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全てを知る者
102話 コラボレーション
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「あっ、俺はマイトっす。でこっちの聖女はシャルで、この旅行帰りなのがササブリ」
会釈をする俺たちに、シズエ婆さんは目を見開いたまま無言で立ち尽くしていた。
何か、気に障ることでもあったんだろうか?
「……zzzzz」
寝ていやがる! あろうことか、人が自己紹介している最中、このババアは居眠りこいてやがる。
気にして損した、今のうちに庭を出ていこう。
「見て下さい、これがグランタブローの能力です。対象に一時的な幸運の加護を与える魔法なのですよ! どうです、効果テキメンでしょう!」
「んな……卵が先か、ニワトリが先か、みたいな話をされてもな…………」
安らかに眠る婆さんを眺めながら、恍惚とした表情を見せるシャルターナ。
聖女である彼女の神聖なモノに対する支持は凄まじい。
疑うことなく、神の恩寵だと感激している。
確かに、婆さんに見つかっても何のお咎めも受けていないのはラッキーだが……。
それが、俺の運勢だと定義づけるファクターはどこにも存在しない。
シャルターナにとって、答え合わせなど些末なことなのだろう。
奇跡という果実が自分の周囲に転がっていることを感じ取れれば、それで満足なわけだ。
確かな理屈などではなく、曖昧でも結果が勝る。
信仰心とは、そういう盲目的な部分を孕んでいる。
だからこそ慈悲でありながらも、厳格なのだろう。
「旅のお方、どこへ行くつもりか?」
「ふわっあ!」寝ていたはずのババアが再起動していた。
今度は何故か? 寝起きのコブラツイストを俺にかけてきた。
これもう、スキンシップではなく単なるセクハラではないのか?
人に疑惑をかけさせながら、女将シズエは耳元で囁く。
「その光輝く、下半身は太陽の勇者の証」だと……。
太陽……何かの隠語なのか? 真っ先にそう思い浮かべる俺の心は不浄なのだろうか?
気づけば、独りで下ネタしりとりをしている時がある。
まぁ、それが思春期の男子なわけですから~ノープロブレムよ。
「ついて来なさい。勇者、一向に渡さなければならないモノがある」
タイミングやフラグを無視して突如、シズエ婆さんは使命感を帯び始めた。
使命感とは元から在る感情のはずなのだが、婆さんの場合は違う。
まるで、何かに取憑かれたように不自然な行動を取り始めている。
これこそ、タツミタクロー? の力……! よく分かんねぇーけど、神がかっていなければ説明がつかない。
「池? どうなさるおつもりで?」
「まぁ、黙って見ていな。そぉおおお―――――れぇぇぇえええ――――いいぃぃぃぃ!」
シズエ婆さんは池のそばにある岩の上に飛び乗った。
俺と同じくシャルも老婆の奇行についてゆけず、不可解そうな面持ちを浮かべていた。
ガシャン! とそばで大きな音が鳴り響いた。
婆さんの乗った岩が地面に沈んでゆく。同時に、池が中心部から真っ二つに裂け開いてゆく。
なんと、池の下から地下へと続く階段が出現した。
これもまた、匠がなせるリフォーム技だというのか……
「おおお、おおおおぅうう!! なんじゃ! 何じゃぁぁあ! 我のために秘密の神殿でも建てておったのか!?」
魔王様は盛大なカン違いのもと先陣をきって婆さんの後をついてゆく。
「うんわっ! クサッ!!」
「何ですか!? この絶望的な悪臭は……」
たぶん、グリフィン〇ールでもここはパスすると思う。地下から妙に酸っぱい臭いがする。
慌てて鼻を塞ぐ俺とシャルを見ながら、魔王とババアがほくそ笑んでいる。
コイツらに常人の嗅覚は備わっていない。
スメラーと呼ばれた俺には分かる。コイツは発酵に失敗した時のヤバい奴だぁ!!
「主たちは軟弱よのう~」
「そういう、お前は平気なのかよ? ササブリ」
「無論じゃ! この邪悪な臭いは定期的な儀式が執り行われている証拠じゃあ。懐かしいぞぉぉ」
「おや、アンタも漬けるのかい?」
「うむ、我は(悪魔)憑かせるのが得意じゃ!! 人間どもは悲鳴ばかり上げていたぞ」
「なんと! (嬉しい)悲鳴を上げるだなんて……アンタ、達人かい!?」
何が起きたのか? 突如、魔王とババアのコラボが開催されてしまった。
悪魔召喚の儀式と漬物語りが誤って合致してしまっている。
お互い、いつ食い違いに気づくのか? 見ているこちらがハラハラする。
「なぁ、シャル? ボロが出るまえに止めたほうが―――――」
協力を仰ごうと背後を振り向くとシャルが白目を向いてフラフラと階段を下りていた。
「あぶねぇー! しっかりしろ!」
咄嗟に抱きとめて呼び掛けるが、酷く弱っている。
「す……みませ……。息が…………」
どうやら、聖なる者にとってこの場所は穢れすぎているらしい。
瘴気に近しい空気が充満するここでは、呼吸をするのも辛そうだ。
「ほれ、これをつけて。シャルは外に避難していろ」
グラビアの能力でマスクを作ると、シャルに手渡した。
会釈をする俺たちに、シズエ婆さんは目を見開いたまま無言で立ち尽くしていた。
何か、気に障ることでもあったんだろうか?
