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孤島の花嫁
61話 私を海にさらって
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出た! このオニギリとかいう、特級呪物……。
間違いなく、コイツの脇で固められ整形されたモノだ。
「まずは、握った本人が食べたほうがいいのでは?」
ずらりと皿に盛られた、おにぎりの山を指さしながら、歪んだ表情で笑ってやる。
「そうか、ならば」とヨシユキは躊躇する素振りも見せず、おにぎりを掴み頬張っている。
謀られた……コイツはロシアンルーレットだ。
脇で握ったモノは、この中に混じっているということなのか!?
数が減る、それすなわちシグルイなり。
「うはっ~、デリィシャス!」
神とは思えぬ感想が出てきた。いい加減、キャラ的にブレるのは止めて欲しい。
「それで、どうしてヨシユキがこんな所で油を売っているんだ?」
こうなりゃ、論点のすげ替えだ。
人の注意をそらすには、質問攻めにするのが上策である。
もっとも相手は土地神ではあるが、そこはヨシユキ。強い押しには弱いはずだ。
「ふむ。ソナタが魔王の本体を討ち滅ぼしてくれたおかげでアイン・ソフ様の聖域を守る必要がなくなってなぁ。我には自由を与えられることとなった」
「? 良かったじゃないか! しばらく、羽を伸ばして休めってことだろう?」
どうやら……触れてはいけないワードを使用してしまったらしい。
その一言で、ヨシユキの顔が崩れてきた。
放置しておいたら、鼻クソを食い出し兼ねないほどに切ない顔をしている。
「いつ戻れるか? 分からないのだ……早くて、百年後。遅くて数千年後か。とりあえず、あの祭壇が脅威にさらされない限り、職場復帰できない感じ?」
聞くんじゃなかった……自暴自棄になったリーマンのようなことを言い出してやがる。
失意のどん底に落とされたのは、わからなくもないが神である以上は、他の仕事だってあるだろうに。
「どうして、他の仕事を探そうとしないんだ? 別にこだわなければ見つけられるんだろう?」
「いやだい! あんな一日中、何もしなくもいい仕事、そうそう手放せるわけがなかろうに! 安月給で働くだけ働かされる余の身にもなってみろ! 気づいた時には、労働の喜びと称し、浮浪者に対して叫んでいる余がいるのだぞ……考えただけでも、寒気がする」
子供だ。いくら力説されてもクズとしか言いようがない。
そう言う台詞は実際に働いてこそ、口にできるモノだ。
「それはそうとソナタ、先程から全然、食が進んでいないではないか? ほれ、ワキ……ヤキソバもあるぞ! 遠慮せず食うがよい」
いらねぇ、ぜぇ――たい要らねぇ。今、ワキって言いかけたよな?
何、ちゃっかりセカンドトラップ、仕込んでいるんだよ。
どうやら、遊戯はここまでだ。
これ以上、この駄神に付き合っちゃいられない。
「ササブリ! もう腹一杯に食ったろ?」
「モグモグ……もふぇはほもうふこひぢぁ」
食いながら喋ろうとするなよ……。
「ヨシユキ、また君に会えて良かった! それじゃあ、健闘を祈る!!」
爽やかな笑顔で片手を振りながら、俺は脱兎のごとく砂浜を駆けた。
「またれぇえええいいいい!! 今度は出奔などさせぬわぁぁぁあ――――」
「うわああああああああああああ、くんな!! あっちいけぇえええええええええ!!!」
これが、美女との追いかけっこだったら、どんなに夢心地であったか……。
運命とは、無情なり。背後から迫ってくるのは、ワキソバ片手に全力疾走してくる、小汚ねぇ浪人生みたいな奴だ。
しかも、意外と素早い。いや、素早さの能力値が初期レベルの俺では、いくら懸命に走っても報われないということか!?
「うふはははあっ、大人しく余の脇の味を噛みしめるが良い。でなければ、余は解放されない! 解放されなければ、あの地下暮らしには戻れないんだぁぁぁあ……ぐああっ!!」
ヨシユキが砂に足を取られ激しく転倒した。
俺が脇メシを食わないから、コイツは帰れない……その事実を知り、少しだけ申し訳なさを感じた。
ある程度、距離を置いた俺は海を背にヨシユキに向かって叫んだ。
「ヨシユキィィィ! 後ろ!! 後ろぉぉぉ!!」
追いかけることに熱中しすぎて、奴は背後から来る猛威に備えていなかった。
まさか、追う立場の自分が逃げなけばならないなんて、想像できるわけがない。
怒涛の勢いで加速してくるバナナボート。
うちの魔王の怪力によって押し出されたボートが砂浜を爆走していた。
飛び跳ねた船底の影がヨシユキに覆い被さる。
「あっ」気づくも時すでに遅く、奴は衝撃で海へと弾き飛ばされ水底へと沈んでしまった。
残されたのは、海面に浮かぶ一艘のバナナのみ。
「よっしゃー! 南海の孤島に向かってレッツラゴー」
「なのじゃ―――!!」
今し方の、記憶をすべて捨て去るように俺はパドリングした。
すぎた事は、すぎた事。単なるアクシデントを、いつまでも引きずるわけにはいかない。
それに奴は霊体だ。後で、どんな報復をしてくるのか分かったモンじゃない。
より一層、力を込めてボートを沖へと走らせた。
間違いなく、コイツの脇で固められ整形されたモノだ。
「まずは、握った本人が食べたほうがいいのでは?」
ずらりと皿に盛られた、おにぎりの山を指さしながら、歪んだ表情で笑ってやる。
「そうか、ならば」とヨシユキは躊躇する素振りも見せず、おにぎりを掴み頬張っている。
謀られた……コイツはロシアンルーレットだ。
脇で握ったモノは、この中に混じっているということなのか!?
