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黒幕の内
108話 ジャージマン善
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爽やかな朝の一コマは絶叫によって始まる。
どこからともなく車輪のついたカゴこと、シルバーカートを押した婆さんたちが群れをなして大破したトラックのもとへと集合してゆく。
ひどく不気味な光景だった。
ざっと二十人以上はいる婆さんがカートの中から婆さんを出す。
明らかに増殖バグだ……考えるに本来は無傷のトラックが、なんやかんやで破壊された挙句、スキルブック所有者を巻き込んでしまった影響だ。
このイレギュラーにより仮想現実世界で何が起きるか?
正解は、好きなスキルを貰ってリライズする――――のではなく、終わりのない悪夢が続くだけだ。
婆さんたちが不要となったトラックを回収し終えた。
路上で丸くなっていたサトランが新芽のごとく立ち上がる。
「アイムカムバック!!」
などと復活を宣言するも奴の首は180度曲がったままだ。
今更、ホラーテイストを気取られても怪物というよりは珍獣にしかならない。
「さ、サトル君! 大丈夫なの!?」
不安気に見つめるササちゃんに満面の笑みで応えるが向いている方向が違う。
かくゆう俺は、どうしてサトランの様子を知ることができるのかというと、スタミナ化に成功したからだ。
スタミナ化とはなんぞやと聞かれれば、平たく言って幽体離脱に近い。
範囲は限られているが自分の魂を他の物へと一時的に移動させることができる。
まるで、エクスサイズのスキルブックにある固有能力「ちぇいぇ~んじ」ようだ。
あとは、自由行動が出来れば申し分ないのだが……サトランが創った世界は俺に優しくはない。
「手当しまぁす! 皆さん退いてください」
新たな動きがあった! 校内から全力疾走してきたのは、制服姿のシャルターナだった。
おさげ髪に眼鏡と骨壺、装い的にはクラスの委員長ポジといったところか……。
その脇にかかえた骨壺を何を使うのか……そんな無粋なことを彼女に聞けるわけもない。
というか、喋れない……そして知りたくもなかった。
「委員長? 僕は平気だから心配しなくてもいい。それより、ササちゃんのことを頼みます! 僕のせいで転んでしまったからね」
カッコよくウィンクを決めて見せるが方向が逆だ。
シャル委員長はというと、見えていないこと言いことに骨壺に入っていた謎の灰をサトランに投げつけていた。
砂かけバアアか……アイツは。
結局……どこにセカイにいてもシャルにとってサトランは天敵でしかない。
「まったく! どーでもいいけど! こんな道端にパンを捨てるヤツがいるなんて、マァージで度し難いわ!!」
女子生徒の愚痴が不意にパンの耳をかすめた。
周囲に視線を移すと、茶髪のギャルが俺を真上から見下ろしていた。
もう少し、位置をずらせばスカートの中が見せそうだが……パンにそんな事できるわけがない。
ならば、スタミナ化で秘密のヴェールの中を探ってやろうと意気込んだ直後、俺はソイツに拾われた。
ギャルの目線の高さまで持ち上げれて、初めてギャルの正体に気づいた。
リンだ……いつもとは違う、垢抜けた格好をしているが間違いなく俺の知っている女盗賊のリンだ。
シャルにリン。この仮想空間には、現実では離れた場所にいる相手を意図して連れてこれる力が備わっているようだ。
あとは、グゼンとワカモトさんだが、意外にも近場にいるのかもしれない。
「おいーす! 委員。って……その子、どうしたの?」
「危うく強姦に襲われるところだったのです。なんとか無事に保護しましたが……世も末です」
「あの……先輩方、私よりサトル君を保健室に……」
「あ―――ダイジョブじゃねぇ? 見たところピンピンしているみたいだし~」
リンはそう言いながら、サトランがいない方へと視線を向けていた。
言うまでなく、保健室ではなく病院直行コースだが、現実に保管してある本体は無傷なのだから問題はない。
むしろ、サトラン以外の皆は、これを現実だと思い込まされ仮想世界だとは受け止めきれていない。
そっちの方が危うい……早めに記憶を思い出させないと、現実への帰還ができなくなる。
「キャアアァア―――! サトル君よぉおお! サトル君が登校してしてきたわああああ―――――」
ギャルのリンに連れられ校内に入った。
すると、普通では起こりえない怪奇現象が発生した。
校舎の窓側から、女子たちが一斉に身を乗り出し、サトランむけて恐ろしいほどの熱意を放ってきた。
頭の位置を治すサトルの扱いは、アイドルというよりは、カリスマ教祖に近い。
黄色い声援を送り続ける追っかけ女子は狂気じみたところがある。
サトランの顔がかかれたウチワを常時装備している。
おかげで、辺り一面がサトルの群生地のようになってしまっている。
「なぁ……そろそろ、出て来ていいか、俺?」
俺たちが校内に入ったときからスタンバっていたのはジャージ姿のグゼンだった。
大方、昨晩パチンコに行って大負けした腹いせで校内に侵入したのだろう……。
どう見ても弁明できないレベルで不法侵入している。
予期せぬ、野獣の登場に早くも警備員のオッサンが緊急出動してきた。
どこからともなく車輪のついたカゴこと、シルバーカートを押した婆さんたちが群れをなして大破したトラックのもとへと集合してゆく。
ひどく不気味な光景だった。
ざっと二十人以上はいる婆さんがカートの中から婆さんを出す。
明らかに増殖バグだ……考えるに本来は無傷のトラックが、なんやかんやで破壊された挙句、スキルブック所有者を巻き込んでしまった影響だ。
このイレギュラーにより仮想現実世界で何が起きるか?
