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ぼっちの魔王
39話 好物を食わせろ!
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「どうするの、マイト?」
スキルブックを開く度に、新鮮な反応が見られる。
当然だ。
今まで、ずっとフォトグラファーのことを隠し通してきた。
だから、誰からも脚光を浴びなかった。
でも、リンは違う……俺の真の能力を理解してくれる数少ない仲間。
仲間…………? なのか…………?
薄氷がパキパキィひび割れていくノイズ。ソイツが頭の中を駆け回り、俺に痛みを思いださせる。
いくら耳を塞ごうとも、実体をともなわない音は止まない。
病むのは俺の精神、心だ。
視界がボヤけたり、明瞭になったりをくりかえしている。
動悸も眩暈もは吐き気もないのに……身体は異常をきたしている。
記憶の断片が毎秒ごとに飛び交っている。
徐々に思考が加速してゆく、そのスピードについてゆけず、記憶がホワイトアウトしてゆく。
耳の奥では、虫の鳴き声が媚りついている。
ふと我に返ると俺は木目調の長椅子に腰かけていた。
顔を上げると傍には黄色と黒の遮断機の縞模様がある。
俺は、この場所を知っている……学生のころ、利用した駅のホームだ。
片田舎の屋外にある無人駅。
通る電車の本数も、電車を使用する人数も少ない。
田舎では珍しくもないマイノリティー、少数世界の一篇だ。
所詮、ここは記憶の中さ。可視化しているのは景色ではなく情報だ。
文字であろうと、絵であろうと脳に運ばれてくる情報。
この世界も、あのセカイも情報集積体というカタチでしか俺たち人間は認識できない。
「……君? 舞人君」
そよ風に混じり流れてくる、か細い声に胸の奥がゾワッと蠢いた。
見てはいけない。聞いていけない。答えても触れてもいけない。
それでも、磁力に引き寄せられるように声の主を辿ってしまう。
伸びた黒髪をなびかせながら、あの女性はラインの前で立っていた。
電車を持つその背中で、彼女だと分かる。
「うっ……」これ以上は、直視できなかった。
赤塗りの記憶が甦りかけてきた。おかげで、吐き気が酷い……。
「せっかく、捨て去ったというのに、どこまでも俺を追い詰めてくるのかよ! チクショー!!」
世界は無情だ。今も昔も無情のままであろうとしている……。
そんな世界にいても愉しくはない。あるのは楽しさだけだ。
俺は愉しさに飢えていた。何も恐れず、怯えず、気張ることなく、心の底から大笑いしたかった。
セカイよ。せめて、お前だけは俺の味方であってくれ。
俺はマイトだ……もう、舞人じゃない!
「ハァッ……ハァッハァ…………も、戻った」
スキルブックを片手に俺は棒立ちしていた。
今、見てきたモノは刹那の中から飛び出した俺の記憶だ。
ごくまれだが、俺を連れ戻そう出てくる。
このセカイでは、転生者特有の記憶障害と言われているが、どうも怪しい。
アレには明確な意志がある……アレにとって必要な時しかでてこないし、最後は俺の意思で戻ることを望んでいる。
何を目論んでいようが関係ない。すでに俺は、ここの住人なんだ。
カタログモードの一覧から、魔王が欲しそうなモノを探し出す。
頑なに、壁から降りようしない奴を動かすには、撒き餌が一番だ。
魔王である以上、自身の欲望には忠実なはず……もし、断捨離すると言うなら、一生の禁欲魔王と罵ってやる。
とは言え、俺はササブリの好物を知らない。
デスブリンガー視点で、考えると活きの良い魂とか言い出しかねない。
それこそ、鮮魂市場から探さないといけなくなる。
ならば、ササちゃん視点だ。以前、ブログでフルーツタルトが大好きだと書いていたはずだ。
史実通りなら、アイツも食いつくはずぅぅぅぅぅ――――
ゴゴゴゴゴゴゴッ、540ポイント! たけっぇ――、どこの世でもフルーツたけぇぇっぇえ――、オワタ!!
現実の厳しさに俺は泡なり消えてしまいたくなった。
「そう、上手くことは運ばないか……仕方ない。先にエレベーターに乗る方法でも探すか」
「マイト、あの娘アンタのスキルでしょ? なら、強制的に戻すだけじゃないの?」
「うっ……」痛いところを突かれた。確かにリンの言う通り強制力を働かせば、容易に戻すことはできる。
けれど、それだけは駄目だ。
主だからと言って好き勝手するのは、やっちゃいけないことなんだ。
「アイツは自分の意志で壁を登りきるって決めたんだ。なら、主として最後まで見届けるのが俺の義務だ! 俺はアイツの主であっても支配者じゃない。同様、ササブリも俺の奴隷じゃない。もし、自分が決意したことを誰かに阻害されたらリンはどう思う? 俺なら、ソイツを信じることは出来なくなる。だから、ササブリの自由はアイツ自身のもんだ!!」
「フフッ、そうね。それが、アンタだったわ。だったら、アンタも信じなさい。アンタが信じた仲間を! 何を買うのか迷っているのならアタイが決めてあげる!」
リンが即座に俺の手をつかみ取った。一瞬のことに何が起きたのか、俺には分からなかった。
手元のスキルブックを見ると、リンと俺の指先が購入ボタンを押していた。
スキルブックを開く度に、新鮮な反応が見られる。
当然だ。
今まで、ずっとフォトグラファーのことを隠し通してきた。
だから、誰からも脚光を浴びなかった。
でも、リンは違う……俺の真の能力を理解してくれる数少ない仲間。
仲間…………? なのか…………?
