RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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幻影抱く灰色の都

反転する銀

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「タタン、準備はいい?」

「ああ、このユニコーンのおかげで体内に入り込んでいた瘴気も浄化されたみたいだ。いつでも、いける!」

インフェルノテンペストにより、騎士と騎馬を分断する事に成功した。
はっきり言って棚ぼたではあるが、この機に乗じて各個撃破する。
ゆらりと首を振ったシルバーブレットが自身の蹄を持ち上げる。
蹄が地面に触れた途端、一角の獣は疾風をまとい前線へと飛び出した。

進路上には、ランスを構える蒼騎士が待機している。
またしても、天を埋め尽くすほどの槍を降らせるのかと緊張が走るものの、槍の構え方自体が違う。
今度は頭上にかかげるのではなく、地面と平行になるような水平を維持している。

雨が止み、水分が不足している状態で槍を飛ばすのは、流石にできないだろう。
おそらく通常の刺突攻撃でタタンとシルバーブレットを迎え撃とうとしている。
これでは、足止めにすらならないだろう。

「この魔力の流れは!? 魔法!!」

事態が一転した。
完全無力化したと侮っていた蒼騎士が突如として魔法を発動させ始めた。

考えてみれば、魔法生物であるコイツが魔法を使うのは当然だ。
魔力を集中させたランスの先端から、暗黒エネルギーから生じた稲妻が迸る。
確かに、その魔法なら超高速で移動しているシルバーブレットを捕捉できるかもしれない。

そう、シルバーブレット単騎なら……可能性があるだけの事。
蒼騎士の一突きが大気を震わせ、漆黒の雷撃が大蛇のごとく地をう。
雷音と共に黒きいばらのように飛散する雷光がタタンたちを行く手を、阻もうと急接近していく。

あの騎士が何をどう考えて、魔法に頼ったのか? 私の知るところではない。
ただ、一つ魔導士としてアドバイスできるとしたら魔法をぶっつけ本番でやるのはオススメできない。
必ず、何らかの形でほころびが生じる。

暗黒の雷撃が牙を向き、少女の乗せるユニコーンに襲いかかる。
枝葉状態に伸びていく魔法は、彼らを完全に包囲し動きを封じようとしている。
ようやく、先ほどの疑問に答えが降りてきた――これは牽制けんせいだ。

騎馬の中にいた魔物が復活するまでの、いわば時間稼ぎすぎない。
思っていたのと違いペイルライダーの片割れは慎重派なのだろうか?
なんにしても、自分一人ではどうにもできないという自信のなさの表れでもある。

その事を誰よりもいち早く察知していたのは、タタンとトルテ。
シルバーブレットが彼女たちを乗せていた事が蒼騎士最大の誤算だった。

「そんな、こけおどしが通じると思ってんの?」

タタンが、素早く地面に向けてハンマーを振り下ろす。
通常の物よりもリーチが長い柄だからこそこなせる技ともいえよう、ハンマーは地面を掬い上げるようにして振り回された。

ガツン! と音を立てて何かが弾き飛ばされた。
雷撃に向かって一直線に突っ込んでゆく、それは金属の塊に見える。
盾? 少しだけひしゃげているけど、オイスタの盾だ。
避雷針の代わりとなり、雷を引きつけてくれている。
隙を見たシルバーブレットが即座に防衛網を突破していく。
とうとう、ペイルライダーを追い込んだ……武器を構える騎士の目の前を通過して、彼らは騎馬の元に辿りついた。

「フッ、バレてシマッタようだな。我が名は、ツールびっしょ――――ぶっ!」

「うらぁあ!!」騎馬の中身に一切の興味を持つ事もなく、無情なまでの鉄鎚が打ちつけられる。
清々しいほどに、アンデッドの身体が騎馬ごと華麗に宙を舞う。
総重量を計算すれば、ゆうに数百キロはあるはずの騎馬……一本のハンマーだけで容易に飛ばしてしまうのはある意味、物理の法則を超越しているような気がする。

