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魔王様はアイドル!?
49話 極限の葛藤
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結界の中で渦巻く、闇は無尽蔵に影を生み出す。
その様は、海中で墨を吐くタコのようだ。いや、ソース塗れのたこ焼きか……。
いずれにせよ、美味そうではない。
あんなに濃い奴は胃もたれしそうだ。
「来るよ。皆、アタイにタイミングを合わせて!」
起き上がたリンがスキルブックを出した。他の二人も賛同し自身の本を広げる。
何度も確認するが勝負は、一瞬……そこに全力を注ぐ。
光の壁が傾いてゆく。膨れ上がった影の堆積に限界を迎えた。
「来た!!」表面にヒビが入った直後、溜まりに溜まった影が一気に放流された。
決壊したダムのごとく、大量の闇が怒涛のごとく押し寄せてくる。
想像以上に広範囲だ! これをどうにかしないと本体には近づけないぞ。
「モォール バガン!!」リンが手のひらを地面に押し当て叫んだ。
流動した空気が地中を潜行し隆起させる。
10、20、50、100、とてもじゃないが、目では追いきれないほど、莫大な数の柱が地の底から浮上してきた。
周囲を埋めつくさんとする、それらは影の進行を妨げる防壁となる。
「ババァーニングサン!」
ワカモトさんの持つ杖から灼熱の炎が吐き出された。
荒れ狂いながら防壁の合間をすり抜け、影に燃え移ると瞬く間に炎が拡がってゆく。
その途轍もない火力に影の触手たちは、一気に焼き払われ全体的に影の進行速度が鈍くなった。
「ロビー君、行ってください!!」
シャルの魔法が俺の全身を包みこむ。
強力な光の防御結界だ……シャルは、個人に対して防御結界を張るのは嫌だと事あるごと拒否していた。
個人に使用すれば壮絶な効果を発揮するが、一人一人に使用しなければならない。
当然、魔力の消費量も半端ない。省エネ思考の彼女には、その無駄遣いが不快に感じるらしい。
だから、常に一度で済むように全体的に使用していた。
その彼女が俺一人のために、結界を張ってくれた。
これは、シャル個人ではなく聖女としての信頼だ。俺を信じて全てを託してくれている。
ありがたい……なら、俺も全力で答えないといけない。
わき目もふらず俺は前へと駆けだした。
よくアニメなんかじゃ、主人公が雄叫びを上げながら突っ走ってゆく場面だが、実際にそんな余裕も体力もない。
進むは最短ルート。小細工するだけ時間の浪費だ。
まだ、炎が燃え盛っていようが、燃え残った影が行く手を阻んでこようが走る速度を緩めてはいけない。
拳を握りしめ、歯を喰い張り、腕を振り続け脚を高く上げる。
こんなことなら、普段から走り込んでおけばよかった。
身体は重いし、腕はもうパンパンだ。
50メートル走なら、ともかく200メートルぐらいはあるんじゃないか?
息が苦しい……酸素が足りなくなってきた。まとわりつこうとする影は、結界のおかげでしのげてはいる。
あと、もう少しだ。魔王の本体は、すぐそこまで見えて来ている。
「……えっ?」バリバリバリと音を立て、結界が砕けかけていた。
本体に近づけば近づくほど、影の魔力濃度は増してゆく。
それぐらいは予想していたが、実際はこうも違うのか?
思っていた以上に、影の破壊力が凄まじい。
このままでは、あと三十秒ともたない。
「くっ……そ」結界の亀裂から瘴気が侵入してきた。
急いで手で口を覆うも、これで瘴気を防げるわけもない。
あっという間に周囲に充満し、俺の体内に入り込もうとする。
今できる対処法なんて一つしかない。息を止めて走るぐらいしか思いつかない。
いうまでもなく、そんな都合の良いことはできない。
息苦しさに意識が朦朧としてきた……このままでは不味い。
だが、俺より先に結界の方がもたなかった。ガラスのように一斉に砕け粉々に舞い散る。
そこを影たち、圧し掛かるように俺を飲み込んでゆく。
「マイト!」「ロビー君!」「マイトちゃ――ん」
遠くから、仲間の声が聞こえたような気がした…………所詮、底辺ランカーの俺では、ここまで限界なのか……。
もう、充分頑張ったよな……俺。相手が魔王なん……だ。最初から勝てる見込みなんてなかったんだ。
よくやった。もう、休んでも誰も文句は言わないだろ? 疲れた、これでようやく楽になれ――――
「主は本当にミジンコじゃな!」
頭の片隅から、ササブリの声がした。
幻聴なのはわかっている、けれど最期の最後で出てくるとは……俺は彼女に頼りっぱなしだったんだ。
自分では努力さず、与えられた力を自分の実力だと、心のどこかでは思っていた。
無意識だろうが、無自覚だろうがそんなのは言い訳でしかない。
俺は、ずっとササブリに縋っていたんだ……。
悔しい! 情けない! 惨めだ! こんな運命、変えられるのなら変えてやりたい……チクショォォォ――――!!
「たわけ! 己が運命を嘆くのならば、最後まで足掻き続けて見せよ。主はまだ、スタートラインにも立っておらんぞ! このまま、終われば無能のマイトのまま何も変わらんぞ!!」
分かっている、分かっているんだ! そんなことは……!!
