問答無用!でランキングブレイカー!! ースキル、グラビアこそ最強最高ですー

心絵マシテ

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自由へのゴング

15話 白熱の三分

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 サトランの失墜は誰がどう見ても明らかだった。
 自己を否定され、感情に翻弄されたままの立ち振る舞いは見ていて気持ちの良いモンじゃない。
 リーダーの座に胡坐あぐらをかいていたサトランは、すでに道化でしかない。
 いくら騒ごうが、喚き散らそうが、罵詈雑言を吐こうとも周囲がまともに取り合うはずもなかった。

「じゃあ、アタイたちは行くから……」

 無様なリーダーに愛想をつかした三人は俺たちを置き去りにし、ダンジョンの奥へともぐっていった。
 ここ数ヶ月、まともにダンジョンの調査をおこなっていない。
 ブランクがある以上、いきなり難易度の高い場所に入るにはそれなりの準備がいる。
 俺たちが抜けた直後でパーティーも安定にはほど遠いはずだ。
 三人が無事に戻ってくるのを祈る。かつての仲間にしてあげられることは、この程度だ。

「皆、行ってしまったな……」白みがかった吐息が宙を舞う。

「ああ……じゃない! お前も追放されたんだから、わざわざ僕のほうに絡んでくんな!」

「それは俺の台詞だ。人を追放しておきながら自分もやられるなんて、どんなミラクルなんだよ? ざまぁとしか言いようがないぞ」

「フン! いずれアイツらには、相応の罰を与えてやる。まずは、マイトお前だ。八つ裂きにして、腸引きずり出してやる」

「お、おいおい勘弁しろよ! そんな、こけおどしに屈するつもりはないぞ」

 手荷物の中からマジックハンドを取り出すサトランの空気が変わった。
 女子たちに見捨てられたショックから、キャラが崩壊する寸前だ。
 予兆はあった……サトランが触れた物をシャルは日頃、触らないようにしていた。
 どうしても触れなけばならない時は、ウエスで拭き取る徹底ぶりだった。
 
 ハンド部分を舌なめずりするサトランを見て、皮膚が粟立あわだった。
 芸人臭がヤバい、直感がそう叫んでいた。
 まるで、別人のように豹変してしまった元リーダー。
 なんとかして止めなければ、俺がファン第一号にされてしまう。

「落ち着け、サトラン。話せば分かるって、なっ? 今のお前はかつての芸人ではない! 転職した賢者だろ!?」

「黙れ、黙れ、だまれぃ、お前と何を語り合えというのだ?」

「もちろん、アイドル談義さ!」

「くっ……またしても貴様は、僕の聖域サンクチュアリけがしやがって。キサマに愛があるというのか!? オシを崇拝するスピリチュアルマインドを持っているというのか!? 僕は騙されないぞ! 普段のキサマは物欲、肉欲に溺れているだけだって事を。その邪な眼で彼女を汚すな! アカ塗れのその手で被写体となった彼女に触れるな! みだらな妄想を掻き立て、さかり立つことが許されるのは真のファンだけだ! 僕は日々、ササちゃんを温かく見守ってきたんだ。彼女の良いところを百個以上言えるんだぞ!! マイト、僕のこのピュアな気持ちが理解できるか!!?」

 サトランの中に壮絶なるサーガが展開されていた……。
 自称ドルオタのこの男は、さらなるステージへ向かおうとしていた。
 すでに俺の手に負えない高みまで上りつめていた。想いが鮮烈すぎて胸やけしそうになる。
 アイドルを応援するのは勝手だが、理性を捨ててはいけない。
 己が欲求に忠実な男はドルオタの枠を飛び越え、強烈な犯罪の臭いを漂わせていた。

 まんま、ササちゃんの魔王を召喚できるようになった今、コイツの前ではもう絶対にスキルブックは開けないし、開きたくもない。
 キャタピラースライムと戦った時、場に居合わせなかったことが幸いだ。

「おっわぉぉおおお!!」

 突然、身体が浮き上がった。
 地面をえぐるほど衝撃が俺のすぐ傍を通過してゆく。
 俺を襲ってきたのは剣圧による衝撃波……ソニックブームという技だ。
 これが使用できるのは、デュアル・ゴースティングの中で一人しかいない。
 さきほどリンにぶちのめされていた戦士のグゼンだ!

「どうなっている……サトラン? 何故、他の連中はいないのだ?」

「ようやく、お目覚めか。僕もアンタも女どもに見捨てられたのさ……すべての元凶は、あの婆さんだがな」

「し、信じられん。お前たちはともかく、俺まで置き去りされることなど考えられん」

 その自信はどこからやって来るんだ?
 むしろ、オッサンが一番邪険にされていたんだぞ。
 そう言ってやりたかったが、足の痛みで意識が飛びそうだ。

「まぁ、いい。グゼン手を貸してくれ! 今からコイツを始末する。グラビアは惜しいが、コイツのスキルである以上は僕の物にはならない。ならば! 未練を断ち切る意味でもマイトを消しておかなければならない」

 「馬鹿を言うな……誰が、そんな悪事に加担するというのだ。そんな話を聞き入れるほど、俺は腐ってねぇぞ」

「今度、女を世話してやる」

「おう、いいぜ! 手伝ってやる。スキルブック、クックポッド。技能剣、隠し包丁!!」

 嘘だろ! あの風見鶏、二つ返事でオッケーしやがった……。
 頭ではなく、下半身に脳が回っているグゼンが、刃を胸元の高さで構えていた。
 殺人幇助を強要されているのに、まったく理解できてない。
 手にした二本の万能包丁を手旗信号のようにかかげ、高らかに宣言してきた。

「マイト!! どちらがサトランに美味いと言わせるか勝負だ!!」

「おい……グゼン」

「心配すんな、サトラン。俺が、お前の笑顔を取り戻してやる!」

「あ、はい……」

 そういえば、コイツ……アウトドアクッキングが趣味だった。
 一度、料理熱が入ったら止まらない、サトランそっちのけで調理を開始している。

「ぐわああああ―――!! 玉ねぎがしみるぅぅ――」

 謎の料理バトルが始まった。付き合うかどうか以前に小腹がすいた。
 しゃがみ込んだままの俺に、更なる一撃が飛び交う。
 傷は浅くとも、玉ねぎを切り刻めば痛みは伴う。

「終わりだ……往生しろ、マイト。スキルブック、ファンタジア! ハイドロプレッシャー!」

 水滴がサトランの手に集まり、瞬く間に水玉となった。
 水玉は回転を加えることで勢いを増し、強力な圧によって奔流ほんりゅうを生み出す。

「ジョボジョボジョボッ―――――」

 悲鳴すら上げること叶わず、米粒が水流に洗い流されてゆく。
 とうに魔力は尽きているはずなのに自ら水道になるとは……なかなか、やるな! サトラン!
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