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心絵マシテ

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黒幕の内

111話 ヴェーダの力

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 それは形容し難いほど、スリムなモデル体型フォーメーションだった……。
 天地開闢てんちかいびゃくしたその時から、露出した胸元。
 その底が見えない谷間に多くの男たちが溺れていった。
 彼女が醸し出す妖艶な笑みも相まって、欲情のロックオンが外せない。

 俺たちエロ―スが求めていた至高産物がそこにはあった。
 近づくだけで、大人の良い匂いがする。
 スカートからのぞかせる細長い脚を交差させながら、こちらに身体を向ける仕草は、もはや芸術の域に達している。
 まさにテクニシャンの通名を持つに相応しい保険医のK子先生。
 彼女に魅了されない男などいない……サトランドの設定を知っていても、初めて目の当たりにする現物は破壊力が違う。
 どこか、懐かしい気もしなくはないが、それもこれもK子先生の笑みに、身体だけではなく心も癒されるからだろう。

「これは……また、大変! 呪いの上に呪いが……ミルフィーユ仕立てになっているなんて先生……初めて見たわ。こっちはこっちで魔に憑りつかれているけど。う~ん――――やはり君から治療した方がいいかもしれないわね」

 出会ってすぐだというのに、先生は早くも俺の正体を見破っていた。
 思いも寄らない話の流れ、治療という言葉がこんなにも暖かいモノだなんて今まで感じたこともない。
 この気持ちを先生に伝えたいが、どうやら念話できないらしい。
 仕方がないので助手に通訳を依頼した。

「先生、私の主が人に戻る方法はないのか? としつこく聞いてきますが、実際のとこどうなんですか?」

「いきなりは、戻らないと思うわよ。段階を踏んで徐々に戻すのが最善かしら」

「よく、パンではないと気づきましたね? だそうです」

「それね、先生ぃ……これでも占星術やタロット占いが得意なのよ。なんか……続けているうちに色々と見えるようになってきたの。占いってすごいわよね~、こんな効果があると知らなかったわぁ」

 多分、それ…………占いちゃう。
 スキが高じて、K子先生は自身の未知なる能力に覚醒してしまったようだ。
 その力を借りれば、俺を復元できるらしいが、あまりにも時間がかかりすぎる。
 次郎系のようなスピード感がなければ、俺の身体はカビだけになってしまう。
 パンである以上、消費期限がある。その前に、何としても立派な人に戻らないといけない。

「人に戻っても、立派な大人にはなれないと思いますが……」

『黙らしゃいぃぃぃぃぃ―――――』

 我が大願を否定する魔王は放置する方向で、俺は質問を変えることにした。
 人ではなく、パン以外に変身できる可能性を模索するのが合理的かもしれない。
 一時的だが、人に近い形になれればサトランド脱出する糸口になる。

『それゆけ! 我がしもべよ』

「どうやら主様は、人型に近ければ人外でも構わないようです」

「なら! Vのモノどうかしら?」

 我が校のセクスィーレディが、真顔でOBを叩き出してきた。
 人に近いと言えば、見た目そうではあるが……肝心な話、実体がない。
 俺にゲーム実況でもしろというのか? いくら再生数を稼げたとしても肉体が再生しなければ話にならん。

「他にはありませんか? 裏技みたいなの? 私的には、よく燃えそうな物になってくれるといいんですけどね……クフフッ」

 漏れてる、漏れてる、性癖がだだ漏れだよ!
 燃えるって何だよ。俺は不死鳥じゃねぇんだ、丸焼けはゴメンだわ。

「そうね~。残りは、スキルブックの潜在能力を引き出して、それっぽいモノになるしかないわね」

 滅茶苦茶、アバウトっすな!
 スキルブックの能力自体を応用し、別の存在になるのか……その発想は、さきほど想い描いた超熟マイトに類似している。
 個人の違いはあるものの、本の能力自体は何かをモチーフとしたものだ。
 グゼンなら調理器具、リンなら動物、シャルなら浄化の光、そんな感じものに変わるはずだ。

「K子先生、それでいきましょう! このパン太郎は肖像の力をモチーフにしています。うまくいけば、人間に戻れるかもしれません」

「そこまで言うのなら、アーユルヴェーダで治療しましよう。パン太郎君は、身体と心と行動が穢れた結果、本来は重なることのない呪詛の重ね掛けにあっているのだから毒素を抜けば、秘めたる力を解放できるわ!」

 先生は、ハイになったまま保健室の戸棚を漁り始めた。
 アーユルヴェーダか……俺の記憶が、ただしければ食事や薬で病を治療する方法だ。
 どんな薬が出てくるのか未知ではあるが、効果がでることを期待しよう。

「あったわ! コレよ、コレ」

 そう言いながら、K子先生は開き戸の奥から機材のようなモノを取り出してきた。
 ドカッと音を立ててデスクに置かれたのは、ヴェーダではなくベータだった。
 斜め上を突き進んでゆく機器の存在に、エクスサイズは石仏ような表情になっていた。 
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