残り二振り。それがタタンの限界、ここで畳み掛けないと後がない。
彼女もその事を重々、理解しているらしい。
もはや、力の出し惜しみなどしていられないと言わんばかりに終の一撃を構える。

ところが、事はそう上手くは運ばない。
騎馬の中に潜んでいたアンデッドはハンマーの直撃を受けながらも、反撃の魔法を唱えていた。
痛みを感じる事もなく気絶もしない。
不死であることよりも、このタフさの方がよほど厄介だ。
たちまち光の鞭がタタンの身体を縛り付け、彼女の自由を奪った。
アンデッドが鞭を引っ張りタタンを馬上から引きずり降ろす。

「タタン! 今すぐ……」

「ネェーちゃん!! もう一匹の方を頼んだぞ。俺様を信じて、コイツは任せてくれ」

タタンが、力強い瞳で私を見ていた。
ごく僅かな一時。次の瞬間には、空中に吊り上げられるカタチでアンデッドに引き寄せられてしまった。

私はロッドに飛び乗りながら地に一蹴り入れた。
急加速した物干し竿が、空気抵抗から逃れる為に地面スレスレを疾走する。

そのまま蒼騎士の元へと駆けつけるまでものの十秒もかからなかった。
余りの速さに蒼騎士は敵である私の接近に気づいていなかった。
タタンの方ばかりに気を取られすぎて、隙だらけだ。
慌てて、ランスを握り直しても全てが遅い。
急激な気温の低下とともに、大気中の水分が凝固していく。
騎士の鎧も霜がかって動きが鈍化してゆく。
ピシピシと繊細な音を奏で騎士の全身が凍り始める。

「氷塊の檻に沈め、アイスコフィン」

ついには、頑強な氷の檻の中へと埋もれ、甲冑もろとも凍結してしまった。
案外、呆気ない最期――――などと安易な考え方はしない。

何ら抵抗することもなく、すんなりと氷結魔法をくらう奴は昔から抜け出す術を持っていると、相場が決っている。
現に奴が所持していたランスは凍り付きながらも、強力な魔力の波動を放っている。
既に氷の表層にクラックが入ってきている。後、二、三分もしたら奴はこの檻を破壊し脱出するだろう。
そうなる前に、これで仕留める。

物干し竿から飛び降り、あらかじめ巻き付けておいた空糸で操作する。
風に流されドリルのように回転する物干し竿。
そのロッドに硬化作用がある雷撃をプラスする。

ダブルエンチャント・雷穿孔らいせんこう、二種の魔法が組み合わさることによって生み出されたジャベリンだ。
私の腕の動きと連動して、氷塊を穿うがつ、一投が撃ち込まれる。
鋭い雷槍の先端が凍りついている蒼騎士の胴体に突き刺さる。
そのまま、うねりを上げて一気に貫通すると、雷撃により氷ごと粉砕した。

爆発直後、金属のプレートが私の足下に飛んできた。
見覚えのある形だと、思い拾い上げてみるとマテリアルリーダーが所持していたモノと酷似している。
マキャートさんが話していたジオ・マギアの交換プレート、これもその内の一つかもしれない……回収しておこう。

私の方は片付いた。後は……タタンだ! まだ、さほど時間は経過していないが、どうなった?

再度、周囲に目を配る。

こちらの爆発音に気を取られていたのか? はたまた、仲間を失った事にショックを受けたのか?
アンデッドの方はタタンを自分の間近に引き寄せたあとは、危害も加えるどころか、何もせずに彼女を盾としていた。
どうやら、此方に恐れをなしてタタンを人質にする作戦らしい。
降伏するというのなら、見逃してもいいがアンデッドも運が悪い。
よりによって、の方を捕まえてしまったのだから……。

「ガリアブレ―ヴァ、フォルムチェンジ完了! 起動、グリムリーパー!」 

銀色の鉄鎚が180度回転する。それに伴い、隠し刃が露出しハンマーだったソレは大鎌、サイスへと形態変化した。
同時に少女の亜麻色の髪が白銀に染まってゆく。
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