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第8話 柔よく剛を制すって奴ね!
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こうしてバトルが開始された。ルールは以下の通りである。
-----------
・バトル時間は10分1ラウンド。
・ダウンは一発KO、行動不能でもKO。
・場外10カウントで失格。
・10分経過しても勝敗が決しない場合は、3人のレフリーによる判定で決まる。
-----------
『先手必勝! うおおおお!』と聞こえそうな勢いで、激打丸は腕を振り回しながら一直線に追放天使に突っ込んでくる。
それを見て知奈は当初の予定通りに車が積み上がった障害エリアに身を隠し、右手の親指と中指をマウスのダブルクリックのようにリズム良く2回タッチする。
するとカチッと天使の右手から何かの作動音が聞こえてきた。
そこに山本からの無線が入る。
「奴は体当たりして一気に車を崩す筈です。こちらからの指示に合わせて離れてください」
「了解」
チームとパイロットは、このように逐次やり取りしながら戦況や戦術を確認する。
「来ます。右にかわして!」と内海からの指示を聞き、激打丸が車タワーにぶつかる直前に知奈はヒョイっとかわしていく。
当然、激打丸は急に止まれる訳もなく車タワーにぶつかり、一瞬動きが止まってしまう。
その隙に後ろに回り込み、今度は右手でデコピンするような動きを見せて、天使の手の平を激打丸の背中に向ける。
「えーと。後ろのカメラはここか。……当たれっ!」
そのまま指をデコピンさせると、手の平から何かの弾が発射された。着弾すると弾は破裂して、中に入っている特殊ペイントが広範囲に飛び散った。
これで、後方のセンサーカメラは使用不能になった。
-----------------
追放天使の操作方法は基本的にパワードスーツと同じ「人機一体タイプ」である。
全身トラッキングや各種センサー、ワイヤーによる複合的な情報も合わせる事により、人間の動きに忠実に反応する事が出来るのだ。
更に追放天使の特徴的な機能として【ハンドクリック】と呼ばれるモノがある。
基本指もモーションキャプチャーの対象だが、特有のパターンのみ反映させず、その代わり様々なスイッチとして機能させている。
先程の親指と中指ダブルクリックはペイント弾の発射モード起動。デコピンは実際の発射だ。
こういった特殊な入力方法を導入する事により、操作レバーや外部スイッチを使わずとも、様々な事が出来るようになっていた。
------------------
その光景を見て観客は「おおっ!」と歓声を上げ、知奈はそのまま別の障害物へ身を隠した。
隠れた所は相手チームからも見えない死角。更にペイント弾に気を取られた隙の移動だ。おそらく何処にいるかわからないだろう。
「よし、相手は天使をロストしてるな。おそらくアレを使ってくるぞ。こちらも準備しようか。次で決めるぞ」
渡辺会長の無線を聞いた知奈は、深く腰を落として体勢を取る。
激打丸は追報天使の隠れている場所を上から探そうと、搭載しているドローンを飛ばしたその瞬間だった。
「行けっ!」
「はいっ!」
知奈は両手をノブを回すように2回動かすと、両足に付いていたローラーが高速に回り出し、それに合わせてバランスを取る為のスタビライザーが羽根のように大きく開いた。
そして、そのまま猛烈なダッシュで追放天使は一気に激打丸に突っ込んでいく。
「は、速い!」
「まるでローラーダッシュだ!」
「かっけえ!」
「うおおおおっ!」
まるでアニメの1シーンのような光景に、観客の興奮は最高潮になっている。
知奈は激打丸に接近して、ぶつかる直前にジャンプしてそのまま飛びつき、パイロット用のバーを掴み完全に取りつく事に成功した。
「パイロットが本体の操縦を止めてドローンの操縦するなんて自殺行為。本当に脳筋のおバカさんだ」
その光景を見て渡辺会長はほくそ笑んだ。
追放天使はは激打丸のコックピットまで辿り着くと、ペイント弾を有視界用のガラスやフロントカメラに叩き込む。これにより、激打丸は完全に「眼」を潰されてしまった。
焦った激打丸は天使を振りほどこうと左右に動くが、隣にある柱にぶつかってしまう。
「そのまま決める!」
知奈は小指と親指をダブルクリックしてシステムを起動させ、同じく小指デコピンで今度はワイヤーを発射した。
ワイヤーは激打丸の肩に引っかかり、知奈はそれを確認した後に激打丸から離れる。
そしてそのまま柱にワイヤーを巻き付け、再度ダブルクリックしてワイヤーを手から切断した。
「このワイヤーはコンテナも吊るせる超高剛性ワイヤー。専用工具でも無い限り普通のロボには切れないよ?」
追放天使はワイヤーを巧みに使いながら激打丸を縛っていく。
その光景を見ながら山本は満面の笑みを浮かべた。
…
……
………
そして数十秒後、激打丸は完全に動きが取れなくなり、その横で知奈は「柔よく剛を制すって奴ね。イェイッ!」と天使のVサインを観客に見せた。
「まさかだろ……」
「ゲームかよ」
「捕縛オチなんてあるのかよ!?」
「俺達は何を見せられたんだ」
「すっげええぇ!」
興奮を見せる観客と対照的に、大徳寺工業は茫然自失だ。
そしてその空気を破るかのように終了のサイレンが鳴り響く。
歓声に溢れる会場とロボットアニメ同好会。
――こうして追放天使のデビュー戦は、完勝という形で幕を閉じた。
