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【一幕 第七話 不慣れな力】
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オウカが去った後もニュースは引き続き、ショッピングモールでの事件を放送している。
姉は妖魔にかかりきりになるだろう。
今、コーバックのことを知る者は自分とオウカとエマンだけ。
脅威は去っていない。友人たちの死に報いていない。
「ごめん。姉ちゃん。やっぱり放っておけない。あんなの姉ちゃんにだってどうなるか分からない。見つけないと。早く!」
玄関を出ようとするが扉が開かない。
「えっ、なんで?」
鍵は外しているはずなのにドアノブを捻っても扉は開かない。
「まさか姉ちゃん、結界を張ったのか」
オウカは術にも長けている退魔士なのだ。
屋敷に施した結界とは別に、イサリが勝手に外へ出ないよう念のために新たな結界を仕掛けていたのだろう。
「くそっ、姉ちゃん!」
姉が自分を大切に想っているのは分かる。
だが、自分だって姉が大切だとイサリは強く思う。
だからこそ、出なければと無意識で扉を思い切り殴った。
「ちょ、え! なんだこれぇーっ!」
とてつもない勢いで扉がぶち破られた。
「待って待て待て! これヤバいだろ!」
扉は敷地の門のところまで吹っ飛んでいたのだ。
イサリは自分の右手と飛んでいった扉を交互に見る。
「どうなってるんだよ、これ」
強大な力で殴られたのが分かるほど、扉はひしゃげていた。
にも関わらず、イサリは手に痛みなどは感じなかったのだ。
自分の身体に変化が起きている。
「どうしてこんな」
戸惑うイサリだが考えられるのはひとつだけ。
以前のイサリと今のイサリの違い。
それは《マヴェディーシ》だ。
マヴェディーシを埋め込まれたことで、自分の中で何かが起きているのだろうか。
思案していると、イサリはあることを思い出した。
それはエマンから言われた言葉。
《スターブランド》の核であるマヴェディーシを埋め込んだ。
そういう意味ではイサリがスターブランドという感じなのだろう。そう言っていた。
「俺は、スターブランドになっているのか?」
とはいえ、自分の身体が槍になったような感覚はない。
ただ、マヴェディーシが熱く脈打つのを感じた。
「お前は命を繋いでくれただけじゃなく、俺に力を与えてくれるのか?」
無意識にマヴェディーシ話しかけたが、もちろん回答が返ってくるわけはない。
「この力があれば、俺も戦える……」
自分は友人たちの中で唯一生き残り、退魔士であるオウカの弟でもある。
だからこそ、大切な者を奪った存在を、エマンと一緒に倒さなければならない。
イサリはそんな風に思っていたのだが、実際には戦う術などないとも理解はしていた。
「この力で仇を取ってみせる」
今の自分ならオウカやエマンの足手まといにはならない。戦える。報いを与えられる。
さっきのが、まぐれではないと確かめるために、イサリは今度、両足に力を込めて、大きくジャンプした。
何メートルも跳躍して門を飛び越え、近くにあった建物の屋上に着地する。
「す、すごい……。こんなことができるなんて」
そうこうして、街を見回していると、ショッピングモールから火の手が上がっていた。
それだけじゃない。
そこから見える光景には他に四つ、何かの襲撃を受けているのが見て取れた。
「いったい、何が起きているんだ」
同時多発的に何かが起きている。
その中の一つ、ショッピングモールにはオウカが向かっている。
もしかすると、他の場所はコーバックによる襲撃なのかもしれない。
そこにはエマンがいる可能性もある。
この力があればエマンと一緒に戦える。
イサリは確信をもって、慣れない体の変化を何とかコントロールしながら、まずは一番近くにある自然公園に向かうことにした。
姉は妖魔にかかりきりになるだろう。
今、コーバックのことを知る者は自分とオウカとエマンだけ。
脅威は去っていない。友人たちの死に報いていない。
「ごめん。姉ちゃん。やっぱり放っておけない。あんなの姉ちゃんにだってどうなるか分からない。見つけないと。早く!」
玄関を出ようとするが扉が開かない。
「えっ、なんで?」
鍵は外しているはずなのにドアノブを捻っても扉は開かない。
「まさか姉ちゃん、結界を張ったのか」
オウカは術にも長けている退魔士なのだ。
屋敷に施した結界とは別に、イサリが勝手に外へ出ないよう念のために新たな結界を仕掛けていたのだろう。
「くそっ、姉ちゃん!」
姉が自分を大切に想っているのは分かる。
だが、自分だって姉が大切だとイサリは強く思う。
だからこそ、出なければと無意識で扉を思い切り殴った。
「ちょ、え! なんだこれぇーっ!」
とてつもない勢いで扉がぶち破られた。
「待って待て待て! これヤバいだろ!」
扉は敷地の門のところまで吹っ飛んでいたのだ。
イサリは自分の右手と飛んでいった扉を交互に見る。
「どうなってるんだよ、これ」
強大な力で殴られたのが分かるほど、扉はひしゃげていた。
にも関わらず、イサリは手に痛みなどは感じなかったのだ。
自分の身体に変化が起きている。
「どうしてこんな」
戸惑うイサリだが考えられるのはひとつだけ。
以前のイサリと今のイサリの違い。
それは《マヴェディーシ》だ。
マヴェディーシを埋め込まれたことで、自分の中で何かが起きているのだろうか。
思案していると、イサリはあることを思い出した。
それはエマンから言われた言葉。
《スターブランド》の核であるマヴェディーシを埋め込んだ。
そういう意味ではイサリがスターブランドという感じなのだろう。そう言っていた。
「俺は、スターブランドになっているのか?」
とはいえ、自分の身体が槍になったような感覚はない。
ただ、マヴェディーシが熱く脈打つのを感じた。
「お前は命を繋いでくれただけじゃなく、俺に力を与えてくれるのか?」
無意識にマヴェディーシ話しかけたが、もちろん回答が返ってくるわけはない。
「この力があれば、俺も戦える……」
自分は友人たちの中で唯一生き残り、退魔士であるオウカの弟でもある。
だからこそ、大切な者を奪った存在を、エマンと一緒に倒さなければならない。
イサリはそんな風に思っていたのだが、実際には戦う術などないとも理解はしていた。
「この力で仇を取ってみせる」
今の自分ならオウカやエマンの足手まといにはならない。戦える。報いを与えられる。
さっきのが、まぐれではないと確かめるために、イサリは今度、両足に力を込めて、大きくジャンプした。
何メートルも跳躍して門を飛び越え、近くにあった建物の屋上に着地する。
「す、すごい……。こんなことができるなんて」
そうこうして、街を見回していると、ショッピングモールから火の手が上がっていた。
それだけじゃない。
そこから見える光景には他に四つ、何かの襲撃を受けているのが見て取れた。
「いったい、何が起きているんだ」
同時多発的に何かが起きている。
その中の一つ、ショッピングモールにはオウカが向かっている。
もしかすると、他の場所はコーバックによる襲撃なのかもしれない。
そこにはエマンがいる可能性もある。
この力があればエマンと一緒に戦える。
イサリは確信をもって、慣れない体の変化を何とかコントロールしながら、まずは一番近くにある自然公園に向かうことにした。
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