「……zzzzz」
寝ていやがる! あろうことか、人が自己紹介している最中、このババアは居眠りこいてやがる。
気にして損した、今のうちに庭を出ていこう。
「見て下さい、これがグランタブローの能力です。対象に一時的な幸運の加護を与える魔法なのですよ! どうです、効果テキメンでしょう!」
「んな……卵が先か、ニワトリが先か、みたいな話をされてもな…………」
安らかに眠る婆さんを眺めながら、恍惚とした表情を見せるシャルターナ。
聖女である彼女の神聖なモノに対する支持は凄まじい。
疑うことなく、神の恩寵だと感激している。
確かに、婆さんに見つかっても何のお咎めも受けていないのはラッキーだが……。
それが、俺の運勢だと定義づけるファクターはどこにも存在しない。
シャルターナにとって、答え合わせなど些末なことなのだろう。
奇跡という果実が自分の周囲に転がっていることを感じ取れれば、それで満足なわけだ。
確かな理屈などではなく、曖昧でも結果が勝る。
信仰心とは、そういう盲目的な部分を孕んでいる。
だからこそ慈悲でありながらも、厳格なのだろう。
「旅のお方、どこへ行くつもりか?」
「ふわっあ!」寝ていたはずのババアが再起動していた。
今度は何故か? 寝起きのコブラツイストを俺にかけてきた。
これもう、スキンシップではなく単なるセクハラではないのか?
人に疑惑をかけさせながら、女将シズエは耳元で囁く。
「その光輝く、下半身は太陽の勇者の証」だと……。
太陽……何かの隠語なのか? 真っ先にそう思い浮かべる俺の心は不浄なのだろうか?
気づけば、独りで下ネタしりとりをしている時がある。
まぁ、それが思春期の男子なわけですから~ノープロブレムよ。
「ついて来なさい。勇者、一向に渡さなければならないモノがある」
タイミングやフラグを無視して突如、シズエ婆さんは使命感を帯び始めた。
使命感とは元から在る感情のはずなのだが、婆さんの場合は違う。
まるで、何かに取憑かれたように不自然な行動を取り始めている。
これこそ、タツミタクロー? の力……! よく分かんねぇーけど、神がかっていなければ説明がつかない。
「池? どうなさるおつもりで?」
「まぁ、黙って見ていな。そぉおおお―――――れぇぇぇえええ――――いいぃぃぃぃ!」
シズエ婆さんは池のそばにある岩の上に飛び乗った。
俺と同じくシャルも老婆の奇行についてゆけず、不可解そうな面持ちを浮かべていた。
ガシャン! とそばで大きな音が鳴り響いた。
婆さんの乗った岩が地面に沈んでゆく。同時に、池が中心部から真っ二つに裂け開いてゆく。
なんと、池の下から地下へと続く階段が出現した。
これもまた、匠がなせるリフォーム技だというのか……
「おおお、おおおおぅうう!! なんじゃ! 何じゃぁぁあ! 我のために秘密の神殿でも建てておったのか!?」
魔王様は盛大なカン違いのもと先陣をきって婆さんの後をついてゆく。
「うんわっ! クサッ!!」
「何ですか!? この絶望的な悪臭は……」
たぶん、グリフィン〇ールでもここはパスすると思う。地下から妙に酸っぱい臭いがする。
慌てて鼻を塞ぐ俺とシャルを見ながら、魔王とババアがほくそ笑んでいる。
コイツらに常人の嗅覚は備わっていない。
スメラーと呼ばれた俺には分かる。コイツは発酵に失敗した時のヤバい奴だぁ!!
「主たちは軟弱よのう~」
「そういう、お前は平気なのかよ? ササブリ」
「無論じゃ! この邪悪な臭いは定期的な儀式が執り行われている証拠じゃあ。懐かしいぞぉぉ」
「おや、アンタも漬けるのかい?」
「うむ、我は(悪魔)憑かせるのが得意じゃ!! 人間どもは悲鳴ばかり上げていたぞ」
「なんと! (嬉しい)悲鳴を上げるだなんて……アンタ、達人かい!?」
何が起きたのか? 突如、魔王とババアのコラボが開催されてしまった。
悪魔召喚の儀式と漬物語りが誤って合致してしまっている。
お互い、いつ食い違いに気づくのか? 見ているこちらがハラハラする。
「なぁ、シャル? ボロが出るまえに止めたほうが―――――」
協力を仰ごうと背後を振り向くとシャルが白目を向いてフラフラと階段を下りていた。
「あぶねぇー! しっかりしろ!」
咄嗟に抱きとめて呼び掛けるが、酷く弱っている。
「す……みませ……。息が…………」
どうやら、聖なる者にとってこの場所は穢れすぎているらしい。
瘴気に近しい空気が充満するここでは、呼吸をするのも辛そうだ。
「ほれ、これをつけて。シャルは外に避難していろ」
グラビアの能力でマスクを作ると、シャルに手渡した。
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