正解は、好きなスキルを貰ってリライズする――――のではなく、終わりのない悪夢が続くだけだ。
婆さんたちが不要となったトラックを回収し終えた。
路上で丸くなっていたサトランが新芽のごとく立ち上がる。
「アイムカムバック!!」
などと復活を宣言するも奴の首は180度曲がったままだ。
今更、ホラーテイストを気取られても怪物というよりは珍獣にしかならない。
「さ、サトル君! 大丈夫なの!?」
不安気に見つめるササちゃんに満面の笑みで応えるが向いている方向が違う。
かくゆう俺は、どうしてサトランの様子を知ることができるのかというと、スタミナ化に成功したからだ。
スタミナ化とはなんぞやと聞かれれば、平たく言って幽体離脱に近い。
範囲は限られているが自分の魂を他の物へと一時的に移動させることができる。
まるで、エクスサイズのスキルブックにある固有能力「ちぇいぇ~んじ」ようだ。
あとは、自由行動が出来れば申し分ないのだが……サトランが創った世界は俺に優しくはない。
「手当しまぁす! 皆さん退いてください」
新たな動きがあった! 校内から全力疾走してきたのは、制服姿のシャルターナだった。
おさげ髪に眼鏡と骨壺、装い的にはクラスの委員長ポジといったところか……。
その脇にかかえた骨壺を何を使うのか……そんな無粋なことを彼女に聞けるわけもない。
というか、喋れない……そして知りたくもなかった。
「委員長? 僕は平気だから心配しなくてもいい。それより、ササちゃんのことを頼みます! 僕のせいで転んでしまったからね」
カッコよくウィンクを決めて見せるが方向が逆だ。
シャル委員長はというと、見えていないこと言いことに骨壺に入っていた謎の灰をサトランに投げつけていた。
砂かけバアアか……アイツは。
結局……どこにセカイにいてもシャルにとってサトランは天敵でしかない。
「まったく! どーでもいいけど! こんな道端にパンを捨てるヤツがいるなんて、マァージで度し難いわ!!」
女子生徒の愚痴が不意にパンの耳をかすめた。
周囲に視線を移すと、茶髪のギャルが俺を真上から見下ろしていた。
もう少し、位置をずらせばスカートの中が見せそうだが……パンにそんな事できるわけがない。
ならば、スタミナ化で秘密のヴェールの中を探ってやろうと意気込んだ直後、俺はソイツに拾われた。
ギャルの目線の高さまで持ち上げれて、初めてギャルの正体に気づいた。
リンだ……いつもとは違う、垢抜けた格好をしているが間違いなく俺の知っている女盗賊のリンだ。
シャルにリン。この仮想空間には、現実では離れた場所にいる相手を意図して連れてこれる力が備わっているようだ。
あとは、グゼンとワカモトさんだが、意外にも近場にいるのかもしれない。
「おいーす! 委員。って……その子、どうしたの?」
「危うく強姦に襲われるところだったのです。なんとか無事に保護しましたが……世も末です」
「あの……先輩方、私よりサトル君を保健室に……」
「あ―――ダイジョブじゃねぇ? 見たところピンピンしているみたいだし~」
リンはそう言いながら、サトランがいない方へと視線を向けていた。
言うまでなく、保健室ではなく病院直行コースだが、現実に保管してある本体は無傷なのだから問題はない。
むしろ、サトラン以外の皆は、これを現実だと思い込まされ仮想世界だとは受け止めきれていない。
そっちの方が危うい……早めに記憶を思い出させないと、現実への帰還ができなくなる。
「キャアアァア―――! サトル君よぉおお! サトル君が登校してしてきたわああああ―――――」
ギャルのリンに連れられ校内に入った。
すると、普通では起こりえない怪奇現象が発生した。
校舎の窓側から、女子たちが一斉に身を乗り出し、サトランむけて恐ろしいほどの熱意を放ってきた。
頭の位置を治すサトルの扱いは、アイドルというよりは、カリスマ教祖に近い。
黄色い声援を送り続ける追っかけ女子は狂気じみたところがある。
サトランの顔がかかれたウチワを常時装備している。
おかげで、辺り一面がサトルの群生地のようになってしまっている。
「なぁ……そろそろ、出て来ていいか、俺?」
俺たちが校内に入ったときからスタンバっていたのはジャージ姿のグゼンだった。
大方、昨晩パチンコに行って大負けした腹いせで校内に侵入したのだろう……。
どう見ても弁明できないレベルで不法侵入している。
予期せぬ、野獣の登場に早くも警備員のオッサンが緊急出動してきた。
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