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魔王様はアイドル!?

51話 ステージアップ

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 雲どころか、糞をまき散らしそうになりながも宙を爆進する。
 魔王の本体との距離がグーンと縮んでゆく。その間も蠢く触手は俺を捕えようとする。
 男の触手プレイなんて見たくもないし、俺だって勘弁だ。
 しかしだ、彗星のごとく加速飛行する俺を止められる奴なんざ、この世にいねぇー。
 だって、止まり方がわがんねぇーだもの……。

 触手よりも速く、殲滅の一撃をお届けする俺は、天命の宝剣を抱きかかるようにして構えた。
 いわば、俺自身が一振りの剣。あとは、真っすぐに飛んで奴を突き抜けるだけだ。
 両手に持った、剣がずっしりと重くなる。
 気持ちが昂っていたせいで、重さすら分からなくなっていたのか?
 いや、違う。これは、意志だ。
 悪を討とうする、この剣の思いだ。
 本体に接近すれば、それに比例して重さが増してゆく。
 この剣自身が、敵意に反応して己が強度を高めていっている。

 すべてを終わらせ、俺を守るためにともに戦ってくれている。
 もう、一人の相棒だ!

「貫けぇぇええええええええええええええええ――――」

 刃先がガツンと、球体に表層に突き刺さった。
 まだだ! これしきの程度では、コイツは止まらない。
 さらに、もう一歩。さらに、後押しする必要がある…………ここが正念場だ!

「きばれ……踏ん張れ!!」

 俺の気合に呼応し、ケツから屁が出た。途端、放屁が水流に混じり大爆発を起こした。
 奇跡のケミストリー、超新星爆発の力を授かったような気がした。
 光をまとった刀身がグイグイと俺を引っ張り球体の中を潜行する。
 やがて、中核に達すると宝剣が輝きだし、浄化の光を放った。
 中心から外にかけて、ドス黒い闇が徐々に明るさを帯び、白い光で満たされる。
 一気に崩落してゆく外郭がいかくから俺は投げ出され地面に叩きつけられた。

「……っう、やった……成功だ」
 ほこら、一帯を白い光が支配した。白夜のようなそれはしばらくして、少しずつ消えてゆく。
 全身の血流が沸騰しそうなほど熱い。
 呼吸も乱れたままだ。
 なのに……全然、疲労は感じない。むしろ、意識が冴えわたっている。

「おめでとう、マイト。アタイたちに……感謝してよ、ね?」
「よー、頑張ったねぇ~。ほんに立派になりおって婆も嬉しいわさ」
「勝って当然です。私の見立て通りでしたね!」

 まだ、興奮冷めやらぬ中、皆が嬉しい悲鳴を上げていた。
 それが聞けただけでも、最後までやり通せて良かったと思う。
 本当に良かった――――――。

 *

「やってくれおったな、小童!!」

「えっ!? ここは宮殿なのか……?」

 勝利の喜びを噛みしめる俺の前に、鬼のような形相があった。
 ホロモンの爺さんだった。
 どういうことか? 地下にいたはずの俺は一瞬にして黄金宮殿前に移動していた。
 空が間近で見える、だだっ広い場所は、どうやら空中庭園のようだ。
 庭園といっても花が咲き誇っているような感じではなく、芝生と気持ち程度の庭木があるだけの大通りである。

「ちょっと! どういうことなの? なんで、お爺ちゃんが……って宮殿?」

 俺と同様に一度、宮殿を訪れたリンも困惑していた。
 シャルとワカモトさんは、すでに武器を構え臨戦態勢をとっていた。

 爺さんが怒るのも当然だ。
 俺は約束を違えた……けれど、本体を失ったはずの爺さんが何事もなく活動しているのは、どうも腑に落ちない。

「おかしいな。本体を破壊したはずなのに、ずいぶんと元気そうじゃないか?」

「本体を二分化していただけのことよ。油断していたぞ……まさか、貴様がランキングブレイクを使えるとは……おかげで力の大半を失ってしもうた。この代償は高くつくぞ!!」

「ランキングブレイク?」
 聞き慣れない言葉だが、思い当たるフシはある。
 ササブリが魔物に瀕死の一撃を与えた直後、ソイツのランキングが破壊されて機能していないことが度々あった。
 その、能力により俺でもランキング関係なく魔物を討伐できた。

 なんの冗談か。魔王特有の能力であるはずのそれを、目の前の爺様は、俺が使用したというのだ。
 滅茶苦茶、不機嫌な表情で睨みつけてくるので、おどけて見せても、ワカメダンスはジジイの好みではないようだ。

「代償ってどうするつもりなんだよ? そもそも、人質なんて取るアンタが悪いんぞ! ササブリを返せ! でなけば――――」

「でなければ、何だ? 地下の本体と違いワシには貴様の剣など通じぬぞ!」

「試してみるか!?」咄嗟に剣を引き抜いたがホロモンの爺さんの言葉はハッタリなどではない。
 近づくだけで、死のイメージが脳裏を過ってくる。
 それに、先ほどの戦闘で皆、疲労が見え始めている。
 ここで戦ってはいけない。本能がそう告げている……なのに、この状況。
 どう足掻いても戦闘は回避できそうにない。
 残された手立てはただ一つ。
 俺にだってできたんだ、アイツにだってできるはずだ。
 俺はササブリを信じる、主として信じてあげないといけないんだ。

「いい加減、そこから出てきたらどうだ!? ササブリ!」
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