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心のティアラ
80話 紳士の嗜み
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しばらく沈黙が続いた。
それを破ったのは「ちょっと、本部に連絡を取ってくる」というラードのマメさだった。
この状態で通信を取ろうとする、あり得ない行動に手下たちが慌ててフォローに入ろうとする。
わずかにできた隙を見逃すほど俺たちは甘くない。
「ササブリ! ラードは任せたぞ」
「安心せい、こ奴など我の敵ではないわ」
村人たちを救うべく走り出した俺は、傍に落ちていたエクスサイズのスキルブックを回収した。
おそらく、この方法が確実だ。
敵をかく乱することにおいてはエクスサイズ方が適任だ。
「本に戻れ! このままだと、お前もアイツらに捕まってしまうぞ!」
「は、はひぃ! でもどうすれば?」
「ラードの手下なら誰でもいい。憑依して奴らの妨害をしてくれ」
「ですが……もっと近くに行かなければ奴らには乗り移れません」
「いいから戻れ、そこは俺たちがどうにかする! そうだろ? シャルターナ」
俺の言葉に応じるように聖女は力強く頷いた。
エクスサイズがスキルブックに戻ってきた、本に魔力が宿ったのを感じる。
利害が一致している以上、ここで裏切りをかますほど、愚かな魔王ではない。
むしろ、そういった観念はササブリよりも、しっかりと持ち合わせている。
「ロビー君、私が足止めしますわ。その隙に!!」
「頼んだ、うおおおおおお――――!!」
全速力でダッシュする俺の前に光の壁がそびえていた。
シャルのセイクリッドウォールだ。ネイティアである彼らを護る結界が張られ一先ず、安心――――ん?
結界が張られたのと同時に、ならず者たちがコチラを一斉に振り向き始めた。
俺の接近に気づくような距離ではないが、様子がおかしいと訝しんだ。
それを皮切りに奴らの奇行が始まった。
包囲するのは無理だと諦めたのか? いきなり、包囲を解いて全員で俺の方へと突撃し始めた。
予想の斜めを上をゆく事態に面を喰らい、肝を冷やす。
だが、エクスサイズのスキルブックを使用するには、もってこいだ。
俺は本を開いて叫んだ。
「さあ! エクスサイズよ、押し寄せてくる敵を操って奴らを混乱させるんだ!」
「無理ですわ。数が多い上に、雑魚ばかりで足止めもできませんわ」
土壇場でノーを突きつけてくる凄い奴。
「そうか……駄目か」熟年の監督みたいな口振りになりながら、俺はスキルブックにバクッラーシールドをあてがった。
「ちょっ! 何を!?」
乗り移ることができるのは、何も生物だけではない。
こうした武具にだってエクスサイズは宿ることが出来る。
「行くぞ、マイトカッタァァア――――!!」
定番の盾投げ、けれど今回はタダのバックラーではない。
魔王の魔力により炎を噴き出すバーニングバクッラーだ。
この灼熱盾は俺の手元から離れた瞬間、目にも留まらぬ速度で迫り来る連中を焼き払う。
「やべぇ―――!! 何か、ヤバイ円盤が飛んで来やがった。全員、退避だ! 物陰に隠れろぉぉぉ!!」
敵の動揺する声が拡がってゆく。
地面に足をとられ転倒しながらも悪漢たちは塵尻に逃げてゆく。
防具での投擲で追い払うことは出来たが、奴らは逃亡のプロ。
四方八方に散らばったせいで俺もエクスサイズも誰を追えばいいのか? 分からなくなってしまった。
厄介なことに、逃げながらも一部は俺の方へと戻ってこようとする。
何が、そこまで連中を夢中にさせるのかは知らないけれど、磁力に引き寄せられるように向かってくる様は、光の集まる虫のようである。
――――んあっ!?
