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最強! 最高! さあ、逝こう!!
9話 勝利の代価
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声高らかな宣言がダンジョンに、こだまする。
もう、怯えない。くじけない。目をそらない。投げ出さない。諦めない。その手を放さない。
このセカイの不条理をすべて根絶する。
終わりの見えない、ダンジョン攻略に終止符を打つ。
俺に宿る、この力はその為のモンだ。
そして、想いに導かれ本に宿ったコイツの大願でもある。
変わらずムカデのごとく、うごめく不定形な物質の集まり。
あれからどれほど時間が経過したのか分からないが、ほぼ止まっていたと考えるのが妥当だろう。
膝をついたままの婆さんに、倒れたままのオッサン。
恐怖に支配され、顔を強張らせる女盗賊に、ひたすら祈り続ける聖女。
状況は何一つ変わってはいない。変わらず窮地ではあるが、俺だけは違う。
ずっと、この日が訪れるのを待っていた。
無能、不要とののしられて生きてきた者の気持ちなど、コイツらは考えたこともないだろう。
俺は雑草なんかじゃない。
ましてや、誰かの周囲を彩るお飾りでもない!!
俺がセカイの中心だ! これこそが、最強の力だ!
傲慢だろうが構わない。
承認欲求を満たしたいだけとか、イキっているとか、そんなモノどうでもいい!!
どう足掻いても辿る結末は一つしかない。
そこにあるのは満足ではなく、永遠の不足だ。
だから壊す、何もかも全部、破壊し一から作り直す。
足りなかったモノを足してゆく。
その為にコイツは俺の呼びかけに応じてくれる。
「スキルブック! ホォトグラファー!!」
スライムの口元から酸の唾液がたれ流された。
それよりも先に、手にしたスキルブックを広げた。
「バッチィィィ―――わい!!」
愛らしい声とともに本から飛び出た、腕が巨大化してゆく。
黒一色のガントレットを装着したソレが空をひとあおぎすると、たちまち突風が生じる。
逆流する唾液が、スライムの本体を溶かし落としてゆく。
自身で生成した毒であっても、無効ではないようだ。
全身の半分ほどをドロドロに溶かしながら、また一つその身を消費している。
「フッハハアハアアアアアン―――――!!! 下等なスライムごときが我を攻撃しようなど草が生えるわ! 意味はよく分からんが? とにかく草だ! 大草原にしてやろう」
本の中から漆黒の風が吹き荒れる。
驚きの声を出す間も与えず、巨大化した腕を小さく元に戻しながらヤツは顕現した。
「よくぞ呼び出した。大義であったぞ、人の子よ。我は魔王! 魔王デスブリンガーじゃあ!!」
「えっ? ササちゃん?」
「んあ? どうした? そうか、そうか! 我の魔王たる風格と美貌に魅了されたか! 人であろうとオスはオスじゃのう~フフフッフン!!」
「人違いか……彼女がこんなバカっぽい喋り方するわけもないし、まぁ……俺のスキルが作り出した虚像だしな」
「バッバッバッ!!! 馬鹿じゃとぉぉぉぉ―――――」
本の中から出てきたのは、俺が持っていたグラビアのアイドルと同じ顔立ちと、寸分たぐわぬスリーサイズを再現した少女だった。
なんとなく背丈は若干、縮んでいる気もしなくはないが、気にしてはイケない。
気づいたその時から、リッパな犯罪者予備軍だ。
仰々しく腰に両拳をあてがって登場してきたのはいいが……ダサい……名前からして、とてつもなく中二病臭い。
話し方も、イカにもといったマンネリ化気味で面白味にかける。
あとは服のコーディネートなんかも気になる。
高価そうなドレスローブに黒マントとか動きづらそうだ。
「まさかの上から目線だと、貴様!? だいたい呼び出して早々、我を侮辱するとは本来ならば不敬罪でブッコロしてるところだぞ!!」
やばっ! 慌てて口元を手で塞いだ。
思った事がだだ洩れだ。本当にこの呪いは厄介だ。
見ろ、魔王を語るヤツが半泣きしているじゃないか……。
「それよりも、今はあのスライムをどうにかしないとな、な!」
女学生を諭すような口調で、指示を出す。
我ながらスキル相手に何をしているのだと嫌悪感を抱きつつも懸命に交渉する。
相手が魔王だろうが何だろうが、魂を持つ者である以上、おざなりにはできない。
「ああ、アイツか!」
デスブリンガー様が、背後にいる魔物を指さしていた。
まるで子猫のような扱いだが、その子猫は全身をねじりパンみたいに絞り魔王へのアタックを試みようとしている。
あれはバネと同じだ。溜め込んだ力を一気に解放して、猛スピードで俺たちに体当たりしてくるつもりだ!
