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心のティアラ

74話 力を合わせて

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「どうなった?」
 発光がおさまるのと同時に、周囲の変化に気づいた。
 エクスサイズの姿がない……その場から忽然と消えてしまった。

 すぐ傍には、気を失っているのか? シャル倒れこんでいた。

「シャル、しっかりしろ! 無事か?」
 肩を揺らしてみると彼女の目蓋が微かに動いていた。
「ううっ……」と小さくうめいているが恐らくは大丈夫だ。

 問題は……さっきから背を向けたまま立ち尽くしているササブリの方だ。
 俺の勘が間違っていなければ、エクスサイズに意識を乗っ取られてしまっている。
 近づこうとも、迂闊には動けない。
 何せ、あのゴリ押しが得意なデスブリンガーの肉体だ。
 それを、ずる賢いエクスサイズが操るとしたら、完全無欠の超魔王が爆誕してしまったことになる。

「さ、ササブリ? 大丈夫か? 何か、身体に違和感とか……ない、よな」

 まずは様子見だ。さりげなくソフティに、接することで相手の体調を探る。
 ここれが出来れば、君も一級介護士だ。
 ボケたお爺ちゃんともアイコンタクトで意思の疎通ができる。
 ネオ・エスパーと化す。

 ツインテールをひるがえし、魔王は屈託くったくのない笑顔を見せた。

「うん! ササは大丈夫だよ、お兄ちゃん!」

 じゅ……重症だ。
 どうして、そうなった?
 というか、エクスサイズの人格はどこに逝ってしまったんだ?
 魔王と魔王を掛け合わせた結果、アイドル面が強く押し出されているササブリが完成した。
 仮説だが、精神面でもヘナチョコ魔王だったエク何とかさんは、相手の意識を奪おうしたら逆に溶かされてしまったようだ。

 ここまで、アホな魔王もなかなかいない。
 ミイラ取りがミイラになるとは……このことだ。

「なぁ、ササちゃん。とりあえず、そこで燃えている炎消せないかな?」

 本当に安全か確かめる必要があった。もし、あの放火魔王の意識が残っているのなら反発してくるはずだ。
 ササブリは小首を傾げながら俺を見詰めていた……。
 あんまり、ジロジロみないで欲しい。妙に照れ臭い。
 デスブリンガーでは味わうことのできない感覚に俺はしどろもどろになってしまった。
 ようは調子が狂わされているわけだが……それは真人間になったということでないのか?

「ゴメンね。ササ、お兄ちゃんの言っていることが分かんない。これだけ、燃えちゃったら全部、焼いた方が保険が出るんじゃないかな?」

 ええっ――――!? そこ! そっちにブレんの?
 保険なんて、このセカイにはないよ。
 そう、教えて上げたかった……でも、彼女の反応こそが至って標準だ。
 訳が分からないのは、このとんでもセカイと救いようのない仲間たちの方だ。

 とにかく、今のササブリは何もできない感じだ。
 これ以上、火の手が回り続けると村だけではなく森林の方にも被害が及ぶ。
 それに、まだポメオの両親が取り残されている。

 とっととシャルを叩き起こして結界を解除しなければ、二人とも手遅れになってしまう。

「若ぁ―――!! コイツは一体?」

 ボリネシアンランサーたちがやっと戻ってきた。
 変わり果てた村の姿に全員、放心状態となってしまっている。

「しっかりしろよ! このまま、放っておいたら帰る場所すらなくなるんだぞ!!」

「でも……火の勢いが強すぎる。今から消火しても間に合わない」

 クソッ―――もう、背に腹は代えられない。
 スキルブックを取り出し、カタログモードに切り替えた。
 肝心のボリネシアンズが、絶望で打ちひしがれてしまっている。
 いくら、背を押しても完全に諦めてしまっているのでは、何も起こらない。
 意気消沈した彼らを奮い立たせるには軌跡が必要だった。

「消火器を何本か購入したい、一本いくらだ?」

『消火器ですね、しばしお待ちを…………回答します。一本あたり1,000ポイントを必要とします』

「なら、七本くれ。7,000ポイントを消費する」

『かしこまりました。消火器、七本を転送します……完了しました』

 俺たちの目の前に真っ赤なアイツがやってきた。
 ずいぶんと久しぶりに見ても、イメージ通りの消火器だった。
 突然、現れた謎の物体に大の漢たちが戸惑いの表情を浮かべていた。

「皆、いいか! 今からこれを使い火を消す。使い方は俺が見せるから同じようにやるんだ!!」

「本当にこんなモノが役に立つんで?」

「四の五の言うのは使ってからにしてくれ! いくぞ!」

 何故か、リーダーみたいな立ち位置で俺は皆を引き連れ消火活動にあたることとなった。
 こうなりゃ、運命共同体、一蓮托生いちれんたくしょうみたいな泥臭い感じになってしまったが……不思議と悪い気はしない。
 消火器から消火剤を放出する。真っ白な粉が辺りに飛び散り炎に降りかかる。
 すぐに鎮火できるが、ハッキリ言って全然足りない。
 あくまで時間稼ぎだ。
 本命は、残りのランサーたちがを汲んできた水による消火だ。
 小さな部落だったからこそ、この方法が可能となるはずだ!

『消費ポイント、1,0000に到達しました。特典として天候変化、豪雨を発動します』

 はい? 嘘だろおおおおお――――!! とんでもない所から水をさされてしまった。 
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