下半身がやけに眩しかった。
ほとばしる輝きに視線を向けると金色のスパンコールズボンが、見事に発光していた。
「――のだ。あれは、俺のものだ……金色のスパンコールは欲情の証――――欲しい、欲しいぃぃぃぃ」
耳澄ませば、呪いのキャッチフレーズが聞こえる。
連中の目当ては、このスパンコールのようだ。
よく、分からんが亡者のように群がってきている。
「ここは、我々に任せろ! ブルマダンク!!」
助けを求めていないし、ピンチでもない。
なのに……ウザい、大人たちがやってきた。
初めから、そこにいながら勝利を確信するまで隠れ潜んでいた、小賢しい輩ことブルマンたちマトリッツォがラードの手下の顔にブルマをかぶせてゆく。
多分、彼ら自身が装着していたであろう呪いの着衣。
その漢そのものを感じさせる悪臭に「臭い! 臭い!」を連呼しながら、やがて微動だにしなくなった。
ブルマの殺虫効果は抜群だった。
あれほど、勢いづいていた悪漢たちが次々に倒されてゆく。
なんか、お膳立てしてしまったようで癪だ。
「主様! 早く、スキルブックを!」
呆けている暇などなかった。声が聞こえた方向から燃え盛る車輪が迫ってきた。
それを破ったのは「ちょっと、本部に連絡を取ってくる」というラードのマメさだった。
この状態で通信を取ろうとする、あり得ない行動に手下たちが慌ててフォローに入ろうとする。
わずかにできた隙を見逃すほど俺たちは甘くない。
「ササブリ! ラードは任せたぞ」
「安心せい、こ奴など我の敵ではないわ」
村人たちを救うべく走り出した俺は、傍に落ちていたエクスサイズのスキルブックを回収した。
おそらく、この方法が確実だ。
敵をかく乱することにおいてはエクスサイズ方が適任だ。
「本に戻れ! このままだと、お前もアイツらに捕まってしまうぞ!」
「は、はひぃ! でもどうすれば?」
「ラードの手下なら誰でもいい。憑依して奴らの妨害をしてくれ」
「ですが……もっと近くに行かなければ奴らには乗り移れません」
「いいから戻れ、そこは俺たちがどうにかする! そうだろ? シャルターナ」
俺の言葉に応じるように聖女は力強く頷いた。
エクスサイズがスキルブックに戻ってきた、本に魔力が宿ったのを感じる。
利害が一致している以上、ここで裏切りをかますほど、愚かな魔王ではない。
むしろ、そういった観念はササブリよりも、しっかりと持ち合わせている。
「ロビー君、私が足止めしますわ。その隙に!!」
「頼んだ、うおおおおおお――――!!」
全速力でダッシュする俺の前に光の壁がそびえていた。
シャルのセイクリッドウォールだ。ネイティアである彼らを護る結界が張られ一先ず、安心――――ん?
結界が張られたのと同時に、ならず者たちがコチラを一斉に振り向き始めた。
俺の接近に気づくような距離ではないが、様子がおかしいと訝しんだ。
それを皮切りに奴らの奇行が始まった。
包囲するのは無理だと諦めたのか? いきなり、包囲を解いて全員で俺の方へと突撃し始めた。
予想の斜めを上をゆく事態に面を喰らい、肝を冷やす。
だが、エクスサイズのスキルブックを使用するには、もってこいだ。
俺は本を開いて叫んだ。
「さあ! エクスサイズよ、押し寄せてくる敵を操って奴らを混乱させるんだ!」
「無理ですわ。数が多い上に、雑魚ばかりで足止めもできませんわ」
土壇場でノーを突きつけてくる凄い奴。
「そうか……駄目か」熟年の監督みたいな口振りになりながら、俺はスキルブックにバクッラーシールドをあてがった。
「ちょっ! 何を!?」
乗り移ることができるのは、何も生物だけではない。
こうした武具にだってエクスサイズは宿ることが出来る。
「行くぞ、マイトカッタァァア――――!!」
定番の盾投げ、けれど今回はタダのバックラーではない。
魔王の魔力により炎を噴き出すバーニングバクッラーだ。
この灼熱盾は俺の手元から離れた瞬間、目にも留まらぬ速度で迫り来る連中を焼き払う。
「やべぇ―――!! 何か、ヤバイ円盤が飛んで来やがった。全員、退避だ! 物陰に隠れろぉぉぉ!!」
敵の動揺する声が拡がってゆく。
地面に足をとられ転倒しながらも悪漢たちは塵尻に逃げてゆく。
防具での投擲で追い払うことは出来たが、奴らは逃亡のプロ。
四方八方に散らばったせいで俺もエクスサイズも誰を追えばいいのか? 分からなくなってしまった。
厄介なことに、逃げながらも一部は俺の方へと戻ってこようとする。
何が、そこまで連中を夢中にさせるのかは知らないけれど、磁力に引き寄せられるように向かってくる様は、光の集まる虫のようである。
――――んあっ!?
下半身がやけに眩しかった。
ほとばしる輝きに視線を向けると金色のスパンコールズボンが、見事に発光していた。
「――のだ。あれは、俺のものだ……金色のスパンコールは欲情の証――――欲しい、欲しいぃぃぃぃ」
耳澄ませば、呪いのキャッチフレーズが聞こえる。
連中の目当ては、このスパンコールのようだ。
よく、分からんが亡者のように群がってきている。
「ここは、我々に任せろ! ブルマダンク!!」
助けを求めていないし、ピンチでもない。
なのに……ウザい、大人たちがやってきた。
初めから、そこにいながら勝利を確信するまで隠れ潜んでいた、小賢しい輩ことブルマンたちマトリッツォがラードの手下の顔にブルマをかぶせてゆく。
多分、彼ら自身が装着していたであろう呪いの着衣。
その漢そのものを感じさせる悪臭に「臭い! 臭い!」を連呼しながら、やがて微動だにしなくなった。
ブルマの殺虫効果は抜群だった。
あれほど、勢いづいていた悪漢たちが次々に倒されてゆく。
なんか、お膳立てしてしまったようで癪だ。
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