、ちょっと待って? 上手くしたら……うん。そうね」

 知奈はバトル会場を見ながら微かに口角を上げる。

「少し怖いけど、ほづみ君に喜んで貰えるなら!」


……
………

 そして試合が始まった。
 大歓声の中で二人の男が不敵な笑みを浮かびながら握手をしている。

「そちらのご自慢の硬化テクタイトとやらは、私達の圧倒的パワーに耐えられますか?」
「なーに。重機キメラなんぞに天使は潰されませんよ」
『はっはっは!』

 二人は大笑いしながら自陣に戻ってきた。

「うわぁ…… 二人ともマジだったわ」
「会長全然笑っていない。まるで不倶戴天の仇を見てるかのようだ」

 岸と大和田は会長に恐怖すら感じていた。
 一方、知奈は柔軟をしながらも、バトル会場の隅から隅まで隈なくチェックしている。
 空間把握が一番重要な事だと認識しているようだ。

――そして試合開始のサイレンが鳴り響く

「さて、モンスターハンターしてくるね」

 知奈は軽快なステップでクレブスに向かっていく。
 一方、クレブスは動かないで追放天使の動きを見ている。一回戦の激打丸を意識しているのだろう。少なくともワイヤーを意識して安易に柱には近づかない筈だ。

「やはり奴は中央に布陣して一歩も動かないか……」
「だから今回はこちらから攻めないといけない訳で」

 渡辺と山本もこの展開は予想していた。
 そして、知奈が全ての鍵である事も理解している。

「んじゃ、行きますか!」

 追放天使はクレブスの後ろに回り込もうと相手の攻撃範囲内に入っていく。

……ブオオオオオ!

 その瞬間、大排気量のディーゼルエンジンが吠えた。
 それに合わせてねいねも姿勢を思い切り低くしてローラーダッシュの姿勢をとった。

 (上から来るか、下からか、それとも……)

 知奈は次の奴の動きに集中する。

 クレブスは身体を旋回させて超ロングレンジの右腕をフックのようにぶつけてきた。

 (……上だっ!)

 知奈は姿勢を更に下げてモーターを全開にさせ、ローラーダッシュで右腕の下を一気にくぐり抜けた。

「抜けた!」
「ウオオオオオオ!」

 観客は一瞬の出来事に大歓声を上げる。

「よし抜けた! そのまま上へ!」

 天使はそのまま相手に取り付き、一気に上に登っていく。
 1回戦の激打丸とは違い、コックピットが戦車のように旋回式な為、実質前後の概念はない。その為、攻略が更に難しくなっているが、知奈は全く別の所を狙っていた。
 知奈はコックピットを無視して更に上に向かい、天井の上に立つと手を上に向ける。

「……よしっ!」
「あっ。天井か!」

 山本は知奈の狙いを理解した。クレブスは上限ギリギリまで全高を上げた結果、天井との距離が相当近くなっていたのである。

 知奈はハンドクリックで両方の手からワイヤーを天井に向けて射出した。

「しまった!」
「天井のメインフレームの真下にいながら、一歩も動かなかったのが運の尽きよ!」

 クレブスは相手の狙いに気づいて移動しようとするが遅かった。ワイヤーは天井のフレームに届き、まるで首吊り用のロープになっていた。

「すごい! ねいねちゃん!」
「天井を使うとは考えてなかった!」
 
 同好会メンバーもこの展開に盛り上がるが、まだ勝負は決していない。

「いや。まだです!」

 山本は表情を緩めない。たしかにワイヤーで封じたが巻き付けたのは2本だけだ。あの巨体をいつまで捕えられるかわからない。そして奴の戦闘能力はまだ生きているのだ。
 どうにかしてワイヤーを切ろうと両腕を動かし機体も揺らすクレブス。

「このっ……!」

 激しく揺れる足場をものともせず、知奈はコックピットにペイント弾を撃ち込み、追加のワイヤーを射出しようとする。

 この光景を見て、なぜ追放天使は動けるのか!? と観客は驚きの表情を見せる。

 これこそ体操でインターハイにも出場した事もある知奈の抜群なバランス感覚と、細かい動きにもほぼタイムラグ無しで忠実に反応する追放天使の合わせ技だ。

……ガチィン!! ギギギ

 揺れる足場に少し苦戦しながらも、3本、4本、5本とワイヤーがクレブスに絡みついていき、クレブスは段々身動きが取れなくなっていった。
 これでほぼ勝敗は決したかと思われたが、安心したからか知奈はバランスを崩してしまう。

「やばっ!」 

 知奈は一旦大きくジャンプして姿勢を整えようとした瞬間、大きく振ったクラブスの左腕が一直線にねいねに向かう。

「!?」
「危ない!」
「ねいねちゃん!」

 思わず叫ぶ同好会メンバーは叫ぶ。

「……もうっ!」

 知奈は向かってくる左腕をまるで体操の鉄棒みたいに掴み、そのまま機体を振り綺麗に着地する。

「み、見たか今の」
「ロボが体操しやがった……!」
「どれだけ動けるのよアレ!?」
「信じられない……」
「すげええええ!」

 どよめく観客とヤーマンのメンバー。そして同好会メンバーも驚きを隠せなかった。
 知奈と追放天使のコンビネーションは想定以上の性能を発揮していたのである。

 その後、無数のワイヤーに捕らわれたクレブスはもがく事しか出来ず、戦闘不能とみなされ終了のサイレンが鳴り響く。

 ウオオオオ! と会場から大歓声が巻き起こり、知奈も作戦が成功した嬉しさからか喜びの声を上げた。

「やった。やったよ! ほづみ君!」

 一度推しの名前を口に出してしまったら知奈はもう止まらない。

「ほづみくーん!!」

 なお、この声がマイクに拾われた事を知奈が知るのは後の話である。


……
………

 その後、下馬評をひっくり返して二回戦も勝利した同好会チームは、当然大勢のカメラや取材陣に取り囲まれる。

「ふぅっ。ようやく終わったかな?」

 インタビューがひと段落ついて安堵している知奈の横で、他のメンバーが突如大騒ぎし始めた。

「わっはっはっはっは! これは傑作だ!」
「本当にやりましたねぇ!」
「一体これは何ですか……!?」

 どうやら皆はiPadを見て盛り上がってるらしい。

 「?」と思い画面をのぞき込んだ知奈は、予想外の出来事に思わず大声を出した。

「な、何でそうなるのーっ!?」

 iPadの画面には伊集院まりぃが映っていた。
 
――まりぃ率いるメイドバー「フィフネル」ロボバト急遽参戦の速報である。
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