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ぼっちの魔王

46話 天命の宝剣

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『そなた、マイトと申したな。よいか、よーく聞け』

 申していないのに、名前がバレた。
 少し離れた泉の中央で蒼白く発光する物体が熱弁しているが、どうでもいい。

『よくないわ! そなた、この先に魔王が封じられているのは知っているのか!?』

 知っているも何も、ソイツを解きに来たんだが……。

『やはりそうか……邪なのは、そのスケベマインドだけかと思ったが、悪魔にたぶらかされていたのか……』

 余計なお世話だ! こっちだって好き好んで、ジジイの世話してんじゃねぇーよ。
 できれば、始末してやりたいわ。

『なんと……外道な。貴様、いくら介護疲れしているとはいい、言い過ぎだろう。老人には、優しくしなきゃ駄目ではないか』

 そういうの差別じゃねぇ。老人だから何もできないなんて決めつけでしょ?
 というか! 論点がズレとる。身内の話をしているじゃねぇ!
 魔王のジジイ、ジジイの魔王のことを言っているんだ。

『そっか、大変だったな……』

 あ? 絶対に信じていない反応だわ、それ……もう、いいから要件だけ手短に伝えろよ。

『ならんぞ! 封印だけは、絶対に解いてはならん。魔王ホロモンは、冷酷無慈悲な魔王だ。復活したおりには、星団船にいる神々に報復してくるのは確実だ!! 神が滅んでもいいというのか?』

 はぁ? お前らは俺らを平気で滅ぼそうとするのに、護ってくれと頼むつもりか? 自己保身しか考えられない奴を誰が助けるっていうんだよ。あんまり、人間社会を舐めんなよ。

『どこまでも、口が減らない奴め……だが、貴様の言うことも一理ある。ここはギブアンドテイクでいこうではないか?』

 んで、神様は何を出してくれんだ。俺には出来ることなんてないぞ? 期待するだけ無理だと思うが……。

『……気づいて、いないのか。それはさておき、余はソナタに力を授けよう! 欲しいか、力が?』

 なぁんだ、新手のマルチ商法か……どうせ、情報商材を高値で売りつけてくんだろう?

『違うわ! どんだけ、ひねくれているのだ、ソナタは……』

 色が変わるぐらいには練れているぞ。

『自慢にならんだろう。もう、いいから! さっさと手持ちの武器を泉に投げ入れよ』

 …………出来るわけないだろっ! 武器と言えば果物ナイフしか持っていないんだぞ! これを無くしたら、魔物とどう戦えって言うんだ?

『ソナタ……本気で果物ナイフで応戦する気か、クレイジーにもほどがあるぞ。それに……ナイフ以外の武器なら、そこにあるだろう』

 まさか……愛と勇気……。

『んな、わけあるか。ソナタが常に持っているモノだ!!』

 ちん――「おおおっ! 何だ? スキルブックが急に出てきたぞ」

「何してんの、マイト? さっきから、様子が変だよ……おかしいのは、いつもだけど」

「一言、余計だ! 三万浪の神の仕業だ、アイツは一体何を企んでいるんだ」

 騒然とする俺たちの意思など、関係なくスキルブックが一人でにページを開いた。
 フォトグラファーに掲載されている魔王のページ、
 そこには当然、ササブリの姿はない。
 空白だけのページ……ではない。よく見ると床下に剣のようなモノが落ちている。
 まさか! 俺は慌てて、それを喚び出した。

「クズ鉄の剣!? どうして? これ、マイトが棄ててたよね」

「嗚呼。おそらく、ササブリだ。アイツ、この剣のことをやけに気にかけていたんだ。だから、こっそり持ってきたんだと思う」

 俺は剣の柄を逆手で握り締めた。
 もう、使うこともない武器。寿命で使えないはずの相棒がそこにいる。
 嬉しいような悲しいような、なんとも言えない複雑な心境だ。

『寄こせ!』ヨシユキの声がしたのと同時に屑鉄の剣が、ひとりでに池へと飛びこみ水面に沈んでゆく。
 アアァア――『狼狽えるでない。マイトよ! これが神の力、とくと見よ!!』

 パシャ! パシャパシャ!! 手持ちのカメラで、ヨシユキが水中にある剣を激写していた。
 際どい顔をしながら、異様な体勢を取り、様々な角度から撮影していた。
 凄い! というより、落ち着きのない動きがウザい。
 ある種、こだわりのようなモノを感じなくもないが……写真は一枚だけあれば充分だ、絶対!
 わざと見せつけるように何枚も撮っている、奴の陳腐な考えが透けてみえる……だから余計に鬱陶しい。

『余がカメラで映し出した物は新たな命を得る。見よ、屑鉄が隕鉄に生まれ変わる様を、それは神の光を宿す生命満ちる神剣。名は天命の宝剣なり!!』

 勝手に命名されてしまったが……悪くはない名だ。
 水面を突き破るように浮上した剣は、一片の曇りもない泉と同様、澄んだ刀身をしていた。
 俺の手に収まるとキラキラと輝きを増した。
 無能の俺が扱うには勿体ないほどの一振りではないか、という鬱屈した気持ちさえも消し飛ばすほどの眩さだ。

「本当に……俺がこれを使ってもいいのか?」

「良いも何もアンタの剣でしょ! これは奇跡よ! クズ鉄の剣が、まだアンタと一緒に戦いたいって言っている。だから、聖なる泉に自ら飛び込み新たな姿になった。アタイにはそう思えるわ」 
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