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第6話 私は"チョロイン"かもしれないけど
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「うわっはっはっは!」
豪快な笑い声が店内に響く。
ここは知奈が働くサブカルカフェ。店名は"天使の輪"を意味する「エンジェルハイロゥ」だ。
あの伝説ともいえる開会式から丸1日。渡辺会長は上機嫌で昨日の武勇伝を語っていた。
「他チームは完全に我々を敵と認定した。ミッションコンプリート、大勝利だ!」
「そんな訳ありますか! やり過ぎです! あそこまでするなんて聞いてなかったわ!」
働いてる最中でも、知奈は渡辺会長にツッコミを入れる。
事前に聞いてた話では「新しい戦いを見せる」と友好的に終わらせるストーリーだったが、実際はいきなりプロレスみたいな啖呵を切り、余計なヘイトまで集められた。
パイロットにとってはたまったものではない。
事実、初戦の対戦相手なんて敵意丸出しで終始こちらを睨みつけていたのだ。
「でも運営は私達のアピールを止めもせず、その後の抽選会に参加した時でさえも注意や警告、ペナルティは一切ありませんでした。つまり、運営も認めていると言う事なんです」
山本は笑いながら話を続ける。
「これは21世紀枠だからこそ出来る役割でした。今までの21世紀枠は単なるゲスト枠ですが、今回は島国を震撼させる外からの"黒船"なんですよ」
(まったく知ったような事を言う人だ……!)
「ところでねいねちゃんはSNSの反応見た? 凄かったよー」
みぅも接客の合間に知奈の隣にやってきた。
「見てなーい。というか怖くて見れないよ!」
実際、開会式の様子がTVで流れた後、知奈の家族や親戚、大学の友人や高校時代の体操部仲間からも連絡が来て、その対応に右往左往していたのだ。
SNSなんて見る気にもなれない。
「大学には硬化テクタイトについての問い合わせが殺到しているようです。だから開発室の連絡先を伝えておきました」
「あのインパクトは物凄かったからなー。事前に話を聞いてた俺でもびっくりしたよ」
店長も昨日の話に加わってきた。
「そういえば、お店の方には電話とか来ました?」
「昨日の今日だからまだ来てないねー。でも、ウチらの制服をつけたねいねを見て、来る客は結構いるんじゃないかと思ってるよ。もちろん週末の試合内容次第だけどさ」
『あの"天使ちゃん"にね』
会長と店長はハモって楽しそうに笑う。
(前から思っていたけど、どうやらこの二人はやたらと波長が合うらしい。厄介だわ……!)
「あの名前はこれを狙ってたんですよね。私を何だと思ってるんですか! 本当に信じられない!」
名前を聞いたレポーターの反応を見た時、知奈は悟ったのだ。追放天使という名前がロボ単体に向けられたものではなく、ねいねも合わせた一人のキャラクター名である事を。
「でも、あそこまで煽った挙句に初戦惨敗でもしたら、ねいねちゃん大変な事になりそう……」
「追放天使、大会からも追放! とか言われそうだなぁ」
「もうっ!」と口を尖らせる知奈だが、心の底では二人に同調していた。
(確かに初戦惨敗は"出オチ"にも程がある。私だって頑張って訓練してきたのだから勝ちたい。せめて良い所は見せつけたい。そうしないとほづみ君からなんて言われるか、想像しただけで死にそうになる!)
「……で、渡辺君。初戦はどう? 勝てそう?」
「任せてください店長! 対戦相手のロボは我々の想定したタイプそのものです。速攻で終わらせてやりますよ」
「それは心強い。なら俺も応援しにいくわ」
「是非是非!」
既に勝った気でいる会長を見て知奈は不安になり、それに気づいたみぅはねいねの手をギュッと握る。
「みぅ?」
「そんな顔しないで。大丈夫だよねいねちゃん。ねいねちゃんの凄さは私が一番知ってるんだから!」
「そうそう。ねいねは今まで一度たりとも、みんなの期待を裏切った事は無いからな。だからこそ俺はお前のスポンサーになったんだぞ?」
「そうだぞねいね。周りが勝てると確信しているのに、その本人が不安になってどうする!」
「みんな……」
みんなの言葉に嘘は無いと感じられる。私の事を信じてロボを作った人達が、そしてチームのみんなが応援してくれている。
なら、私は私の出来る事を頑張ろう。週末までにコンディションを完璧にして、追放天使の性能を出し切ろう。
私は"チョロイン"かもしれないけれど、今の気持ちを大切にしたい。と知奈は強く思った。
「……よしっ! 帰りはダッシュしながら帰るわ!」
その光景を見て他のみんなは思った。
――やっぱりチョロインだった。
* * *
そして週末がやってきた。ロボバト一回戦がついに始まるのだ。
バトルは開会式と同じ巨大倉庫で行われる。華やかに演出していた開会式とはうって変わり、積み重ねられた廃車や柱、ドラム缶等の障害物が物々しさを際立たせていた。
これから、ここで16機のロボ達が力を尽くして戦う事になる。
ねいねを待ち受ける運命は一体どこへ向かうのか?
