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孤島の花嫁
70話 戦略的撤回
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ボリネシアンランサーに追われ、死に物狂いで逃げ出す。
裏切り者のせいで、族長の息子ではないことが判明してしまった以上、捕まったら何をされるのか? 分かったもんじゃない。
むこうも余程、必死なのか? 自慢のセグウェイには乗らず自力で追走してくる。
傍から見れば福男祭りをしているような光景だ。
誰が一番早く、浜辺に到達できるのか。
今年、一番のラッキースケベを決める祭典に俺たちの心は、デッドヒートしていた。
「ひゃは、ひゃっはははあ―――!! 快適じゃぁ―――、実に楽チンじゃあのぅ!!」
息苦しさに耐えながら走る俺の隣をセグウェイに搭乗した魔王が走り去っていった。
せめて、俺を乗せるとかいう気の利いた思考はないのかと苛立ち覚えたくとも、背後から迫ってくる奴らの気迫の方が完全に上回っている。
「貴様ら――、我々のセグウェイを滅茶苦茶に壊しおってタダでは済まさんぞぉぉおお!!」
理解にしばし時間を要した。
どうも、奴らは好き好んで走っているわけでもないようだ。
おそらく……というか、確実に他のセグウェイはササブリによって破壊されている。
つまり、ボリネシアンズが追いかけているのは俺ではなくササブリの方だ。
「見えたぞ! ササブリの狙いがぁ!」
瞬間、パンチラを目撃した時のように、俺の意識は覚醒した。
これは、単なる福男祭りなんかじゃない。陽動作戦だ。
魔王自らがヘイトを貯めて囮となってくれている。
その真意は、どこかで引き返して別のルートから逃げろという暗示だ。
せっかくの好意だ、無下にはできん。
「あっ!! 向こうにセグウェイがあるぞ!」
森林を駆けながら、俺は指で適当な脇道を指さした。
今時の小学生でも引っかからないような、しょうもない手だと侮っていた。
余程、セグウェイが恋しいのか、一同揃って、同じ光景を目にしてブチ切れていた。
「誰だ!? セグウェイがあるなんて言った野郎は、お前か?」
「しらねっす! 自分ついて来ただけっすから」
影が薄いどころか、影そのものである自分が悲しくなってきた。
奴らが余所見しているうちに草むらに身を潜めたが、誰一人として俺という存在を認識できていなかった。
そんなバカなと、手を叩いて笑いたくもなるが、皆で腰ミノという似通った格好をしていると、わりと見分けがつかなくなる。
とにかく、島の蛮族たちは独り脱落したことに気づいていない。
この隙にさっさと、ずらかろう。
相手が去っていたのを確認すると折り返して別の道を探すことにした。
難なく新しいルートを見つけることに成功した。
道幅も狭く迂回路のようだが人目につかなければ問題ない。
そう、誰の目にも留まらなければ……。
「お前、何してんの?」
「いやな、そろそろセグウェイも飽きてきたころじゃからな。こうして舞い戻ってきたわけよ」
「ちょっと……何言ってんのか、わからないっすね。セグウェイは?」
「案ずるな。ちゃんとスキルブックに収納したわい」
してやったりと得意満面に敬礼する魔王に、顔を生やした月のような表情で接したくなってきた。
江戸っ子よりも飽きのはやい奴をどう相手しろというのだ。
ついで、コイツがここに居るということは――――
「いたぞ! あそこだぁぁ!」
オマケつきであるということになる。
「あああっ! もう面倒だ。ササブリ、やっておしまい!」
「イヤじゃけど?」
「ぱーどぅん?」
「じゃからして、ろくなポイントにもならん奴らなんぞ。一々、相手になどできんと言っておる」
それは、ごもっともですが……ランキングが上がらない僕にどうやって、あの集団を片づけろと仰るのか?
