星烙スターブランド

あしゆ

文字の大きさ
上 下
12 / 43

【二幕 第二話 廊下の戦い】

しおりを挟む
 エレベーターの中からイサリとオウカが外を覗くと、不気味な雰囲気が辺りに漂っていた。
 そこは、まったくショッピングモールには存在しないはずの場所。
 仄かな明かりは非常灯なのだろう。
 ポツンと照らす光で、そこが細長い廊下だと分かった。

「行くわよ」
「ええっ! 本当に!? このままエレベーターで別の階に行った方がいいんじゃないの?」
「恐らく何をしてもこの場所に連れてこられるわ。わたしたちが見た赤いコートの女は、きっと妖魔よ」
「あれが妖魔……」

 人間のように見えたが思い返せば、イサリが対峙した細長い男も遠目から見れば人間に思えた。

「姉ちゃんは退魔士なんだから何か感じなかったの?」
「あなたの好きな漫画やアニメのように妖気なんてものは感じられないのよ」
「そういうものなのか」
「とにかく、わたしの後ろにいなさい」
「俺だって姉ちゃんと戦いたい」
「勘違いしないの。背後から何かあるかもしれない。あなたには、わたしの背中を預ける。ちゃんとお姉ちゃんを守ってね」
「姉ちゃん……! ああ、任せてくれ!」

 イサリは意気揚々と金剛石の刀を構えて、オウカと背中合わせでエレベーターの外へと進んでいく。
 窓ガラスが張られた廊下の両脇の部屋には、妖魔に殺されたであろう人間たちの首が飾られていた。

「ひどい……」

 イサリは思わず目を逸らす。

「完全に場所が上塗りされている。これがあの妖魔の得意な空間なのね」

 廊下を進んでいく中でイサリたちは異変に気付く。

「なぁ、姉ちゃん」
「ええ。これだけ歩いているのに廊下の終わりにたどり着かないわ」
「延々と続く廊下ってこと?」
「ループしているのかそもそも、とんでもなく長いのかは分からないけれどね」
「あの赤いコートの妖魔を倒せば抜け出せるとか?」
「十分あり得るわ。でも、見なさい」

 終わらないと思っていた廊下だったが、曲がり角が見えた。

「イサリ、ここで待っていなさい」
「分かった」

 オウカが曲がり角を曲がって前に進む。
 すると手前の扉からゆらりと、首の無い死体が現れ、オウカに襲い掛かる。
 右手に持つ金剛石の刀で敵を一刀両断にする。
 先へ進み、扉の中へ入るオウカ。
 中の様子はイサリからは見えない。
 が、部屋の中から斬撃や敵を壁に叩きつける音が廊下まで響いてきていた。
 窓ガラスをぶち破り、首の無い動く死体が宙を舞って床に叩きつけられた。
 扉からオウカが出てき、その後ろを動く死体が追いかける。

「姉ちゃん!」

 イサリの声を受け、オウカは振り返ることもなく刀を逆手に持ち替えて動く死体の胸を貫き、そのまま斬り捨てる。
 オウカは刀についた塵を一閃して振り払い、さらに先へ進んでいく。
 次々に扉から首無し死体が現れては問答無用にオウカへ襲い掛かる。
 あの数は不味いとイサリは思い、オウカに加勢しようと一歩足を踏み出したが、足を出した瞬間、彼は尋常ではない圧を全身に感じた。
 オウカの間合いは、それほどまでに広かったのだ。
 余計なことをすれば、それこそオウカのペースを乱すことになる。
 イサリはオウカが言った最初の言葉を信じて、ただ彼女の戦いを見守るのだった。
 二体で同時に襲い掛かってくる敵を、オウカは右手に持つ刀と左手に生成した金剛石の鉤爪を使って、巧みにさばいていく。
 前方からだけでなく、背後からも敵が迫るが金剛石のナイフを生成し、背中越しに投げつける。
 人間二人がギリギリ通れるほどの狭い通路で難なく敵を倒していった。
 恐らく最後の部屋であろう場所にたどり着き、中から出てくる妖魔を一閃してすべての敵を撃退させた。

「ふぅ。イサリ、もういいわよ」

 イサリは辺りに倒れている敵を見ながら、うへーっと信じられないといった様子でオウカのもとまでやってきた。

「無事?」
「うん。無事だけど……。俺、もう絶対姉ちゃんには逆らわないよ」
「なにそれ? でも、お姉ちゃんを尊敬してくれるのは嬉しいわ」

 尊敬というより恐怖なんだけどね、というのは黙っておくことにした。

「それにしても変ね」
「何が?」
「この妖魔たち、手応えが妖魔というよりはまるで無機物。岩やコンクリート、機械を斬ってるみたいだったわ」
「コンクリート斬れる姉ちゃんの方が変だと思うけどね」
「何か言った?」
「いいえ! 何でもありません!」

 すぐさまイサリは倒れている死体を検証してみる。
 こんなもの間近で見たことなど今までなかったが、少しでもオウカの役に立ちたいという思いから自然と行動に出たのだろう。

「姉ちゃん、見て」
「これは……」

 オウカに斬られた箇所をよく見てみると、配線のようなものが血管の代わりになって出ていたのだ。
 首の断面を見ると、そこには鉱石や、木片など人間には本来ありえないはずの物が紛れ込んでいた。

「これって赤いコートの女の仕業?」
「どうかしら。わたしには人為的に思えるわ」
「誰かが死体を使ったってこと?」
「分からないけど、まずはこの廊下から出る方法を探しましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...