それは神のみぞ知る。である。
豪快な笑い声が店内に響く。
ここは知奈が働くサブカルカフェ。店名は"天使の輪"を意味する「エンジェルハイロゥ」だ。
あの伝説ともいえる開会式から丸1日。渡辺会長は上機嫌で昨日の武勇伝を語っていた。
「他チームは完全に我々を敵と認定した。ミッションコンプリート、大勝利だ!」
「そんな訳ありますか! やり過ぎです! あそこまでするなんて聞いてなかったわ!」
働いてる最中でも、知奈は渡辺会長にツッコミを入れる。
事前に聞いてた話では「新しい戦いを見せる」と友好的に終わらせるストーリーだったが、実際はいきなりプロレスみたいな啖呵を切り、余計なヘイトまで集められた。
パイロットにとってはたまったものではない。
事実、初戦の対戦相手なんて敵意丸出しで終始こちらを睨みつけていたのだ。
「でも運営は私達のアピールを止めもせず、その後の抽選会に参加した時でさえも注意や警告、ペナルティは一切ありませんでした。つまり、運営も認めていると言う事なんです」
山本は笑いながら話を続ける。
「これは21世紀枠だからこそ出来る役割でした。今までの21世紀枠は単なるゲスト枠ですが、今回は島国を震撼させる外からの"黒船"なんですよ」
(まったく知ったような事を言う人だ……!)
「ところでねいねちゃんはSNSの反応見た? 凄かったよー」
みぅも接客の合間に知奈の隣にやってきた。
「見てなーい。というか怖くて見れないよ!」
実際、開会式の様子がTVで流れた後、知奈の家族や親戚、大学の友人や高校時代の体操部仲間からも連絡が来て、その対応に右往左往していたのだ。
SNSなんて見る気にもなれない。
「大学には硬化テクタイトについての問い合わせが殺到しているようです。だから開発室の連絡先を伝えておきました」
「あのインパクトは物凄かったからなー。事前に話を聞いてた俺でもびっくりしたよ」
店長も昨日の話に加わってきた。
「そういえば、お店の方には電話とか来ました?」
「昨日の今日だからまだ来てないねー。でも、ウチらの制服をつけたねいねを見て、来る客は結構いるんじゃないかと思ってるよ。もちろん週末の試合内容次第だけどさ」
『あの"天使ちゃん"にね』
会長と店長はハモって楽しそうに笑う。
(前から思っていたけど、どうやらこの二人はやたらと波長が合うらしい。厄介だわ……!)
「あの名前はこれを狙ってたんですよね。私を何だと思ってるんですか! 本当に信じられない!」
名前を聞いたレポーターの反応を見た時、知奈は悟ったのだ。追放天使という名前がロボ単体に向けられたものではなく、ねいねも合わせた一人のキャラクター名である事を。
「でも、あそこまで煽った挙句に初戦惨敗でもしたら、ねいねちゃん大変な事になりそう……」
「追放天使、大会からも追放! とか言われそうだなぁ」
「もうっ!」と口を尖らせる知奈だが、心の底では二人に同調していた。
(確かに初戦惨敗は"出オチ"にも程がある。私だって頑張って訓練してきたのだから勝ちたい。せめて良い所は見せつけたい。そうしないとほづみ君からなんて言われるか、想像しただけで死にそうになる!)
「……で、渡辺君。初戦はどう? 勝てそう?」
「任せてください店長! 対戦相手のロボは我々の想定したタイプそのものです。速攻で終わらせてやりますよ」
「それは心強い。なら俺も応援しにいくわ」
「是非是非!」
既に勝った気でいる会長を見て知奈は不安になり、それに気づいたみぅはねいねの手をギュッと握る。
「みぅ?」
「そんな顔しないで。大丈夫だよねいねちゃん。ねいねちゃんの凄さは私が一番知ってるんだから!」
「そうそう。ねいねは今まで一度たりとも、みんなの期待を裏切った事は無いからな。だからこそ俺はお前のスポンサーになったんだぞ?」
「そうだぞねいね。周りが勝てると確信しているのに、その本人が不安になってどうする!」
「みんな……」
みんなの言葉に嘘は無いと感じられる。私の事を信じてロボを作った人達が、そしてチームのみんなが応援してくれている。
なら、私は私の出来る事を頑張ろう。週末までにコンディションを完璧にして、追放天使の性能を出し切ろう。
私は"チョロイン"かもしれないけれど、今の気持ちを大切にしたい。と知奈は強く思った。
「……よしっ! 帰りはダッシュしながら帰るわ!」
その光景を見て他のみんなは思った。
――やっぱりチョロインだった。
* * *
そして週末がやってきた。ロボバト一回戦がついに始まるのだ。
バトルは開会式と同じ巨大倉庫で行われる。華やかに演出していた開会式とはうって変わり、積み重ねられた廃車や柱、ドラム缶等の障害物が物々しさを際立たせていた。
これから、ここで16機のロボ達が力を尽くして戦う事になる。
ねいねを待ち受ける運命は一体どこへ向かうのか?
それは神のみぞ知る。である。
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