嘆く以前に乾いた笑いしか出てこない。
多勢に無勢、そうなればやることは、いつも一つ。
「逃げろおおおおおお――――!」
狭い脇道を進んだのは失敗だとしか言えなかった。
咄嗟とは言え、判断を間違えたおかげで、せっかく入手したセグウェイが使用できない。
悪いのは俺じゃない。
陽動を臭わせて、何もしていない魔王のせいだ。
「主よ、まさかと思うが我のせいにしておらんだろうな?」
「はっ? おるだろう。大体、この島に行きたいって言ったのはどこの誰かさんでしたっけ?」
「むっ、我は無理強いしたつもりはないぞ。できれば、そうしたいなと進言しただけじゃ!」
「そうかい。なら、この状況を打破する方法も進言してくれよ」
「ほほう~! ようやく、マイトも我を頼るようになってきたか!!」
どうやら、また押していけないボタンに触れてしまったようだ。
皮肉交じりの一言が誤って解釈されてしまった。
窮地に追いやられた時にササブリが言うことはいつも一緒だ。
「さあ! ポイントを使用し奴らを撃退するのじゃあ!」
ほらね、やっぱりポイントの催促だ。
裏切り者のせいで、族長の息子ではないことが判明してしまった以上、捕まったら何をされるのか? 分かったもんじゃない。
むこうも余程、必死なのか? 自慢のセグウェイには乗らず自力で追走してくる。
傍から見れば福男祭りをしているような光景だ。
誰が一番早く、浜辺に到達できるのか。
今年、一番のラッキースケベを決める祭典に俺たちの心は、デッドヒートしていた。
「ひゃは、ひゃっはははあ―――!! 快適じゃぁ―――、実に楽チンじゃあのぅ!!」
息苦しさに耐えながら走る俺の隣をセグウェイに搭乗した魔王が走り去っていった。
せめて、俺を乗せるとかいう気の利いた思考はないのかと苛立ち覚えたくとも、背後から迫ってくる奴らの気迫の方が完全に上回っている。
「貴様ら――、我々のセグウェイを滅茶苦茶に壊しおってタダでは済まさんぞぉぉおお!!」
理解にしばし時間を要した。
どうも、奴らは好き好んで走っているわけでもないようだ。
おそらく……というか、確実に他のセグウェイはササブリによって破壊されている。
つまり、ボリネシアンズが追いかけているのは俺ではなくササブリの方だ。
「見えたぞ! ササブリの狙いがぁ!」
瞬間、パンチラを目撃した時のように、俺の意識は覚醒した。
これは、単なる福男祭りなんかじゃない。陽動作戦だ。
魔王自らがヘイトを貯めて囮となってくれている。
その真意は、どこかで引き返して別のルートから逃げろという暗示だ。
せっかくの好意だ、無下にはできん。
「あっ!! 向こうにセグウェイがあるぞ!」
森林を駆けながら、俺は指で適当な脇道を指さした。
今時の小学生でも引っかからないような、しょうもない手だと侮っていた。
余程、セグウェイが恋しいのか、一同揃って、同じ光景を目にしてブチ切れていた。
「誰だ!? セグウェイがあるなんて言った野郎は、お前か?」
「しらねっす! 自分ついて来ただけっすから」
影が薄いどころか、影そのものである自分が悲しくなってきた。
奴らが余所見しているうちに草むらに身を潜めたが、誰一人として俺という存在を認識できていなかった。
そんなバカなと、手を叩いて笑いたくもなるが、皆で腰ミノという似通った格好をしていると、わりと見分けがつかなくなる。
とにかく、島の蛮族たちは独り脱落したことに気づいていない。
この隙にさっさと、ずらかろう。
相手が去っていたのを確認すると折り返して別の道を探すことにした。
難なく新しいルートを見つけることに成功した。
道幅も狭く迂回路のようだが人目につかなければ問題ない。
そう、誰の目にも留まらなければ……。
「お前、何してんの?」
「いやな、そろそろセグウェイも飽きてきたころじゃからな。こうして舞い戻ってきたわけよ」
「ちょっと……何言ってんのか、わからないっすね。セグウェイは?」
「案ずるな。ちゃんとスキルブックに収納したわい」
してやったりと得意満面に敬礼する魔王に、顔を生やした月のような表情で接したくなってきた。
江戸っ子よりも飽きのはやい奴をどう相手しろというのだ。
ついで、コイツがここに居るということは――――
「いたぞ! あそこだぁぁ!」
オマケつきであるということになる。
「あああっ! もう面倒だ。ササブリ、やっておしまい!」
「イヤじゃけど?」
「ぱーどぅん?」
「じゃからして、ろくなポイントにもならん奴らなんぞ。一々、相手になどできんと言っておる」
それは、ごもっともですが……ランキングが上がらない僕にどうやって、あの集団を片づけろと仰るのか?
嘆く以前に乾いた笑いしか出てこない。
多勢に無勢、そうなればやることは、いつも一つ。
「逃げろおおおおおお――――!」
狭い脇道を進んだのは失敗だとしか言えなかった。
咄嗟とは言え、判断を間違えたおかげで、せっかく入手したセグウェイが使用できない。
悪いのは俺じゃない。
陽動を臭わせて、何もしていない魔王のせいだ。
「主よ、まさかと思うが我のせいにしておらんだろうな?」
「はっ? おるだろう。大体、この島に行きたいって言ったのはどこの誰かさんでしたっけ?」
「むっ、我は無理強いしたつもりはないぞ。できれば、そうしたいなと進言しただけじゃ!」
「そうかい。なら、この状況を打破する方法も進言してくれよ」
「ほほう~! ようやく、マイトも我を頼るようになってきたか!!」
どうやら、また押していけないボタンに触れてしまったようだ。
皮肉交じりの一言が誤って解釈されてしまった。
窮地に追いやられた時にササブリが言うことはいつも一緒だ。
「さあ! ポイントを使用し奴らを撃退するのじゃあ!」
ほらね、やっぱりポイントの催促だ。
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