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黒幕の内
110話 女教師K子
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形勢は明らかに不利だった。
スキルブックが使えない俺と、スキルブックを使ってリンの身体を乗っ取ったエクスサイズ。
そう状況的に今一番、危ういのはワタシを怒られた、このおバカさんの方だ。
「くふふふっ、今こそ積年の恨みを晴らしたる。スキルブック、ブラックシ――ット!」
『エクササイズはスキルを使用した。しかし、何も起こらなかった』
「どうやら、言い方がふざけ過ぎたみたいだわ、ブラックシート!!」
『エクササイズはブラックシートを使用した。けど、何も起こらない』
「なっ……なぜゆえ? はっ! まさか、この女の自我が妾のジャマをしているというのかぁ!? ええぃー! 小癪な!! ならば魔力全開放で、強制発動させるのみ……起動せよ! ブラックシートぉおおおおん」
『バカが懲りずにスキルを使用する。取り留めのないやり取りに、マイトは怒り出した。タイタンハンマ――!!』
拳を振りかざす俺の威光によって、エクササイズは「ぎゃふん」と言って勝手に倒れた。
こういうコイツの乗りの良さはキライじゃない。
もっとも辛いのは「はぁ?」された時だ。
マジで血も涙もない処遇は、ボケた俺たちを害悪ように扱ってくる。
【ボロを身につけても心に錦を】昔のエロい人はよく、こう言っていた。
下賤な奴ほど、パリピを気取る。
好待遇は好きだけど、パリピがキライだから、なり切れずにモドキとなる。
万物の価値は決して見かけでは決まらない。
どれだけ、着飾ろうともソイツが持っている穢れはにじみ出てくる。
だから、人は嘘の上に嘘を重ねる。
噓塗れになり足下を見失い、思念の亡霊と化す。
何かを一貫できないモノは、周りに満足できていない。
自分の価値観を見失い、他者の価値観を真似るのは最大の自己否定である。
そんな在り様で何を満足できようか……。
結果としてサトランのような歪んだ人間が出来上がる。
『よし、正座しなさい。エクスサイズ』
「いて座!」
『馬鹿にしてんのか、この魔王! どうして、スキルブックが使えないのか……まだ、気づかないのか?』
「いえ、主様。ホントにもうねー……どうなっているのやら」
変わり身はやっ! 人に乗り移りる魔王だから、そうなのか……な、わけあるかい!!
自分の立場が危いと、トミカとプラレールの違いが分からないコイツでも理解できたらしい。
途端、殊勝になるのはマイナス点でしかないがムダに抵抗されるよりは、すんなりと話が進む。
『―――というわけで、このサトランドでは、人は皆、スキルブックを使用できない。よって君は今、糞ん蠅と何ら変わりない。まぁ、もとから他者に依存する、こすい能力だから仕方がないが』
「こすい言わんでください。主様こそデスブリンガーの能力に頼りきっているのでは、ありませんか?」
核心を丸太杭で突いてくるような一言に、危うく根絶やしにされるところだった。
否定したくとも否定できない部分が大人にはある。
たとえば、俺が依然としてパンの姿ままであると言うのは、そろそろどうにか解決しなければならない問題だ。
それこそ、レジ袋有料化レベルほどの深刻さだ。
「どうかしましたか? ウンコですか?」
『脱糞するパンがどこの世界にいるんだ! いい加減に元の姿に戻りたいんだが、魔王的には何か妙案があるか?』
「私に聞くとは……よほど困っているんですね」
『自分で認めちゃったよ。仕方がない……適当に周囲を探ってみるか』
まずは、情報収集がダンジョン攻略の鍵だ。
などと言いつつも……冷静に考えればサトランさえ倒せば、俺はこの仮想世界から解放され人の姿に戻れる。
だが、アイツはこの世界において無敵の存在だ。
どれだけ攻撃しても勝てる見込みはない。
その代わり、狙えるモノがもう一つある。
サトランのスキルブック、ファンタジア……どうにか、コイツを引っ張りだして破壊する。
それで万事オッケィなはずだ。
「主様、これは……かなり不味い状況やもしれません」
『ん? あっ! 逃げろ―――!! コイツらはサトランが放った刺客だぁ』
俺たちを取り囲むようにして、生徒に扮した怪物たちが集合していた。
白目をむいたまま、意思なきゾンビのようにフラフラと徘徊している。
パッと見、人に酷似しているが、よくよく見るとマネキンに近い人形系のビジュアルだ。
まるで、待ち合わせ場所に集まる感覚で、偽の生徒たちが俺たちの進路を塞いでくる。
このままだと、人形の人混みに飲み込まれてリンチにあうこと必死だ。
エクササイズが、そこら辺をうろついていた教頭を使って試してみると、まさに入れ食い状態。
玩具のように揉みくちゃにされエグイ姿に変わっていた。
『とにかく通路は駄目だ! どこか部屋に隠れて奴らをやり過ごさないと!』
「ちょうど、あそこに部屋あります。一先ず、そこへ避難しましょう」
校舎、一階の個室に俺たちは何とか飛び込むと、急いでドアの鍵をかけた。
あまりに慌てていたものだから、そこがどこなのか? 確認はしなかった。
けれど、匂いで分かる。この、むせ返るような消毒臭さは、間違いなく保健室のものだ。
「あらあら、どうしたの? 具合でも悪くなったのかしら」
すぐそばから聞こえてきた声に、俺とエクササイズはギョッとした。