「はい、死んだ」魔王の一言とともに、スライムに向けられていた指先が一瞬光った。
次の瞬間、魔物は肉片をまき散らす姿に変貌していた。
「なっ……んじゃこりゃあああああ――――!!」
あまりの急展開に思考が追いつけなくなっていた。
キャタピラースライムが復活しようとするとスライムの肉片が一粒ずつ、超光速の何かに消し飛ばされてゆく。
圧倒的な強者の強さに、その場にいた全員が戦慄した。
勿論、俺もその一人だ。
向けられるのは称賛でも、羨望の眼差しでもなく恐怖。
周囲を見返すつもりで、解き放った力は人が理解できる範疇をゆうに越えている。
度し難い力は、それだけで脅威でしかない。
答えは聞かなくとも彼らの顔に出ていた。
もう、怯えない。くじけない。目をそらない。投げ出さない。諦めない。その手を放さない。
このセカイの不条理をすべて根絶する。
終わりの見えない、ダンジョン攻略に終止符を打つ。
俺に宿る、この力はその為のモンだ。
そして、想いに導かれ本に宿ったコイツの大願でもある。
変わらずムカデのごとく、うごめく不定形な物質の集まり。
あれからどれほど時間が経過したのか分からないが、ほぼ止まっていたと考えるのが妥当だろう。
膝をついたままの婆さんに、倒れたままのオッサン。
恐怖に支配され、顔を強張らせる女盗賊に、ひたすら祈り続ける聖女。
状況は何一つ変わってはいない。変わらず窮地ではあるが、俺だけは違う。
ずっと、この日が訪れるのを待っていた。
無能、不要とののしられて生きてきた者の気持ちなど、コイツらは考えたこともないだろう。
俺は雑草なんかじゃない。
ましてや、誰かの周囲を彩るお飾りでもない!!
俺がセカイの中心だ! これこそが、最強の力だ!
傲慢だろうが構わない。
承認欲求を満たしたいだけとか、イキっているとか、そんなモノどうでもいい!!
どう足掻いても辿る結末は一つしかない。
そこにあるのは満足ではなく、永遠の不足だ。
だから壊す、何もかも全部、破壊し一から作り直す。
足りなかったモノを足してゆく。
その為にコイツは俺の呼びかけに応じてくれる。
「スキルブック! ホォトグラファー!!」
スライムの口元から酸の唾液がたれ流された。
それよりも先に、手にしたスキルブックを広げた。
「バッチィィィ―――わい!!」
愛らしい声とともに本から飛び出た、腕が巨大化してゆく。
黒一色のガントレットを装着したソレが空をひとあおぎすると、たちまち突風が生じる。
逆流する唾液が、スライムの本体を溶かし落としてゆく。
自身で生成した毒であっても、無効ではないようだ。
全身の半分ほどをドロドロに溶かしながら、また一つその身を消費している。
「フッハハアハアアアアアン―――――!!! 下等なスライムごときが我を攻撃しようなど草が生えるわ! 意味はよく分からんが? とにかく草だ! 大草原にしてやろう」
本の中から漆黒の風が吹き荒れる。
驚きの声を出す間も与えず、巨大化した腕を小さく元に戻しながらヤツは顕現した。
「よくぞ呼び出した。大義であったぞ、人の子よ。我は魔王! 魔王デスブリンガーじゃあ!!」
「えっ? ササちゃん?」
「んあ? どうした? そうか、そうか! 我の魔王たる風格と美貌に魅了されたか! 人であろうとオスはオスじゃのう~フフフッフン!!」
「人違いか……彼女がこんなバカっぽい喋り方するわけもないし、まぁ……俺のスキルが作り出した虚像だしな」
「バッバッバッ!!! 馬鹿じゃとぉぉぉぉ―――――」
本の中から出てきたのは、俺が持っていたグラビアのアイドルと同じ顔立ちと、寸分たぐわぬスリーサイズを再現した少女だった。
なんとなく背丈は若干、縮んでいる気もしなくはないが、気にしてはイケない。
気づいたその時から、リッパな犯罪者予備軍だ。
仰々しく腰に両拳をあてがって登場してきたのはいいが……ダサい……名前からして、とてつもなく中二病臭い。
話し方も、イカにもといったマンネリ化気味で面白味にかける。
あとは服のコーディネートなんかも気になる。
高価そうなドレスローブに黒マントとか動きづらそうだ。
「まさかの上から目線だと、貴様!? だいたい呼び出して早々、我を侮辱するとは本来ならば不敬罪でブッコロしてるところだぞ!!」
やばっ! 慌てて口元を手で塞いだ。
思った事がだだ洩れだ。本当にこの呪いは厄介だ。
見ろ、魔王を語るヤツが半泣きしているじゃないか……。
「それよりも、今はあのスライムをどうにかしないとな、な!」
女学生を諭すような口調で、指示を出す。
我ながらスキル相手に何をしているのだと嫌悪感を抱きつつも懸命に交渉する。
相手が魔王だろうが何だろうが、魂を持つ者である以上、おざなりにはできない。
「ああ、アイツか!」
デスブリンガー様が、背後にいる魔物を指さしていた。
まるで子猫のような扱いだが、その子猫は全身をねじりパンみたいに絞り魔王へのアタックを試みようとしている。
あれはバネと同じだ。溜め込んだ力を一気に解放して、猛スピードで俺たちに体当たりしてくるつもりだ!
「はい、死んだ」魔王の一言とともに、スライムに向けられていた指先が一瞬光った。
次の瞬間、魔物は肉片をまき散らす姿に変貌していた。
「なっ……んじゃこりゃあああああ――――!!」
あまりの急展開に思考が追いつけなくなっていた。
キャタピラースライムが復活しようとするとスライムの肉片が一粒ずつ、超光速の何かに消し飛ばされてゆく。
圧倒的な強者の強さに、その場にいた全員が戦慄した。
勿論、俺もその一人だ。
向けられるのは称賛でも、羨望の眼差しでもなく恐怖。
周囲を見返すつもりで、解き放った力は人が理解できる範疇をゆうに越えている。
度し難い力は、それだけで脅威でしかない。
答えは聞かなくとも彼らの顔に出ていた。
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