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ぼっちの魔王
44話 絶対に走ってはいけない宮殿 24時
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「グハハッハ! では、ワシの本体を解放して貰おうではないか! この宮殿の地下には、エン・ソフの祠がある。貴様ら人間どもが言うところの本殿だ。そら、早く行って封印を解いてこい、三秒でな!」
なんだ……? そのパシリとのやり取りみたいな、ハシャギっぷりは? 中学生か。
「では」じゃない。誰も取引きには応じていない。
馬鹿正直に「封印を解け」なんて言われたら、全力で焦らすに決まっているだろう……。
「マイト、ちょっと……」リンが手招きしながら耳打ちしてきた。
「あの魔王、この下に本殿があるって言っていたよね?」
「みたいだな、エレベーターで行けるんじゃないか?」
「ならさ、ここは取引きに乗ってシャルを助けない? あの子がいれば、チビ魔王を助ける方法が見つかるかもしれないし」
「う~ん、それな。どうも、腑に落ちないんだよな。もし、ここの地下にシャルがいるとすれば、ハンターたちはホロモンの爺さんの眼を盗んで、エレベーターに乗ったことになる」
「まあー、そう言えば……そうよね。夜中に、こっそりと来たんじゃない?」
「それは無いな。あのエレベーターは内側からしか開かないみたいだし……。移動距離にしてもおかしさを感じる。聖殿から、ここまで遠いまでとはいかないが、そこそこの距離がある。本当にハンターたちは女の子、一人担いでここまで来たのか怪しいぞ」
「そんな……今更」
今更なのは、分かっている。
俺だって、彼女がすぐ近くにいると信じたい。
地下の祠に、シャルがいないのは、あくまで可能性の一つだ。
ただ、爺さんの情報を整理すればするほど、地下に本殿があるという話の信憑性が増してくる。
何かを見落としている……それが何なのか? 判明しないと俺たちは正解には辿りつけない。
「アタイ、行くよ。こんなところで、ウダウダ考えていても始まらないし、実際に行ってみないと分からないじゃん。もしかしたら、シャルが助けを求めているかもしれない! そう思うだけでジッとなんかしていられない」
しごく、真っ当な意見だ。
シャルの安全を最優先するなら、確率が低かろうが、何だろうが安否を確かめなければならない。
空論などいくら巡らせても、所詮は証拠もない戯言だ。
考え過ぎれば、不安や迷いで方向性を見失う。
終いにはイメージした結果を真実のように取り扱って、現実を狂わせてくる。
「悪い、リン。まだ、何も見ていないのに、変なことを口走ってしまった。俺もシャルを助けに行く! そんで、捕まっているササブリも助ける! そんだけだ……悩む必要なんざ、どこにもないんだ」
「よう、やっと決めたか! 地下に向かうに――「エレベーターだろっ? 行こう、リン」
ホロモンの爺さんが何か、言い駆けていたが構っちゃいられない無視だ。
謁見の間を飛び出ると俺たちはエレベーターに飛び込む。
……はずだった。
「ごわっ!!」突如、横から突き出てきた木の棒が、走っている俺の首元に引っ掛かった。
突然のアクシデントに、対処できず身体が宙に浮く。
鉄棒の逆上がりだ。小学生のころ、なかなかできなくて苦心したあの技。
人生において、毛じらみほども役立たない棒技を、なにゆえ俺たちは覚えされられたのか?
答えはいつもシンプルさ。
先に出来た者が、悦に浸り出来ない者を見下す、ただそれだけの忌々しい授業。
俺たちに、社会とは常に競争だという思考を植えつける、通過儀礼だ。
嗚呼、いまでも目蓋の裏に焼きついているわ、優等生どもの勝ち誇った顔……。
俺は月面宙返りを華麗にきめれずに、着地に失敗した。
「マイト様、お怪我はありませんか?」
「いつっ……怪我よりも、メイビスさん。いきなり、何をするんだ?」
「いえ、私は掃除をしていただけです…………そう、ゴミの掃除を」
それは、抹殺の隠喩なのだろうか? メタファーだと言うのか?
まばたき一つしない、その眼は捕食者のそれだ。
その手に持つ箒も彼女にかかれば暗器と化す。
つくづくの恐ろしい女性だ……。
「宮殿内を走るのは危険ですよ。いつ転ぶか? 分かりませんからね」
「は、はい……」でも、俺……今、アナタに転ばされましたよね?
緊急回避スキルでも身につけろというわけですかな?