保健室に来れば、かなりの高確率で出会える保健の先生……白衣を羽織る女教師が丸椅子に腰かけながら、コチラの様子をうかがっていた。
スキルブックが使えない俺と、スキルブックを使ってリンの身体を乗っ取ったエクスサイズ。
そう状況的に今一番、危ういのはワタシを怒られた、このおバカさんの方だ。
「くふふふっ、今こそ積年の恨みを晴らしたる。スキルブック、ブラックシ――ット!」
『エクササイズはスキルを使用した。しかし、何も起こらなかった』
「どうやら、言い方がふざけ過ぎたみたいだわ、ブラックシート!!」
『エクササイズはブラックシートを使用した。けど、何も起こらない』
「なっ……なぜゆえ? はっ! まさか、この女の自我が妾のジャマをしているというのかぁ!? ええぃー! 小癪な!! ならば魔力全開放で、強制発動させるのみ……起動せよ! ブラックシートぉおおおおん」
『バカが懲りずにスキルを使用する。取り留めのないやり取りに、マイトは怒り出した。タイタンハンマ――!!』
拳を振りかざす俺の威光によって、エクササイズは「ぎゃふん」と言って勝手に倒れた。
こういうコイツの乗りの良さはキライじゃない。
もっとも辛いのは「はぁ?」された時だ。
マジで血も涙もない処遇は、ボケた俺たちを害悪ように扱ってくる。
【ボロを身につけても心に錦を】昔のエロい人はよく、こう言っていた。
下賤な奴ほど、パリピを気取る。
好待遇は好きだけど、パリピがキライだから、なり切れずにモドキとなる。
万物の価値は決して見かけでは決まらない。
どれだけ、着飾ろうともソイツが持っている穢れはにじみ出てくる。
だから、人は嘘の上に嘘を重ねる。
噓塗れになり足下を見失い、思念の亡霊と化す。
何かを一貫できないモノは、周りに満足できていない。
自分の価値観を見失い、他者の価値観を真似るのは最大の自己否定である。
そんな在り様で何を満足できようか……。
結果としてサトランのような歪んだ人間が出来上がる。
『よし、正座しなさい。エクスサイズ』
「いて座!」
『馬鹿にしてんのか、この魔王! どうして、スキルブックが使えないのか……まだ、気づかないのか?』
「いえ、主様。ホントにもうねー……どうなっているのやら」
変わり身はやっ! 人に乗り移りる魔王だから、そうなのか……な、わけあるかい!!
自分の立場が危いと、トミカとプラレールの違いが分からないコイツでも理解できたらしい。
途端、殊勝になるのはマイナス点でしかないがムダに抵抗されるよりは、すんなりと話が進む。
『―――というわけで、このサトランドでは、人は皆、スキルブックを使用できない。よって君は今、糞ん蠅と何ら変わりない。まぁ、もとから他者に依存する、こすい能力だから仕方がないが』
「こすい言わんでください。主様こそデスブリンガーの能力に頼りきっているのでは、ありませんか?」
核心を丸太杭で突いてくるような一言に、危うく根絶やしにされるところだった。
否定したくとも否定できない部分が大人にはある。
たとえば、俺が依然としてパンの姿ままであると言うのは、そろそろどうにか解決しなければならない問題だ。
それこそ、レジ袋有料化レベルほどの深刻さだ。
「どうかしましたか? ウンコですか?」
『脱糞するパンがどこの世界にいるんだ! いい加減に元の姿に戻りたいんだが、魔王的には何か妙案があるか?』
「私に聞くとは……よほど困っているんですね」
『自分で認めちゃったよ。仕方がない……適当に周囲を探ってみるか』
まずは、情報収集がダンジョン攻略の鍵だ。
などと言いつつも……冷静に考えればサトランさえ倒せば、俺はこの仮想世界から解放され人の姿に戻れる。
だが、アイツはこの世界において無敵の存在だ。
どれだけ攻撃しても勝てる見込みはない。
その代わり、狙えるモノがもう一つある。
サトランのスキルブック、ファンタジア……どうにか、コイツを引っ張りだして破壊する。
それで万事オッケィなはずだ。
「主様、これは……かなり不味い状況やもしれません」
『ん? あっ! 逃げろ―――!! コイツらはサトランが放った刺客だぁ』
俺たちを取り囲むようにして、生徒に扮した怪物たちが集合していた。
白目をむいたまま、意思なきゾンビのようにフラフラと徘徊している。
パッと見、人に酷似しているが、よくよく見るとマネキンに近い人形系のビジュアルだ。
まるで、待ち合わせ場所に集まる感覚で、偽の生徒たちが俺たちの進路を塞いでくる。
このままだと、人形の人混みに飲み込まれてリンチにあうこと必死だ。
エクササイズが、そこら辺をうろついていた教頭を使って試してみると、まさに入れ食い状態。
玩具のように揉みくちゃにされエグイ姿に変わっていた。
『とにかく通路は駄目だ! どこか部屋に隠れて奴らをやり過ごさないと!』
「ちょうど、あそこに部屋あります。一先ず、そこへ避難しましょう」
校舎、一階の個室に俺たちは何とか飛び込むと、急いでドアの鍵をかけた。
あまりに慌てていたものだから、そこがどこなのか? 確認はしなかった。
けれど、匂いで分かる。この、むせ返るような消毒臭さは、間違いなく保健室のものだ。
「あらあら、どうしたの? 具合でも悪くなったのかしら」
すぐそばから聞こえてきた声に、俺とエクササイズはギョッとした。
保健室に来れば、かなりの高確率で出会える保健の先生……白衣を羽織る女教師が丸椅子に腰かけながら、コチラの様子をうかがっていた。
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