その様は、海中で墨を吐くタコのようだ。いや、ソース塗れのたこ焼きか……。
いずれにせよ、美味そうではない。
あんなに濃い奴は胃もたれしそうだ。
「来るよ。皆、アタイにタイミングを合わせて!」
起き上がたリンがスキルブックを出した。他の二人も賛同し自身の本を広げる。
何度も確認するが勝負は、一瞬……そこに全力を注ぐ。
光の壁が傾いてゆく。膨れ上がった影の堆積に限界を迎えた。
「来た!!」表面にヒビが入った直後、溜まりに溜まった影が一気に放流された。
決壊したダムのごとく、大量の闇が怒涛のごとく押し寄せてくる。
想像以上に広範囲だ! これをどうにかしないと本体には近づけないぞ。
「モォール バガン!!」リンが手のひらを地面に押し当て叫んだ。
流動した空気が地中を潜行し隆起させる。
10、20、50、100、とてもじゃないが、目では追いきれないほど、莫大な数の柱が地の底から浮上してきた。
周囲を埋めつくさんとする、それらは影の進行を妨げる防壁となる。
「ババァーニングサン!」
ワカモトさんの持つ杖から灼熱の炎が吐き出された。
荒れ狂いながら防壁の合間をすり抜け、影に燃え移ると瞬く間に炎が拡がってゆく。
その途轍もない火力に影の触手たちは、一気に焼き払われ全体的に影の進行速度が鈍くなった。
「ロビー君、行ってください!!」
シャルの魔法が俺の全身を包みこむ。
強力な光の防御結界だ……シャルは、個人に対して防御結界を張るのは嫌だと事あるごと拒否していた。
個人に使用すれば壮絶な効果を発揮するが、一人一人に使用しなければならない。
当然、魔力の消費量も半端ない。省エネ思考の彼女には、その無駄遣いが不快に感じるらしい。
だから、常に一度で済むように全体的に使用していた。
その彼女が俺一人のために、結界を張ってくれた。
これは、シャル個人ではなく聖女としての信頼だ。俺を信じて全てを託してくれている。
ありがたい……なら、俺も全力で答えないといけない。
わき目もふらず俺は前へと駆けだした。
よくアニメなんかじゃ、主人公が雄叫びを上げながら突っ走ってゆく場面だが、実際にそんな余裕も体力もない。
進むは最短ルート。小細工するだけ時間の浪費だ。
まだ、炎が燃え盛っていようが、燃え残った影が行く手を阻んでこようが走る速度を緩めてはいけない。
拳を握りしめ、歯を喰い張り、腕を振り続け脚を高く上げる。
こんなことなら、普段から走り込んでおけばよかった。
身体は重いし、腕はもうパンパンだ。
50メートル走なら、ともかく200メートルぐらいはあるんじゃないか?
息が苦しい……酸素が足りなくなってきた。まとわりつこうとする影は、結界のおかげでしのげてはいる。
あと、もう少しだ。魔王の本体は、すぐそこまで見えて来ている。
「……えっ?」バリバリバリと音を立て、結界が砕けかけていた。
本体に近づけば近づくほど、影の魔力濃度は増してゆく。
それぐらいは予想していたが、実際はこうも違うのか?
思っていた以上に、影の破壊力が凄まじい。
このままでは、あと三十秒ともたない。
「くっ……そ」結界の亀裂から瘴気が侵入してきた。
急いで手で口を覆うも、これで瘴気を防げるわけもない。
あっという間に周囲に充満し、俺の体内に入り込もうとする。
今できる対処法なんて一つしかない。息を止めて走るぐらいしか思いつかない。
いうまでもなく、そんな都合の良いことはできない。
息苦しさに意識が朦朧としてきた……このままでは不味い。
だが、俺より先に結界の方がもたなかった。ガラスのように一斉に砕け粉々に舞い散る。
そこを影たち、圧し掛かるように俺を飲み込んでゆく。
「マイト!」「ロビー君!」「マイトちゃ――ん」
遠くから、仲間の声が聞こえたような気がした…………所詮、底辺ランカーの俺では、ここまで限界なのか……。
もう、充分頑張ったよな……俺。相手が魔王なん……だ。最初から勝てる見込みなんてなかったんだ。
よくやった。もう、休んでも誰も文句は言わないだろ? 疲れた、これでようやく楽になれ――――
「主は本当にミジンコじゃな!」
頭の片隅から、ササブリの声がした。
幻聴なのはわかっている、けれど最期の最後で出てくるとは……俺は彼女に頼りっぱなしだったんだ。
自分では努力さず、与えられた力を自分の実力だと、心のどこかでは思っていた。
無意識だろうが、無自覚だろうがそんなのは言い訳でしかない。
俺は、ずっとササブリに縋っていたんだ……。
悔しい! 情けない! 惨めだ! こんな運命、変えられるのなら変えてやりたい……チクショォォォ――――!!
「たわけ! 己が運命を嘆くのならば、最後まで足掻き続けて見せよ。主はまだ、スタートラインにも立っておらんぞ! このまま、終われば無能のマイトのまま何も変わらんぞ!!」
分かっている、分かっているんだ! そんなことは……!!
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