薄氷がパキパキィひび割れていくノイズ。ソイツが頭の中を駆け回り、俺に痛みを思いださせる。
いくら耳を塞ごうとも、実体をともなわない音は止まない。
病むのは俺の精神、心だ。
視界がボヤけたり、明瞭になったりをくりかえしている。
動悸も眩暈もは吐き気もないのに……身体は異常をきたしている。
記憶の断片が毎秒ごとに飛び交っている。
徐々に思考が加速してゆく、そのスピードについてゆけず、記憶がホワイトアウトしてゆく。
耳の奥では、虫の鳴き声が媚りついている。
ふと我に返ると俺は木目調の長椅子に腰かけていた。
顔を上げると傍には黄色と黒の遮断機の縞模様がある。
俺は、この場所を知っている……学生のころ、利用した駅のホームだ。
片田舎の屋外にある無人駅。
通る電車の本数も、電車を使用する人数も少ない。
田舎では珍しくもないマイノリティー、少数世界の一篇だ。
所詮、ここは記憶の中さ。可視化しているのは景色ではなく情報だ。
文字であろうと、絵であろうと脳に運ばれてくる情報。
この世界も、あのセカイも情報集積体というカタチでしか俺たち人間は認識できない。
「……君? 舞人君」
そよ風に混じり流れてくる、か細い声に胸の奥がゾワッと蠢いた。
見てはいけない。聞いていけない。答えても触れてもいけない。
それでも、磁力に引き寄せられるように声の主を辿ってしまう。
伸びた黒髪をなびかせながら、あの女性はラインの前で立っていた。
電車を持つその背中で、彼女だと分かる。
「うっ……」これ以上は、直視できなかった。
赤塗りの記憶が甦りかけてきた。おかげで、吐き気が酷い……。
「せっかく、捨て去ったというのに、どこまでも俺を追い詰めてくるのかよ! チクショー!!」
世界は無情だ。今も昔も無情のままであろうとしている……。
そんな世界にいても愉しくはない。あるのは楽しさだけだ。
俺は愉しさに飢えていた。何も恐れず、怯えず、気張ることなく、心の底から大笑いしたかった。
セカイよ。せめて、お前だけは俺の味方であってくれ。
俺はマイトだ……もう、舞人じゃない!
「ハァッ……ハァッハァ…………も、戻った」
スキルブックを片手に俺は棒立ちしていた。
今、見てきたモノは刹那の中から飛び出した俺の記憶だ。
ごくまれだが、俺を連れ戻そう出てくる。
このセカイでは、転生者特有の記憶障害と言われているが、どうも怪しい。
アレには明確な意志がある……アレにとって必要な時しかでてこないし、最後は俺の意思で戻ることを望んでいる。
何を目論んでいようが関係ない。すでに俺は、ここの住人なんだ。
カタログモードの一覧から、魔王が欲しそうなモノを探し出す。
頑なに、壁から降りようしない奴を動かすには、撒き餌が一番だ。
魔王である以上、自身の欲望には忠実なはず……もし、断捨離すると言うなら、一生の禁欲魔王と罵ってやる。
とは言え、俺はササブリの好物を知らない。
デスブリンガー視点で、考えると活きの良い魂とか言い出しかねない。
それこそ、鮮魂市場から探さないといけなくなる。
ならば、ササちゃん視点だ。以前、ブログでフルーツタルトが大好きだと書いていたはずだ。
史実通りなら、アイツも食いつくはずぅぅぅぅぅ――――
ゴゴゴゴゴゴゴッ、540ポイント! たけっぇ――、どこの世でもフルーツたけぇぇっぇえ――、オワタ!!
現実の厳しさに俺は泡なり消えてしまいたくなった。
「そう、上手くことは運ばないか……仕方ない。先にエレベーターに乗る方法でも探すか」
「マイト、あの娘アンタのスキルでしょ? なら、強制的に戻すだけじゃないの?」
「うっ……」痛いところを突かれた。確かにリンの言う通り強制力を働かせば、容易に戻すことはできる。
けれど、それだけは駄目だ。
主だからと言って好き勝手するのは、やっちゃいけないことなんだ。
「アイツは自分の意志で壁を登りきるって決めたんだ。なら、主として最後まで見届けるのが俺の義務だ! 俺はアイツの主であっても支配者じゃない。同様、ササブリも俺の奴隷じゃない。もし、自分が決意したことを誰かに阻害されたらリンはどう思う? 俺なら、ソイツを信じることは出来なくなる。だから、ササブリの自由はアイツ自身のもんだ!!」
「フフッ、そうね。それが、アンタだったわ。だったら、アンタも信じなさい。アンタが信じた仲間を! 何を買うのか迷っているのならアタイが決めてあげる!」
リンが即座に俺の手をつかみ取った。一瞬のことに何が起きたのか、俺には分からなかった。
手元のスキルブックを見ると、リンと俺の指先が購入ボタンを押していた。
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