数が減る、それすなわちシグルイなり。
「うはっ~、デリィシャス!」
神とは思えぬ感想が出てきた。いい加減、キャラ的にブレるのは止めて欲しい。
「それで、どうしてヨシユキがこんな所で油を売っているんだ?」
こうなりゃ、論点のすげ替えだ。
人の注意をそらすには、質問攻めにするのが上策である。
もっとも相手は土地神ではあるが、そこはヨシユキ。強い押しには弱いはずだ。
「ふむ。ソナタが魔王の本体を討ち滅ぼしてくれたおかげでアイン・ソフ様の聖域を守る必要がなくなってなぁ。我には自由を与えられることとなった」
「? 良かったじゃないか! しばらく、羽を伸ばして休めってことだろう?」
どうやら……触れてはいけないワードを使用してしまったらしい。
その一言で、ヨシユキの顔が崩れてきた。
放置しておいたら、鼻クソを食い出し兼ねないほどに切ない顔をしている。
「いつ戻れるか? 分からないのだ……早くて、百年後。遅くて数千年後か。とりあえず、あの祭壇が脅威にさらされない限り、職場復帰できない感じ?」
聞くんじゃなかった……自暴自棄になったリーマンのようなことを言い出してやがる。
失意のどん底に落とされたのは、わからなくもないが神である以上は、他の仕事だってあるだろうに。
「どうして、他の仕事を探そうとしないんだ? 別にこだわなければ見つけられるんだろう?」
「いやだい! あんな一日中、何もしなくもいい仕事、そうそう手放せるわけがなかろうに! 安月給で働くだけ働かされる余の身にもなってみろ! 気づいた時には、労働の喜びと称し、浮浪者に対して叫んでいる余がいるのだぞ……考えただけでも、寒気がする」
子供だ。いくら力説されてもクズとしか言いようがない。
そう言う台詞は実際に働いてこそ、口にできるモノだ。
「それはそうとソナタ、先程から全然、食が進んでいないではないか? ほれ、ワキ……ヤキソバもあるぞ! 遠慮せず食うがよい」
いらねぇ、ぜぇ――たい要らねぇ。今、ワキって言いかけたよな?
何、ちゃっかりセカンドトラップ、仕込んでいるんだよ。
どうやら、遊戯はここまでだ。
これ以上、この駄神に付き合っちゃいられない。
「ササブリ! もう腹一杯に食ったろ?」
「モグモグ……もふぇはほもうふこひぢぁ」
食いながら喋ろうとするなよ……。
「ヨシユキ、また君に会えて良かった! それじゃあ、健闘を祈る!!」
爽やかな笑顔で片手を振りながら、俺は脱兎のごとく砂浜を駆けた。
「またれぇえええいいいい!! 今度は出奔などさせぬわぁぁぁあ――――」
「うわああああああああああああ、くんな!! あっちいけぇえええええええええ!!!」
これが、美女との追いかけっこだったら、どんなに夢心地であったか……。
運命とは、無情なり。背後から迫ってくるのは、ワキソバ片手に全力疾走してくる、小汚ねぇ浪人生みたいな奴だ。
しかも、意外と素早い。いや、素早さの能力値が初期レベルの俺では、いくら懸命に走っても報われないということか!?
「うふはははあっ、大人しく余の脇の味を噛みしめるが良い。でなければ、余は解放されない! 解放されなければ、あの地下暮らしには戻れないんだぁぁぁあ……ぐああっ!!」
ヨシユキが砂に足を取られ激しく転倒した。
俺が脇メシを食わないから、コイツは帰れない……その事実を知り、少しだけ申し訳なさを感じた。
ある程度、距離を置いた俺は海を背にヨシユキに向かって叫んだ。
「ヨシユキィィィ! 後ろ!! 後ろぉぉぉ!!」
追いかけることに熱中しすぎて、奴は背後から来る猛威に備えていなかった。
まさか、追う立場の自分が逃げなけばならないなんて、想像できるわけがない。
怒涛の勢いで加速してくるバナナボート。
うちの魔王の怪力によって押し出されたボートが砂浜を爆走していた。
飛び跳ねた船底の影がヨシユキに覆い被さる。
「あっ」気づくも時すでに遅く、奴は衝撃で海へと弾き飛ばされ水底へと沈んでしまった。
残されたのは、海面に浮かぶ一艘のバナナのみ。
「よっしゃー! 南海の孤島に向かってレッツラゴー」
「なのじゃ―――!!」
今し方の、記憶をすべて捨て去るように俺はパドリングした。
すぎた事は、すぎた事。単なるアクシデントを、いつまでも引きずるわけにはいかない。
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