「いかが致しましたか?」
「い、いえ! とんでもございません。それでは、不肖冒険者こと私、マイトは地下に行って参ります!」
「ええっ。気をつけていってらっしゃいませ」
「あと、あのジジイ。また、肉焼いてましたぜ!」
「そうですか……失礼します」眼をカッと見開いたまま、メイビスさんはハイパーダッシュを決めていた。
宮殿内は走っていけないのでは……。
とにかく、これで一矢報いることができた。
数秒後、宮殿全体に爺さんの悲鳴が響き渡った。
なんだ……? そのパシリとのやり取りみたいな、ハシャギっぷりは? 中学生か。
「では」じゃない。誰も取引きには応じていない。
馬鹿正直に「封印を解け」なんて言われたら、全力で焦らすに決まっているだろう……。
「マイト、ちょっと……」リンが手招きしながら耳打ちしてきた。
「あの魔王、この下に本殿があるって言っていたよね?」
「みたいだな、エレベーターで行けるんじゃないか?」
「ならさ、ここは取引きに乗ってシャルを助けない? あの子がいれば、チビ魔王を助ける方法が見つかるかもしれないし」
「う~ん、それな。どうも、腑に落ちないんだよな。もし、ここの地下にシャルがいるとすれば、ハンターたちはホロモンの爺さんの眼を盗んで、エレベーターに乗ったことになる」
「まあー、そう言えば……そうよね。夜中に、こっそりと来たんじゃない?」
「それは無いな。あのエレベーターは内側からしか開かないみたいだし……。移動距離にしてもおかしさを感じる。聖殿から、ここまで遠いまでとはいかないが、そこそこの距離がある。本当にハンターたちは女の子、一人担いでここまで来たのか怪しいぞ」
「そんな……今更」
今更なのは、分かっている。
俺だって、彼女がすぐ近くにいると信じたい。
地下の祠に、シャルがいないのは、あくまで可能性の一つだ。
ただ、爺さんの情報を整理すればするほど、地下に本殿があるという話の信憑性が増してくる。
何かを見落としている……それが何なのか? 判明しないと俺たちは正解には辿りつけない。
「アタイ、行くよ。こんなところで、ウダウダ考えていても始まらないし、実際に行ってみないと分からないじゃん。もしかしたら、シャルが助けを求めているかもしれない! そう思うだけでジッとなんかしていられない」
しごく、真っ当な意見だ。
シャルの安全を最優先するなら、確率が低かろうが、何だろうが安否を確かめなければならない。
空論などいくら巡らせても、所詮は証拠もない戯言だ。
考え過ぎれば、不安や迷いで方向性を見失う。
終いにはイメージした結果を真実のように取り扱って、現実を狂わせてくる。
「悪い、リン。まだ、何も見ていないのに、変なことを口走ってしまった。俺もシャルを助けに行く! そんで、捕まっているササブリも助ける! そんだけだ……悩む必要なんざ、どこにもないんだ」
「よう、やっと決めたか! 地下に向かうに――「エレベーターだろっ? 行こう、リン」
ホロモンの爺さんが何か、言い駆けていたが構っちゃいられない無視だ。
謁見の間を飛び出ると俺たちはエレベーターに飛び込む。
……はずだった。
「ごわっ!!」突如、横から突き出てきた木の棒が、走っている俺の首元に引っ掛かった。
突然のアクシデントに、対処できず身体が宙に浮く。
鉄棒の逆上がりだ。小学生のころ、なかなかできなくて苦心したあの技。
人生において、毛じらみほども役立たない棒技を、なにゆえ俺たちは覚えされられたのか?
答えはいつもシンプルさ。
先に出来た者が、悦に浸り出来ない者を見下す、ただそれだけの忌々しい授業。
俺たちに、社会とは常に競争だという思考を植えつける、通過儀礼だ。
嗚呼、いまでも目蓋の裏に焼きついているわ、優等生どもの勝ち誇った顔……。
俺は月面宙返りを華麗にきめれずに、着地に失敗した。
「マイト様、お怪我はありませんか?」
「いつっ……怪我よりも、メイビスさん。いきなり、何をするんだ?」
「いえ、私は掃除をしていただけです…………そう、ゴミの掃除を」
それは、抹殺の隠喩なのだろうか? メタファーだと言うのか?
まばたき一つしない、その眼は捕食者のそれだ。
その手に持つ箒も彼女にかかれば暗器と化す。
つくづくの恐ろしい女性だ……。
「宮殿内を走るのは危険ですよ。いつ転ぶか? 分かりませんからね」
「は、はい……」でも、俺……今、アナタに転ばされましたよね?
緊急回避スキルでも身につけろというわけですかな?
「いかが致しましたか?」
「い、いえ! とんでもございません。それでは、不肖冒険者こと私、マイトは地下に行って参ります!」
「ええっ。気をつけていってらっしゃいませ」
「あと、あのジジイ。また、肉焼いてましたぜ!」
「そうですか……失礼します」眼をカッと見開いたまま、メイビスさんはハイパーダッシュを決めていた。
宮殿内は走っていけないのでは……。
とにかく、これで一矢報いることができた。
数秒後、宮殿全体に爺さんの悲鳴が響き渡った。
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