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・バトル時間は10分1ラウンド。
・ダウンは一発KO、行動不能でもKO。
・場外10カウントで失格。
・10分経過しても勝敗が決しない場合は、3人のレフリーによる判定で決まる。
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『先手必勝! うおおおお!』と聞こえそうな勢いで、激打丸は腕を振り回しながら一直線に追放天使に突っ込んでくる。
それを見て知奈は当初の予定通りに車が積み上がった障害エリアに身を隠し、右手の親指と中指をマウスのダブルクリックのようにリズム良く2回タッチする。
するとカチッと天使の右手から何かの作動音が聞こえてきた。
そこに山本からの無線が入る。
「奴は体当たりして一気に車を崩す筈です。こちらからの指示に合わせて離れてください」
「了解」
チームとパイロットは、このように逐次やり取りしながら戦況や戦術を確認する。
「来ます。右にかわして!」と内海からの指示を聞き、激打丸が車タワーにぶつかる直前に知奈はヒョイっとかわしていく。
当然、激打丸は急に止まれる訳もなく車タワーにぶつかり、一瞬動きが止まってしまう。
その隙に後ろに回り込み、今度は右手でデコピンするような動きを見せて、天使の手の平を激打丸の背中に向ける。
「えーと。後ろのカメラはここか。……当たれっ!」
そのまま指をデコピンさせると、手の平から何かの弾が発射された。着弾すると弾は破裂して、中に入っている特殊ペイントが広範囲に飛び散った。
これで、後方のセンサーカメラは使用不能になった。
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追放天使の操作方法は基本的にパワードスーツと同じ「人機一体タイプ」である。
全身トラッキングや各種センサー、ワイヤーによる複合的な情報も合わせる事により、人間の動きに忠実に反応する事が出来るのだ。
更に追放天使の特徴的な機能として【ハンドクリック】と呼ばれるモノがある。
基本指もモーションキャプチャーの対象だが、特有のパターンのみ反映させず、その代わり様々なスイッチとして機能させている。
先程の親指と中指ダブルクリックはペイント弾の発射モード起動。デコピンは実際の発射だ。
こういった特殊な入力方法を導入する事により、操作レバーや外部スイッチを使わずとも、様々な事が出来るようになっていた。
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その光景を見て観客は「おおっ!」と歓声を上げ、知奈はそのまま別の障害物へ身を隠した。
隠れた所は相手チームからも見えない死角。更にペイント弾に気を取られた隙の移動だ。おそらく何処にいるかわからないだろう。
「よし、相手は天使をロストしてるな。おそらくアレを使ってくるぞ。こちらも準備しようか。次で決めるぞ」
渡辺会長の無線を聞いた知奈は、深く腰を落として体勢を取る。
激打丸は追報天使の隠れている場所を上から探そうと、搭載しているドローンを飛ばしたその瞬間だった。
「行けっ!」
「はいっ!」
知奈は両手をノブを回すように2回動かすと、両足に付いていたローラーが高速に回り出し、それに合わせてバランスを取る為のスタビライザーが羽根のように大きく開いた。
そして、そのまま猛烈なダッシュで追放天使は一気に激打丸に突っ込んでいく。
「は、速い!」
「まるでローラーダッシュだ!」
「かっけえ!」
「うおおおおっ!」
まるでアニメの1シーンのような光景に、観客の興奮は最高潮になっている。
知奈は激打丸に接近して、ぶつかる直前にジャンプしてそのまま飛びつき、パイロット用のバーを掴み完全に取りつく事に成功した。
「パイロットが本体の操縦を止めてドローンの操縦するなんて自殺行為。本当に脳筋のおバカさんだ」
その光景を見て渡辺会長はほくそ笑んだ。
追放天使はは激打丸のコックピットまで辿り着くと、ペイント弾を有視界用のガラスやフロントカメラに叩き込む。これにより、激打丸は完全に「眼」を潰されてしまった。
焦った激打丸は天使を振りほどこうと左右に動くが、隣にある柱にぶつかってしまう。
「そのまま決める!」
知奈は小指と親指をダブルクリックしてシステムを起動させ、同じく小指デコピンで今度はワイヤーを発射した。
ワイヤーは激打丸の肩に引っかかり、知奈はそれを確認した後に激打丸から離れる。
そしてそのまま柱にワイヤーを巻き付け、再度ダブルクリックしてワイヤーを手から切断した。
「このワイヤーはコンテナも吊るせる超高剛性ワイヤー。専用工具でも無い限り普通のロボには切れないよ?」
追放天使はワイヤーを巧みに使いながら激打丸を縛っていく。
その光景を見ながら山本は満面の笑みを浮かべた。
…
……
………
そして数十秒後、激打丸は完全に動きが取れなくなり、その横で知奈は「柔よく剛を制すって奴ね。イェイッ!」と天使のVサインを観客に見せた。
「まさかだろ……」
「ゲームかよ」
「捕縛オチなんてあるのかよ!?」
「俺達は何を見せられたんだ」
「すっげええぇ!」
興奮を見せる観客と対照的に、大徳寺工業は茫然自失だ。
そしてその空気を破るかのように終了のサイレンが鳴り響く。
歓声に溢れる会場とロボットアニメ同好会。
――こうして追放天使のデビュー戦は、完勝という形で幕を閉じた。
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